「悪いな、俺は加賀じゃねぇ」
「ッ!…………」
瑞鶴は俺の声を聞いてハッとした
きっと名前を間違えたんだね
ほらようあるだろ?先生を間違えてお母さんて呼んじゃうのと同じあれだろ?
いやーまさかお母さんじゃなくて艦娘と間違えられるとは
俺ってそんな美男か?
…………ですめばどれだけ楽かねぇ
「…………単刀直入に言う。単独出撃をやめろ」
「…………」
無視
俺の言葉には一切反応しないどころか、すぐに的の方に体を向け、またやを引き始めた
…………綺麗だねぇ
その矢を引くときと瑞鶴はとても美しかった
本当にこれでは一航戦 加賀をみてる気分になってくる
昔、それはそれは強い、海軍の主力と言われた“加賀”が居ると聞いて少しだけ見に行ったことがあるが、その時見た加賀の姿そっくりだ
すると、タァンと音がなり、気づけば瑞鶴に見惚れていて矢は既に的のど真ん中に突き刺さっていた
すると、瑞鶴が弓を下ろしてから俺の方にゆっくりと振り向いた
「で、何でしたっけ?話は聞くけど、その前にここ片付けるの手伝ってくれる?」
「あ、はい」
そう言って俺は弓道場の床を雑巾がけをし、瑞鶴は慣れた手付きで雑草をむしり、的に刺さった矢を纏め、弓の糸を外し、まとめてから、弓矢を片付けた
今思えばこの鎮守府全体に比べ、この弓道場だけはとても綺麗だ
たぶんいつも瑞鶴一人でここを手入れしているのだろう
「いつもなら瑞鳳と一緒にやるんだけど、瑞鳳は今日は来なかったわね」
と、そんなことを呟いていた
そう言えば瑞鳳はやることがあると言って途中でどこかへ行ってしまった
すると、弓矢を片付けると、ゆっくりと俺に近づいてきた
「で?あんたも私を使ってどうするき?名誉挽回?出世?金?それとも性欲処理?」
「全部違います」
瑞鶴がさらっとえげつないことを平気で口にする
俺はそれを聞いてすぐに否定すると、瑞鶴は笑いながら「冗談よ冗談」と、ふざけた口ぶりでそう言う
「もしもさっきのどれかを選んだら、的の代わりにするけど」
「じょ、冗談だよな?」
あ、これ眼がマジだ
本気と書いてマジの眼だ
「それで?私を使ってどうするき?」
「…………そうだな、強いて言えば単独出撃をやめてほしい」
「嫌よ、私は強くならなきゃ。他のやつらが居たら邪魔で強くなるどこか、鈍る」
「加賀が沈んだ時のようにか?」
「…………えぇそうよ、仲間意識なんて………そんな人間みたいな情は必要ない。私は“加賀さんより強い一航戦”になるためにも…………」
「期待外れだ」
その時提督が放った一言に、瑞鶴は凍りついた
「さっきっから聞いていれば、お前はウソつきなのだな」
この提督の言葉に瑞鶴は言い返そうとするが、言い返すことができない
何故なら、自分は加賀の話になった時からずっと嘘をついている
その自覚があった
「…………それで?なんで私がウソつき呼ばわりされなきゃいけないわけ?私とあんたはさっき会ったばかり、そんな相手にいちいち本音なんて言ってられわけないでしょ?」
そう言って瑞鶴はどこかに行ってしまった
「………なにやってんだ俺は…………」
自分でも呆れ返りそうだ
本当はこんなこと言いに来たんじゃないだろう、全く、折角瑞鳳がここに連れてきてくれたと言うのに
「提督?さっき瑞鶴が提督を置いてどこかに行こうとしてたので捕まえてきました」
「ワーオ」
すると、瑞鶴が出ていった方向から、瑞鳳が瑞鶴を気絶させたままかついで来た
相変わらずニコニコしているが、瑞鶴はよだれを滴ながら白目を向いて気絶している
俺は改めて瑞鳳に恐怖を覚えた
「それで、提督と瑞鶴さんは何を話していたか聞きたいところですけど、悪いニュースです提督」
「なんだ」
「誰かがこの鎮守府を深海棲艦に教えたみたいです」
その言葉の意味
つまり、深海棲艦はすぐにでもこの鎮守府を攻撃しに来るだろう
ヤバイ、鎮守府近くの海には
「先程出撃した艦娘たちが危険です」
その時の瑞鳳は笑ってはいなかった
§
少女は本当は勝ちたかった訳ではない、ただ、ただ、
「ただ私は、認めてほしかった」
「褒めてほしかった」
「貴方と共に戦いたかった」
