廃れた港町に静かに佇む「ソレ」は外観こそ鎮守府だったものの
その傍目から見ても分かる活気のなさは建物の迫力との差から何処か不思議な空間が広がっており
最早、廃墟といっても差し支えのないものであった。いや、廃墟と言った方がしっくりくる。むしろ鎮守府と言う方がおかしいだろう
そして
そここそは、所謂ブラック鎮守府であった
疲労状態での出撃など当たり前
ご飯や睡眠は最低限
入渠は禁止
大破艦は敵の盾として認識され
どんな戦果を挙げても返って来るのは暴言や暴力など他にも沢山の非人道的な行為が日常的に行われていた
しかし、海軍側はこれを黙認
まぁ、当たり前だろう。
世間では正義のヒーローだの、正義の下で戦う娘たち。
世界の救世主と言われているが、元帥以外のほとんどは
『艦娘は人ではない、化物の化身だ』
元帥は艦娘を義人思っているし、尊敬すらしている。ほとんどの提督だってそう思ってる者は多いいが、良く思わない提督も多い。
実際に、艦娘の売買を手引きしている提督は何人かいた。
しかし、それも海軍は世間一般に公表することはない。
そんなことをすれば、海軍としての立場が危うくなるからだ。だから、希望を、生きる意味を、死んだ方がましだと思う艦娘も居るし、なかには問題を起こす艦娘もいる。
そのなかでも、ブラック鎮守府の艦娘は別格。問題だらけだ。
なかには出撃を拒否する艦娘、命令を全く聞かずに出撃する艦娘、出撃しても使い物にならない艦娘、なかには提督を殺した艦娘もいる。
そして何よりブラックなのは、提督事態が問題なのだ。
内容は色々あるが、大々的な者が、海軍への反逆、国民からの信頼問題、艦娘を勝手な理由で解体、その他色々。
ここに集まるのは、希望を無くした提督と、その虐待や理不尽に絶える艦娘たちなとだ。
─────そして今日も一人、新しい提督が『ブラック鎮守府』に着任しました。
名前は名無(ななし)
姓なんてない。名前もない。
だから名無なのだ。
大きな特徴、それは両腕の義腕と、隻足に義足、そして隻眼の眼に、空っぽの目は義眼をつけ、片方の頬は引き裂かれたように裂けている。
そのため彼はいつも厚着に両の義腕には手袋をつけ、足はできるだけばれないように歩き、顔には長く黒いマフラーを巻く。
彼のこの傷跡は、艦娘につけられた物。
しかし、海軍はそれを報道しなかった、それどころか、彼を罰し、このブラック鎮守府に着任した。
理由は、名無は提督でありながら、提督を殺したのだ。
しかし、報道すれば、必ずこの大きな傷跡はのこともマスコミにバレる。艦娘がどんな理由であれ、提督にこのような深傷を負わせたとなれば、大問題だ。
そうして海軍は、事件を最小限に押さえ、提督をブラック鎮守府に着任させた。
────────────────────────────────
「はぁ……また新しい提督……ですか…………」
陰鬱げに、深々と溜め息を吐く彼女の名は、駆逐艦「雷」
主に提督の執務の補佐や任務の管理
そして新しく着任する提督の案内なども行なっている。
まぁ、平たく言えば、これまでの提督の非道的行動を一番近くで、しかも日常的に見てきたのだ
「どうせまた問題起こして一ヶ月そこらで辞めるんでしょうけど」
正門に移動しつつ、何度も溜め息を吐きながら提督や海軍のことで愚痴を吐く彼女の瞳は、世間で知られている【第六駆逐隊 雷】とはとうてい思えないほど「濁って」いた
しかし、それもそのはずだ。
彼女は、提督の非道的行動を一番近くで見ると同時に
一番多く非道的虐待を受け続けたのだ。
ここに来る提督は皆屑だ。
屑が密室で見目麗しい女性と二人きり
何があったかなどいう必要もなかろう。
殴られることもあった。
罵倒されることもあった。
理不尽な八つ当たりをされることもあった。
屈辱だったこともあった。
殺してやりたいことなど何度もあった。
しかし彼女は耐えた。
もしもそこで怒りに任せて殴りでもすれば、自分の負けだ。
それに、証拠の一つでもあれば、このクソみたいな状況も変わるだろうと、そう信じていたからだ。
だがそんなことはなかった
ある日彼女の必死の呼びかけが応えたのか大本営から調査員が派遣された
調査は一週間にも及んだ
最初こそ取り繕っていた屑野郎であったが3日もすればいつも通りだ
調査員の目の前で仲間達に理不尽な暴力を振るい、暴言を吐いてもいた
その一週間の間に汚されたりもした
普段より声を上げ
わざと気付かれるように仕向けたりもした
録音もしていたから決定的な証拠も抑えた
どんなに酷いことをされても耐えて耐えて耐え続け
そして調査の結果
次の日から、その提督は居なくなった
単純に嬉しかった!
嬉しくて嬉しくてたまらなかった!!
その時の嬉しさは本当に声にならなかった。
いや、例えようがないほどに、本当に!
そして——
———————次の提督が着任した
元の提督と全く同じ。
悲劇は、繰り返されたのだ。
彼女は嫌でも知ってしまった。
人の心の、否、この世の理不尽を
そして、彼女は諦めた
否、諦めざるを得なかった。
絶えず行われる暴力にも目を背け
毎日聞こえてくる暴言を聞き流し
汚されたとて、最早何とも思わなくなった
変えられない
逆らってはいけないのだ
逆らっても、何一つ変わりはしない
いつだって、世の中は理不尽で
弱者がなにを叫んでも
強者には何も届かない
だから、諦めるしか、できないんだ
こうして、彼女は大切な何かがガラガラとガラスが崩れ落ちるかのように、壊れていった。
そして、その音すら聞こえなくなった時
彼女は完全に壊れた。
「チ、もういる」
そして、壊れてからと言うもの、ブラック鎮守府の艦娘以外の、全てが屑だと思うようになった。
「どうも、駆逐艦 雷です。貴方が今日からこの鎮守府に着任する提督で…………ぇ?」
「ん?あぁ、いかにも俺が今日から新しく着任する名無だ」
同じ、いや、それ以上に、彼の目は、「黒く濁って」いた。
いや、正確には彼の目は死んでいた。
こう、死んだ魚のように。
生きる希望、夢、欲、人として欠けてはいけないような何かが、欠けているような、そんな目だ。
マフラーで隠された口元で、見えるのは、長く、左右に跳ねた寝癖の悪い髪の毛と、目元の大きなクマ。
それはより一層目付きを悪くする。
傍から見れば、目付きの悪い、少し難いのいい男。
しかし、彼女は違った。
この目をよく知っているからだ。
見たくない、知りたくもない、目を背けても、瞼を閉じても、耳を塞いでも、どれだけ泣いても、脳裏に刻まれ、その空っぽの心に刻まれて決して離れない
私たち艦娘達《仲間達》の眼だった────
────────しかし、もう一つ気づいた。
彼の孤独に。
私たちの目が濁っているなら、彼の目はより「ドス黒く」濁っていた。
どれだけ叫んでも許してはくれない
どれだけ助けを求めても誰も助けてくれはしない
どれだけ抗っても、この世の理不尽にはどうしようもないことを
あぁ、もしも彼が
私達のように
抗いようもない理不尽を受けてきたなら
人に、傷つけられてきたというならば
私は初めて願った
神でも仏でもない
私たち以上の苦しみを知っている
貴方にお願いします。
私達《仲間達》を、どうか、どうか
助けてください
捨てたは筈の、壊れた筈の、諦めた筈の
小さな、ほんの小さな
希望の灯が
彼女を抱いたのであった。
────────────────────────────────
鎮守府、集会場
名前の通り集会をするために創られた場所であるそこは
広々とした、とても殺風景なところだった
木造の床に壁、鉄の天井に取り付けられたちょっと大きめのライト、それ以外にはちょっとした舞台とがあるだけだ
特徴的な特徴はほとんどない
と言うかない
まぁ、簡単に言えば、中学校か小学校の体育館、とでも言えば良いだろうか
ただ一つ違うと言うのなら、
直立し舞台上の俺を見上げている艦娘達がいる事であろうか
「新しく到着した提督による艦娘達への挨拶」…………だ、そうだ
鎮守府に入ってすぐ雷から
「提督着任の挨拶があるから、ちゃんと来てください」
と言われ、今に至る訳だが
俺は、集まった艦娘達の顔を見るが、噂通り
いや、それ以上に、この世に愛想をつかしたような
とても正義の下で戦う者達には思えない雰囲気を漂わせていた
そうして、俺は艦娘達の顔を見ながら、今の状況を確認していると
真横にいた雷が俺にマイクを渡した。
俺は、義手の手で雷の持っていたマイクを受けとる
どうやら俺が義手だと言うことにはか
まぁ、気づかれたところでどうと言うことはないだろう。
さて、久しぶりの挨拶………………たしか俺が前の鎮守府での挨拶はどうやったか…………まあいい。
俺らしく挨拶するか。
───さぁ、このブラック鎮守府に提督様が着任したぜ。
「こんにちわぁ、俺の名は名無、姓はねぇ、まぁこの際名前なんぞどうだっていい。先に手違いが無いように言っとくが、俺は【殺人犯】だ」
その一言で、集会場が騒めく
しかし、俺はそんなことはどうだっていい
「まぁ、どうせクソの塊だ、死んで当然のやつだ。だが今はそんなことどうでもいい。正直てめぇらがどうなろうとどうでもいい、実際ここはこう言う所だと聞いたしな」
「しかし!!!」
軽く息を吸い、さっきよりも圧をかけるように大きく太い声で
「勝手にくたばる事だけは許さんし、俺はてめぇらを不幸にはさせねぇ」
彼は何様だ
彼は私達の命を管理する権利があるのか?
