ミクノポップ!!   作:YoShoki

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今回とてつもなく長いです、の上にちょっと全体的に暗めだと思います。
しかし今回の話はなろう掲載時代とは違う展開を書く上で重要なターニングポイントのつもりの一話なので、多少暗くなってしまうのもしょうがないかな?というわけでこうなりました。
本編が長いので、前書きは短めで。

それでは鏡野来襲編後半、かつ新展開へのターニングポイント、お楽しみください。


第31話 常識

((…え、鏡…『野』?鏡『音』じゃなくて?))

 

 

 

 

そんな俺達の混乱に、二人のケンカが落ち着いたことでようやく気付いたのか、里香が苦笑いを零している。

 

「…里香、俺とミクはご覧の通りお前が言い争いの仲裁に入れることに感心することも突っ込むことも出来ないくらい混乱してるから、聞きたいことは沢山あるが、とりあえずまずは一つだけ答えてくれ」

「何気に失礼な事言われてるような…?まぁいっか。…で、大体予想は付くけど、質問は?」

「…お二人は、鏡…野…さん、なんですか?鏡音さんじゃなくて?」

 

ついに許可が下りたおかげか、もしくはもう我慢ができなくなったのか、里香が俺達に聞いてから間髪入れずに、ついにミクがその疑問を口にした。

そうなのだ。もう皆様お気付きだと思うが、この鏡野姉弟、ミクの弟・妹にあたるボーカロイドであり、さらにいえばついこの間温泉旅館でバッタリと遭遇した遥 優希(はるか ゆうき)のボーカロイドでもある鏡音リンと鏡音レンにそっくりなのだ。金髪だし、目も青いし、双子だし…。もちろん、服はいたって普通の私服だ。しかし彼らの顔立ち、背丈、特徴的な髪型やリボン、さらにはボーカロイドの命とも言えるであろう声に至るまで、何もかもが瓜二つと言っても差し支えないほど酷似しているのだ。

ミクが口にしたその当然とも思われる疑問に、二人は少し困ったように笑い、

 

「あ~、まぁ絶対言われると思ったわ…って言うか里香も、事前に説明くらいしておいてくれればいいのに…」

「まぁこれはもう慣れっこだよね、恒例行事みたいな感じだし」

「あ、あはは、ゴメンね…説明しておこうとも思ったんだけど、それ以上に二人がビックリするのが見てみたくて…」

 

となんだかよくわからないことを三人それぞれが言った後、レン…君?がこちらに向き直って、

 

「言いたい事はよくわかります。僕たちがボーカロイドの鏡音リンとレンに似てるって事ですよね?」

「え、あ、はい、似てる…って言うか本人じゃ…?」

「残念ながら違うんです」

 

レン君が苦笑まじりにそういうと、それに続き、

 

「あたし達は人間よ、正真正銘。ボーカロイドじゃないわ」

 

リンちゃんも会話に参加してきて、鏡野姉弟ボーカロイド説を否定した。そもそも俺はてっきり二人が優希の所の二人じゃないかと思っていたので、そのキッパリとした否定には言葉を失ってしまった。

…しかし、それでもミクは引き下がらなかった。

 

「で、でも二人ともそっくりですし、お名前だって…!」

「それが色々あってね…」

 

リンちゃんがため息と共に語りだそうとした時。

 

「…まぁ色々と説明も必要だと思うけど、皆そろそろ中入らない?いつまでも玄関前で立ち話って言うのもなんだし…」

 

という里香の一言によって、この話題は一時中断になった。とりあえず二人を家に迎え入れ、里香が用意してあったプリンとジュースを頂く事にした。

 

♪ ♫ ♬

 

「あたし達の親がね、大の鏡音ファンだったのよ」

 

全員がお菓子を食べ終えてから改めて鏡野姉弟と鏡音姉弟を聞くと、二人は軽く、苦笑交じりにため息を一つついてから切り出した。…きっとさっきの『恒例行事』という言葉の通り、もうウンザリするほど何度も説明をさせられているのだろう。そのことに悪いと思わなかったわけではないが、残念ながら俺達の好奇心は限界まで膨れ上がってしまっているのだ。