「貴方は私の
憧れだから」
鉄屑風情がそんなことを思うのは、高望みだったのか、瑞鶴は泣きじゃくった
憧れの女性、加賀は最後に自分にこう言い残した
「強くなったわね、“一航戦 瑞鶴”」
私は、歴史では加賀さんの後に一航戦になったらしい、だから、私は加賀さんのような一航戦になりたかった
五航戦なんて嫌だった
憧れの加賀のように、一航戦になりたかった、一航戦になって認めてほしかった
でも、こんなのって…………なんで、なんで
私は、貴方を尊敬していたのに、憧れていたのに、加賀さんは私よりずっと強いのに
私は泣くのをやめた
私は加賀さんに一航戦だと認められたんだ
だから、『一航戦の誇り』を受け継ぐ者として、もっと、もっと強くならなきゃ
そうして、瑞鶴は海に浮かぶ加賀が髪を結んでいた紐を手に取り、自分の両方に結ばれていた髪を程いて、自分の髪を加賀の髪型そっくりに結んだ
瑞鶴はその後、毎日のように出撃した
加賀のぶんまで戦い、加賀が護ろうとした者を、鎮守府を、提督を艦娘を、自分が変わりに………………
しかし、その思いはある“言葉”でカキ消された
§
「…………瑞鳳、あんたいきなり何すんのよ」
瑞鶴は瑞鳳に殴られた腹を押さえながら立ち上がる
瑞鶴は「許さないわよ」と言いながら睨み付けるが、その睨み付けた先にいたのは珍しく静かに怒りに満ち満ちていた瑞鳳だった
基本笑っているが、出撃時は一変して悪鬼羅刹のごとく深海棲艦を殺す
その姿はいつも笑っている瑞鳳からは想像できない
しかし、一番恐ろしいのは、心の底から怒った瑞鳳だ
瑞鳳は一度キレると何をするかはわからない
その瑞鳳から漏れ出している殺気を感じただけで瑞鶴は冷や汗が止まらない
姫クラスと殺り合ったとき、あれは死にかけたが、あの恐怖とは比べ物にならないくらい恐ろしい
「出撃準備をしてください」
「どうしたのよ」
「誰かがこの鎮守府の場所を教えました、このままでは先程出撃した金剛さんたちが危険です」
別におかしなことではない
この鎮守府はそのうちそうなることは分かっていた
ここの艦娘を恨む提督なんて何十人も居る
そんなことを思いながら、呆れた様子で回りを見渡すと、提督が居ないことに気がついた
あぁ、どうせ逃げたのだろうと思いながら、そんな分かりきった疑問を、瑞鳳に聞いた
「提督は逃げたの?」
「その事を教えたら走って行ってしまいました」
「やっぱ逃げ………」
「爆弾バズーカ接着弾片手に金剛さんたちの助けに」
「ハァ!?!?」
瑞鶴はその言葉に驚愕した
今まで艦娘を囮だのにしていた提督は何人も見てきたが、艦娘を助ける為に提督自ら助けにいくような命知らずは初めてだった
自分はいつの間にか走り出していた
出撃準備を即済ませ、気づけば自分は海の上を駆け抜けていた
「待ってください」
「ッ!…………なに?」
「お守りを忘れてます」
「…………ありがとう」
それは、必勝と書かれたお守りだった
いつの間にか真後ろにいた瑞鳳がらそのお守りを受け取り、瑞鶴はお守りを首につけた
自分でもわからない
こんなのは初めてだった
…………いや、これで二度目か……。
なぜ自分があの提督を助けようとして居るのか、自分に何度問いかけても答えは帰ってこなかった、“あの時”のように
§
「ハァ、ハァ…………!」
金剛は今、立っていることすらやっとの状態だ
両手には今だ意識不明の駆逐艦の皐月と夕立が抱えられ、つい先程朝霜と雷、そして曙を逃がして助けを呼びにいくよう頼んだ
今金剛が逃げている相手は姫級クラスの深海棲艦
他の深海棲艦とら比べ物にならないくらい位ヤバイ相手、それを一部隊、しかもほとんどが駆逐艦の部隊に倒せるはずもなく、皐月と夕立は敵の砲撃が直撃、金剛は大破した状態で今も逃げている
海を浮くための艤装はほぼ機能しているのが不思議なくらいボロボロに破壊され、いつ自分が沈んでも可笑しくない状態
別に死ぬのが怖いわけではない
ただ、悔しいのだ
今金剛が抱えている、こんなに小さな子供たちが、こんな辛いめにあうのが、それを見ていることしかできない自分が
考えてみれば可笑しな話だ