そんなに私達と彼は深い関係か?
私達に同情でもしているのか?
何度も裏切られ、希望を打ち砕かれ、終いには「くたばれ化物」、いつも提督たちが最後に残す言葉だ。
いつから諦めたか、そんなことさえ覚えていないほど前から
心が砕け、崩れ去り、全てを諦めたか自分達の空っぽの心に、どうしてだろう。
彼の声は、自分達の空っぽで、なにもない心に響き渡った。
同じ、それ以上の苦しみを知っているから?
私達に同情しているから?
そんなことはどうだって良かった。
この人は、この壊れた私達に、生きて欲しいと願っているのか?
分からない、分からないほど、初めてだった。
自分達に生きてくれと願っている者に合うのわ。
だが彼の言葉は嘘かもしれない
本当かどうか何て分かりはしない
結局は皆死ぬのが怖い
自分の命が最優先で、私達の事なんて食い物にしか思っていない。
それが「人間」なんだから。
「それじゃぁ俺は掃除があるから」
『………………は?』
その場の全員が、これでもかと言うくらい息ピッタリに答えた。
────────────────────────────────
今の俺の状況と言えば、自分の部屋の掃除ですかね。
「ゴホゴホ、ぐぼぇ、にしてもきったねぇな」
「当たり前です、誰も掃除してないんですから」
「…………えっと雷(かみなり)だっけ?」
「雷(いかづち)です」
提督が、叩きで本棚などのたまったホコリなどを払っていると、雷が山のような書類を持ってきた。
十中八九漁師達からだろう。
深海棲艦達のせいで漁師達の漁ができる範囲が急激に減ってしまい、その分の駆除は数知れずと言ったところだ。
「わりぃ、それとそろそろ水拭きするから少しの間入ってくんなよ」
「…………」
どんどんと要らないものは捨てられ、汚かった部屋は整えられえ行く。
来てまだ少ししかたっていないと言うのに、もう部屋の半分以上が綺麗になっている。
そして、綺麗にされた机の上には、7割以上が判を押された書類
この分だと、雷の持ってきた書類もすぐに終わるだろう
そして、艦娘の疲労の事を考えられた遠征表が張られ
しっかりと着込まれた皺一つない軍服
その黒く長いマフラーと、少し左石足を庇うような歩き方を抜けば
目線と手だけを動かし休みなく働く提督
多々疑問に思うことは多いいが、今は気にしないでおこう
彼は、真面目なのだろうか?
しかし、真面目だからといって、彼も男
きっと女の子の前だからかもしれないが、そう言う邪な思考や欲はあるはずだ
そう思っていると、司令官は部屋の片付けを終えて、椅子に座っていた
彼も私達にセクハラをしてくるのだろうか?
いや、司令官も男なんだから、そう言う邪な欲があっても仕方がない、うん!
(ってこれじゃぁセクハラされるのに期待してるみたいじゃない!!)
雷は自分の思考に自分でツッコンだ。
「なにやってんだよ、早くそれ渡してくんねぇと判押せねぇんだけど」
いつまでたっても書類を渡さない雷を不思議に思いながら、司令官が話しかける
「ぇ、あ、はい!それと入電です提督…………」
「ん、ああ、どうも」
そうして提督は書類を受け取り、書類に判を押し始める。
雷はそれをずっと立って見るばかり
さすがに退屈になってきたのか、雷が自分の前に近づいてきて、目の前で止まったり話し掛けてきた
「どうした?」
「私も手伝う?」
「退屈なんだな」
顔を見れば分かる程に退屈そうな顔をしていた
しかし、もうすぐ判も押し終わるし
さてどうしたものか……………
あ、そうだ
「雷」
「何か手伝うこと、ありましたか?」
「俺の膝の上に乗れ」
「?はい」
今までいろんなセクハラを受けてきたが、膝の上に乗れと言われたのは初めてだったので少し戸惑いもあったが
そんなことを考えても無駄なことは知っているので、特に深い疑問を思うこともなく、提督の膝の上に乗った
「あの、これは?」
「手伝うんだろ?」
「いや、そうだけど…………」
…………まぁ温かいから良いか。
誰かに甘えたことや頼ったことは一度もない
頼ってもらったこともないし、優しくされたこともない
ただ、この人の膝の上に居て悪い気はしない。
雷は提督に変わって提督の膝の上で書類に判を押す
「そう言えば」
「あ?」
「今日はいい天気ですね」
少し試したかった。
ここに来る提督であれば、こんな下らないはなしをすれば時間の無駄だと言って叱るなり、無視するなり、殴るなりする
しかし、提督は一体どんな反応をするのか、少し気になった
「………………」
(…………あれ?無視?)
提督は黙ってずっと雷の顔をジーーッと見ている
雷は自分の顔に何かついているのか、顔を手で触るが、なにもついていない
そう思っていると
「ついてこい」
「?」
提督が、雷を下ろしてから立ち上がり、提督室の出口の扉ではなく、寝室の扉を開けた
え?まさか…………と雷は思いながら提督のあとに付いていく
「ベットに入れ」
そう言って提督は、雷にベットに入るように命令した
雷は言われるがままベットに入り、枕に頭をおき、体に布団を被せた
「そこで待ってろ」
すると、提督は一度寝室から出ていってしまった
雷は言われたとおり、布団に横になって待っていると、二十分後
提督が小さな、鍋をお盆にのせて持ってきた
「粥だ、食え」
提督は、お粥が乗せられたお盆を、ベットの横にあった小さな引き出しの上においた
「え?あの、仕事は…………」
「てめぇ、寝不足だろ」
「ぇ、あ、はい」
雷、今だ混乱中
提督の言う通り、雷は丸々三日は寝ていない
それで居ても、ちゃんと寝たのがいつだかも覚えていないほどに寝ていない
提督は、雷の右目の目元を義手の親指でなぞった
「クマがすげぇぞ、それに飯もちゃんと食ってねぇだろ」
「…………はい」
「お粥食ったら寝ろ、寝て起きたら仕事だ、分かったか」
「あの」
「あ?」
提督が、寝室から出ていこうとしたとき、雷が提督を呼んで引き止めた
「いいんですか?」
「ガキ遠慮すんじゃねぇ」
雷の問いに、提督はそう言った
そう言えば、提督が来る前のベットは、埃が被っていてとても寝れるような状態ではなかった
それに部屋だって、シミや埃などで汚かったのに、まるですべてが新品にしたかのように綺麗になっていた
布団も真っ白で、ふかふかで温かくて、こんな柔らかいベットで寝るのは何年ぶりだろう
「兎も角今日はそれ食って寝ろ、明日から頼んだぞ」
そう言って出ていった。
「…………温かい」
初めて、優しくされ、初めて作ってもらった料理は、とても美味しくて、それ以上に
とても優しい温もりを感じました
────────────────────────────────
「……すぅ、すぅ」
「…………やっと寝たか」
提督は書類を半分以上まとめ終わると、一度休憩混じりに、雷が寝ている寝室を除くと
雷が、小さな吐息をならしながら寝ていた
それを確認した提督は、こっそりと食器を片付けて、起きないようにゆっくりと扉を閉めた
コンコン
すると、提督室の扉をノックする音が聞こえた。
「入っていいぞ」
「………………」
サイドに纏めた長い髪
内側は紫だが外側は銀の不思議な髪色
青緑色のリボンにストッキングとブーツ
そして一番の特徴なのは、駆逐艦なのに非常に男らしく凛々しい顔立ち
それは雷と同じ駆逐艦の…………たしか夕雲型十六番艦『朝霜』だったか?