 

「僕たちの家族は生まれつき地毛が金髪だったのと苗字が鏡野だったこと、さらには僕とリンが双子として生まれてきた事が災いして…って言い方もどうかと思いますけど、とにかくそれで両親が僕たちにそれぞれ『リン』『レン』って名前をつけたんです。もちろんカタカナじゃなくて、リンは『鈴』、僕は『紅蓮』の『蓮』って字ですけど」

「な、なるほど…」

「で、それだけならまだ良かったんだけどあたし達もなんか調子に乗っちゃって、髪型とか似せてみたりコスプレしてみたりしてるうちに周りの人からかなりの頻度で『ボーカロイドなの?』って聞かれるようになったのよね…」

 

…いや、いくら髪型似せたりコスプレしたりしたってここまでそっくりにはならないだろ。第一今日は二人共、いたって普通の私服なのにもかかわらず俺達が二人をリンレンと間違えたのは、素直に顔やら髪型やらその他諸々がそっくりだったせいだし。

 

「でもいいじゃないですか、そのおかげで学校とかでも有名になったりしないんですか?」

「まぁ有名ではあるんだけど…あんまり嬉しくない意味で有名だったりするわけで…」

「嬉しくない意味って?」

「簡単に言えば、人間とボーカロイドじゃあ扱いというか、求められる能力とかも全然違うわけですよ。例えば学校入学手続きの時に『ボーカロイドを入学させるのはちょっと…』とか言われて断られかけたり、同じ学年の他のクラスでも未だに僕たちがボーカロイドだって信じてる人たちがいて、たまに歌を歌って欲しいってお願いされたり…」

「そ、それは…た、大変ですね…」

「ま、あたしはこの名前嫌いじゃないけどね。なんだかんだでちやほやされるのは好きだし、鏡音リンってキャラクターも好きだし」

「僕も結構好きですよ、『レン』って名前なんだかカッコいいですし、ボーカロイドのレンが歌ってる曲も結構好きですしね」

「む、真似しないでよ」

「別に真似なんてしてないだろ?俺は自分の感想いっただけじゃないか」

「はいはい二人共、ケンカしないのー!」

 

またケンカが始まってしまいそうな危うい雰囲気になった所で、すかさず里香が仲裁に入る。…なるほど、きっと学校でも同じような感じなのだろう。何となく、俺と葵と海翔を思い出させる関係性だった。もちろん、葵はきっと鈴以上に傍若無人だろうし、海翔は里香以上に蓮と同じような立場にいる俺を弄ってくるだろうし、そういう些細な違いは多々あるだろうが。

 

「それにしても…やっぱり違いますね」

 

俺がそんな風にしみじみとしていると、同じくしみじみと蓮が言った。視線の先には…我が家の正真正銘本物のボーカロイドである初音ミク。

 

「え…私、ですか?すみません、何か不備でもありました…?」

「ちょっとレン、レディにいきなりそういうこと言うなっ!」

「あ、いや、ごめんなさい、そういうわけじゃなくて…!」

 

ジロジロと見られていることに気付いたミクが慌てて謝り自分の体におかしなところがないかをチェックし始めるが、それ以上に狼狽した様子で蓮が慌てて弁明し始める。

 

「そうじゃなくてその、やっぱり本物は違うなぁって。オーラというか雰囲気というか、根本的に僕達とは違ってるって言うか…」

 

蓮が言う『本物』って言うのは、おそらく『本物のボーカロイド』という意味だろうが…言いたい事は何となくわかるが、ピンと来るかと聞かれるとそうでもなかった。ミクや里香も同様に軽く首を傾げていたが、双子である鈴には蓮の言いたいことがわかるらしく、深々と頷いていた。

 

「うんうん、何かいかにも『ヒロイン』って感じって言うか…とにかく、あたし達みたいな凡人とはいい意味で異彩を放ってるって言うのかな?」

「そ、そう…ですか?」

「う~ん…よくわかんないや」

「まぁ、今までボーカロイドを模倣していた僕達が勝手にそう感じてるだけだと思うんで、あんまり気にしないでください」

 

