何と加筆によって、文字数が脅威の二倍にっ!…というと聞こえはいいかも知れませんが、元々そんなに大した文字数なかった、というある意味お約束のオチですはい。
「…マスター、いい加減に起きてくれませんか?」
「…眠い、起きたくないぃ…」
「バカな事言ってないで起きてくださいよ…。いくら休日とはいえ、リビングのソファーでいつまでも寝られるととてつもなく迷惑なんですから」
「ぅ~、わぁったよ…」
「誰のせいでソファーで睡眠取らなきゃいけない状況に陥ってると思ってるんだ」という突っ込みを何とか飲み込み、体を起こす。曜日は日曜、時刻は11時。普段から休日にこの時間まで俺がソファーで寝ているというのは決して珍しいことではなく、その度にミクは俺に注意をするのだが、大抵の場合俺は言うことを聞かずに眠りこけている。が、今日に限っては少し事情が違う。
「ふぁ~…」
「…仮にも私のマスターなんですから、里香さんのお友達にそんなみっともない顔見せないでくださいね?」
「んなこと言ったって、眠いもんは眠いんだ」
「…もぅ、しょうがないですね。コーヒー用意しておきますから、洗面所である程度身だしなみを整えてきてください」
「サンキュ、そうする」
まだ重いまぶたを擦りながら洗面所へ。そう!何を隠そう、今日は午後から家に里香の!学校の!友達が来るのだ!
…いや、別に何も隠してないけど。昨日の夜あれだけ壮絶なやり取りがあったのに隠せることなんて何も無いけどな。
寝起きでまだ上手く働いていないのか、そんなアホな考えを脳内に巡らせつつ軽く顔を洗って、少しシャキっとしてからリビングへ戻る。そこには…。
「ミクさん、この前私が買ってきたジュースって冷蔵庫のどこにあったっけ?」
「確か右側の扉の上から三番目の棚にあったと思いますけど」
「あ、ホントだありがと。あとついでにプリンもどこだかわかる?」
「プリンは…どこでしたっけ?ちょっとわからないです、ごめんなさい」
「そっか、う~ん…どこやっちゃったっけなぁ…」
里香がなにやら冷蔵庫を漁っていた。何か困ってるみたいだったから、とりあえず助け舟を出すことに。
「プリンは上から二番目の棚の一番奥に移しといたぞ、色々出すのにちょっと邪魔だったから」
「え?上から二番目の奥…あ、あった!ありがとー!あ、お兄ちゃん、おはよー」
…とまぁご覧の通り今日の里香はテンションが高い。里香は俺に礼を言って、冷蔵庫からプリンとジュースを取り出してテーブルに並べていく。準備を進めている間、里香の口からは始終鼻歌が漏れていた。
「…随分テンション高いなぁおい、その友達とやらが来る前にバテるなよ?」
「さすがにコレくらいでバテたりはしないけど…でも、やっぱり浮かれてるように見える?」
「…自覚が無かったことに驚きだよ」
「さっきから楽しそうに鼻歌も歌ってましたしね」
里香との会話をこなしつつ、テーブルの上に置かれた、ミクが用意してくれたと思わしきコーヒーを礼を言ってから一口飲んで、一息つく。ミクも俺と同じようにテーブルに座ってマグカップを片手に一息ついているが、カップの中身は俺と違ってホットココアだ。
「え~、でも私そこまで浮かれては見えないでしょ?…見えない、よね?」
「「…」」
「な、何でそこで二人揃って黙るかな!?ねぇ!?」
俺とミクの二人からの返答が無いことが不満なのか、テーブルをバンバンと叩きながら俺達の顔を睨みつける。一方俺達は、フォローする術がまったく無いので視線を逸らすしかなかった。
…というわけでフォローは無理なので、逆に追い詰めてみる。特に意味は無いが、ちょっとした暇つぶしだ。
「だって『午後から来る』って言う話の友達を迎えるために昼前からお茶とお菓子をテーブルに出してるって時点で…」
「うっ…」
「しかもプリンてお前。こんなもん何時間も冷蔵庫から出して放置してたら生暖かくなっててまずくなるぞ」
「うぐっ…!」
「って言うかおやつの準備をする前にまずはちゃんと身だしなみを整えたらどうだ、後頭部辺りに寝癖付いてるぞ」
「うそっ!?な、直してくる!」
「ん~。プリンとジュースは片付けといていいのか?」
「うっ…お、お願いします…」
「…了解」
俺がそう答えたのを確認し、里香は洗面所にダッシュで向かった。俺は一つため息をつくと、椅子から立ち上がって机の上に放置されたプリンとジュースを再び冷蔵庫にしまう。そんな俺の様子を見て、ミクがクスクスと笑う。
「…んだよ?」
「いえ、何だかんだで色々と注意してあげたり教えてあげたり…相変わらず優しいんですね」