しかし、どこかおかしい
朝霜と言えば男勝りなしゃべり方や態度で、戦闘好きだ
駆逐艦ながらもキモも座っていて、度胸もあり
相手が姫だろうが鬼だろうが恐れずに突撃するくらいの度胸と技量の持ち主で、短い生涯だが歴戦の戦士なのだ
こっちが弱みを見せたら「壁にてぇ付きなよっ!」と、ケツバットやらしなやかな脚でビシバシッやられてもおかしくない
「あ、あの提督」
しかし、この朝霜は弱々しい声で自分を呼んだ
「書類、まとめるの大変だろ?だ、だから手伝わせてくれないか…………です」
「そりゃぁ助かる」
やはり『世間』で知られてる朝霜ではない
まぁ当たり前か、艦娘の元は人間だ
性格は人それぞれ、つまりこの朝霜は、男勝りな性格ではなく、おとなしい性格なのだろう
そして、朝霜は手伝うために、俺の座っている机の向かい側にイスを置いて、書類に間違いがないか確認し始めた
~10分後~
「あ、あの、提督」
書類が四分の三程終わると、朝霜が俺に話し掛けてきた
「なんだ」
俺は書類に判を押しながら答える
「膝の上に…………乗って、よろしいでしょうか………」
「…………」
先に言っておくが俺は朝霜と今日初めて会う
つまり初対面なのだ
朝霜も自分で言ってて恥ずかしかったのか、顔を耳まで赤くしながら小さくプルプルと震えている
…………前の提督にもこんな感じだったのか?
「あたいがこうするのは、提督が…………初めて、です…………」
「…………あそ、まぁいいや。座っていいぞ」
「あ、ありがとう………ございます」
そう言って一度書類を起き、イスを元あった場所に戻して、俺の膝に座った
「………………」
すると、急に喋らなくなった
俺は少し不思議に思い話しかけることにした
「おい、どうした?」
「………………」
(…………あれ?無視?)
しかし、返事はいつまでたっても帰ってこなかった
すると
「………えへへ」
顔を赤くしたまま、嬉しそうに笑っていた
(まぁ嬉しそうで何よりか)
しかし、このままではいつまでたっても書類が終わることはない
そう思い、朝霜に仕事を手伝ってくれるようお願いしようとすると
「提督の膝の上、温かいな!」
すると、朝霜は提督の顔を見て、満面の笑みでそう言った
その笑みは、チラチラとギザギザな歯、所謂ギザ歯と言うものが見える
そして、その笑みはさっきまでの弱々しい朝霜ではなく、とても嬉しそうで、元気な笑顔だった
「ずっと座ってて良いからな」
「へへ………」
提督は仕事より朝霜を優先した
提督に、朝霜の頭をくしゃくしゃと強く撫でてやった
朝霜は『やーめーろーよー』ッと、笑いながら手をどかそうと抵抗して入るものの、満更でもない
その姿は、どこか父と娘の父娘に見える
数分後
「……すぅ、すぅ」
「寝ちまったか」
数分朝霜とじゃれてると、朝霜は眠ってしまった
俺は朝霜を起こさないよおに、そっと、近くのソファーに寝かせ、毛布を被せてやった
「やぁーっと仕事ができる…………と言ってももうちょっとあいつとじゃれてたかったなぁ…………」
そう言いながら、俺は山積みになった書類から一枚手に取り、書類内容を見た
『ここの鎮守府の提督が無能すぎんじゃボゲェ!!!!』
んだとゴラ!?!?
そう叫んで書類を地面に叩きつけようとしたが、そこはぐっとこらえた
そうすればやっと寝付いている雷や朝霜が起きてしまう
『戦争反対!!戦争反対!!!!』
「…………」
提督はその書類を見て、その書類をグシャグシャに丸めた後、無言で窓を開けると
「コオオォォォォォ…………
オオオオオォォォォォバアアアァァァァドラアアアアアアァァァァイブ!!!!!!!!」
そう言って提督は窓の外に丸めた書類を投げ捨てた
しかし、朝霜や雷は起きていないようだ。
まったくふざけやがって
なにが戦争反対だ艦娘のために補給や修理のための資材を手に入れる。戦績をもとに交渉するというのは、たしかに提督の仕事のひとつであるが、別に珍しいことじゃねぇ。
それに、そもそもこの戦いは戦争じゃねぇ。こんなのが戦争や訳がねぇんだ。『深海棲艦』という訳のわからねぇ正体不明の敵に、宣戦布告もなく、いきなり全世界的に、一方的に攻撃されている、非常事態であり、異常事態なのだ。
それなのに、戦争反対だの、なにふざけたことぬかしてやがる。
戦争反対?やめられることならやめてぇよ、逃げられるなら逃げてぇよ。誰だってそうだ。だが、それができねぇんだ!
……………………。
提督はそのままポケットからタバコを出し、夕暮れのオレンジ色に染まった空を眺めながらタバコに火をつけた。
「…………艦娘か…………」
そんな小さくこぼした言葉は、タバコの煙のように、消えていった。
────────────────────────────────
分かると思うが、言っておこう、この世界は劣勢に立たされている
提督の数だけでなく、艦娘の数は全く足りていない。文字通り人手不足なのだ。
そのうえさっきもあった戦争反対と言う言葉、それは、深海棲艦との行為を戦争と呼ぶにしては、あまりにも、あまりにも損害が大きすぎた
事実、小さな島国が深海棲艦に占領されたりもしている
そして、もちろんだが、独占された島国の人々は老若男女関係なく皆殺しだ
慈悲なんてありはしない
赤子、女子供だろうと問答無用で皆殺しにされた
…………こう他人事の様に話してはいるが、日本もかなり危険な状況に置かれている
実際一度だけ沖縄が深海棲艦によって陥落仕掛けたことがあった
そこで政府は提督の適性を持つ者、そして艦娘の適性を持つ者も探し始めた
もっとも艦娘の適性は若い女性ならほぼ誰でも持っている為
探すというその事自体は簡単だった
が
問題はその先にあったのだ
深海棲艦という謎の超危険生物
人型、魚型、怪獣型、ようわからん気持ち悪い型、人の言葉を喋る型、その姿は多岐にわたる
が、全てにおいて、確実に共通している事一つだけある
それは
人間に対して敵対関係にある事
しかも一体でも軍艦一隻分の攻撃力、にも関わらず何度も何度も湧いてくる
銃撃、砲撃、雷撃、爆撃、これらを用いてようやく足止め出来る相手に対し唯一太刀打ち出来る存在、それが艦娘
艦娘は、人々の希望であると共に
艦娘と言う名の“化け物”と言う恐怖の対象でもあった
深海棲艦が化け物であるなら、それを殺すことのできる艦娘もまた深海棲艦に並ぶ、化け物
そんな化け物に、誰が望んでなりたいと思うのか
そんな化け物と、誰が戦いたいと思うのか
誰が好き好んで化け物と呼ばれたいか…………
答えは火を見るよりも明らかであった
結局艦娘になったのは
売られた者
捨てられた者
騙された者
諦めた者
そして
人一倍、バカみたいな正義感をもった
偽善者か………………。
それとも憎しみに駆られた
復讐者か………………。
それだけだ
そして、この鎮守府にいる“彼女”もまた、救い用のない
筋金入りの【偽善者】である。
§
彼女は、昔から一人倍正義感が強く、町の市民や家族たちから愛されていた
何時だって彼女は助けを求める人に手を差し伸べた
どんなに苦しいときがあっても、どんなに悲しいことがあっても、どんなに辛いときがあっても
彼女は“皆”の為に笑い続けたました
ある日彼女は【艦娘】になりました
自分が戦えば、大勢の人が助かるから
自分“未来”を捨てれば、大勢の未来が守られるから
彼女は笑いました
彼女は普通の艦娘より、多く戦いました
それこそ休む暇なく
自分一人が頑張れば、一人でも多くの艦娘を休ませることができる
自分一人が傷つこうと、大怪我をしようと、出撃し、深海棲艦を倒せば、一人でも多く守ることができるから
彼女は笑いました
彼女は戦い続けました
大怪我をしようとも
血反吐を吐こうとも
倒れようとも
彼女の足取りは次第にフラフラになり、立っているのがやっとのような状態だった
出撃する度に怪我をする回数も増えていった、しかし、彼女が止まることはなかった
次第に、家族も町の市民たちも、皆が心配した
彼女は支給された高速修復材を、頭からかけて、体におった多くの傷を治した
傷は、みるみると塞がっていき、あっという間にもとどうりになりました
そして、またすぐに彼女は出撃し、また大怪我をして帰って来ました
彼女は笑いました
次第に家族や町の市民は彼女を恐れました
どんなに傷をおっても、どんなにフラフラな足取りでも、どんなに無茶しても
体を自分の血と深海棲艦の血で染めて、笑いながら帰ってくる彼女に
家族は彼女の前で、大きな声でこう言いました
『こんなの私たちの娘じゃない!この娘は狂ってる!狂ってるわ!!狂った化け物よ!』
皆が彼女を指差して石を投げました。
彼女はもう昔のような“人気者”ではありません
皆から見たら、彼女は立派な“化け物”です
彼女は笑いました
皆が彼女を見て『化け物』『狂ってる』『恐ろしい』『悪魔』『気味が悪い』と呼んで恐れます
彼女は笑いました
次第に家族も皆も、彼女を見なくなりました
否、逃げたのです
彼女が恐ろしくなり、皆逃げてしまったのです
彼女は笑いました
彼女には、もう味方も家族もいません。
あるのは孤独
艦娘になる前はあんなに仲が良かった皆が、今では自分に指を指してこう言うのです
『化け物』
彼女は笑いました
しかし、その笑いはいつしか
狂っていました。
心がへし折れ、体は傷付き、文字通り心も体もボロボロのぐちゃぐちゃ
彼女は偽りの笑顔を作りました
彼女はもう“心”のそこから笑えなくなりました
そもそも彼女に
“心”なんて残っているのでしょうか?
