翌日。
「じゃ、行ってくるわ」
「…ん」
時刻は12時15分。この日のこの時間は、俺の幼馴染にして親友の響がエジプトに旅立ってしまう時だった。
「何だよ『ん』って、何かもうちょっと感想無いのか?」
「お前だって何だよ、『じゃ、行ってくるわ』って…。別に感想なんてねぇよ。強いて言うなら、これで少しは平穏な日常が送れるな、くらいだ」
「それはなんだ、裏を返せば俺がいなくなると寂しいって事か?」
「裏を返す必要なし。いいからさっさと行けよ」
あまりにもただの日常のような会話は、明日もさぞ当然のように繰り広げられるような気さえする。だが実際にはそんな事は無く、俺らはこの先、響が夏休みを使って帰ってくる事でもない限り、少なくとも2年間は直接会うことはない。
「おうよ。今度会うときは、俺様の華麗なる武勇伝を嫌ってほど聞かせてやるよ!」
「そん時までにせいぜい死なないように気をつけろよ」
右手を軽く掲げる。一瞬キョトンとしていた響だったが、すぐに意図に気付いて同じく右手を上げる。
「あばよ親友、行ってくるぜ!」
「あぁ」
「スパァン」と景気の良い音と共にハイタッチを交わし、俺達はしばしの別れを告げた。
♪ ♫ ♬
「あんな別れ方で良かったんですか?」
響を乗せた車が見えなくなった頃、隣で一緒に見送っていたミクが尋ねてきた。
「良いも悪いもあるか、単純にあいつとしばらく会えなくなるから挨拶だけして別れた。それだけだろ?」
「でもだってエジプトですよ?簡単に行き来できる距離じゃないんですから、もうちょっとちゃんとしてた方がよかったんじゃ…」
「
「…まぁマスターがそれで良いなら良いですけど」
「良いから良いんだよ。さて、じゃあ適当になんか食って買物行くか。それとも出かけてどっか外で食うか?」
「私はどっちでも構いませんけど」
「そんじゃ外行くか、今から作んのめんどくさいし。ハンバーガーで良いよな?」
「私にはシェークも付けてくださいね。イチゴ味の」
「…了解」
そんなわけで最寄の大型ハンバーガーチェーン店でハンバーガー…と、ストロベリーシェークで腹ごしらえをし、隣町のモールへ向かう。そんなに遠いわけでもないので電車は使わず、とてとてと歩いていく事にしたのだが…
「何あれ、コスプレ…?」
「え、お前ミク知らねえの?ちょっと前に流行ったじゃん」
「お、あれ旧型のボカロじゃね?」
「あ、ホントだ。ミクだっけ?またこんな街中で見かけるとは思わなかったね」
「あ、ミクだ。懐かしい~」
「へぇ、あれが初音ミクか。動いてるのは初めて見たな…」
…町中の視線を集める事になった。まぁ、半ば予想してた事ではあるけどさ…。
だってそうだろ?青緑色の、足まで届くツインテールの女の子が、ちょっと光沢のあるノースリーブのスーツと超ミニスカートを身にまとって、手と足に黒いスリーブとサイハイブーツをぷらぷら動かしながら歩いてたら…うん、注目されるよなぁ。誰だってそうする、俺だってそうする。
しかし当の本人はまったく予想していなかったのか、視線が集中している現状に少し戸惑っているらしい。
「…な、なんか注目されてますね、私達」
「『なんか』って言うか、必然だろ。もう生産されてないらしいし、そんな格好だし」
「…ねぇマスター、昨日から気になってたんですけど、『そんな格好』って言わないでくださいよぉ。これって学生で言うなら制服みたいなものなんですから、これ否定されるとどうしようもないんですけど…」
「いや、別に否定してるわけじゃないけどさ…馴染みの無い服だからちょっと戸惑うって言うかさ。さすがにその格好で歩き回られるのは俺も困るし…」
「まぁその辺の事情は分かってるつもりですし、私も予想以上に注目集めちゃって困るので…早く服買いに行きましょうか」
「…そうだな。よし、とっとと行くぞ」
15分程周囲から向けられる好奇(?)の視線に耐えながら歩いて、ようやくモールに到着する。…小遣いケチってないで電車で来ればよかったと、今更ながらに後悔する。ミクも始終疲れた顔をしていたのだが、店内に入った途端、
「うわぁ~!マスターマスター、これ全部買っていいんですか!?」
「いいわけあるか!ちゃんと気に入ったの数着選んで買え!」
「え~…ケチ~いけずぅ~!」
「それ以上言うとパジャマは買ってやらんぞ」
「わ、嘘です嘘嘘!じゃ、じゃあ私選んできまーす!」
周りが服だらけと言う空間が新鮮だったのか、凄い勢いで店の奥のほうまで走って行ってしまった。携帯も持ってないあいつとはぐれるのは少し危険だし面倒なので、慌てて追いかける。