なぜ鎮守府に迷い無くまっすぐと向かっていけるのか、なぜこの姫級クラス深海棲艦こと、戦艦棲姫がこんなところに居るのか
戦艦棲姫
他の姫級深海棲艦の例に漏れず、女性を象った人間体型。ただし、戦艦棲姫は今までの深海棲艦とは異なり、本体と艤装がそれぞれ独立しているのだ
実際は本体のうなじから伸びた太いコードで艤装の首の部分に繋がれているのだが、主従のように二体で一組と言った方がしっくりくるだろう
また、それに伴い従来の人型深海棲艦に比べてより人間らしク、見た目としては非常に長い黒髪と肩紐を首の後ろで縛ったネグリジェのような黒いワンピースを身に着けているのが特徴である
他の深海棲艦と同様に瞳は真紅であり、その額には鬼のように一対の角が生えており、胸元にも4本の小さな黒い角が生えている
巨人のような艤装部分はまさに猛獣さながらの意匠をしており、例えるならば軽巡ト級を戦艦クラスまで凶暴化させたような雰囲気である
そもそも、深海棲艦は、鬼級や、姫級クラスになると、どういうわけか人形が圧倒的に多い
それどころか、人の言葉を理解し、それを話す深海棲艦は多く存在する
それどころか、他の深海棲艦に比べて、“感情”が大きく現れている
特にその怨念と怒りは全ての艦娘や、人間を皆殺しにしてやると言わんばかりに
「…………ここまでデスカ」
せめて、せめてこの子達だけでも
そう思った矢先、敵が金剛めがけて砲撃する
なぜか金剛の目からは砲撃され、自分に向かってくる弾が、ゆっくりに見えた
そして金剛はもう諦めたかの、ゆっくりと目を閉じた
そして最後にこう願った
次くらいは、私を
そう思った刹那、敵の弾は爆発し、その爆音と爆風で海を揺らし、黒い煙が視界を奪った
“自分ではない何か”にぶつかり
「…………ナゼ、ニンゲンガ………ココニイル………」
「てい、とく…………?」
そこには、船の乗った提督
片方の義手が提督からはずれ、ガシャンと音を立てながら船の床に落ち、提督の腹には敵の弾の破片が突き刺さり、血で船の床に水溜まりができていた
「…………ろ……」
すると、提督は血返吐を吐きながらも、金剛になにかを伝えようと必死に口を動かすも、血返吐が喉につまり、声は愚か、呼吸すら絶え絶えしい
金剛は急いで提督の傷の手当てにと、皐月たちを背負いながら提督のもとに向かおうとすると…………
「逃げろ!!!!」
血返吐を大量に吐きながらも、大きな声で金剛に言った
その言葉に、金剛は回りを見る
皐月と夕立は意識不明の状態で、自分は立っているのもやっとで、艤装もほとんどの破壊されている状態
金剛も今の状況を見て、提督がなぜここに来たのか、そしてなぜ身を呈して護ったのか
そして何より、今自分がとるべき行動を誤るほどバカでもない
金剛はすぐに敵に背を向け、即座に鎮守府の方に向かう
しかし、目の前にいる深海棲艦が、「ハイそうですか」と、金剛たちを逃がしてくるる訳もなく、逃げる金剛たちに向けて砲を向けた
そして、いざ砲撃しようとしたその瞬間だった
自分の顔に、“何か”がへばりつき、視界が黒一色になり、目の前のもの全てが見えなくなってしまった
これには深海棲艦も驚き、すぐに自分についている“何か”を引き剥がそうとするが、引き剥がそうとした手が、顔にくっついて剥がれない
仕方なく深海棲艦はそのまま砲撃したが、視界が見えない状態で砲撃したところで、逃げている金剛に当たるわけもなく、どこか別の方向に砲撃をし、もちろん弾は外れる
提督はバズーカで撃ったのは粘着弾と言い、強力な粘着力で相手の動きを封じる弾だが、提督があえて目を狙ったのは、多少の“時間稼ぎ”になるからだ
そもそも提督はこの戦艦棲姫を殺しに来たわけではない
そもそも艦娘の艤装や砲なしでは勝てない
人間の作った攻撃的な兵器では深海棲艦にダメージを与えることはできない
ならなば何しに来たか?
答えはかーんたん
金剛達を守りに来たのだ
今提督の持っているバズーカの弾も、爆弾も、全て殺傷ようではなく、時間稼ぎのために持ってこられたもの
姫級のクラス自分がたかが人間に侮っているのか?この自分が!?
