あ、ちなみに今回書き下ろし(?)です。つまり、にじファン時代には投稿しなかった話です。この辺から少しずつ話に変化が出てくる予定ですので、にじファンの頃からお付き合いいただいている方々はどうぞご期待ください。
日曜日。一年間に単純計算で約52回訪れる日曜日のうちのいずれか。…そんなくだらない事を言うために15秒ほどを計算に使うくらいなら素直に5月中旬の日曜日って言ったほうが全然早い上に簡単でわかりやすいと言う罠。誰を陥れるための罠なのか。俺だ。
まぁ何はともあれ、とにかく日曜日である。本来なら何をする気も起きずただダラダラと一日を過ごす所だが、今日はちょっとした用事があるのでそういうわけにも行かない。
「里香~、もう準備できたか~?」
「も、もうちょっとだけ待ってください!」
「ほらそこ敬語ー」
「ぁうあ…も、もうちょっとだけ時間ちょうだい!」
「おー、急がなくていいからちゃんと用意してこいよ~」
「は、はーい!」
さて、今の一連の会話で察してくれた人も多いと思うが一応説明しておくと、今日は里香と出かける予定なのである。実は昨日の夜、逃げるように二階に上がっていった里香と、今日街に出かける約束を(やや強引に)取り付けたのだ。まぁ、別に「一緒に出かけて親睦を深めよう」的な意味だけではなく、単純に新しい環境に早く馴染むために街を紹介しようという趣旨だ。まぁ、少し前にミクと一緒に街に出かけた時と同じようなものだ。
ちなみにそのミクは、気を使ってくれたのか「兄妹水入らずで楽しんできてください」と言って、留守番をすることになっている。昨日といい今日といい、ここ数日ミクには気を使わせてばっかりだ。近いうちに何かお礼のプレゼントみたいなものを贈ったほうがいいのだろうか…。
そんなことを考えているうちに、トテトテと軽快な足音を鳴らしながら、里香が二階から降りてきた。昨日に比べると表情も少し生き生きとしていて、昨日ほどのすさまじいネガティブオーラは感じられない。今日着ている服(シンプルな淡いブルーのワンピースに、昨日もつけていた大きな白いリボン)も、ネガティブオーラ軽減に大いに貢献しているように思う。
「お、お待たせしました…」
「まーた敬語になってるし…」
「ぅあ…ご、ごめんなさい、お兄ちゃん…う~ん、慣れないなぁ…」
「まぁ、いきなり慣れろなんて無茶は言わないけどさ。のんびり頑張ってけばいいんだよ」
「…うん、ありがとう、お兄ちゃん。…でも、本当にいいの?私なんかのために日曜日無駄にしちゃって…」
「別に無駄にはしてないだろ、街を知るのも大事なことだぞ?」
「それはそうかもしれないけど…でも、私に『勝手に行ってこい』って言うこともできるのに、わざわざ付いて来てもらっちゃって…やっぱりいいですよ、ごめんなさい、迷惑かけちゃって…」
「…里香、ちょっとこっち向いてみ」
「え?」
「ん」
いつもの悪い癖を発症させかけて俯いてしまった里香の顔を半ば強制的に上げさせ、右手をおでこに近付ける。その右手はと言うと、ある程度畳んだ中指を親指で押さえるという、ある有名な攻撃方法の構えを取っている。いきなりのことで思考が追いついていないのか、未だにキョトンとした様子で目の前にある右手を見つめている。そして、
「ていっ」
「ぁ痛ぁっ!?」
勢いよく放たれた中指は里香のおでこにクリーンヒットし、小さな悲鳴が上がる。…説明するまでもないことだとは思うが、所謂「でこピン」と言うものを喰らわせてやったのである。
しかし、たかがでこピンと侮ることなかれ。こう見えても俺は、「でこピンの鬼」という異名で恐れられるほどの強力なでこピンを放つことが出来るのだ。…まぁ、その異名で呼ばれていたのも小学校低学年までだけど。
だがまぁ、久しぶりだったにもかかわらず、威力はさほど衰えていないようである。現に、俺のでこピンを喰らった里香が額を押さえて悶えている。
「痛い!比較的本気で痛いよ!?」
「あぁ、比較的本気でやったからな。比較的本気で痛いだろうよ」
「そういうことを言ってるんじゃなくて、何でいきなりでこピン!?」
「いや、最後敬語に戻ってたから、その罰」
「罰ってまさかの体罰!?…って言うかそれってこれから私が敬語使うたびにでこピンされるって事?」
「まぁそういうこと。躾をするには体罰が一番って言うし」
「…まさかのペット扱いに絶句だよ…」