俺達は今までこいつと生活しててそう感じたことはないけど、双子はボーカロイドの真似をし続けてきたからこそ感じ取れる何かがあったのだろう。

…それはまぁそれでいいんだが、この話の流れはあまり好ましくない。

 

「ねぇねぇミクさん、一曲何か軽く歌ってくれません?」

「あ、それ僕も興味あります。実は本物のボーカロイドさんに会うのは初めてなので…」

「ぁ…」

 

…ほら来た。やっぱり『ボーカロイド』と『歌』は切っても切れない関係にあるのだろうか…って、当たり前か。歌うために生まれてきたのがボーカロイドなんだから…。

 

「…」

「ど、どうかしましたか…?」

「え、えっと…実はミクさんね…」

「…悪いな、実はミク歌えないんだ」

「「え?」」

「…っ」

 

里香を遮って俺が発した言葉に、ミクがクッと唇をかんで俯いてしまう。里香の心配そうな視線と、鈴と蓮の不思議そうな視線が俺を捕らえる。その二種類の視線に、

 

「俺がサボってばっかりでミクの曲一つも作ってないんだわ。作らなきゃな~とは思ってるんだけどな…」

 

俺は出来る限り軽い調子で笑い飛ばすようにそう言った。その言葉にミクと里香、ついでに蓮は驚きの視線を向け…そして予想通り、鈴は驚くべき速度で講義を申し立てた。

 

「ええぇえぇぇ!?何よそれ、里香からミクさんのことを聞いた時から楽しみにしてたのにぃ!」

「そうは言うけどなぁ、一から曲作るのって滅茶苦茶大変なんだぞ?」

「それを覚悟でミクさん買ったんでしょあんたは!?」

「リン、言葉遣い!年上なんだから!」

「こんな奴を敬う必要なんかなし!つまり敬語も使う必要なし!」

「リン!いい加減に…っ!」

「いや、いいよ蓮。敬語なんて使われないほうが俺もやりやすいし。お前も敬語なんか使わなくていいんだぞ?」

「そ、そういうわけにも…」

「ミクはいくら言っても敬語やめてくれる気配ないし、お前らくらいは敬語やめてもらった方が個人的には嬉しいんだけどな」

「話を逸らそうとしないの!」

「…チッ」

 

俺の魂胆はリンにはばれてしまい、再び話題を戻されてしまった。…単細胞かと思ったら意外と頭回るじゃないか。

 

「あんたねぇ、ボーカロイドを家政婦みたいに扱うなんてかわいそうだと思わないの!?そりゃあたしはボーカロイドの真似してただけだし、本物のボーカロイドにもあったことないけど…それでも、ボーカロイドが歌えないって事がどれだけ不幸せなのかって事くらいはわかるよ!?」

「…」

 

…その言葉は、ある程度深く俺の胸を抉った。

もちろんミクが歌えないのは、100%俺のせいというわけではない。ディスクが傷付いていたのは響の保管方法に問題があったわけだし、ディスクの交換が当初二ヶ月と言われていたのがもう半年ほど経っているのに届いていないのも、色々とタイミングの問題もあるのだろう。何だかんだで一カ月おきくらいに連絡しているのだが、大企業が一個人のサポートに全力を尽くせるはずもなく、結局今なお換えのディスクは届いていない。

…しかし、もし仮に今手元に新しいディスクがあって、それを問題なくインストールすることが出来たとしても、ミクが歌えないのは事実なのだ。ただ単に、マスターである俺が怠けて、曲を作らないせいで…。

 

「り、鈴ちゃん!」

 

俺がそんな思考を巡らせ軽く自己嫌悪していると、少し怒ったように里香が声を上げた。黙りこくってしまった俺を見て、かなり傷付いてしまったと思ったのだろうか。…実際軽く傷付きはしたけど。

 

「な、何よ…?」

「お、お兄ちゃんの事悪く言わないで!」

「…だ、だって実際…!」

「ミクさんが歌えないのはお兄ちゃんのせいじゃない!お兄ちゃんは…!」

「はい、ストップ」

 