「…別に、からかってやっただけだよ。そんなことより、何か昼飯のリクエストあるか?」
「いえ、これと言ってとくには。お任せします」
「あっそ」
素っ気無くそう返事をして、使える材料を把握するため冷蔵庫を漁る。卵とか野菜が中途半端に残ってるから、パパッとオムライスでも作って済ますか…。
♪ ♫ ♬
その後。里香も身だしなみをちゃんと整え終えてから昼食を平らげ、しばしの間まったりモードに突入していた俺だが、時計が午後1時半を回った辺りで未だにソワソワしている里香に声をかけた。
「なぁ里香、お前の友達の二人っていつ頃来るって言ってたっけ?」
「え?そうだなぁ…もうそろそろ来ると思うけど…」
里香がそう答えたその時、机の上に置いてあった里香の携帯から(メールか電話かはわからないが)着信音が鳴り響いた。里香は慌てて携帯に駆け寄り、画面を確認する。…どうやらメールだったらしい。
「もうすぐそこまで来てるみたい!外出て待ってていい!?」
「はいはい、どうぞご自由に。じゃあ俺は二階の部屋にいるから」
「私も上にいるので、何か御用があったら声かけてくださいね~」
「え、二人ともなに言ってるの?二人も一緒に行こうよ」
「…は?いや、だってお前の友達だろ?」
「そうだけど、二人の事も話したら会ってみたいって。だから一緒にいて、お願い!」
…妹ってのは「友達が来るとき兄は邪魔」という思考回路を持つ生物だと思い込んでいたのだが…まぁ数ヶ月前まで妹じゃなかったから、その辺少し違うのかもな。外国育ちって言うのもひょっとしたら少しは関係あるのかもしれない。
「…まぁお前が嫌じゃないならいっか。ミク、お前は?」
「えっと…マスターが残るなら私も残る事にします」
「どんな理由だよそれ…まぁいいや、じゃあそういう事になったから。とりあえず外行くか」
「やった、ありがとー!二人とも大好き!」
一緒にいると言っただけなのにこんなに喜べるのは凄いなぁ、つい昨日の夜「嫌いだああぁぁぁ!」と泣きながら叫んだ奴と同一人物だとは思えない。
というわけで、俺、ミク、里香の三人は玄関前で里香の友達二人を待って待機中。…ミクが私服じゃなく(本人曰く)制服なのでかなり目立つが、まぁすぐ来るという事なのでかまわないだろう。
…というか冷静に考えたら別に俺たちまで外で待つ必要はなかったのでは?という考えが今更ながら頭に浮かんだが…まぁ、もう外に出てしまったし、わざわざ中に戻る必要もないか。
「…あ、来た!お~い!鈴ちゃん、蓮くーん!」
などとそんな思考を脳内で巡らせていると、不意に里香が声を弾ませて手を振り出した。ミクも里香と同様に手を振りながら、二人が来たと思わしき方向に視線を向けている。
…その視線が、見る見る怪訝なものを見る目に変わっていった。不思議に思って俺も二人の向いているほうに視線を向けると…。
「いらっしゃ~い!待ってたよ~!」
「キャー、里香ー!」
「リン、そんな走んなくても里香は逃げないって…。すこしは落ち着きなよ…」
…何か。
「ここが里香のお家か~。立派だね~…」
「そ、そうかな?まだ誰の家とも比べたことないからよくわからないけど…」
「少なくとも俺達の家よりは大きいし綺麗…かな」
…見覚えのある二人組みが、里香と楽しそうにはしゃいでるんだが…。
横目で隣のミクを見ると、呆然とした様子で口を半開きにしたまま固まってしまっている。…つい最近会ったばっかりだから見間違いではないとは思ったが、ミクの反応でハッキリした。
「…なぁミク、あいつらって…」
「…マスターも気付きました?」
「…そりゃぁ…なぁ…」
「二人とも~!そんなところに立ってないで、こっち来てお互い自己紹介自己紹介!」
里香が凍り付いている俺とミクを「こっちこっち」と手招きしている。自己紹介も何も…二人共俺達のこと知ってるだろ?まだ会って二ヶ月も経ってないと思うんだが…。
しかし里香に大声で呼ばれている以上、いつまでもここで棒立ちしているわけにも行くまい。俺は未だに少し混乱しながら、三人の方へ足を進める。そんな俺の様子を見てミクも観念したのか、俺の後について歩いてきた。
「…えっと…なんつーか…久しぶ…」
何と挨拶していいかもわからずとりあえず間を持たせようとボソボソと適当な言葉を呟いていると、こっちの苦労を知ってか知らずか、金髪碧眼の少年、鏡音レンがはっきりとした口調で挨拶をしながら、俺達に向かって一礼をした。
「あ、はい、初めまして!今日はお招きいただきありがとうございます!僕は鏡野蓮で…」
レンはそう言って今度は同じく金髪碧眼の少女、鏡音リンの方を…って、あれ?
