ガーリーエアフォース ~3本線の傭兵~ 作:Eagle3718
遅れてさーせん。
6月20日火曜日。小松基地へ異動してから5日目を迎えた。
グリペン…いや、アニマがザイの部品から作られていると聞いた民間協力者である鳴谷 慧が来なくなって2日経つ。八代通は
「まあ、グリペンの手紙でも見てお涙頂戴で出てくるかも知れんな」
と、言っていた。何故そんなことが解るのか、気にはなったが聞く程の事でもないため詳しくは知らない。
今現在はザイの来襲に備えてアラート待機中である。アラート待機中にも報酬は支払われるため、おとなしく待機中である。今のところザイの来襲も無く平穏な日々が続いてる。
「あー、ザイに対抗するためにZCFが欲しいっス〜…」
「予算が〜とか言って配備はないだろう。…せめて対Gスーツの性能が上がってくれればなぁ」
「確かにな。そういえばI.A.F.Eにはかなり性能のいい対Gスーツがあるそうだがどんなもんなんだ?トリガー」
窓の向こうの空をぼんやりと見上げていたら、そう話を振られた。
「…俺が使っているモデルだと平均して約11Gまで耐えられる。その分購入費、メンテナンス費用が高い」
「そいつはすげぇが、費用が上がるってなるとさすがに無理か。他のモデルだとどうだ?」
「他のは…」
と、アラートが鳴り響く。続けてザイが接近中との報告が入った。
「クソッ、マジかよ!グリペンは!」
「明日に備えて調整中だそうっス!てか、トリガーさん走るのはえぇ!?」
「急ぐぞ!」
全力で走り、駐機中の向かう。たどり着けば既にタラップが取り付けられ、各種センサー用のカバーが外されている。
タラップを駆け登りシートに収まる。飛ばせる物は飛ばし機体チェックを行いつつヘルメットを被りマスクを着ける。エンジンスタート、ミサイルセーフティピンが外されているのを確認しタキシングをする。
<<こちら小松管制塔、民間機が一機上空で待機中だ。滑走路に入ったら即座に上がってくれ>>
<<こちらSTRIDER1了解した>>
管制塔から指示が入り、滑走路に進入。フラップDON。ブレーキをかけ、スロットルをMILへ。ブレーキリリース。2発のWWX-GD-401エンジンが雄叫びを上げ機体が加速する。離陸速度になったところで機首を上げ、離陸。ギアUP、フラップUP。機体を傾けて高度を取りつつ進路をザイのいる空域へ向ける。
<<こちら小松管制塔、迎撃に上がった各機へつぐ。方位320 高度5000小型の制空型のザイが一機。5分後に哨戒中のアルファ隊が交戦にはいる。各機急行せよ!>>
こちらが現在ザイのいる空域に着くまで約20分。だが、はあちらがその空域にとどまる道理もないため実際には10分ほどで交戦距離に入るだろう。現れたザイの数は一機と少ないが2分とかからず全滅するのはほぼ確実だからだ。
高度6000mで水平飛行に移りスーパークルーズで空域へ向かった。
<<こちらAWAXS、迎撃隊に告げる。アルファ隊は全滅した。生存者は現在確認出来ず>>
<<おいおい、1分とかかってないぞ!>>
<<それだけザイがやばいってことっスかね!?>>
<<そういうことだろうさ。各機警戒しろ!>>
早すぎる、とひとりごちる。自衛隊のパイロット練度で考えれば全滅は避けられずとも、ザイ一機相手なら2分はもつ。……一機では無いとしたら?ふと、そう考える。他の自衛隊機よりも突出している今ならば確認は容易か。
もう間もなく予想接敵ポイントに入る。レーダーを確認してみれば光点が一つ。
<<こちらSTRIDER1レーダーコンタクト。方位320。エネミーヘッドオン>>
スロットルをA/Bに入れ加速していく。直後、ロックオンされブザーが鳴り響く。数瞬後にミサイルアラート。完全なる真正面、回避機動を取らずまっすぐに突っ込む。
<<?!トリガーさん!なんで回避しないんっスか?!>>
<<気でも狂ったか?!>>
機銃を0.5秒だけ撃つ。直後に爆炎が目の前に広がり、それをバレルロールで回避。270°回転した所でザイとすれ違う。ハイGで反転するように見せかけて一瞬-Gを掛け僅かに軌道をずらす。すぐ横を下から機銃弾が跳んでゆき、もう一機のザイとすれ違う。
<<ザイがもう一機いたのか?!>>
<<なんで?レーダーには映ってなかったっスよ?!>>
<<恐らく海面ギリギリを飛んで来たんだろうよ!もう一機がこっちに来るぞ。全機攻撃せよ!FOX3! FOX3! >>
無線で最初にすれ違ったザイと自衛隊が交戦距離に入ったことを知る。俺が機首を下に向けると同時にロックオンアラートが鳴る。A/Bを焚きダイブ。後ろを見れば、ザイのミサイルが機体を離れ白い軌跡を描きながら迫ってきたところだった。
A/Bカット。エアブレーキを開き僅かに減速させ、機首上げ。海面ギリギリで機体が水平になったところで操縦桿を戻し一瞬水平飛行に移る。ミサイルはこちらを追いかけようとするも、曲がりきれず海面に突っ込む。ミサイルとともに追ってきたザイは前方上100mあたりで左旋回に入ろうとしていたところだった、が
<<インガンレンジ、ファイア>>
機首をあげザイのほんの少し先に機首を向け、トリガーを引く。機首のGiL30mm機関砲から鉛弾が吐き出されザイの機体を砕く。ガラス片のようなキラキラとした破片と黒々とした煙を吐き出しながら落ち、海面にオレンジの光と波紋をつくり沈黙する。