危うく本当のことを言いそうになった里香の口を手で塞ぐ。突然のことで里香は驚いたのか、ビクッと体を震わせる。

 

「んぅ…」

「余計な事言わないの。それに、お前がケンカ始めたらダメだろ?」

 

俺のその言葉に里香は不満げな視線を投げかけて来たが、しばらくして諦めたように目を伏せた。俺はそれを確認してから、ゆっくりと手を離す。

 

「二人共悪かったな、俺のせいで空気悪くなって。蓮も」

「い、いえ、元はと言えば僕達が余計なことを聞いたせいですし」

「そんなバカな、俺がちゃんと曲を作っておけばよかっただけだよ。まぁ何はともあれ、俺はこれ以上ここにいると怒られそうだから、上に退散してるわ。何かあったら呼んでくれていいから」

「あ…うん、ごめんね、ありがと」

「ん。鈴も…今の一連の話忘れて、楽しくやってくれると助かる」

「ぅ…ま、まぁ仕方ないわね!せっかく来たのに楽しまないのももったいないし!」

「サンキュ」

 

思いのほか空気を読んでくれた鈴に感謝しつつ、俺は席を立って自室へ向かうため階段を上がる。階段を上がりきり部屋に入ってから、大きくため息をついた。

(…やっちゃったなぁ…)

フラフラと頼りない足取りでベッドまで歩み寄り、頭からボフッとベッドにダイブする。今になって冷静に考えてみれば、あそこで『俺が曲を作らないから』なんて言わなければ、空気があそこまで険悪になる事なんてなかったはずだ。そりゃ、ミクがある程度嫌な思いはするだろうし鏡野の二人にも少し気を使わせてしまうかもしれないが、今回の鏡野姉弟の訪問で一番優先するべきだったのは普通に考えて、二人に不快な思いをさせない事だったはずなのだ。俺があそこで後先考えずに嘘をついていなければ、あんなに空気が悪くなる事はなかったはずなのに…。

しかしそう思う一方で、あの場ではああ言う以外に選択肢はなかったと思っている自分もいる。何となくだが、これ以上他人にミクの事情を知らせたくなかった。温泉旅館での出来事など、ここ最近は色々あったせいで…いや、あったおかげで、ボーカロイドにとっての歌の大切さというものが改めてわかってきた気がする。

本当に最近まで俺は、別に歌えないボーカロイドくらい、いてもいいんじゃないかって思っていた。だから今まで歌えない事でミクを責めるような事を言ったつもりはないし、あいつが風邪を引いた時だって、歌えないからって捨てられると思っていたミクの思考を『バカ』の一言で一蹴していた。

しかし、それはただ単に俺が変わっているというだけで、世間一般ではそれは、いわゆる『常識』というものではないのだ。

例えば、ミクを譲り受けた当初、服を買いに行った先で出会った葵に『パソコンに化粧品買ってあげてるようなもの』と言われた事。例えば、俺が弁当を忘れて投稿した時、普通にお弁当を届けてくれたミクを見てクラスメイト全員が俺の事を『ロボコン』と呼んで非難…とまでは言わないが、少し過剰なまでに反応を示した事。そして…例えば、ミクが風邪を引いて本当に何も出来なくなってしまった時の怯え様。あれは全部、『ボーカロイドとは歌うための存在』という固定概念…いや、むしろ本当の『常識』から来る、ある意味当然の反応だったのだと、今になって思う。

さっきの蓮の話にも少し出てきたが、ボーカロイドって言うのは…当然の事だが、根本的に人間とは求められているスキルが違う。鏡野姉弟がボーカロイドに似ていた事によって学校で望まれる事が『歌って』だったように、ボーカロイドは何よりも先に歌う事を期待されているのだ。…ちゃんと考えてみれば正論、というか論ずる必要性もないくらいに当たり前で、俺もようやくそれが正しいんだと理解し始めた。それは優希の鏡音姉弟や姿形が瓜二つな向こうの初音ミク、さらには旅館で働いていたKAITO・MEIKOを見ていて出した結論だ。

 