「こっちが、姉の鏡野鈴です。よろしくお願いします!」
「…は?」「…え?」
俺とミクは、二人が非常にわかりやすく、かつ丁寧な挨拶をしてくれたにもかかわらず、混乱しまくっていた。どれ位の混乱かというと、二人の挨拶に挨拶ではなく疑問符の付いた台詞を同時に返してしまうくらい。これが漫画やアニメならば、俺達の周囲には無数のクエスチョンマークがブレイクダンスを踊っているだろう、というくらい混乱していた。実際俺の頭の中にはヘッドバンドを巻いたクエスチョンマークが汗を撒き散らしながら、体を『く』の字に曲げて地面で激しく、くるくると回っている。…なんだこの光景。
「ちょっとレン!『こっち』って何よ!ちゃんと紹介しなさい!」
「じ、自分でやればいいだろ!?っていうかいくらなんでも初対面で、しかも目上の人たちの前でいきなりケンカを仕掛けるなって!」
「り、鈴ちゃん落ち着いて!私が改めて、ちゃんと紹介するから!」
「大体レン、さっきから袋も何も持ってないのは気になってたけど、あんたお菓子ちゃんと持ってきた?」
「え?いや、持ってきてないけど?」
「はぁ!?何で持ってこないのよ、人の家にお邪魔するんだからお菓子持ってくるのなんて常識でしょ!?」
「お、俺だって持ってこようと思ったけど、里香がいらないって言うから…!」
「いらないって言われても持ってくるのが普通でしょ!?まったくもう、なにやってんだか…」
「じゃ、じゃあリンが持ってくればよかっただろ!?」
「だ、大丈夫だよ鈴ちゃん、本当に良かったからそんなに怒らないでってばぁ!」
しかしそんな俺の脳内だけで繰り広げられている意味不明な状況など知るはずもない金髪の二人は、何故か急に口論を始めた。しかもそんな騒がしい光景に里香が介入しているという信じられない光景も繰り広げられているわけだが…それに驚くことすらも忘れるほど、俺とミクは混乱しきっていた。…おそらく、俺達二人の頭には、一字一句、まったく同じ言葉で、同じ疑問が浮かんでいることだろう。
((…え、鏡…『野』?鏡『音』じゃなくて?))
実はこの話、かなり気を使いながら修正を加えた一話です。気を使った点を箇条書きしていくと、
・『鏡音』と『鏡野』で違いが些細なので、それのできるだけわかりやすい区別化
・双子がお互いのことを呼び合う時はカタカナで「リン」「レン」、それ以外の人物(奏、ミク、里香)が二人のことを呼ぶ時は感じで「鈴」「蓮」と呼ぶ
・蓮が鈴や里香の同年代二人に話しかける時は「俺」、奏やミクの年上二人に話しかける時は「敬語+僕」と口調が変わったりする
という非常にどうでもいいことこの上ない私のこだわりのせいで、細心の注意を払いながら何度も読み返しつつ修正を加えていった一話です。
なのでひょっとしたら所々で「口調が安定しない」と感じてしまうかもしれませんが、それは(私が何かしらミスをしてしまった場合を除き)全てあえてやっていることですので、ご心配なくw
こういうちょっとしたこだわりだったりキャラの変化って言うのは個人的に読んでいて凄く楽しかったりするので自分でも積極的に取り組んで言ってるつもりなんですが、それをわかりやすく読者さんに伝えるのもなかなか難しいものですね…;