そんな、本当の笑顔さえも忘れてしまった彼女は、機嫌よく鼻歌を歌いながら、執務室スキップしながら向かっていた。
まるで恋した男性に会いに行く乙女のような雰囲気だった
しかし、それは彼女以外の艦娘にとっては異状の他なんでもなかった
彼女はこの鎮守府でも一際“厄介”だ。
提督の命令なんて右から左、何を考えているのか誰にも分からない、提督の命令なんてそっちのけ
わかることと言えば、毎日毎日飽きもせず笑っている事だけ
それ以外はなにもかも分からない
そもそも彼女が執務室に向かっている事事態が異状だ
それは、そもそも彼女がこのブラック鎮守府に送られた理由は『命令違反』『命令無視』
暴力こそはしていないが、その命令違反の数々、そんな娘がなぜ執務室に?
答えは簡単だ
半分提督に呼ばれたから
もう半分は、好奇心
ただそれだけだ
もしも、前の提督のような野郎だったら前みたいに無視すれば良いだけの話だ。
そんなことを思いながら執務室をノックした。
『入って構わん』
そうドア越しから聞こえると、彼女はいつものように、無理矢理作った偽りの笑顔で、ブラック鎮守府の艦娘とは思えないほど陽気に満ちた声で挨拶した。
「ヘーイ!金剛デース!!貴方が新しい提督デスカァ?」
それは、
本当の笑顔の意味を忘れた娘、金剛と
この世の理不尽を目にした、提督の
“ある意味”一番最初の出会いだ。
────────────────────────────────
俺が着任してから一日たった。
そろそろ遠征か出撃辺りさせようと思い、雷に駆逐艦を連れてこいとと、“お願い”した。
…………この鎮守府に来てから、俺は朝霜と雷以外駆逐艦を一度も見ていない
そもそも駆逐艦がいるかどうか怪しいくらいだ。
駆逐艦は主に幼女が選ばれることが多い、歳は…………小学生くらいの幼女だろうか?もしかしたら幼稚園児も駆逐艦のなかにはいるかもしれない。
駆逐艦は数が多いが、ここはブラック鎮守府。
ほとんどの駆逐艦は提督の虐待で殺されたり、イタズラに解体されたりして、ほとんど居なくなってしまったのだろう
そもそも居ても来てくれるかどうか定かでわない
そう思いながら、椅子に腰かけた。
「連れてきたわよ、司令官!」
そう思っていたときだった
雷が扉を思いっきり開けて、腕を組ながら仁王立ちをして、ドヤ顔で俺の目の前に立つ
雷の連れてきたのは
紫色の長い髪の毛を、右側に、花と鈴のついたヘアゴムで束ね、上は白とスカートは青のセーラー服を着た少女
そのあとに今度は、長く、黄色い髪を左右にヘアゴムで縛り、真っ黒のセーラー服を着た少女が入ってくる
そしてその後ろに、金髪に白が少し混ざったような紙の色に、血のような紅い瞳をしたセーラー服の少女が入ってきた。
「…………わた、私は……あ、綾波型駆逐艦八番艦、曙………です」
「ぼ、わた、私は…………陸月型駆逐艦五番艦、皐月、で……す」
黄色い髪の少女と、紫色の髪の少女は、俺を見るなり、すぐに敬礼して、緊張しているのか、少し震えながらも、堅苦しくも少し拙く挨拶を…………いや、これは緊張して震えているのではない
恐怖による震えによるものだと察した。
緊張などと、そんな生易しいものではない、体罰など、虐待、他にも道具を使いいたぶったのだろう。
まるで無理矢理教え込まれたような、そんな感じだった。
実際、黄色い髪の少女は、僕と言おうとしたのか、すぐに私に直したが、間違えれば何かあったのか、顔を真っ青にしている
「…………夕立、早くあんたも……じゃないとまた……」
そう言ってその夕立と呼んだ右横に立つ少女を肘でつつく
「あ、…………夕立、改二ぽ………です、よろしくお願いします」
ぽ?
ぽってなんだ?ぽって
やべぇ、滅茶苦茶気になる、てかそもそも幼女に敬語使われるとなんか抵抗あるなぁ。
…………曙と皐月って言ったか?
…………隠しているつもりだろうが、手足のあちらこちらに青白い痣が見えるな………。
悪いが、俺は幼女に敬語を使われて喜ぶような変態じゃないんでな
俺は敬語をやめてもらうよう頼むことにした。
「そうかしこまらなくて良いぞ、俺の事は友達と思ってくれ」
「し、しかし、提督…………私たちは………」
「私たちは化け物ですから………それはできません………」
「「…………」」
ほぉ
夕立と言われていた少女が、皐月と言う少女が言いにくそうにしていると、割り込んで、かわりに夕立がその先を言った。
「…………化け物風情が、人間様に馴れ馴れしく話しかけるのは…………大罪ぽ…………です」
ふむふむ
「化け物なら仕方ないな、てめぇら化け物が人間様にため口なんて、確かに馴れ馴れしい」
「………ッ」
雷が少し俺の顔を見て驚いていた。
俺の発言ではなく、俺の“顔”を見てだ。
「だがそれは、化け物が人間様に対して…………だろ?」
「…………はい」
「嫌味かてめぇ」
「…………ぇ?」
そう言って俺は顔半分を隠しているマフラーをとった。
『ッ!?』
そこには、口の頬の肉を、無理矢理剥ぎ取られたような、右側の歯肉と、鋭い犬歯が剥き出しになっている。
その異形に近い傷跡を見て、夕立や雷たちは、ぶるりと震え、今までに感じたことのないような恐怖を体験した。
…………この先は悪影響か
そう思い、俺はすぐにマフラーで頬の傷跡を隠した。
「大人げなかったな、てめぇらには目に毒だッたか…………すまんな、飯の前に気持ち悪いもん見しちまって」
「そ、そんなことないっぽい!!」
「へぇ、尾語ってぽいなのか」
「…………ぁ……」
そう言うと夕立は、ハッとなり両手で口を押さえ、顔からみるみる血の気が引いていき、顔が真っ青になる。
そして、俺が近づくなり、ぶるぶる震え始める。
「……や、やめ……おねが………」
「おねが、夕立…………にげ……」
隣で一緒に震えている曙と皐月。
夕立を庇おうとしているようだが、恐怖心によるものなのか、体が言うことを聞かないのだろう
その場から動けなくなっている
俺はゆっくり夕立に手を伸ばした。
夕立の目からは涙すら出てきていた。もう声をあげて大泣きする寸前だった。
足も震えて動いてはくれない。
そして俺の手が目の前まで来ると、諦めたのか、ギュッと目を閉じた。
