ミクノポップ!!   作:YoShoki

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前回の後書きで『適度な明るさ』とかほざいてますが、今回はかなり暗いです。書いてた張本人が書いてて憂鬱になりました。
私の文章力でどこまで表現できているか甚だ疑問ではありますが、コメディ皆無と言うことはある程度理解した上でお読みください;


第33話 気付けば終わり

「えっと…このお店で合ってるよね…」

 

地図に落としていた目線を上げ、目の前に鎮座する建物の看板に書かれた文字を確認する。そこに書かれた文字列は確実に葵さんに指定された店名と一致しているし、住所も何度確認してもここでまず間違いないのだが…正直、イメージと違いすぎた。昨日の電話で葵さんが言った『女子会』と言う言葉のイメージからてっきりちょっとオシャレなスイーツ専門店、みたいなお店を想像していたのだが…今私の目の前にある店は、どうみても某大型ハンバーガーチェーン店と同系列であろう雰囲気を醸し出している、ファンシーの欠片も感じることの出来ないお店だった。しかもお昼時だと言うのに中に人がほとんどいないところをみると、それほど人気と言うか有名と言うか、とにかくメジャーなお店ではないのかもしれない。…入ってもいないのに散々な言いようだとは自分でも理解しているが、期待値がそれなりに高かったこともありこの落差は正直容認しかねる。

とは言え、ここが指定されたお店なのはまず間違いないし、ここであんまり落胆していても仕方がない。まぁまだ葵さんは来ていないみたいだし、しばらくここで待って一緒に入ればいいだろう。そう結論付けて壁に背を預け、何となくせわしなく右へ左へ行き来している人の波をぼんやりと見つめる。これが『今時の女の子』ならスマートフォンやらを弄って時間を潰すのだろうが、残念ながら『今時のボーカロイド』でしかない私はそんな機器を持っていないので、ひたすらぼんやりと目前を見つめて時間を潰す。

葵さんから急にお茶のお誘いを受けた時は驚いたが、彼女が、マスターの周りでは比較的珍しい、私と同年代の女の子であることを思い出し、思わず二つ返事でオーケーしてしまった。歳老いることの無いボーカロイドが『同年代』なんていうのは少しおかしな気もするが、事実葵さんはおそらくマスターの知り合いの女性の中では一番私に年齢が近い。里香さんだって遠いわけではないが二つも年下だと勝手が少し違うし、それ以上に家族と言う意味で、彼女は『同年代の友達』とは思えないのだ。

そんな彼女からのお茶のお誘い。これはいわゆる『女子会』と言うものへの招待なのではないか?と認識するや否や、詳細を聞く前にマスターに許可を取っていた。正直どんなことをするのかは良く知らないが、その言葉の響きだけでも私を魅了するのには事足りたようだ。ボーカロイドであると同時に、年頃の女の子でもあると言うことだろうか。…果たしてそれがいいことなのかどうかは判断しかねるが。

まぁそんなわけで、『女子会をする』と言う事実のみに目がくらんでしまったせいか、会場の詳細などまったく調べないで現在この場にいるわけで…正直ちょっと落胆してるわけで。…完全に自業自得ですけど。

 

「あ、ミクー。ゴメンゴメン、お待たせー」

 

そんな風に回想に耽っていると、視界の隅から私のほうに向かってくる葵さんの姿が見えた。私は少し慌てて壁から背中を離し、挨拶と共に小さくお辞儀をする。

 

「今日くらいそんな畏まらなくてもいいのに。カナだっていないんだし、今日くらいは友達感覚でいいんじゃないの?」

「あはは…そう言ってくれるのは本当にありがたいんですが、こればっかりは変わりませんよ。あくまでボーカロイドですし」

「そんな事気にしなくてもいいような気もするけどねぇ…まぁいいわ。じゃ、早速入りましょ」

 

葵さんは苦笑を浮かべると、私を引き連れて店の中に入っていった。…少しだけ『やっぱりこのお店で間違いないんだ…』と思ったのは内緒です。

すると私の心の声を聞いた…わけではもちろんないのだろうが、狙い済ませたかのようなタイミングで葵さんが会話を始めた。

 

