今日は、いつものように図書館に行って受験勉強をするではなく最寄り駅に来ていた。
本当は今日もいつもの場所でいつも通り勉強をするはずだったんだけど、私が知っている一颯くんからでは想像すら出来ない一言が原因だった。
理由は一週間前に遡る。
いつも通りにお気に入りの場所で勉強。
隣も普段と変わらず、一颯くんがテキトーに開かれた本を顔の上に乗せて寝ている。
あの体勢、身体きつくなったりしないのかな。ずーっと維持してたら首が痛くなりそうだけど。
そんな事を思いながら一颯くんから目線を外して、私は参考書と睨めっこし、シャーペンを走らせて真っ白なノートに黒い文字を書いていく。
今日の勉強は日本史。
暗記が得意な私にとってはそこまで苦手ではない分野。
「……なぁ」
「あれ、起きてたんだ」
「今起きた」
「そっか、それでどうかしたの?」
「アンタって休んでんの?」
「…名前で呼んでよ」
「質問に答えたら考える」
「休んでるよ、図書館で勉強したら家に帰ってギターを少し弾いたりしてる」
「ギター弾けんの?」
「あれ、言わなかったっけ。バンド組んでるんだよ」
「へぇ、因みにオリジナル曲はあったりするのか?」
「あるよ」
「頼むから英語は使うなよ、悲惨な歌詞になる」
「ちゃんと勉強してるし辞書を引いてます!」
「不安だわ」
「信用低いね、私」
「日頃の見てたら……な?」
「…哀れむような目で見てこないでよ」
本を顔から退かして、私に向けてどんまいとでも言いたげに見てくるから私はテーブルに置いてる一颯くんの右手をシャーペンで刺す。
もちろん、芯は出たままの状態で少し強めに。
「痛ってぇ!」
「一颯くんが悪いんだから」
「はいはい、すんませんね…っと」
「あ!ちょっとノート取られたら勉強出来ない!」
「……すげ、ちゃんとやってんだな」
「…当たり前でしょ?」
突然私のノートを取り上げたかと思えば、パラパラと捲っていつもなら眠そうな目をしてるのに驚いてるのか目が見開いてて新鮮な表情。
なんだ、一颯くんってそんな顔もするんだ。
そう思ったら何だかクスクス笑えてきてしまって、一颯くんからは変なものを見るような目を向けられる。
「…変な奴」
「君にだけは言われたくないから、それとノート返して?」
「…はぁ、受験勉強も大切だけどよ。リフレッシュするのも大切なんじゃねーの?」
「リフレッシュ?」
「まさか、リフレッシュの意味も……」
「わかります!」
「じゃなきゃ困るっつーの、来週ぐらい1日勉強やめちまえ」
「え、何処かに気分転換しに行くってこと?」
「他に何があんだよ」
ふぁっとあくびをしながら答える一颯くんに、私は目を見開く。
いや、彼と関わり始めて意外と人の事を本を顔の上に乗せて寝ているくせに分かってるんだなぁーとか思ってはいたけど、自分にメリットがないものは無関心だったはず。
そんな彼が私に気分転換しに行けって、どうしたんだろ。
風邪でも引いた?
「おい、何で俺の額に手を置いてんだよ」
「……熱はないね、じゃあ悩み事?なんかあった?」
「何もねーよ!」
「え、じゃあバスケの試合でミスした?」
「してねーよ、俺を誰だと思ってんだ」
「スポーツ推薦なんて余裕だって図書館で寝てる変な人」
「キレんぞ、おい」
「冗談だよ」
「真顔で冗談言うかよ、普通……」
「まぁまぁ、ちょっとびっくりしちゃって」
「…びっくり?」
「うん、一颯くんって基本的に自分にメリットがあるものにしか興味無さそうだなってイメージだったから、まさか私に気分転換しに行けって言うと思わなくて」
「……馬鹿かよ、アンタ」
すっごい呆れてますって顔で、私のことを見てくるから私はまたシャーペンを彼の右手に同じように刺す。
もちろん、今回も芯が出てる状態だから痛いわけで一颯くんはまた呻いてる。
バカってよく言うけど、意外と傷つくんだからね。
「…痛ってぇ、まぁいいや」
「え、本当にどうしたの?」
「勉強勉強ってやんのもいいけどよ、走り過ぎたって疲れんだろ。偶には、どっか行ってここをパーっとスッキリさせてくればいいんじゃねーの?」
「…え?」
「模試の点数が悪かったのかは聞かねぇけど、受験がやばいって焦ってんだろ。最近のアンタ、前よりもピリピリして追い詰められてんぞ」
「……それは」
