とりあえず、全員集まったって事で電車に乗ろうと意見が一致した時だった。
突然、一颯くんが立ち止まって改札ではなく反対方向に視線を向けて歩いていく。
そんな彼に気付いた私は同じように視線を変えれば、そこにいるのは重そうな袋をもっている私もバンドという繋がりで知った可愛い後輩の一人である人物。
「あれ、一颯くん」
「久しぶりだな、沙綾」
「久しぶりだね、何処かに出かけるところだった?」
「まあ、ちょっとな。沙綾は……お見舞いか」
「…うん、丁度バンド練習が午後からだったしお店も大丈夫だからリサさんと二人で」
「…もう二年だっけ」
「そうだよ、一颯くんもミニバスから知り合いだったもんね」
「まあな、あの人の運動神経は化け物レベル」
沙綾ちゃんと仲良く話している一颯くん。
彼ってあんな風に笑ったりするんだ、とりあえずホームに先に行っている事だけでも伝えておこうかな。
それにしても私って、彼と関わり始めたのが最近とはいえ知らない事ばかりだなぁなんて思っているときだった。
私にとっても大切な人と呼んでも過言じゃない人物の名前が聞こえたのは。
「こーら、そんな事言ったらアキさんに怒られるよ?」
「それだけはマジで勘弁、起きて早々怒られたくねーよ」
「ふふ、私も嫌だよー。あ、出かける所だったんだよね?」
「あぁ」
「気を付けて行ってきてね、うちの弟も一颯くんとバスケしたいって言ってたからまた家に来てよ」
「おう、負けないから準備しとけって伝えといてくれ」
「はーい、行ってらっしゃい」
「ん。」
予想外の人の名前が聞こえてしまった私は、沙綾ちゃんに挨拶することも出来なかった。
すると、そんな私に気づいてくれた沙綾ちゃんが驚きつつも会釈してくれて、やっと動けて私は挨拶を返してから一颯くんへと視線を向ける。
彼は沙綾ちゃんと何ら変わらない雰囲気で戻ってきて、私の顔を見て不思議そうな顔をしている。
「何つー酷い顔してんの」
「え、あ、ううん。沙綾ちゃんと知り合いだったんだね」
「昔からの知り合い」
「そっか」
「沙綾の事知ってたんだな」
「うん、妹がバンドメンバーで高校の後輩だから」
「…ふーん、バンド仲間か」
「どうかしたの?」
「いんや、あのキラキラについていけるのかと思っただけだ」
「キラキラ?」
「キラキラガール戸山」
「あー。りみ、香澄ちゃんと仲いいよ」
「…マジかよ」
「君、今失礼なこと考えなかった?」
「妹もやべー奴なのかと思った」
「怒るよ?」
「さーせん」
「謝る気ないよね、次言ったら怒るから!」
「へいへい、つーかアンタの知り合いが死んでるけど?」
「だから返事は一回って……え?」
一颯くんが目で訴えてくるから視線を向ければ、完全に暇すぎて死にかけてるひなこ。
そんなひなこを何とか支えてるリィにと、苦笑いを浮かべている七の姿。
しまった、私は一颯くんに先にホームに行っている事を伝えようと思っていたのに予想外な人物の名前が聞こえたから変な所で立ち止まっていたんだ。
何やっているんだろう……。
「ゆりちゃん!!」
「ごめんー!」
「ゆりは何のために、一颯くんのもとに行ったのよ……」
「あ、あはは……」
「もう、早くいこーよー!」
「……はあ、やっぱお前変な奴」
「一颯くん?」
「さっさと行くぞ」
「ぶっきー、ゆりちゃんに逆らえない感じ?」
「……違います、ああいうのは早めに折れるべきだと沙綾と話してて学んだんすよ」
「一颯くん!!」
「さーせん」
ひなこに話しかけられて、隠さずにそんな事を言う彼に私はジト目を向けながら言うけど効果なし。
前に向かって歩きながらいつも通りの謝る気のない返事だけが返ってきて、ひなこがくっついてきたのをいやそうな顔をしながらも改札に向かっていく。
何か悔しい、沙綾ちゃんの事は名前で呼び捨てなのに私の事は未だに呼ばれたことがない。
確かに昔からの知り合いと、最近出来た知り合いの差だと言われたら納得するしかないんだけどさ。
そんなことを思っていれば自然とため息も出てくる。
「……はあ」
「ゆり」
「…びっくりした、どうしたの七?」
「彼の事気になる?」
「何言ってるの!?」
「ふふ、何でもないわ。早くいきましょう?」
「……変な七」
突然変な事を言ってくるもんだから、変な声を上げてしまった。
そんな事を言われたら、何でもなくてもつい彼の事を目で追ってしまう。
意外と服のセンスがいいんだね。正直バスケばかりやっていて服装とか気にしない人なのかと思っていたけど、結構清潔感がある。
ジャージで来たらどうしようとか、勝手に悩んでいたのが無駄だと感じるぐらいにセンスあると思う。
絶対に彼には言わないけどね、そんな事を言ったらなんて返されるか目に見えてるもん。
確実に「俺の心配より自分の服装心配しろよ」って返ってくるに決まっている。
でも、そこまで考えて七の言葉を思い出してふと私が彼を気になるなんてあり得るか考えてみる。
いや、絶対に有り得ない。私が一颯くんに恋?