「もうちょっとエロい言い方がよかったら『調教』とかもあるけど」
「そんなセクハラ誰もそんなこと望んでないし!って言うか何でいきなりそんなルール作ったの…」
「こうでもしないといつまで経っても治りそうになかったから」
「さっきと言ってること違うよね!?ほんの数十秒前に『のんびり頑張ろう』的な事言ってたじゃん!…た、確かにすぐ悪いほう悪いほうに考えちゃうのは自覚してるけどさ…確かに迷惑もかけちゃってるから治さなきゃとは思うけど…」
「…」
「…あっ、ち、違うよ!?今のは別にネガティブに入ったわけじゃないからね?」
「…まぁいいだろう、今回は見逃してやる」
横でホッと息をつく里香。…その行動そのものが『ネガティブ入ってました』って言ってるようなものって気がするんだが、もう見逃すといってしまったので仕方がない。
しかし、そんなやり取りをしつつもちゃんと出かける用意を進めてくれていることには少し安心した。今のやり取りは「里香の敬語・ネガティブ克服」という目的達成のための手段だったとはいえ、少しやりすぎたかもと心配もしていたのだ。そんな中ちゃんと準備をしてくれる、つまりまだ一緒に出かける気でいてくれるというのは、セクハラ紛いをした兄貴的にはかなり安心するものだ。「それなら最初からセクハラすんな」って話だけど、他にも方法はいくらでもあるだろうし。
「さてっと…それじゃあ行こう、お兄ちゃん」
「ん、そうするか」
靴のつま先で軽く地面を突っついてから勢いよく玄関を開けて、微笑を浮かべる妹と共に駅の方向へ歩き始めた。
♪ ♫ ♬
電車に揺られること約10分。実際には全然歩いて行ける距離なのだが、「電車に乗ってみたい」というずっと日本から離れていた妹様の要望により、あえて電車での移動になった。
「どうだった?」
「普通に楽しかったです。いろんな種類があってコロコロ宣伝が変わる液晶ディスプレイを眺めてるのが一番面白かったですかね…」
まぁ、もっと長旅、って言うかちゃんとした旅行だったら流れ行く外の景色を眺めるとかもうちょっと風情のあることが出来るんだろうが…まぁ都会のど真ん中をたった10分間移動するだけなんだから風情も何もあるわけがない。…それはともかく。
「里香、こっち向け」
「え?…あっ!?」
ようやく自分が敬語を使ってしまったことに気付いたのか、げんなりとした様子で「油断した…しばらく話してなかったからすっかり忘れてた…」と小さな声で呟いているが、丸聞こえである。
ちなみに「しばらく話してなかった」というのは別に気まずい沈黙が流れたって意味ではなく、単純に電車内を物珍しそうに見回していた里香を邪魔したくないという理由で俺があえて話しかけなかったってだけだ。
「ほら、もうちょっと力抜けって…優しくするから」
「…なんでさっきからそんなセクハラ紛いな言い方するかなぁもう…。…はい」
より一層げんなりした様子で、顔をこっちに向けて目を閉じる里香。…しかめっ面な以外は、何か一挙一動ががキス的なものを待っているみたいでちょっとドキッとしたが、二、三度顔を振って煩悩を捨て、少し軽めのでこピンを喰らわせる。「あぅっ」と小さく悲鳴を上げてから、頭を押さえつつジト目で俺を睨んできた。
「…ねぇ、お兄ちゃん、やっぱりこのルールやめない?」
「他にもっといい代案があるんだったら聞いてやらんこともないが」
「むぅ…た、確かに特に思いつかないけど…」
「まぁ代案あったとしても、このでこピンするの楽しいから絶対却下だけどな」
「鬼だ、ここに鬼がいる…。…お兄ちゃんってSだよね」
「ドが付くレベルだと自負してるよ」
「何でちょっと誇らしげなのかなぁ…」
隣でガックリと肩を落とす里香。そんな彼女を尻目に俺はスタスタと駅を出る。後ろからパタパタと付いてくる足音が聞こえたから、里香もちゃんとくっついてきてるんだろう。
さて、電車で街まで来たはいいが、ぶっちゃけここから何も考えてない。別に考えるのがめんどくさかったというのが全てではなく、里香が馴染むためなのだから彼女が好きなように散策をさせてやったほうがいいだろうという兄としての優しい気遣いであって、断じて「そもそも見所なんてない街だし計画なんか立てないでいいだろ」とかそういう理由じゃないからな。
「さてと、そんじゃあどこ行きたい?」
「…え、少しくらいルートとか考えてないの?」