店の奥でミクを見つけ声をかけようとしたのだが、無邪気にはしゃぐ彼女を見ていると何となく邪魔するのは悪い気がして通路の端にあったベンチに座って彼女を見守る。物珍しそうに服を手に取る彼女をボーっと特に何も考えずに見つめていると、
「あれ、カナじゃん。何やってんのこんなところで?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。…というか、俺をこの名前で呼ぶやつは一人しかいない。振り向くとそこには、
「…よぉ、お前こそ何やってんだ?」
予想通り、俺のもう一人の幼馴染である
「何って、服買いに来たんだけど?ってかそれ以外にお店に来る理由なんて無いでしょ?ってかあんたこそ何でこんなとこにいるのよ、ここ女性用よ?」
「…」
「…ちょっと、何で黙るのよ?…まさかそういう趣味が!?」
「ねぇよ!」
「そっか~、そうだったのか~…。まぁ『奏』なんて女の子みたいな名前してるから前々から『もしかしたら』とは思ってたけど…」
「人の話を聞けって!」
…こんな感じでありもしない疑い(まぁもちろんこいつも冗談でやってるんだろうが)をかけられるので、出来れば相談したくなかったのだ。こいつには昔から何かとからかわれる。その最たる例が、「奏」と言う名前が女っぽいからと言う理由で「カナ」と言うあだ名をつけられた。もちろん気に入ってるわけ無い。
「…で、結局何やってるのよ?」
「…あいつの服買いに来たんだよ」
目線ではしゃいでいるミクを指す。葵は彼女に気付くと少し驚いたような…いや、実際驚いて俺に尋ねる。
「あいつって…初音ミクじゃない。何あれどうしたの?」
「響が昔福引で当てたらしいんだけど、それを使わないからって昨日もらった」
「響が?…あそっか、そういえばアイツ今日からエジプト行くんだっけ」
…幼馴染が2年間外国に行くというのに、とんでもなく薄情な反応である。まぁ、俺がついさっきミクに語ったように、こいつも会えないわけじゃないんだから別にいい、というそういう考えなんだろう。
「んでもって昨日引越しの手伝いしてたら押入れの奥から出てきて、捨てるのも勿体無いからとか言って俺にくれた」
「成程ねぇ…そういえばあんた音楽やってるくせに歌は全然ダメだもんね」
「…そういうことだよ、まぁ色々あってアイツは今歌えないんだけどな」
「はぁ?…ボーカロイドが歌えないって致命的なんじゃない?」
「まぁな、最低でも2ヶ月は歌えない。でもその間に俺があいつの使い方覚えればまぁ無駄にはならないだろ」
「いや無駄でしょ…。まぁなんにしても、あんた相当な変わり者ね」
「何が?」
「普通はボーカロイド用の服なんて買いに来ないわよ、ボーカロイドってのはあくまで歌を歌うためのロボットなんだから」
「ロボットじゃなくてアンドロイドだ」
「同じでしょ。まぁでもボーカロイドに服買うって言うのは…そうね、パソコンに化粧品買ってあげるようなもんよ」
「…」
パソコンに化粧品…という例はよく分からなかったが、何となく言いたい事は分かった。
要するに、無駄だと言いこと。猫に小判、豚に真珠。ボーカロイド、つまり機械に服なんか与えたところで意味なんか無いと言いたいのだろう。
…果たしてそうだろうか?確かにミクは機械だが、服を彼女に買ってやることが無駄とはとても思えない。
「カナ、ほらあの子呼んでるわよ?」
「え?あ、あぁ。じゃあまたな」
「うん、また明日」
葵と別れてミクの元へ。
「どうした、決まったのか?」
「はい!試着してきても良いですか?」
「あいよ、行ってこい。俺はあの辺で待ってるから」
「だめです、マスターも来てください!感想聞きますから!」
「え、ちょ、待てって!おい、ミク!」
俺はテンション絶好調の彼女の手によって、試着室へと、正確には試着室前のベンチへと強制連行された。…うぅ、周りの女性の皆様の視線が痛い…。
授業やらクラブやら勉強やらが結構忙しくて更新する暇がないー…ということは全然ないんですが、それでも結構忙しいです。手当たりしだい面白そうなクラブに入ってみようとかアホな事するからこうなるんだよ…(=ω=;)
あ、そういえばTwitterでは言ったかもなんですが、こっちでは言ってなかったかな?どうやら予約投稿ができるという事なので、今後は毎週日曜日正午に投稿します!予約投稿システムの誤差で多少タイムラグがあるかもしれませんが、それくらいの時間にチェックして頂ければ上がってるはずですので、どうぞチェックしてみてください!
追記:感想にて改行ミスのご指摘を受けたので、修正しました。ご指摘ありがとうございました!…ちゃ、ちゃんと直ってますよね…?(=ω=;)