と戦艦棲機はふつふつとこれまで感じた以上の怒りが込み上げてきた
許すまじ人間
許すまじ、と
戦艦棲姫の視界は晴れ、目の前にいる人間を脳内に焼き付けた
そして砲を提督に向けて撃とうとしたその直後、目の前に何かが飛んできたと思うと、それは短く「バンッ」と鳴ると、視界が真っ暗になった
いや、これは目に激痛すら走る
あまりの急なことに、戦艦棲姫は自分の意思ではなく、体が勝手に体を丸めた
自分でも意味がわからず、暗闇の中、視界が消え、そして目に走るこれまで感じたことのない激痛
自分の体には何も当たっていない
敵の爆撃ならばすぐに体の“外側”が痛いはずなのに、さっきのは目の“中から”激痛が走った
そしてその痛みを理解するときには、怒りと痛みの断末魔の混じった声で叫ぶ
そしていったい自分はこの人間に何をされたのか、この人間は自分に何をしたのか
皮肉にも自分が貧弱でもっとも憎む人間に聞くことになる
「キサマ、私ニナニヲシタァ!?!?」
しかし、返答は帰ってこない
そして、戦艦棲姫は怒りに任せ、砲を四方八方に撃ちまくる
しかしいくら撃っても、砲の弾がぶつかったような音は聞こえず
聞こえるのは撃った弾が海に沈む音だけだった
この時提督は新たな弾の準備をしていた
つい先程投げたのは、対テロ用の爆弾であるコンカッショングレネードと呼ばれる光の爆弾
これが爆発すれば、相手は少しの間視界が奪われてしまう
しかし、これはあくまで人間よう
先程投げたコンカッショングレネードは、通常の約50倍にも性能を上げた物
人間にこんなものを使えばまず間違いなく失明するだろう
しかし相手は深海棲艦、しかも姫級クラスのメチャクチャヤバイ化け物
失明はしなかったが、もって30秒
提督には一秒だって時間が遅れればそこでケームオーバーだ
そして提督は再びバズーカに接着弾を込めると、戦艦棲姫の目を狙う
そして戦艦棲姫の視界が戻り、提督に気がつくと、物凄い殺気を飛ばしてくる
常人ならば失神が良いところだろう
(ヤベェ、チビりそう)
そうして引き金を引いた刹那、
この戦いにまぬかれざる客が乱入することとなる
§
一方その頃、瑞鳳と瑞鶴は、金剛と一度合流すると、金剛に瑞鳳が提督からもしもの時にもらった高速修復材をぶっかけて傷を直してから、再び提督を追った
「金剛のこと、送らなくてよかったの?」
「金剛さんには悪いと思ってますが、相手は姫クラスですよ?人間の提督が奇跡が起きたとしても5分‥‥‥いえ、1分が良いところでしょう」
1分
瑞鳳の言うとおり、人間が姫クラスという、深海棲艦の最上位クラスの化け物に出くわして1分も人間としての形を保っていられるかすら怪しいところだ
そんな考えの中、黒く立ち上る一筋の煙
その下には何かの瓦礫と、それに火がついているのが見える
恐らく‥‥‥いや、確実に提督の乗った船の瓦礫だろう
瑞鳳と瑞鶴はそれを確認すると、スピードを上げて、一秒でも早く提督の元へ向かう
数分後、煙が見えてからだいぶ近づいてくると、提督らしき人影が見える
そして、その近くには深海棲艦と思われる人影
「あんたは‥‥‥レ級!!」
瑞鶴の叫び声にも似た声に。、レ級は瑞鶴たちの存在に気づく
「ン?アララ、思っタヨリクルノガ早いねぇ。残念残念、また会えたらアオウゼ、提督様よぉ‥‥‥‥今度は邪魔がハイラナイトコロデ」
そう言ってレ級は海へ戻って行った
「あんた‥‥やっぱりあんたがここの鎮守府を深海棲艦に‥‥‥‥!」
すると瑞鶴は矢を提督に向ける
しかし、それを瑞鳳が止め、瑞鶴の矢を提督から下に向けさせた
「瑞鳳、あんたこいつの味方するつもり?こいつは深海棲艦に私達を‥‥‥」
「待ってください。提督の様子が‥‥‥」
その言葉に、瑞鶴は提督を見る
よく見ると提督はさっきっから全く動いていないどころか、一言だって返事をしない
燃え盛る船の上で、一歩も動かず、ただそこに立っていた
すると
「瑞鶴、瑞鳳か?」
「「!?!?」」
その姿に二人は驚愕した
白かったはずの提督服は、提督自らの紅い血で染まり、船の瓦礫や、敵の砲弾の破片と思われる物がいくつか刺さり、片腕の義手は壊れ、腹が少し、何か巨大な口を持った化け物に食い千切られた可能に‥‥‥‥‥
次の瞬間、提督はまるで、糸が切れた糸人形のうに、ドシャリと、血で濡れた肉が船の床に力なく倒れた
見ていただいでありがとうございます!
次回もやるので見てください感想待ってまーす
小説家になろうの方も見てね!
次回もお楽しみに