セイシュンリハーサル   作:蒼井 綾

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Fromと家庭事情を書いてる合間に書いてるこの作品。
文字数が少ないから書き終わるスピード早いなと感じる作者でした。






彼は変わらず変な人

 

 あの変な人と言っては失礼なのだけど、長谷川一颯くんに出会ってからと言うものの、私が図書館に行くと必ず一颯くんは決まっていつもの席(窓側の椅子)に座って本を顔の上に乗せて寝ている。

 今だって、そこに座って本を顔の上に乗せて天井を向いているんだから寝ているんだろうな。

 二度と会わないだろなんて言ってたのは何処の誰だったかな、そう言ってあげたくなるぐらいに必ずいるのが不思議。

 そういえば、スポーツ推薦と言っていたけどペーパー試験がないとはいえ、実技試験対策とかバスケットボールの練習や大会とかは無いのだろうか。

 サボりすぎて大学のスポーツ推薦試験の時にミスなんてして、落ちましたなんてシャレにならない。

 

 

「……ふぁ」

 

「おはよう、一颯くん」

 

「はよ。つーか、アンタ最近毎日来てね?」

 

「それを言ったら君もね、あとゆりって呼んでって言ったじゃん」

 

「さぁー?俺は、そう簡単にポンポンっと話に乗っかるような軽い男じゃないんでね」

 

「私が軽い女みたいな言い方しないでくれない?」

 

「え、そうだろ」

 

「違うから」

 

「あのなぁ、まだ知り合って片手どころか速攻で数え終わる男に名前で呼べーなんて言ったら軽い女に見えるだろ」

 

「それを世の中では軽い女じゃなくて、フレンドリーな人って言うんです」

 

「それはお前の中だけだろ」

 

「お前じゃない」

 

「へいへい、さーせんした」

 

「返事は1回」

 

「へーい」

 

 

 相変わらず、私の言葉を聞いてるのか聞いてないのか分からないテキトーな返事。

 まぁ、彼に付き合ってばかりいて私も大学受験が駄目でしたなんて笑えないから始める準備をしよう。

 鞄から筆記用具とノート、参考書にりみが入れてくれたルイボスティーを入れてある水筒を取り出してテーブルに置く。

 

 一颯くんは変わらず本を顔に乗せて椅子によっかかって寝ようとしてる。

 大学受験落ちても知らないんだから。

 

 

「…んだよ」

 

「え?」

 

「さっきから俺の顔見てる」

 

「いや、受験勉強はしなくて大丈夫だとしてもバスケの練習とか大会とか無いのかなって」

 

「練習は朝に学校で、夜に自主練。大会は1ヶ月後」

 

「へぇ、ちゃんとやってるんだ」

 

「…どういう意味だっつーの」

 

「毎日ここに来てるから、それで大学受験落ちたらシャレにならないなぁーって」

 

「……別に、俺は落ちないし」

 

「その自信がどこから出てくるのか知りたいよ…っと」

 

「ゴリラじゃん」

 

「何?」

 

「何でもございませーん」

 

 

 さっき借りたばかりの参考書達を纏めて取り出してテーブルにドンっと載せれば、一颯くんが最低な事を言うものだから少し睨んだ。

 女の子にゴリラなんて言うもんじゃないよ、他の子が聞いたら絶対に機嫌悪くなって嫌われるんだから。

 口には出さないけれど、私はせめてのやり返しとして肘を脇腹に入れれば一颯くんは飛び上がるように起き上がって脇腹を抑えてる。

 

 

「…何すんだよ」

 

「女の子にゴリラなんて言うものじゃないってこと」

 

「さーせん」

 

「……はぁ、もう一颯くんと話してると本来の目的を忘れそうになるよ」

 

「それ、別に俺のせいじゃなくね?」

 

「今日は英語やろうかな」

 

「話聞けよ」

 

 

 単語帳を見ながら英単語と意味を覚えていく。

 そんな私を見て彼は溜息を吐くと、また本を顔の上に乗せて寝て椅子に寄りかかり始めた。

 単語帳をペラペラと捲る音と遠くで賑やかに話しているカップルの声、外で元気よく遊ぶ小さい子達の声だけがこの場に広がっていく。

 

 

「ねぇ、ゆーくん」

 

「なんだい、あいちゃん」

 

「私、この単語読めなーい」

 

「しょうがないね、俺が読んであげるよ」

 

「ふふ、嬉しいな〜」

 

 

 ……集中出来ない。

 それは私だけでなく、睡眠を妨害されたのか一颯くんも顔から本を退かしてこの話し声が何処からしてるのかをキョロキョロと探しては苦虫を噛み潰したような顔を浮かべてる。

 気持ちはわかるけど顔に出しすぎだからね。

 きっと、もう少し我慢してればカップルならカフェとかにでも行くだろうし我慢しよう。

 

 

「ねぇ、ゆーくんっ」

 

「なーに?あいちゃん」

 

「私ー、この本が使いたいの」

 

「聞いてみようか、すみません」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「この本を借りたいんですが、ありますか?」

 

「あー、そちらの本でしたら先ほど貸出してしまいまして……」

 

「そうですか……」

 

「えー、ゆーくんないの〜?あいちゃん、悲しい〜」

 