「考えてない…が、勘違いするなよ?べ、別にお前のために考えてこなかったわけじゃないんだからな!?」
「いやわかってるよ!?何そのツンデレに見せかけて全然デレてない台詞回し!?完全に自分がめんどくさかったから考えてこなかっただけだよねそれ!?…た、確かに私なんかのために計画を練ったりする必要はないけどさ…」
「はい、ネガティブ入ったな。こっち向けーでこピンするぞー」
「うぇええぇぇ!?い、今のは違うでしょ、今のは『そこまでしてくれなくても大丈夫だよ』っていう妹からの優しい心遣いであって…!」
「『私なんか』って言ったろ、そのフレーズ禁止。というわけで、問答無用」
「理不尽、理不尽だよ!?今初めて作ったルールじゃんそれ、初耳だよ!もう私の敬語矯正とか以前にでこピンそのものが楽しくなってきてない!?」
「…否定はしない。でも、矯正って目的も結構出来てるじゃんか、敬語も少なくなってきてるぞ?」
「…た、確かにそうかもしれないけど…何か納得いかないなぁ…」
「まぁまぁ、早く治せればこれ以上でこピンされることもなくなるんだから、もう少しの辛抱だって」
「むぅぅ~…」
どうも未だに納得していない様子だったが、一つため息をついて先ほどと同じように、大人しくこちらに顔を向けた。その表情が「全然納得してないけどね!」と言っているように見えて思わず苦笑を漏らした後、俺も先ほどと同じようにやさしめのでこピンを喰らわせた。
♪ ♫ ♬
それほど広くもない上に見所もない街だったため、散策開始3時間後にはもうすでに街のほぼ全てを見回ってしまった。
これでも一応、里香が興味を示す所には入って時間を潰したし、途中でおやつ休憩ということで喫茶店に入ったりもしたし、それなりに堪能できたはずだ。基本的には里香が自由に行動し、その後ろを俺が付いていって、「この辺りには何がある」だの「この辺だとあの店の○○がおいしい」とかそういう情報は与えていってやったので、ある程度どこに何があるかというのは頭に入ったはずだ。
「よし、じゃあそろそろ帰るか。俺たちは喫茶店でちょっと食べたからいいけど、ミクは何も食ってないから腹減ってるかもしれないし」
「そうだね。…って、そういえばミクさんって人間じゃないのにご飯食べるんだね…」
「あぁ、どうも『食べる必要はないけど、食べると幸せになれるから食べたい』らしい」
「あ、あはは…」
困ったような笑いを零す里香に笑みを返し、駅に続く道を先導して歩く。しかし少し歩いた所で、相変わらず後ろをパタパタと足音を鳴らして付いてきた里香が、ふと止まった雰囲気がした。振り向いてみると、やっぱり止まっていた。
「どうした?何かやりたかったことでもあったか?」
「う、ううん、そういうわけじゃないんだけど…その、お兄ちゃん?」
「ん?」
そこで一旦言葉を切った里香は、何かを決心するかのように大きな深呼吸を3度ほど繰り返してから、少し小さめな声で切り出した。
「その…色々と、ありがとうございます。私が早くこの街に…この新しい環境に慣れるように、色々としてくれて…。私、昨日奏さんが温かく迎えてくれるまで、本当に、心のそこから不安だったんです。『嫌われちゃったらどうしよう』とか『受け入れてくれなかったらどうしよう』とか『迷惑かけないようにしっかりしなきゃ』とか…」
敬語を指摘する気にはならなかった。きっと里香だって気付いてる…いや、むしろわざとやってるであろうことがわかったから。
「でも、昨日…まるで本当の妹みたいに扱ってくれて…最初こそおっかなびっくりだったけど、すぐ本当に何の容赦もなく接してくれて…嬉しかったんです、私を認めてもらったみたいで。でも、少し考えたら気付いたんです。本当は奏さん、ものすごく勇気を出してくれてたんだなぁって。だって、つい先日まで妹でもなんでもなく、本当に他人だった人に対して、遠慮も何もなく呼び捨てだったりでこピンだったり…挙句の果てに、セクハラ紛いの発言まで…」
…それは、まぁ事実だった。呼び捨てにしたりただの意地悪に近いことをするのだってそれなりに勇気を必要としたし、でこピンやセクハラ発言だって「やりすぎたかな?」って心配になることが多々あった。
「それって、やっぱり私を家に早く馴染ませるためで、そのために奏さんは勇気を出してくれて…だから、ありがとうございます。だから…」