<<スプラッシュ1。これよりブラボー隊の援護に向かう>>
Side out
Side ブラボー隊隊長
<<かわされたか……>>
<<まったく、とんでもない機動性とEPCMっスねぇ>>
<<確かになぁ。どうする、隊長>>
我々が放ったミサイルはすべてザイの持つHiMATとEPCMによってかわされている。HiMATとEPCMを持つザイとの巴戦等の近接戦闘は御法度と言っていい。必然的に取れる戦法は一つしかない。
<<全機、一撃離脱を徹底しろ!編隊を崩さずミサイルに狙われたらチャフとフレアをありったけ使え!出し惜しみはするな!>>
<<了解っス!>>
<<まあ、そうだろうな。了解!>>
<<了解、ッ!ミサイルアラート!>>
<<全機ブレイク!ブレイク!>>
合図と共に全機がチャフとフレアを放出しブレイクする。が、ミサイルはそれらに惑わされることなく4番機へ吸い込まれていく。
<<振り切れぇぇ!!>>
<<うぉおおお!!>>ガッ
ぶつり。と無線が沈黙し空にオレンジ色の炎が生まれ、灰色の破片と黒煙を残した。
<<ッ!おい、応答しろ4番!おいっ!>>
<<この野郎ォォォ!!>>
パラシュートが確認出来ず、4番機からの応答が無いことから機体諸共バラバラになったであろうことを知る。頭に血が上ったのか3番機がザイへ突貫していく。ザイに接近しすぎるなという命令を忘れて。
<<バカヤロウ!ザイとの接近戦は法度だぞ!>>
<<ッ!しまっ!>>
近づきすぎたことを思い出したように反転しザイから離れようとするが、すでにザイは3番機の後ろについていた。3番機も落とされる。そう考えた時だった。
<<左にブレイクしろ>>
<<?!っ!>>
この緊迫した戦場に不似合いなほど冷静な声が無線から響く。3番機がそれに合わせて左へブレイクした直後、ほんの僅か後ろをザイから放たれた弾丸が通過していく。
<<なっ……!>>
<<えっ……?!>>
驚愕。それしかなかった。落とされると思った3番機が生きてる。それはトリガーの指示に従ったからか、それとも…。
<<FOX2>>
トリガーの機体から放たれたミサイルが3番機に張り付いていたザイを引き剥がす。ミサイルを振り切ろうとHiMATを使うが、待っていたと言わんばかりに機関砲弾が命中。機動が鈍った所で振り切ろうとしたミサイルがザイを砕き、戦闘が終わる。
<<…こちら小松管制塔、ザイの全機撃墜を確認した。三沢からファントムが上がってきていたが必要なかったようだな>>
<<その様だな>>
シミュレータでやった時もそうだった。トリガーがいない時はザイとの戦闘で全滅してばかりだったが、トリガーが参加した時は多数が生き残ったり、全機帰還出来る時もあった。そのときは所詮シミュレータ、実戦とは違うと思っていた。が、こうもまざまざと見せつけられてはあの噂も信じてしまう。
<<あの整備員達が話してた噂、本当みたいっスね…>>
<<あの噂?>>
<<ほら、トリガーさんの機体の整備をしてたI.A.F.Eの整備員の人達が言ってたヤツっスよ>>
<<あぁ"トリガーについて行けば生き残れる"ってヤツか>>
<<そっス。でも、トリガーさんについていくの苦労しそうっスね>>
<<しそうじゃなくて、する。間違いなくな>>
<<隊長…?>>
<<トリガー、最近美味いラーメン屋を見つけたんだ。後で食べに行かないか?お前たちも来い、俺の奢りだ>>
<<…了解した>>
<<まじっスか!やった!>>
<<出来ることなら4番機も一緒に行きたかったな…>>
<<……勝手…殺すん……ねぇ>>
<<んなっ!お前生きてたのか!どこだ!どこにー>>
<<あっ、いた!真下にいたっス!こちらブラボー3。管制塔、救援ヘリを要請するっス>>
<<こちら小松管制塔、こちらでもガイドビーコンの信号をキャッチした。あと30分ほどで救援ヘリが到着するはずだ。それまでもてるか?>>
<<…どーにか……急いでく…る…たす……>>
ホッとした、死んだかと思っていた部下が生きているその事実に。高度を落として、救命ボートの周りを旋回すれば、こちらに手を振る人影を見る。
<<管制塔、このまま周囲の警戒のために残ろうと思うが構わないか?>>
<<こちらこそそう頼もうとしていたところだ。ビーコンの信号が途切れ途切れにしか受信出来ないところからビーコン自体が損傷している可能性がある。このままだと見失う可能性が高いからな>>
<<了解、聞こえたな野郎共>>
<<了解です>>
<<了解っス>>
3機で編隊を組み、周回飛行を始める。もう一機は少し上方に位置し、同じ様に周回飛行をする。
救援のヘリが来るまでの長いようで短い30分ほどをスクランブル前に話していた話をしたり、俺が見つけたラーメン屋の話しをしたりして潰す。
<<トリガーについて行けば生き残れる…か…>>
きっとその通りで、その言葉も長く戦場に居たからこそ生まれたのだろう。トリガーが歩んだ半生。全く気にならないわけじゃないが、なんとなくトリガーが話す気になるまで待ってみようと思う。その方がこの無口なパイロットの強さの理由を知れる様な気がするから。
次はもうちょっと早く出せると思う。