「…………?」
しかし、いつまでたっても襲ってくるはずの痛みが襲ってこない。
そんなことを思っていると、酷く乱暴な手つきで頭を摑まれ、前後左右にがしがしと揺らされた。
夕立はそんなこと初めてされたので、何がなんだか分からなかった。
でも、なぜだか、とても嬉しかった
「てめぇらが化け物なら、俺はどうなる?」
「どう……とは……?」
「てめぇら見てぇな可愛い可愛い女の子が化け物なら、この顔にクソ塗りたくったようなつらした俺はどうなんだよ」
「…………それでも……提督は………」
「アホゥ」
すると、提督は夕立を軽くこずいた。
「いたく、ない……ぽい………」
「てめぇらもだ、曙、皐月」
「いた……くない?」
「えっと……」
たくさん殴られた、毎日毎日殴られて、蹴られて、汚されて、酷いことをたくさんされた、たくさんさくさんされた。
いつしか、人が怖くなった。
自分達を平気で殴る、人が物凄く怖くて怖くて仕方なかった
話し方が気に入らないと言われ、何度も殴られた。
痛くて痛くて痛くて
殴ることは痛いこと、なのに、この人に殴られたのに、痛くない。
痛いはずなのに、全く痛くない。
「たく、口を開けば何を言うかと思えば、化け物だの人間だの言いやがって、じゃぁ“どこからどこまでが化け物”で、“どこからどこまでが人間”だ?」
「………………」
「………………」
「………………」
その言葉に、全員ただ下を見るばかり。
すると、曙が何か覚悟を決めたのか、思いっきり拳を握り締め、速歩きで、俺の目の前まで来ると、
思いっきり俺の頬を殴った。
「グッ…………!」
「「曙ちゃん!?」」
「提督!」
その場の全員が曙の行動に驚いた。
俺は、少女と言えど艦娘。そのまま尻餅をつき、自分より背の小さい曙と同じ目線になる体制になっていた。
殴られたときに、歯肉が傷ついたのか、血が垂れる。
雷は心配して止めに入ろうとしたが、手のひらを雷に見せるようにして腕をつきだし、やめろと合図した。
そして雷はその場で立ち止まった。
「いい加減にしなさい!“あんたら”は何様なのよ!?私たちを化け物化け物化け物化け物って!!私たちが何をしたってのよ!?ただ皆を守ってるだけなのに、苦しんでる人たちを助けてるだけなのに、何で化け物なんて言われなきゃなんないのよ!?」
「曙、落ち着い「うるさい!!」……ッ」
曙は、止めようとした皐月の手を振り払い、そのまま俺の首根っこを両手で掴んだ。
その曙の顔は、怒りと、後悔、そして悲しみの顔をしていた。
両目からは大きな雫をボロボロと溢し、俺を何かの仇を見るような目で見ていた。
その目は、俺を絞め殺してやろうと言わんばかりの目だった。
「なんなのよあんたらは!?口の聞き方が悪いだの態度が悪いからって言う勝手な理由で散々私たちの仲間を解体しといて、今度はまた言葉遣いを変えろって、私たちにどうしろってのよ!?あんたらはどうして欲しいのよ!?土下座して靴を舐めろっての!?夜の相手でもすればいいの!?それとも私たちに惨たらしく死ねとでも言うの!?ねぇ!!どうなのよ!?何で!たかが、たかが言葉遣いや態度で私たちが殺されなきゃならないのよ!?!?」
曙はそう言いながら、俺の胸を殴った、何度も何度も殴った。
痛くはない、全く力が入っていないから。
それでも痛かった、胸が締め付けられて、とても痛かった。
まるで茨(いばら)のツルで心臓をしめつけられる、そんな気分だった。
「何で、何で私たちがこんな目に遭わなきゃいけないの…………!」
「…………全くもってその通りだ」
「…………は?」
「お前の言っていることに何も間違いはない、それどころか全くもって正しいことだ」
「は?…………ぇ?」
なんだ?俺の発言がそんなにおかしいか?
皐月も夕立もなにポカンとしている?話はここからだぞ?
………………雷は雷でなに笑ってんだよ…………。
「お前らは人を守った、人を救った、“誰か”のために戦った!化け物?ふざけんな!!化け物だと!?それは俺たち人間だ!この理不尽を作り出した強者である大人だ!!何よりただ見ていることしかできない俺たち提督だ!!」
その言葉に、曙は黙って見ていることしかできない。もっと、もっと言ってやりたいことがたくさんあったのに、今では頭の中が真っ白だ。
すると、提督は自分の首根っこを掴んでいる曙の手首を掴んだ。
「俺が憎いだろ?提督と言う存在が憎いだろ?お前の仲間を奪った提督が憎いだろ?この世の理不尽が憎いだろ!?何より、お前は、目の前で“なにもできなかった自分”が一番憎いはずだ!!」
いつの間にか、提督の目の奥になにか、なにかに怒る、炎のようなものが見えた。
怒り、その言葉は彼、提督の為にあるのだろう。
それを断言できるような光景が、今正にこの四人の目に写っていた。
分かった風に言うな!!
と、腹の底から曙は言いたかったのだろう。
しかし、それは、その言葉は口に出す前に、腹のなかで消えてしまった。
当たり前だ。
彼のその声も、顔も、目も、全てが怒りに染まり、何よりその痛みを知っている、私たちの気持ちが分かる、そんな気がした。
「一つ聞こう」
「…………なによ」
「今でもお前の仲間を奪った“提督達”が憎いか?」
「憎いに、憎いに決まってるでしょ!!」
少女は叫ぶ。
「殺してぇか?」
「殺したいに決まってるでしょ!」
少女は叫ぶ。
「仲間の仇をとりたいか!?」
「当たり前よ!!」
少女は叫ぶ。
しかし、少女は知っている。
“少女達”は知っている。
この世の理不尽に、いくら叫ぼうと、いくら抵抗しようと、弱者が助けを求めても、強者に声が届くことはない。
「ならその憎しみを捨てんな。忘れんな。そして、そんな憎い相手にいちいち敬語なんて使うな、顔色窺うな、我慢なんてしてんじゃねぇ」
「うっさい、うっさい!うっさい!!」
「泣きてぇなら泣け!悔しいなら悔しがれ!嫌なら嫌って言え!言葉遣いくらい自分の好きにしろ!曙!てめぇは血も涙もない化け物か!?皐月!夕立!お前らもだ!」
男は叫んだ!
弱者に向け叫んだ!
「そんなもん俺は認めねぇ!化け物?ふざけんな!!」
男は吠えた!
か弱き弱者を見て吠えた!
これは男の怒りだ!