…それがわかった今だからこそ、さっき俺は、話の矛先を俺に向けたのだと思う。俺がダメマスターとして非難されるのは…実際その通りだし別に構わない。だけど真実を伝える事で、他人からミクの事をまるで役立たずのように思われてしまうのが怖かった。ミクに悲しい思いをして欲しくなかった。

…こう考えてしまうこと自体、俺が異端者だという事を決定付けているのかもしれないが、それは嘘偽りない俺の気持ちだった。

(…だいぶ社会不適合者に近づいてる気がするなぁ、俺…)

苦笑交じりにそう頭の中で呟いたその時、部屋のドアから控えめなノックが聞こえた。返事をしてノックの主を招き入れると、噂をすればなんとやら…とは少し違うかもしれないが、ミクが俯き加減に部屋に入ってきた。

 

「失礼します…って、マスター!?」

「…何だよ?」

「わ、私のベッドに寝転がって何してるんですか!?」

「え?…あぁ、何だそういうことか。別にいいだろ、お前が来る前は俺のベッドだったんだし」

「そ、そういう問題じゃないですって!は、早く降りてくださいっ!」

 

顔を真っ赤にして俺をベッドからグイグイ引き離そうとするミクに観念して、名残惜しさを感じつつも、心地よい香りがしているベッドから降りる。大した運動もしてないはずなのに、ミクは顔を赤くして肩で息をしている。

 

「…もう少し体力つけたほうがいいぞお前」

「よ、余計なお世話です!」

 

そこで一旦会話が途切れる。…ミクが一体何の用でここに来たかはわかっているつもりだが、あえてミクの方から口を開くのを待った。丸々一分ほど沈黙が続いたと思ったら、ミクが不意にポツリと小さく切り出した。

 

「…どうしてですか?」

「ん~、正直自分でもちゃんとした理由はわかってないけど…まぁ、何となくって奴だ」

 

…まぁ本当は自分の中では答えは出てるけど、何となくそれを直接伝えるのは照れくさかった…というか普通に恥ずかしかったので、わざと曖昧に答えを濁した。…もちろん、ミクは不満そうな表情をしていたが。

 

「…そんな理由で鈴さんの怒りを買って、わざわざ空気を悪くした挙句に二階に逃げてきたんですか?」

「う゛…いや、そこはその…そこまで頭が回らなかったって言うか…」

「…はぁ…相変わらずバカですね」

「うっせ」

 

ミクがこれ以上にないってくらいのジト目で俺の事をしばらく見た後、ため息とともにうな垂れる。…誤魔化してはみたものの、俺が何かを隠していて、そのままとぼけ続けるつもりなのには気づかれたらしい。彼女のため息には俺の考え無しの行動に対する呆れと言うより、俺が本当の原因を言うことはないのだろうという諦めの念の方が強く出ているように思えた。

しばらく俯いて何かを考えている様子だったミクは、もう一度ため息をついて顔を上げる。その顔には、小さな笑みが浮かんでいた。

 

「ねぇ、マスター」

「ん?」

「…すみませんでした。それと…ありがとうございます」

「…何で?」

「…まぁ、何となくって奴です」

 

ついさっき俺が発した言葉を真似して、ミクは小さく舌を出した。…どうやら俺が何であんな嘘を付いたか、感づかれたっぽい。

 

「…バカの癖にそういうとこばっかり鋭いんだな」

「あ、せっかく謝ってるのにそういうこと言います?」

「謝られる理由がわからないんだから、受け止めようもないだろ?」

 

気付かれてしまったとは言え明言されてない以上、俺はひたすら誤魔化し続けるだけだ。ミクは相変わらず不満げな表情を浮かべているが、声には若干の嬉しさが混ざっているような気がした。

 

「そもそもですね、バカなマスターにバカって言われたくないです私」

「…お前ボーカロイドの癖にマスターに向かってバカバカ言いすぎだこの野郎」

「あ、そういうこと言います!?普段私をボーカロイド扱いしないくせに、こういう時ばっかりそれを持ち出してくるのはズルいと思います!」

「だったら少しはボーカロイドらしくしやがれ、もう少し俺を敬うとかアンドロイドらしくするとか」

「何ですかアンドロイドらしくって…アンドロイド自体人間に近づけてるんですから、人間らしくていいじゃないですか。大体、マスターを敬うとか無理です、敬える要素皆無ですもん」