「……いやいや、有り得ないから」
「おい、いつまでそこにいんだよ」
「へ?」
「出かけるんだろ、時間ばっか過ぎんぞ」
「あ、ごめん。ぼーっとしてただけだよ」
「…ふーん」
これは私の言葉を信じてないな。
そんな事を思いながら、改札の中に入ってホームを歩いていく。
隣を歩いてから分かったけど、身長高いなー。それに睫毛も長い。
こんな風に彼の顔を見たことがなかったけど、女の子に嫉妬されそうな要素が意外とあってちょっとびっくりする。
「…何だよ」
「え?」
「…え?じゃねーっつうの、さっきから人の顔ずっと見てる」
「いや、こうやって一颯くんの顔ちゃんと見るの初めてだなーって」
「…は?」
「身長も改めて高いし、女の子みたいに睫毛も長い。それに顔も整ってる方だと思うし、細身なのにバスケ部だからなのかな?結構……むぐっ」
「…ちょっと黙ってろ」
「んー!」
「ゆりちゃーん、私達もいるのも忘れてないー?」
「んっ!?」
そうだった、今日は彼と私だけじゃないんだった。
私は普段やられている事の仕返しだと思って割り切る。じゃないと恥ずかしくてみんなの顔なんて見られない。
ちらっとさっきから静かに私の口を押えてる一颯くんへと目を向ければ、顔は逸らされてるけど髪の毛に隠れてた耳が少し見えて真っ赤。
え、もしかして照れてるの?
「あら、長谷川くん照れてるのかしら?」
「…照れてません、慣れてないだけっすよ」
「でも、ぶっきー。真っ赤だよー?」
「…気のせい」
「ゆりは何で勝ち誇った顔してるんだ?」
「んー!んん!」
「…何言ってるのかさっぱりだ」
「長谷川くん、ゆりから手を放してくれるかしら?」
七がそう言ってくれて、やっと手を離してくれる一颯くん。
今日は私の勝ちかな、皆の前じゃ彼はきっと強く出れないだろうしね。
「いつものお返しだからね!」
「いつもの?」
「ゆり、一颯くんに言い負かされてるみたいよ」
「ほー、ゆりちゃん負けず嫌いだもんね~」
「七!!」
「…なあ」
「何!?」
つい強く言ってしまった。
彼も少し驚いているけど、私の現状を理解してくれたのか何も言わずに話を進めようとしてくれた。
やっぱり、結構優しいところがある……のかもしれない。
「どこに行くか決めてんのか?」
「そういえば私たちも聞いてなかったわね」
「聞いてないぞ~」
「ひなちゃんも聞いてないよー」
「……あ、決めてなかった」
『
今日が楽しみで全然決めてなかった。
行くって決まった日の次の日には一颯くんと話そうと思っていたのに、彼を説得するのに必死で忘れてた。
「やっぱ、バカだろ」
「な!?」
「無計画って意味わかんねー」
「君のせいでもあるんだから!」
「いや、もっと意味わかんねー」
「一颯くんがすぐに行くって言ってくれなかったから私も忘れたんです!」
「へいへい、さーせん」
「返事は一回!」
「へーい」
「あれ、完全にゆりちゃんのミスだよね?」
「うん」
「でも、ゆりは凄く楽しそうだから私達の方で行く場所決めましょう?」
「賛成~」
そんな会話が広げられてなんて知らない私は、一颯くんと話をしていた。
うん、やっぱり私が彼を気になってるなんて有り得ない。