そこで再び言葉を切り、さっきよりも大きな深呼吸の後、彼女が今までに出したことのないほど大きな声で、
「…だから、私も頑張るから!早く本当に家族の一員になれるよう…本当の妹になれるよう、頑張るから!『私は千歳家の娘なんだ!私はお兄ちゃんの妹なんだ!』って胸を張っていえる日が早く来るように、精一杯努力するから!だから…これからもよろしくお願いします!」
一気にそう捲くし立てて、勢いよく頭を下げた。周りの通行人が奇異の視線をこちらに向けているが、俺も里香も気にしていなかった。未だに頭を上げない里香に、俺はゆっくりと近づく。足音で俺の接近に気づいた里香も、ゆっくりと顔を上げる。そんな里香に…
「ていっ」
「いったぁ!?」
…というか里香の額に、今日一番の威力のでこピンをお見舞いしてやった。
「い…痛いよ!?でこピンとは思えないくらい痛い、何か輪ゴムで思いっきり『バチンッ!』ってやられた感じでビリビリする!」
「…地味に俺も結構痛かった、今日何回目だっけこれ?」
「え、多分…6回目くらい?…じゃなくて、何で!?何で今のタイミングででこピン!?」
「だって今思いっきり敬語使ったろ、そういうルールだったじゃんか」
「え、えぇ!?いやいや、今のはカウントしないでしょ!?」
「するに決まってるだろ、最初にそういうルールに決めたんだから」
「だ、だって…」
「つーか、まずはそんなことを言う時点でダメ。失格」
「そ、『そんなこと』って…」
「何かを伝えるのに、一字一句考えてること全部言う必要なんか全然ないって話だよ。…家族ならなおさらな」
「で、でもだって、言わなきゃわかんない内面のこととかだって一杯あるし…」
「そんなの超複雑じゃないことじゃない限りは普通わかるだろ。例えば今朝だって、俺は一言も『超不安だけど勇気出して頑張ります。ということで、これから敬語使ったらでこピンをさせていただいてもよろしいでしょうか?』なんて言ってないだろ?でもお前はちゃんと俺が勇気出してたって気づいたじゃんか」
「ぁ…。…そう、だね。確かにそうかも…」
「…里香、これからちょっとルール変更な」
「え?」
「これからは『敬語とかネガティブとか、妹らしからぬ行動をとったからお仕置き』って意味じゃなくて、『俺たちは兄妹だろ?』って意味のでこピンな」
「…そういう風に考えると、お兄ちゃんのでこピンってすっごい優しく見えてくるから不思議だよね」
「何言ってんだ、俺のでこピンは最初から優しさ100%だっただろ」
「…嘘ばっかり」
そっけなくそう言って、スタスタと駅のほうに歩いていってしまう。今度こそ少しやりすぎたかとさすがに反省しそうになったその時、
「ねぇ、お兄ちゃん」
少し前方を歩いていた里香が、不意に振り返った。…うっすらと微笑んだ彼女の目尻には、少しだけ涙が浮かんでいるように見える。そして小さく、
「…ありがと、これからもよろしくね」
と、今までで一番優しい声でそう呟いた。それを聴いた瞬間、自分でも信じられないくらい安堵した。それと同時に、早くも俺が言ったことを理解した上で実践してくれていることに感心し、そしてそれ以上に本当に家族になれるように努力してくれているんだと嬉しく思った。だから、
「…どういたしまして、里香」
数え切れないほどの感謝の言葉を飲み込んで、その一言だけを返した。
さてさて、文字数が今まで最大になった今話ですが、これを書き上げるまでにちょっとしたドラマ…いや、悲劇が。
昨日投稿しようと思ってのんびりと、たっぷり3、4時間ほどかけて書いて、ようやく完成しました。「よっしゃー!」とテンション上がっていざ投稿、と「保存」ボタンを押したら…
インターネットがなぜか切れてて約7000文字強が一瞬で蒸発しました。
たっぷり一分ほど「(゚д゚)?→(つд⊂)ゴシゴシ→(;゚д゚)!?」という行動を繰り返してからようやく現実を受け入れ、マジで叫びました。ルームメイトには心配されるわ昨日時間通りに投稿できないわ、もう本当に死にたくなりました… 。・゚・(ノД`)・゚・。
というわけで、そういう事情があったので今の今まで再度書き上げる気力が起こらず、結果こんなに遅れてしまいました。申し訳ありません、以後気をつけます。…とりあえず寮のインターネットは絶対に信用しちゃいけないことは学びました、これからはワードで書いていこうと思います…。