「そういう時に詰め込んだって頭入んねーし、何ならジェットコースターにでも乗って吐き出してこいよ」
「…じゃあ、そうしようかな」
「そーしろそーしろ、俺はその間またここで一人の睡眠時間が増えるだけだしな」
「え?何言ってるの?一颯くんも行くんだよ?」
「……は?」
「私一人で遊園地とか行ってもつまらないもん、どうせここで寝るしか予定無いなら行こうよ」
「あのなぁ、何で俺までアンタの気分転換に……」
「言い出しっぺは誰?」
「へいへい、わぁーりました」
「返事は1回」
「へーい」
という事があって、今日は私と一颯くんの2人っきりは流石に不味いかなと思ってGlitter*Greenの皆に来てもらったはいいんだけど、よく良く考えたら私と彼は連絡先を交換していない。
何なら名前しかわからないから家も近いのかとかも、さっぱりだったりする。
失敗したなぁ、もし迷ったら連絡手段がないから困っちゃう。
「わりぃ、遅れたって……何か増えてね?」
「ゆり、彼に説明しなかったの?」
「あ、ごめん一颯くん。流石に私と2人っきりはあれかなって思ってバンドメンバー連れて来ちゃった」
「…連れて来ちゃったって、まぁ別に俺は構わねぇけど」
「うわー!君、身長高いね!いくつ?」
「…182cmっすよ」
「デカ!ひなちゃんとの身長差やば…!うぐっ!」
「ごめんねー、うちのバンドメンバーが失礼しました。ひなこ、ハウス!」
「わん!」
私達にとって、ひなこが暴走するのは普通だから見慣れてしまったけど一颯くんはもちろん驚いてる。
何だか、バンドメンバーと初対面した時のりみを見てるみたい。まぁ、ひなことリィの関係性はちょっとだけインパクトが強いからね。
「…おい、あの人やべぇやつじゃねーよな?」
「うん、いい子だよ」
「……お前に聞いた俺がバカだった」
「…聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけど?」
「しーらね、空耳じゃね?」
「空耳にしてはハッキリ聞こえたんだけどな〜」
「ゆり、そろそろ良いかしら」
「あ、ごめん!紹介するね、彼は長谷川一颯くん」
「どーも、いつも牛込さんに睡眠妨害食らってる長谷川です」
「あのねー、図書館は寝る場所じゃないから!」
「あ、貴方が最近ゆりが良く話をしてくれる方ね」
「七!?」
「何の話っすか?」
「いえ、こちらの話よ、気にしないで頂戴。私は鰐部七菜、バンドではキーボードを担当してるわ。よろしくね」
「私は鵜沢リィ、バンドではベース担当でこの子はデベコ!よろしくね〜」
「私は二十騎ひなこ!ひなちゃんワールドにぶっきーくんもご招待〜!」
「……おい、大丈夫か特に二十騎さん」
「うん、慣れれば元気な子だな〜ってなるよ」
「それ慣れていいもんなのかよ」
まだ出発すらしてないのに、既に一颯くんは疲れてる様子だ。まぁ、勝手に私が連れてきちゃったのも悪いから今からでも遅くないし彼の知り合いを呼んでもらおうかな。
そしたら、男の子が一人ってわけじゃないから気まづく無いはずだろうしね。
「一颯くん、私が勝手に皆を連れて来ちゃったから一颯くんも友達呼んでいいよ?」
「いや、別に構わねーよ。どっちみち俺の知り合いもやべぇ奴らしかいねーから」
「え、そうなの?」
「あぁ、一人だけまともなのがいるっちゃいるが最近ガールズバンドを組んだって聞いたしな。練習してたら迷惑だからいい」
「へぇ〜、君でもそう思う時あるんだ」
「どういう意味だよそれ、前にも言われた気がしなくもねーけど」
「そう思う事があるなら図書館で寝るの辞めればいいのに」
「アンタには関係ないだろ、それにあそこは適切な環境過ぎるのが悪ぃんだ」
「もう!それに、アンタじゃなくてゆり!」
「へいへい」
「返事は1回!」
「へーい」
「七ちゃん、ゆりちゃんってあんなに鋭いツッコミを入れる担当だった?」
「しっかりしてる子だけど、どちらかと言うとツッコミは市ヶ谷さんの担当じゃなかったかしら」
「ぶっきー!ひなちゃんを感じてー!」
「な、なんだ!?」
「ひな!離れなさい!」
何だかんだいいつつも、一颯くんもグリグリの皆も楽しそうだから誘って正解だったかな。
さっき来る途中で鞄にしまってたけど、彼が持っていた本の表紙の色は緑色だった気がした。
ゆりさん小説増えろ()
(短編の私が何を言う)