「そんな怯えた目をした!助けを求める目をした!てめぇらが!化け物なんて、世間が、国が、世界が、全ての人間が、お前らを化け物と言っても、俺は絶対にてめぇらを化け物何て言わねぇ!真っ向から否定してやる!“てめぇらは人間”だって、ハッキリ言ってやる!!」
男は弱者を助けるヒーローと言うには、とても化け物じみている。
何せ、男はヒーローなどではない。
彼は、このブラック鎮守府の提督なのだから。
「だから、俺を信じて、これからよろしく頼むぜ、曙、皐月、夕立、あと雷」
「えー、私はおまけ?司令官、て言うか物凄く臭い台詞ですね」
「うっせぇ………って曙、お前の顔すごいことになってるぞ?。それに夕立と皐月までどうした?」
弱者の声は強者には届かなかった
どれだけ弱者が叫んでも、この世の理不尽が変わることはなかった
弱者は強者に従う。それがこの世の理、それが全てなのだ
それ以下でもそれ以上でもない
それに、守ってくれる唯一の家族も、仲間も、全て強者に奪われた
だから諦めたはずなのに、皮肉にも、自分達弱者をそうさせた強者が、ようもぬけぬけと言うのだ。
「……………そんな小せぇ体で、そんな弱い心で、よくここまで頑張ったな」
私たちを化け物と呼び、迫害し、傷つけ、私たちの全てを奪った強者がこう言うのだ。
もう分からない、なにもかも分からない。
私たちは何を信じれば良いのか、何を頼ればいいのか
もう分からない
私たち三人は、もう訳もわからかいまま、泣き続けた。何で泣いてるのかも分からない、だけど泣いた
そんな私たちを見たクソ提督が、私たち三人を抱き締めた。
今まで感じたことのない感覚だった
なぜか暖かくて、気持ちよくて、物凄く嬉しかった
そのまま、私たちは目を閉じた。
────────────────────────────────
「そう言えば瑞鶴知らねぇ?」
俺は、三人を寝室のベットで寝かせた。
それにしても曙に皐月に夕立、これまた面白い組み合わせだと言いたいが、噂じゃぁ口の聞き方や、態度、他にも気に入らないことをすれば、“そいつ以外”の姉妹を全員解体処分にしたんだって?前の前の前の提督
いい趣味してんなぁ、まぁもちろん死刑になったが
………………こいつらは本当に“解体”の意味って知ってんのか?…………見た感じ知らないみたいだが………………知っても知らなくても結果は同じか…………
「あれ?司令官、瑞鶴さんのこと知ってるの?」
「あぁ、さっきお前が居ないあいだに資料を見てな…………特にあの瑞鶴、あれはまるで…………まぁいい」
「…………なにかようでもあるんですか?」
「今度の出撃に、この三人と、あと空母が必要でな、戦艦の方はそろそろ来るはずなんだが…………」
それを言うと、やけに驚いている雷がいた。
さっきまで笑っていたはずの雷は、急に笑顔がなくなっていた。
それは無表情に近く、俺は驚いて変な声が出そうになった。
「ど、どうかしたのか?」
「い、いえ、それより戦艦て、まさか金剛さんのことですか?」
「そうだけど…………てかこの鎮守府金剛以外居ねぇだろ。朝霜も言ってたぜ?」
「………………はぁ?」
「え?ほんとどうしたの?」
俺の発言てそんなに可笑しかったか?ぁ、やめて、その嘘つき者を見る目、なんか地味に俺の壊れたハートがさらに粉々にされる
すると、雷は呆れたように溜め息を吐いてから俺を見た
「いいですか司令官?あの娘はですね、物凄く危ない娘で、実際に前の前の司令官が「提督ー!」…………ふみぃう?」
扉を開けて入ってきたのは、朝霜だった。
朝霜は迷うことなく俺の腹に突っ込んで来て、そのまま抱きついた
そんな朝霜を見た雷は、あの芸能人の池崎さん顔負けの変顔をしていた
そして我に帰ったのか、今ある状況にツッコム
「ちょ、あんた本当に朝霜!?」
「…………あたいが朝霜じゃなかったらなんなのさ?」
「で、でも可笑しいわよ!あの朝霜が、こんな…………」
「うるさいぞ雷、あの三人が起きる」
「あ、はい」
雷は今だ混乱しているのか、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
朝霜は相変わらず俺の腹に顔をうずくめる。でも、確かに可笑しいな。
どうやって
ブラック鎮守府の艦娘がこんな平和ボケできるんだ?
ここはブラック鎮守府、普通の鎮守府の艦娘ならまだしも、ブラック鎮守府の艦娘がこんな元気なのは異状だ。
気になったので、聞いてみることにした。
「朝霜、お前なんか「提督!」…………なんだ?」
「そんな“くだらない”こと聞くためにあたいを呼んだのかよ~?」
「…………あぁ、確かに“くだらない”ことだったな」
その言葉を境に、俺は朝霜の過去のことを一切気にならなくなった
と言うか気にしたくもなかった
「金剛見なかったか?」
「ん?金剛ならもうすぐくるぜ!」
「は!?“あの金剛”が!?」
「…………てめぇら金剛のことどうとらえてんだよ?」
俺は、このブラック鎮守府に着任して一日しかたっていないが、雷の様子が明らかに可笑しい
俺の知っている金剛と言えば、物凄く変な日本語を使い、元気を艦娘にしたような、例えるなら太陽みたいな娘だと記憶している
俺は確実に様子が可笑しい雷の反応に、金剛と言う娘への好奇心に似た感情が刺激された。
そう思っていた矢先
「ヘーイ!金剛デース!!貴方が新しい提督デスカァ?」
………………こりゃぁ確かに雷も驚くな。
どんな地獄を見れば、あんな“笑顔”作れんだろうなぁ?
俺はそう思いながら、よくわからん変なポーズをとっている金剛を見た。
────────────────────────────────
「いったいどうなってるの?あの朝霜がなぜか司令官になついてるし、金剛さんが司令官の命令に従うなんて。まさか明日は雪?それとも隕石でも降ってくるのかしら?いや、そもそも何で金剛さんが司令官の………………」ブツブツブツブツ
なんか雷が壊れた
「お前が金剛か…………まずその変な作り笑いやめろ」
「バァニングゥゥゥゥラァァァァァブ!!」
「人の話聞けや」
…………この艦娘はどこか可笑しい
まぁこのブラック鎮守府の艦娘は大抵可笑しいのだが、この娘はなにか違う、ここの艦娘たちとはなにかが、全く別のなにかが違う
彼女の長く茶色い髪は、誰が見ても細かく手入れされた、美しくサラリと歩くごとに茶髪の髪が靡く
彼女の自己アピールはまるでどこかのアニメの主人公かヒロインのような、キラキラした性格を第一印象にさせ
その笑顔は、誰が見ても無邪気に笑う子供のように、心の底から笑う、そんな感じがする
初対面の者が見れば、とても美しく、元気で明るい、太陽のような美少女と言う第一印象が近いだろう
彼女はまるで、人形劇に出てくる操り人形の主人公のように
そう、彼、提督から見れば、魂や感情のない人形に無理矢理“魂”だけを入れたような、そんな感じだ
故に、提督からしてみれば、金剛の笑顔は一切の感情がない、人形の顔に描かれた絵のような笑顔のように不気味だった
そんな笑顔のまま彼女は走って俺に抱きついてきた
彼女の整った、また幼さを少し残したような可愛らしい顔立ちが眼と鼻の先だった
髪の毛や体からは、どことなく良い香りが漂い、この臭いはまるで紅茶のように甘い香りがした
「さて、お前を呼んだのは他でもない、明日出撃してもらう」
「あれ?無反応デスカ?」
「別に抱きつかれ減るもんでもねぇ…………あぁ、あとその無理矢理作った、絵に書いたような笑顔やめろ、見てるこっちが気分悪い」
「…………面白くないですネ、もう少し反応してくれても良いじゃないデスカ~!」
そう言ってつまらなそうに俺から離れた
やはり分からん、こいつの感情が
まるで色のない絵に、無理矢理色を塗ったような、どこか無理矢理作ったような感情が、こいつの得たいの知れないドス黒い感情が
「にしても提督ゥー!初対面の女性の顔見て気分が悪いなんて最低ネー!」
「事実てめぇの笑顔に一切の喜びも感じないが?」
「…………それでなんのようデスカー?」
金剛は話を急にそらした
この先は触れない方が良さそうだ
さっき俺がこいつの笑顔のことで一言いったとき、本当に、本当に一瞬だったが、こいつの笑みが消えていた
あのよく分からない表情、なんと言えば良いかすら分からないような表情
やはりこいつはいったい何を見てきた?
心の底からそう思った
しかし、知ったところでどうにもならないだろうと、そのまま俺もその話題に触れないことにした
「簡単だ、明日…………いや、今日、お前を旗艦とした皐月、曙、そして雷と出撃してほしい」
「私!?私はてっきり…………」
雷は驚いたようにブツブツまた言っている
まぁそれもそうか、雷を出撃させるなんて一言もこいつには言ってなかったから
俺は、そんな雷を見て、雷の頭に義手の手を乗せ、そのまま撫でた
「悪いな、頼りにできるのがお前しか居ないんだ」
「!」
それを聞いた雷は急に顔を赤くして、急に下をうつむいてしまった
「仕方ないわね!私に任せて!」
すると今度は満面の笑みでそう言った
心なしか頬が紅いのは気のせいだろう
「それで私たちはどうすれば良いんデスカ?」
「ん?あぁ、曙たちを直ちに起こして、………この近くだとたしか…………よし、この鎮守府付近の海域の哨戒行動に出撃してくれ」
「了解デース!」
「もうとっくに起きてるわよ」
「いつの間に!?」
擦ると、俺の真後ろに曙、夕立、皐月、そして朝霜が立っていた
「あ、あたいが起こしたんだ…………ダメだったか?」
そう言えばさっきっから居ないと思った曙たちを起こしにいっていたのか
そう思いながら、朝霜を見ていると、六人全員が、提督室を出ていき、勢いよく扉が閉まり、提督室には俺一人が残った
────────────────────────────────
「フゥーー………」
俺は、両足を机の上に組んだまま乗せ、そのまま俺はタバコを吸う
俺は、タバコを口にくわえたまま、一つの資料と、クリップで止められた写真を見る
それは“一航戦 ”【瑞鶴改二】の写真と資料だった
俺の知る限りでは、瑞鶴は五航戦のはずだ
確かに加賀や赤城の後に瑞鶴は一航戦になっているが、あくまでそれは“歴史”の話であって、艦娘では五航戦のはずだ
しかも、瑞鶴と言えばツインテールの髪型が、瑞鶴はサードテイルと、雰囲気も凛々しさが感じられる
まるで『五航戦 瑞鶴』を見ているのではなく、『一航戦 加賀』を見ている気分になってくる
問題はそこだけではない
瑞鶴はこのブラック鎮守府でいつも単独出撃をしているらしく、しかも鬼クラスを倒せはしなかったものの、撃退まで追い詰めた実力派の艦娘だ
………………しかし、俺が気になるのはそこではない
この娘の……………いや、やめておこう
俺は写真で見ても所詮これは写真
実物を見ない限り俺の不振に思う点は解決されない
そう思いながら、吸い終わったタバコの吸い殻を灰皿に入れ、もう一本タバコを吸おうと、口にくわえ、ライターで火を付けようとすると
「一本までは見逃しますが、さすがに仕事中にタバコニ本は見逃せませんね」
「………………」
フリーズ
俺は、驚き声もでなくなった
俺からタバコをひょいと奪い、そのままゴミ箱に捨ててしまった俺の目の前にいる娘
それは、他の多くの空母系艦娘と同様の弓道着に加え、振り袖の巫女服をミックスし たような出で立ちの娘
灰色のような色をした髪、ロングヘアーの上側をポニーテールの様に結い上げている
見た感じ、軽空母勢の中では頭身が低めであり、服の隙間からは、華奢な腕が見え、貧乳慎ましやかな胸元、腹筋のかけらも見当たらないイカ腹、くびれのないウエストという完全な幼児体型であることから、ひときわ幼げな印象を受けるような体
彼女は、祥鳳型軽空母 瑞鳳改二だ
しかしここで三つの疑問
一つは、この娘、瑞鳳の資料はなかったはずだ
まぁここはブラック鎮守府だから艦娘の一人や二人くらい資料が無くても当たり前だ
と、一つめの疑問は消える
二つめどうやってこの提督室に入ってきた?