「このお店の事知ってる?」

「え?あ、いえ…何となく見た目とか雰囲気から某ハンバーガーチェーン店と同系統なのかなぁ、くらいには思ってますけど」

「あー、じゃあ結構ガッカリしたんじゃない?『女子会』なんて名前だからオシャレな所だと思ってたり」

「…そ、そんなことナイデスヨ?」

「後半片言になってるわよー?」

「う…すみません、実はそう思ってました…」

「やっぱりね。まぁ、確かに雰囲気はそんなに良くないけど、その代わりスイーツ系が結構充実してて、それなりに女子会には向いてる所なのよ?」

「な、なるほど…ちなみに葵さんは、その情報をどこで?」

「え?いや、普通に友達と何度か来て、その時おいしかったから知ってるんだけど…?」

「そ、そうですか」

「…何、まさか私に友達いないんじゃないか、とか疑ったわけ?」

「い、いやいやそんなまさか!そうじゃなくて、あきらかにこういうのには向かない感じのお店なのに、どうやって見つけたのか単純に気になっただけです」

「ふーん…」

 

葵さんが私の言い訳を聞いても、未だに疑惑の視線を向けてくる。…ごめんなさい、マスターに言われたこと思い出して、ちょっとだけ疑いました…。

 

「まぁそれはともかく、さっさと入って注文しちゃいましょ。話はそれからよ」

 

『そういえば何の話をするんだろう?』と少し気になったのだが、確かに彼女の言うとおり最初に注文だけしておいて、それから話をしたほうが効率がいいだろう。そう思いメニューに目を落とすと…そこには、もちろん当初の予想通りハンバーグの類もかなり載っていたのだが、それ以上にデザートの量に驚かされる。パフェやケーキなどのメジャーなものからマカロンなど普段はあまり見かけないようなものまで、実にページ二つ分を使って並べられていた。値段も、一つ一つはそれほど高くは無い…というか、むしろかなり安いように思う。…確かに、これだけデザートがあれば女子会には向いているかもしれない。

彼女がここを選んだ理由に納得しつつ私が食べたいものを選ぶと、葵さんは手馴れた様子で店員さんを呼びそれらを注文していった。その後、まずは飲み物が来るまで特に取り留めの無い話題…最近の調子や面白かったことなどに花を咲かせた。そしてしばらくして飲み物が届けられたのを皮切りにしたように、葵さんが切り出した。

 

「それで、最近カナとは上手くやってる?」

「え、マスターですか?上手くって言われても…まぁ、仲は悪くないと思いますけど」

「他には?」

「他って…漠然としすぎてて、何を聞かれているかがイマイチわからないんですけど…」

「そうねぇ、例えば…何かこう、ドキッとするような、青春真っ只中なイベントとか何か無いの?」

「せ、青春真っ只中って…というか、そんなイベント特に望んでないですし」

「えー、望んでないのー?」

「いやいや、望む必要が無いでしょう…」

「何で?」

「何でって…」

「だってあんたカナの事好きなんでしょ?」

 

…思考が止まった。『特別なことでも何でもない』と言う風に彼女が放った文章の意味を理解するのに、たっぷり数秒を費やした。…そしてようやく理解した瞬間、体中の全血液が顔に集まった。

 

「な、ななな…なっ…!?」

「あっはっは、顔真っ赤!カナに話聞く限りだとそんな感じだからどうなんだろうと思ったんだけど…やっぱり図星だったか~!」

 

そんな私の狼狽を心底楽しむように、大声で笑い始める葵さん。しかしそのことに対して言及するほどの冷静さは未だ取り戻せていない私は、それを顔を真っ赤にしながら見つめることしかできなかった。

 

「ん、おーい大丈夫ー?さっきから口パクパクしてるけど」

 

完全にパニックに陥っている頭を何とか落ち着かせようと努力をしていると、こうなった原因を作った張本人がまるで人事のように私に声をかける。当の私はそれど頃ではなく、リアル『頭がふっとーしそうだよぉ』状態である。…いや、この言い方はちょっと色々誤解を招くような…頭じゃなくて熱いのは顔ですし。

そんなアホな事を考えていたおかげか、少しだけ冷静になった頭で改めて今言われたことの意味を考えてみて、また顔が赤くなるのを感じる。あるはずのない心臓もバクバクと鼓動しているように感じる。

 

