……なんか内容が重くなったけど、知った事かぁ!
ia、ia、haster!
『藤丸リッカ、迷宮にて罠にかかり死亡』
その報告がなされた時、生徒達も騎士達も荒れた。
生徒達は自分達に命を語っていた彼が呆気なく死んだ事で、改めて現実であるという事を認識して。騎士達は上に逆らわずに、みすみすリッカを迷宮に送り出してしまった事で。
騎士達は改めて自分達の考えを変えることにした。自分達は何もせず、何も出来ずに死なせてしまったが故に、もう自分達のエゴで召喚した彼等を誰一人欠けさせはしないと。
生徒の殆どは報告をうけ、更に自分の部屋に引きこもるものも増えた。それの現実に慌てた教会は、1度生徒達全員で話をさせることとした……勇者天之河に期待をして。
--教会は理解出来ていない。既に藤丸リッカによって、生徒は死ぬ可能性を垣間見ているということに。
「皆、1度落ち着こう。確かに藤丸君が死んでしまったのは悲しい事だ……だが、だからこそ彼が死んでしまった今、止まるわけには行かない! 部屋に引きこもるだけでは、前を見ることなんて出来ないんだ!」
確かに、彼の言葉は人として真っ当で、下を向くだけではなく前を向こうというのは正しい事なのだろう。
だが……だからこそ、生徒達には歪に映る。
「彼は迷宮に潜って死んでしまった……。余りにも急ぎすぎてしまったんだ。彼の事は本当に残念だが……これを戒めとして、皆を救う為に俺は頑張ろうと思う!」
人として、一般人として実に正しい。だが、彼は思考から忘れている……既にこの世界に来ている時点で、常識とは非常識に切り替わっているのだと。
「……皆って、誰?」
誰かが、そう口から零した。
「皆は皆さ。この世界の人々も、君達も! 俺は救ってみせる!」
英雄とは、自身が間違っていると分かっていようとも人々の為に自己を削る事の出来る人物の事を言う。勇者とは、人々の希望を背負い進む事の出来る人物の事を言う。だが……。
「この世界では、俺は勇者だ。優れた力で、皆を守る! だから、力を貸してくれ!」
己に過信をして、周囲を巻き込む者は……愚者という。
カリスマに溢れた彼は、既にここには居ない。ここに居るのは……力によって盲目的になった哀れな少年1人である。
「……ごめん、私は無理。死にたく……ないの」「俺も……」「すまん、天之河……」「ごめんね……」
それを理解した生徒達は、自らの命を投げ出そうとは考えない。
「なっ……みんな……どうして」
結局、その場に残ったのはたったの6人。
「……なぁ、光輝」
彼に声をかけたのは、元の世界からの親友である坂上龍太郎。彼ならば自分の思いを分かってくれるはず……その思いは、崩れ去る。
「ちょっと、焦ってないか?」
「……どういう……ことだい?」
残った他の4人、八重樫雫、白崎香織、畑山愛子、南雲ハジメもそれを静観する……若干1人、寝てしまい動くタイミングを失ってしまっただけのようだが。
「光輝、確かにお前はこの世界に来て、すげぇ力を得たんだろう。正直羨ましいぜ。だがな、お前みたいに皆つええわけじゃねぇ。よええ奴もいるし、ただ臆病なやつもいる」
「……」
「だからよ、1度落ち着け。周りをしっかりと見てみろ。俺は考えるのはめんどくせぇから嫌いだが、流石に今のお前が正気じゃない事だけは分かる」
坂上龍太郎に続き、八重樫雫も口を開く。
「この世界は、現実なのよ……。藤丸君が言っていたように、人は死ぬし、血も流れる……。私達がしないといけないのは、命を奪う行為なのよ……?ただ何かを救えば良いだけの事じゃないの。誰かを救う為に、誰かを捨てなきゃ……ダメな世界なのよ」
信じていた友人2人からの言葉が、彼には理解ができなかった。人を救う為に誰かを見捨てる?今の自分が正気じゃない?
自分を否定する言葉が信じられず、希望に……白崎香織を彼は見る。
「ごめんね、私も雫ちゃんの言葉が正しいと思う。治癒術師っていう、誰かを救う為の職業なのに、私は何も出来なかった……。この世界は、甘くないって分かってた筈なのに……」
なんでだ、なんで親友達は自分をそんな目で見る?おかしいじゃないか……。しかも香織はなんで自分を責めている?藤丸リッカが死んでしまったのは、
彼はもう、歪んでいる。
畑山愛子には、何も言えなかった……自身には、何も言う資格がないと思っていた。
自分の職業が希少だからといって、教会にかこまれて……生徒を守るという教師としての意義を一時であれ、忘れていた。たとえ異世界であっても、彼らは自分の生徒であり、自身が真っ先に先頭に立つべきだったというのに……。
彼女も気が付かない。それは既に、教師としての役割から離脱しているということに。もう既に、一種の狂気の沙汰であるということに。
彼等は既に、狂っていた。
そして、数少ない平常を保っている南雲ハジメでさえ……徐々に歪みはじめている。既に、歪な狂気に彼等は……生徒達は囚われている。
物語は進む。彼等は迷宮へと向かう。死ぬ可能性を見た生徒達は城に篭った。迷宮に出たのは、最後まで残っていた6人の中の5人。畑山愛子は、許されなかった。
歪む、亀裂が走る。既に賽は投げられた。
迷宮にて眠りについた復讐の裁定者は……目を覚ます。
狂気は巡る。混沌が覗く。既に侵食されている。
故に正気は消失する。故に理性は焼却される。
保て、己が信念を。