もっと言えばいつから見ていた?
俺の記憶が正しければ、提督室の扉が開いた記憶はないし、見た覚えもない
タバコだって瑞鳳の前で吸った覚えなんて全くないわけだ
なのに、瑞鳳は俺がタバコをすでに一本吸っていることは知っている
灰皿は一応隠して置いてあるし、窓も開いていて、タバコの臭いもしないはず
三つめ、これが一番の謎
なぜか全身深海棲艦の血で染まっている
顔にはもちろん、服にも、足にも、髪の毛にも、ドロリとしたねっとりとした、赤や緑の液体で瑞鳳の体は染まり、少し鼻につくような、鉄分の臭いもする
「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」
俺は驚いて、そのまま椅子から頭から落ち、頭を床にぶつけ、視界が逆さまになるも、深海棲艦の血で染まった瑞鳳を確認する
すると、瑞鳳は一歩一歩ゆっくりと俺に近づいてくる
「大丈夫ですか?」
「…………それは俺の台詞だ、て言うか女の子がそんな格好でうろちゃろすんな、入渠してこい」
俺は、扉の向こうを指差し、入渠するように言った
「?あぁ、あの露天風呂みたいなところ?あそこのお湯は止められてて…………」
確かに入渠のお湯は止められてて、風呂場?はお湯がすっからかんになっている
「昨日俺が再契約して入れてもらった、入ってこい」
「本当ですか?」
実際昨日、俺が元帥のもとにいって再契約した
書類が本当にめんどくさいことばかりだったが、それも終わって、もう入渠はもはや露天風呂になっているだろう
深海棲艦の血で染まった瑞鳳は、少し疑ったような表情をしていたが
「て言うか怖くないの?」
「てめぇよりも汗くさいBL本買ってる中年男性の方が千倍怖い」
「それは素直に喜んで良いの?」
瑞鳳は腕を組んで首をかしげた
「それより早く入渠してこい」
「…………それじゃァ提督も一緒に入ろ」
「何をどうしたら『じゃァ』なんだよ」
「さ、行こー!」
「おいまてや」
艦娘は艤装をつけていなくとも、その力は大人二人分の力があり、俺は抵抗しても無駄に終わり、そのまま、入渠まで連れていかれた
§
「瑞鶴ですか?瑞鶴ならいつも弓道場にいますよ」
「そうか」
俺は抵抗するのも面倒になり、一緒に俺も入渠することになった
入渠は普通の人間にも入れて、普通の温泉よりも肌の美容や予防にもよく、疲れもとれて、とてもいいと聞く
正直めちゃくちゃ入りたかった
すると、俺も瑞鳳も服を脱ぎ終わり、瑞鳳は体にタオルを巻き、俺は腰にタオルを巻いた
「うわー、これが入渠なんですか?」
「俺も始めてみた」
俺たちは扉を開けると、そこには広い広い露天風呂のような光景が広がる
奥には大きな、温泉で見るような浴槽に、なみなみとお湯が入り、左右には小さな浴槽がいくつも並んでいた
瑞鳳は始めてみる光景に女を光らせる、まるで純粋な少女のように
しかし、それはあり得ない
このブラック鎮守府に
純粋な少女がいるなんてあり得ない
さっきっから瑞鳳と一緒にいたが、全身深海棲艦の血で染まっていることを抜けば、ずっと提督である俺に殺意もなにもぶつけてこない、それどころかこのように俺を風呂につれていく始末
朝霜、あいつは俺になついてはいたが、少し俺に警戒心を抱いていた
他にも雷、あいつは大分俺のことを信用しているようだが、まだ少し俺への警戒心は解かれていない
金剛、あいつは例外
金剛の笑顔の中には殺意を乗せたものもあった
それに比べて瑞鳳
こいつはさっきっから心のそこから笑って嬉しそうにしている
俺への殺意や警戒心など一切感じないほどに俺への敵対心が感じられない
まるで平和ボケした艦娘だ
とてもこのブラック鎮守府の艦娘とは思えない、と言うかあり得ない
「にしてもすごいですね、提督の傷…………よく生きてられますね」
「自分でもビックリだよ」
俺の体の傷、それは腹に十回以上刺され、縫われた跡や、殴られ青紫になったた痣、切り裂かれた跡、裂けた左頬、失われた右目、拳銃で撃たれた傷跡、両手の義手、右足の義足、その他もろもろと
と言うかさっきっから俺のこの傷の数を見れば普通は悲鳴をあげて叫ぶなり、その場からすぐに逃げるなりするだろ
“普通の平和ボケした娘”なら
………………やはりこの娘はなにかが可笑しい
「提督、提督!」
「今度はどうした」
「お風呂ってこんなに大きいんですか?」
何を聞いてくるかと思えば、“そんなこと”か…………
「あれは普通のでかさじゃねぇよ、一般家庭にある風呂は左右にあるあれと同じ大きさだ」
そうして俺は、左右に設置されている入渠に指差した
瑞鳳は、「へーそうなんですか」と、頷きながらまじまじと見た
「と言うかお前もすごいよな……その傷」
「ん?あぁ、これですか?実はレ級を殺すときに半分持ってかれそうになっちゃいましてねぇ、あとちょっとで殺せたんですけど、やっぱり半分も持ってかれるのはちょっと…………ほら、私たち入渠できませんでしたし」
そこには、瑞鳳の横腹に、明らかになにかに食い千切られそうになった傷跡
それは話す限りレ級との戦闘時につけられた傷だろう
そうして俺たちは奥の大浴場に入った
「「ハアァァァァーーー、気持ちいいーー」」
俺と瑞鳳は、お湯に肩まで浸かると、息ぴったりにそう言った
そうして少しの間、お湯に浸っていると、俺は何故瑞鳳が深海棲艦の血で体全体が染まっているか気になった
「なぁ」
「はい?」
「なんであんなに血だらけだったんだよ」
そうすると、瑞鳳は少しの間俺の質問に考えてから、こんな質問を俺に投げ掛けてきた
「なんで“そんなこと”聞くんですか?」
質問を質問で返すな…………とは言えんものだな
その時の瑞鳳の顔は、まるで分からないことを知りたがる子供のような眼をしていた
その時、お湯で温まっていた体に、ゾッと悪寒が走り、温かった体は一気に冷え、ぶるりと体が震えた
あぁ、そう言うことか
俺は、このモヤモヤした違和感、何故このブラック鎮守府でこんなに笑っていられるのか
なんでこんなに生き生きとしているのか
なんでこんなに無邪気なのか
ここで起こっている【虐待】【陵辱】【苦痛】【悲劇】【絶望】【暴力】が
彼女にとって
“普通”なんだ
「提督は不思議ですね、“普通なら”皆あんな私を見ると怪物だの化け物だの言うのに、提督は怖がらないどころか、心配までしてる」
「まだ青臭い娘を心配してなにか可笑しいか?」
「はい」
瑞鳳は今だ笑いながらそう即答した
「皆さん提督は私たちのことを“人でなし”と思っているみたいでして、私なんかよく性欲処理に使われましたよ~、初めてなんてバイ○ですし。バ○ブですよバイ○!」
「わかったわかった、女の子がそんなはしたない言葉を使うんじゃありません」
「よくサンドバックにもされましたねぇ、しかもいくら作戦が成功しても罵倒の嵐ですよ、それや血だらけで帰ったら銃で撃たれるんですもん」
さっきっから普通に語っているが、それら全て本当にあった惨たらしい瑞鳳の悲劇の数々
瑞鳳だけではない
きっとここの鎮守府の皆がそうなのだろう
「そう言えば、前に改二になったとき、処女が治ってたんですよ。他にも身体中の傷も、良かったら提督の性欲、処理してあげましょうか?今らなら私の二度目の初めて奪えますよー?」
「それはまた今度にする」
