遅まきながらも投稿させていただきます。
では、どうぞ〜。
……何も、何も見えない。
気がつけば、俺はここに居た。過去と同じ、自分がどこにいるのかも何故いるのかも分からない。
人の姿もない。そもそも、
これは、確かアンリマユの泥……だったと思う。という事は、今の自分はアンリマユに取り込まれて……いや、微かだけれどもこの泥と自分の間に魔力のパスを感じる。つまりは、この泥は自分が出している?
……考えても分からない。なんにせよ、自分は確か……。
そうだ、神父によって地下に落とされたんだ。それで、地下の魔物によって……蹂躙された。死ぬのを覚悟というか、本能的に理解していたけれど。
朧気ながらも覚えていることから推測するに、恐らく今の自分はこの泥によって生かされている状態。確かこの泥は死にかけの人間程度ならば、軽く生かすことが出来たはずだ。
……動く事は出来る。一応、視界も確認出来る。だが……何故だ。
何故、
そもそも、自分とは何だ?過去とは何だ?分からない、何も……分からない。
……いや、今考えるのはやめよう。だが、ここからどうすれば--。
その瞬間、彼は見えた。そこは地の底。誰かが来れる場所でもなく、新たな存在が来るような場所ではない。来るとすれば、新たに生まれた魔物だろう。だが、それもここで生まれた存在だからだ。
その程度であれば、自身の心配をすれども、他は一切気にしない。だが……だがそれが、元々同じ場所にいた存在であるとすれば。
「何故……何故ここに居る、八重樫雫」
片目に傷を負いながらも、そこで彼女は生きながらえていた。
声に気が付いてか、彼女は残った右目を薄らと開いていく……。
そうして見えるのは、黒く、暗く、何者かも分からぬ存在。本来の彼女であれば、恐怖心を押し殺しながらもどうにか立ち向かおうとしただろう。だが、八重樫は今、正常でも視界がハッキリしているわけでもなかった。
「貴方は……誰……?」
「おい、八重樫! 何故こんな場所にいる! いや、俺は誰だ! 何故お前の名前を知っている! 答えろ!」
その瞬間、八重樫は……微笑んだ。
「藤丸……君、ごめん……なさい。貴方の忠告……守れ……なかったわ」
「藤……丸……?」
記憶が刺激される。藤丸……藤丸リッカ?そうだ、自分は藤丸リッカだ。高校2年生、前世有りの男性。そして、その前の人生も……。
「おねがい……私は……逃げちゃった。見えて……怖くて……生きたくて」
八重樫は残った右目から涙を流しながら、唯一見つけた希望に縋る。声だけの、姿すら見えぬあやふやでありながら、何かに縋らずには居られなかった。
「だから……おねがい。彼を……南雲くんを助けてあげて……!」
その言葉を最後に、八重樫は気を失った。
突然の記憶の濁流、意味の分からぬ現状、自身に告げられた事。だが、彼は動かざるをえなかった。
ぅゎぁぁぁぁぁぁ!!
声が……怯える声が聞こえた。しかし、何も……何も感じなかった。助ける?無視する?そういった思考が彼の頭に過ぎる。だが、だが!
『お願いします、先輩……手を……握ってくれませんか?』
あの時と……同じだ。傷をおった少女が目の前にいて、また願われた。今回は前回以上にきっと無理難題だろう。助けてあげてと、自分の事よりも、他の人の事を気にした。
「全く……普通の少女かそんなもの背負うべきじゃないんですけどねぇ」
その言葉は、彼の無意識。彼も認識していない、泡沫に消える言葉。
だがしかし、彼は……彼と共にある存在も、約束は違えない。
彼は、自身と契約した存在の事はほぼ全てと言っていいほどに把握していた。そして、その中でも泥を扱えるのは極一部。さらに、縁召喚も、憑依召喚も使えない。故に、自身と共にある存在の力も把握していた。
「「さぁて、いっちょ派手に……」」
何処からか、声が聞こえている気がする。助けを求めた少女を背負いながらも、誰かと共にいるかの如く、彼は堂々と告げる。
「「やりかえしますかぁ!」」
ここに目覚めたのは人理を救った少年。そして眠るは極地への可能性を謀らずしてその身に背負った一人の少女。
そして、今救済を求めるのは哀れな運命に定められた少年。
さぁ、物語の序章は幕を上げる。
「--座長……さん?」
掠れた声で、地の底の姫は呟く。
記憶にない、だが、朧気ながらも存在を知っている様な存在を感じた。
姫の救済はまだ先の物語--
彼は運命の方舟に乗った。
少年は救済の可能性を掴んだ。
少女は更なる闇を背負った。
そして姫は眠りから覚める時が迫っていた。