「あ、葵さん…?何で私がマスターなんかを好きだと…?」

「ん~?まぁ基本的には勘なんだけど…まぁ今の反応で確信したけど」

「い、いやいや、別に好きとかではなくてですね!?」

「好きじゃないの?」

「…っ!?ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけ考えさせてください!」

「私という相談役がいるのに、一人で考えるのかぁ…まぁ、ちょっとくらいなら待つわよ」

「は、はいぃぃ…」

 

とっさに言い訳をしてみるが、自分でも正直どうなのかわからなかった。温泉旅行の時、優希さんの所の私から聞かれたときもドギマギしてしまったが、結局自分自身どうなのか明確な答えは持っていなかったように思う。まぁ彼女の場合は葵さんのように『好きなんでしょ?』なんて直接的な聞き方ではなかったのでそこまで意識していなかったが…。

しかし今回の葵さんの問いは、非常にストレートな疑問だ。故に、私も自分の本心を深く考えてしまう。

確かにマスターは基本的に意地が悪いし、妹に対してもまったく容赦の無いセクハラ魔神だし、でも実際そういう場面に直面するとどうしていいかわからなくなるくらいヘタレだし、無気力にも程がある。わたしが困ってるのを見て心底楽しんでるような時が多々あるし、パソコンの中身はあんなだし、正直出会った最初の数ヶ月は、あまり良い印象は無かった。

でも、決して欠点ばかりと言うわけではない。事故でご両親をなくして不安定な時期の、まだ心を開いていなかった里香さんに対しては極めて真摯に、その上で対等に振舞うことが出来たり、私が熱を出して体調を崩した時に本気で心配してくれたり…。

出会った瞬間から私を人間扱いしてくれたのもそうだが、彼はどんな人も対等に扱えるのだろう。もちろん里香さんの時のように容易にそうできない場合は悩んだりもしていたが、それでも最終的には、彼女を本当に妹と変わらない存在として迎え入れることに成功した。

思えば、マスターを見直すきっかけになったのは里香さんだったのかもしれない。もちろんその頃までには彼へのイメージも大分良くなってきてはいたけれど、決定的に違う何かを見出したのは彼の里香さんに対する態度だったと思う。確かに今後妹として一緒に生活していくとは言え、来た当初は他人だ。相手のことなんてまったく知らないし、どう接していいかもわからない。そんな相手に対しても勇気を出して歩み寄り、どこまでも対等に扱う。その姿は見ていてカッコいいと思ったし、彼の持っている一つの才能なんだと理解した。…そして同時に、彼に対して、抱いてはいけない感情を覚えだしたのもこの頃だったと思う。

その態度は私相手でもそれほど変わらない。家族、とまでは行かないかもしれないが、少なくともボーカロイドと言う機械ではなく、私を私としてみてくれているとは思う。

元々そうは思っていたが、つい最近、ある出来事を境にそう確信するようになった。私が風邪を引いて寝込んでしまった時。私は歌えないどころか何の役にも立てない、ガラクタの人形になってしまうかもしれない状況に恐怖していた。自分がまったく価値の無いものになってしまうと言う恐怖もあったが、それ以上に『彼に嫌われないか、捨てられないか』と言う恐怖。その恐怖に押しつぶされそうになっていた自分を、抱きしめ、安心させてくれたマスター。その時に私は、彼が私のことを、本当に心の底から一人の存在としてみてくれているんだと理解することが出来た。

そのおかげで…私も、歌えないことをそれほどマイナスに考えないようになってしまった。…これじゃあ本当にボーカロイド失格だとは思うけど、そのおかげで私は随分と救われた。歌えないことに対する不安を、『バカ』という、彼が毎日のように発する何て事無いそのたった一言で一蹴してしまったマスターが、私は好きなんだ。

…あぁ、そうか。

 

 

 

私は、マスターが…千歳 奏さんが、好きなんだ。

 

 

 

認めてしまったら、もう止められなかった。好きという気持ちが体中を駆け巡り、胸を早鐘を()くように高鳴らせる。その音は先ほどの乱雑なバクバクという音ではなく、安心するようなドキドキという音だった。深呼吸を一つして、俯かせていた顔を上げる。目の前に座る葵さんは、携帯を弄るでも視線をうろつかせる事も無く、ずっと私を見ていたようだった。

 

「あ、顔が変わったわね…。結論は出たの?」

「はい、お待たせしてしまって…というか、それ以上に取り乱してしまってごめんなさい」

「あぁいいのいいの、こっちもちょっと調子に乗りすぎたしねぇ…。それで?」

「…はい…何ですかその顔」

「いいからいいから」

 