「そうですか…………じゃァ提督のその傷はどうしたんですか?」
今度は瑞鳳が俺の体の傷のことについて質問してきた
「話せば長くなるぞ」
「体の傷跡治るの遅いみたいですし、ちょうどいい暇潰しになりますよ」
「あっそ」
俺もずっとここで静かに座ってるのは退屈だし、俺は少し自分の過去を語ることにした
────────────────────────────────
このブラック鎮守府には、筋金入りの【偽善者】が居るように
このブラック鎮守府にいる彼女は、その瞳に写る全てが憎くて憎くて仕方がない、筋金入りの
【復讐者】だ
§
少女はごく普通の家庭に産まれ、ごく普通に家族の愛を注がれて育った
ただ、その“ごく普通”の家族は、少女を嫌い、“ごく普通”の愛が、愛と言う名の暴力だったということ
少女は弱かった
少女はいつも一人だった
家にも入れてもらえず、家に入れてもらっても、ただ殴られたり、蹴られたり、八つ当たりや理不尽な暴力を受けたりの繰り返し
少女は何故こんなに自分が弱いのか、“自分の弱さ”を憎みました
そんな少女がいつものように、ごみ捨て場や、路地裏で小さく座っている時だった
スーツ姿の男たちが、『国のために戦わないか?』と誘ってきました
どうせ帰っても殴られるのが目に見えている
それに、もしかしたら強くなれると、そう思った
少女はそう思いながら、はいと、返事を返した
そうして男たちは、少女を海軍につれて行 き、“艦娘”に改造しました
それが少女の“悲劇”の始まりです
少女は憎かった
少女は艦娘になって一番最初に目にしたのは、弓道場だった
少女は空母型の艦娘として改造されたので、まず弓使えるようになる必要があった
しかし、少女はもともと弓道の筋がよかったのか、すぐに弓が使えるようになり、そこそこ弓道も上手くなった
少女は演習や、出撃の練習でもとてもいい成績だった為、すぐに出撃することとなった
初の実戦でも少女は大活躍、元帥も一目おいていた程の艦娘だった
そしてそのまま少女は勢いで前線で戦う主力艦隊の一人となった
そして少女は、ある女性とであってしまった
そしてその女性が、少女の運命の歯車が大きく動き出した
────────────────────────────────
「へー、正に恩を仇で返されたんですね」
「仕方ねぇだろ、あいつらなにも知らなかった訳だし、お陰さまで真実を知ってんのは一部の憲兵と提督、あと元帥」
俺は自分の過去を全て話した
俺の過去の話が終わる頃には、瑞鳳の傷も治り、俺も瑞鳳も体を拭いて、服を着た
瑞鳳は予め俺が用意した、新しい服を用意しておいた
「これ、少しサイズ大きくないですか?」
「マジ?」
「見てわかりません?」
俺は服を着て、後ろを振り向くと、血だらけだった服と同じ柄の服を用意したは良いが!サイズが全く違う
完全にブカブカな為、肩がさらけ出され、手のひらも裾から出ていない、胸のサラシも丸見えになっている
「あー、すまん」
「まぁ服を血で汚したのは私ですから、私の自業自得ってことですので文句は言いませんよ」
「ほんとごめんね?」
「いいですって。あ、それと弓道場案内しますね、ついてきてください」
「わかった」
そう言って瑞鳳はブカブカな服のまま提督を連れて弓道場に向かった
その後ろを提督は、瑞鳳のさらけ出された肌を少しチラチラと見ながらついていく
(やべぇ、一部の肌だけ出してるのが妙にえろい)
§
弓道場
海軍は鎮守府に一つ、弓道場を作っている
その理由は、空母の弓道を上手くなるための練習場であり、そもそも弓道ができなければ戦闘機を発艦させることができない
そもそも空母は、駆逐艦、戦艦、軽巡洋艦、重巡洋艦のように、砲がない為、その代わりに戦闘機を飛ばすことができるが、主に空母は、前線で戦う戦艦や駆逐艦たちのサポートが主な役割
前線で戦うには、砲もなく、接近戦で戦うにはとても不向き
その代わり、遠くから戦闘機を発艦させて、魚雷で敵を倒したり、艦載機を飛ばし、敵艦を見つけ、先手をうてる
つまり、空母は出撃では必要不可欠な存在なのだ
そして、少女もまた空母
しかも弓道の腕は一流と言えるだろう、何せ、十本の矢を撃ち、その内の十本を全てど真ん中に当てるほどの実力
それもそのはず
何せ、少女は一日のほとんど全てを弓道場し、居ないのは単独で出撃するときか、食事をするときだ
何故彼女が弓を引くのか、何故いつも弓道場にいるのか、これ以上何を上手くなるのか
それは誰にも分からないし、分かりたくもない
そして少女は、今日も弓を引く
──────………ダメだ………
──────加賀さんなら………
──────加賀さんならもっとうまく…………
そう言って少女は瞼を閉じ、視界を無くす
そして静かな空間が広がる
鳥が鳴き、林が風に揺れ、葉が中を飛び、草が揺れ、波の音が響く
すると、タァン、と音が響く
気づけば矢は的のど真ん中にビンッ、と突き刺さっている
しかし、少女は浮かない顔をしている
まるで的が外れたような、とても残念そうな、なにか物足りない、そんな気持ちなのだろう
「お見事、ずいぶんと様になってるな」
そんな思い空気のなか、一人の男の声が響いた
少女は気づいていたかのように、構えていた矢を下ろし、その鋭い眼光で男を睨む
どうやら睨み付けて失せろとでも言いたかったのだろう
しかし、少女は男を見て驚くこととなる
「でも、その髪型は似合わないな」
「ッ!?!?」
少女は目をぱちくりとさせる
少女の目にはどう写ったかは知らない
でも、少女の目から男は
「加賀さん!!」
そう見えたのだろう
いや、正確には姿形、それだけではない
言葉で表せないような、雰囲気?それとも目付きか?分からない、本当に自分でも分からなかった
しかし、それでも一航戦 加賀型 正規空母【加賀】の姿が重なった
────────────────────────────────
少女はある女性に決闘を挑んだ
結果、少女は完敗
何故少女は女性に決闘を挑んだか、それは空母の中でも最強と謳われていた女性だったからだ
何より、その弓を撃っているときの姿が、今まで見た何よりも
美しかった
だが態度はとても酷い
上から目線で偉そうで、えむぶいぴーをとっても誉めてもらえず、嫌味ばかり
弓の引き方や、撃ち方にもケチをつける
少女と女性は物凄くなかが悪かった
少女は女性に勝ちたくて勝ちたくて、夜も努力した、寝る時間すら惜しんで努力した
本当は女性に勝ちたいから努力しているわけではないのに
少女の努力は報われ、とうとう一度だけ女性に勝つことができた
少女は喜びに満たされた、そして女性の悔しそうな顔を見ようと、渾身の決め台詞を言いながら、女性を見た
しかし、女性はどうだろう?
“笑っていた”
それはそれは嬉しそうに
負けたにもかかわらず、少女より何十倍も、何百倍もうれしそうに、女性は笑っていた
女性は滅多に笑わないし、泣かない
それどころか感情を一切顔に表さないような、言わば鉄仮面とでも言えばいいのか、不器用とでも言えばいいのか、なんと言えばいいのか…………
しかし、そんな不器用な女性は笑っていた
そうすると、女性はそのまま立ち去ってしまった
そして次の日の出撃で
女性は少女を庇い沈んでしまった
少女は弱かった