「…はっきり言いやがって…」

「ふふん、悔しかったら少しは私が尊敬できるようなマスターになれるよう努力してみたらどうですか?」

「えー…敬ってもくれないボーカロイドのために努力するのなんて、モチベーション上がらなすぎて困るわ」

「私にもっと優しくしてくれるとかでもいいですよ?」

「はっ、論外だ」

「じゃあ私もマスターを尊敬するだなんて論外ですよーっだ!」

 

…何気ないやり取りだが、結構危ないラインでの会話だと思う。一歩間違えば『歌えない』の方向に転がりそうなエリアで会話を繰り広げているが、俺もミクもそれは理解しているためか、実際にそれを話題に上げることはない。…なんだか歪んでいる気がするが、これもある種の信頼関係なのだろう、とポジティブに考える事にする。

そんなやり取りの最中にも、俺の頭の中には一つの決心が固まっていた。…もちろん、この場でミクに明かしたりは絶対にしないけど。

 

♪ ♫ ♬

 

「里香~、また明日学校でね!」

「うん、また明日!」

「それじゃあ、お邪魔しました」

「あぁ、今日は悪かったな。よければ、また来てやってくれ」

「いえ、僕も鈴も全然気にしてませんから、もう謝らないでください。迷惑でなかったらまた是非お願いします」

「…サンキュ、もちろんだ」

 

午後2時半頃。そろそろ二人が来て1時間半ほどが経ち、俺とミクも話題が尽きようかという頃、下で遊んでいた三人が二階に上がってきた。何事かと不思議に思っていると、いきなり鈴が凄い勢いで頭を下げて『さっきは言いすぎた、ごめんなさい』と、俺に謝ってきたのだ。俺は驚いて鈴に非は無いと言おうとした矢先、蓮も頭を下げて頭を下げるもんだから驚くを通り越して慌ててしまい、結局俺を含めた三人が頭を下げて互いに許しを請うという非常におかしな図が部屋内に展開された。…未だに里香とミクがニヤニヤと笑っていたのが頭に来るが、今回ばかりは全面的に俺が悪いので言い返せないのが非常に悔しかった。

まぁ何はともあれそんなわけで仲直りを果たした俺達はみんなで下の階に降り、辺りも暗くなろうかという時間まで和気藹々と遊んでいた。基本的には女子三人組はお茶飲みながら楽しそうに会話を繰り広げ、俺と蓮でゲームで対戦をしたり楽器を演奏してみたりと適当に時間を潰していた。…正直蓮は俺とじゃなくて里香と遊ばなくていいのかと疑問に思ったりもしたのだが、さすがに女子の会話の中に入っていく勇気はなかったらしい。

ちなみにだが、ゲームの対戦では基本的に俺が圧勝、楽器の実力も俺のほうが上という事で当初は非常に悔しがっていた蓮だが、最終的には俺を尊敬の眼差しで見るようになった。ゲームはともかく楽器に関しては定期的に家に通って習いたいとか言う始末。…もちろん悪い気はしないが、嬉しい以上に照れくさいというのが本音だった。

鏡野姉弟、か…。あの里香とすぐに打ち解けられたりボーカロイドの真似事をしていたりと少し変わったところもあるけど、基本的にはいい奴らだと思う。

 

「…これからは色々と、また一段と騒がしくなりそうだな…」

 

誰にも聞こえないようにそう呟きながら、帰路に着いた双子を見送った。




当初は一年間で完結させようと思っていた今シリーズですが、ひょっとしたら意外に長くなってしまうかも…。
なろうで掲載してた頃は展開が速くてあまり出番が無かった鏡野姉弟も少し出番を増やしたいし、もう少し色々と新展開を盛り込むと長くなってしまうかなぁ…という感じです。
まぁその辺はボチボチ続きを執筆しつつ、なるべく4ヵ月後に控えた8月31日、ミクさんの6周年の誕生日の当日までに完結させられるよう頑張りますw
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