葵さんがニヤニヤした顔で私に答えを促す。私は小さく苦笑を漏らした後、出来る限り感情を含まないように心がけ、言った。

 

「マスターの事は好きですよ?あまり損得を考えないで、私を良くしてくれますし」

「なんだ、やっぱりそうなんじゃない」

 

相変わらずニヤニヤしたままそう相槌を入れてくる葵さんに、『でも』と、そのままはっきりと続けた。

 

「でも、多分葵さんの言っている『好き』とは、少し意味が違うと思います」

 

その返答を聞いた葵さんは、ニヤニヤを徐々に引っ込め、疑惑の視線を私に向けた。

 

「えぇ?ホント?」

「もちろんですよ、そもそも私はボーカロイドなんですよ?ボーカロイドが自分のマスターに、ましてやあのマスターに恋なんてするわけ無いじゃないですかぁ」

「えー?カナから聞いた限りだとそうじゃないかと、私の女の勘が告げてたんだけどなぁ…」

「というかそもそも、何で急にそんな話になったんですか?…ひょっとして葵さんもマスターの事…」

「いやないから」

「…清清しいほどの即答ですね。でもほら、葵さんもそうなんじゃないですか」

「ん~、まぁ考えて見れば、あんたみたいに性格のいい子があいつに惚れるなんてありえないか。ゴメンね、へんなこと聞いて」

「いえ、別に気にしてませんよ。それはそうと、じゃあ葵さんは好きな方いないんですか?」

「え、何、急に私の話?」

「いいじゃないですか、私は私の事喋ったんですから。今度は葵さんの番ですよ?」

「え~…まぁいいか。不公平は良くないもんね」

 

♪ ♫ ♬

 

「はぁ…」

 

帰り道。数時間ほど私と葵さんと他愛の無い話に花を咲かせていたが、辺りも暗くなってきた所でその日はお開きになった。帰り道はそれぞれ逆のほうが下ったので、今は一人でのんびりと歩いている。

…嘘を言ってしまった。マスターの事を、恋愛対象として意識はしていないと。

そこから先の会話は、正直あまり良く覚えていない。とんでもなく失礼なことをしてしまったと言う自覚はあるけど、そこまで気を回す余裕がまったく無かった。

葵さんの質問で気付いてしまった、自分の気持ち。ボーカロイドが…機械が決して抱いてはいけない、マスターへの…人間への恋心。

打ち明けるわけにはいかない、伝えるわけにはいかない。もし私がマスターにこの気持ちを伝えたら、彼はきっと真剣に考えてくれるだろう。

でも、それはダメ。もし万が一彼が私のことを選んでくれるようなことがあれば、彼は世間から冷たい目で見られてしまう。彼のクラスメイトが彼を『ロボコン』と呼んだように、彼に多大な迷惑をかけてしまう。それこそ、私が今ボーカロイドとしての役目を果たせていない今の何倍もの迷惑を。

それだけは絶対にダメ。私だけが非難されるのはいいが、彼に巻き添えをくわせるわけにはいかない。

…この恋は、私が気付いた時点で終わりなんだ。

 

「…失恋しちゃった」

 

空に向かって、冗談めかして小さく呟く。耳に入ってきたその自分の呟きに、胸がどうしようもなく締め付けられる。涙を流せない自分を恨んだ。

でも、伝えてはいけない。彼の幸せは、私の幸せ。でも、私の幸せは、彼の不幸なんだから。

 

「…理不尽だなぁ」

 

どうすることも出来ない感情を必死に苦笑に変えて、帰路を急ぐ。せめて、マスターが帰ってくるよりも早く帰って、彼の姿を見なくても済むように…。




「…暗い、暗いよ!コメディの『コ』の字も無いよ!どうしよう、これ大丈夫かな…?(((((;;゜Д゚)))」
と本気で悩んでいる今日この頃。まぁクライマックスに向かう以上ずっと明るくっていうのは正直無理
なので、今後ある程度はこんな感じで楽しくない話が続きます。ご了承ください;

さてさて、次回は同時刻の奏さんのお話です。彼は鏡野の二人とどんなお話をしているのか…?



※今後しばらくは不定期更新が続きます。具体的な事は活動報告で書かせて頂いたので、そちらを参照いただくようお願いします。
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