「申し訳ございません……」

 

「あいちゃんが使いたいんだもんね……、あれあの人が持ってる本ってそうじゃない?」

 

「あ!ほんとだ!借りに行こうよ!」

 

「お、お客様!館内は私語は慎んでください…!」

 

 

 図書館に務める人も大変だなぁ、ああいうバカップルって呼ばれる恋人達も本当にいるのに驚きだけど。

 そんな風に別の事を考えていたら突然テーブルを叩かれて、私は驚いて顔をあげた。

 叩いてきたのは、さっきのバカップルさん達。

 

 

「ねぇ、それあいの本なの。返してくれる?」

 

「え、えっとこれは図書館の本で私が先程借りたものですけど……」

 

「俺の可愛い彼女あいちゃんのお願いが聞けないなんて、君はどういう神経をしてるんだい?」

 

「……え」

 

 

 どうしよう、まさか私が借りてる本だったなんて気付かなかった。

 何とか穏便に終わらせたいけど、このバカップルさん達ちょっと我儘じゃないかな…?

 

 どうしようかと悩んでいたら私が借りて持っていた1冊の参考書を、あいさんという方に奪われてしまう。

 待って、それ今使ってるものなの!

 

 

「それじゃ、借りていくわね!」

 

「あいちゃんが使い終われば返すよ」

 

「いつになるかわからないけどね!」

 

「おい、待てよ」

 

「……一颯くん?」

 

 

 あれを持っていかれたら、このあと勉強の続きが出来ないと焦っていたら隣で静かにしていた一颯くんが本をパタンっと閉じて立ち上がった。

 何をするんだろうと思えば、取られた本を女性から奪って私の手に返してきた。

 

 

「ここの本は図書館が所有し、図書館で働く方が貸出を許可されたからこの人が持ってたんだ。アンタらはその許可を得ずに、勝手に取っていくって事は窃盗と変わんねぇけど警察にお世話になりたいか?」

 

「な、何よ!あいが使いたいって言ってるだけじゃない!」

 

「あー、うるせ。あのさ、高校生ならこんぐらい常識分かるだろ。借りた方だって今使ってんじゃんか、使いたいなら正規の方法で借りろよ。迷惑だ、帰れ」

 

「な、何なんだよ!お前!」

 

「何なんだよはこっちのセリフだっつーの、真面目に自分の未来のために努力してる人の邪魔してくんじゃねーよ」

 

 

 まさか、一颯くんがここまで言ってくれるなんて思わなかった。

 私の中で彼はバスケと睡眠以外は興味が無いと勝手に思っていたけれど、彼はとても良い人なのかもしれない。

 いや、最初から変な人だとは思っていたけど悪いイメージは……少しだけあったけど訂正しよう。

 

 一颯くんはそう言って男性の方の胸ぐらを掴むと、まだ片手でしか数えられない程度しか関わってないけど聞いたことがないぐらいの低い声で言った。

 

 

「人の未来を邪魔する奴らに貸す本なんてねぇよ」

 

「ひぃ…!」

 

「……はぁ、よっわ」

 

「…ありがとう、一颯くん」

 

「別に、寝てるの邪魔されただけだし」

 

「君って案外優しい所あるんだね、あと常識人」

 

「案外ってなんだよ、案外って。てか、常識ぐらい持ってるつーの」

 

「え?図書館を寝る所って思ってるのに?」

 

「…うるせぇ、さっさと勉強しろよ。俺は寝たいんだ」

 

「さっきまでかっこよかったのに、今の一言で台無しだよ」

 

「へいへい、そーですか」

 

 

 そう言って頭を掻きながら面倒くさそうに椅子に座り直せば、また本のページを適当に開いて顔に乗せて寝ようと椅子に寄っかかる。

 そんなに寝たいなら家に帰って寝ればいいのに、どうしてわざわざ図書館のここで寝るんだろ。

 本当に変な人、私にはちょっと理解するのは難しい。

 

 

「あぁ、それと」

 

「何?」

 

「嫉妬のスペル間違えてる」

 

「…あ」

 

「海外の受験なんて無理じゃね?」

 

「うるさい、これはただのミスだから!」

 

「図書館では静かにしましょーねー」

 

「一颯くん!」

 

「さーせん」

 

「謝る気ないでしょ、その返し方」

 

「さぁ、どうだか」

 

「…明日もここ来るの?」

 

「気が向けば」

 

「そっか、私は来るよ」

 

「どうでもいい情報ありがとーございまーす」

 

「………。」

 

「すんません、調子乗りました」

 

「素直でよろしい」

 

 

 何だかさっきまで大変な目に遭いそうだったのに、いつも通りに戻っちゃった。

 シャーペンを改めて握り直して参考書とノートに目を向ける。さて、切り替えて勉強しないと。

 これ以上、一颯くんに間違えてる所を見られて笑われたくないもん。

 

 

「はい、ざんねーん。そこは関係代名詞でしたー」

 

「もー!教えてくれるのは嬉しいけど普通に教えてよ!」

 

「へいへい」

 

「返事は1回!」

 

「へーい」

 

 

 とうぶん、彼に馬鹿にされるのは続きそうだ。

 そういえば彼が寝る時に使ってた本の表紙、今日は赤色だったな。

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