「それでは授業を始める」
昼休みまでに何とかクラス全員との挨拶を済ませ、最後の授業。
教科は烏間先生担当の体育で、皆ジャージを着て外に出ている。
ん?そういえば何で殺せんせーではないんだ?
という疑問が浮かんだので近くにいた竹林に聞いてみると、殺せんせーの授業だと視覚分身を基本技術として要求されるとのこと。そりゃ烏丸先生にチェンジだわ。納得。
「先ずはナイフの素振りだ」
...というわけで、このE組の体育は、基本的に暗殺技術向上のための体術等の訓練を行うらしい。ナイフを八方向から正しく振るう訓練。ナイフ術の基礎の部分で、これを反復する。
1、2、3、4、と、掛け声にあわせてナイフを振るう。できるだけ鋭く、真っ直ぐに。正直体力には自信が無いが、基本を覚える作業は得意な方だ。
しばらくして、烏間先生との模擬戦闘が始まった。ペアを組んでもいいらしいが、俺は初めてなので実力を見ておきたいとのことで、1対1の試合となった。
「制限時間は3分。その間にナイフを当てれば勝ちだ」
なるほど。解りやすい。
「了解です。戦い方は自己流で構いませんか?」
ああ、との了承の言葉をもらえたので何人かからナイフを借りて2本取り出す。両方とも逆手に持ち、左足を前に出す。体を横に向け、姿勢を低くする。
――――
葵を見ていた前原が呟く。
「なんだあの構え...」
その言葉につられて何人かが葵の方へ視線を向けるが、集中しているようで葵の反応は無い。
「恐らく独学ですねぇ。それにしても無駄の無い、洗練されたスタイルです」
皆が振り向くと、殺せんせーがニヤニヤしながら続ける。
「アレは格闘術でよく使われる構え方です。例えばブルース・リーのジークンドー、漫画で言えば範馬刃牙の構え方に似ていますねぇ」
生徒達が殺せんせーの話を聞いていると葵が動き出す。
「シッ!!」
左手のナイフを振り抜く。烏間先生は体を逸らすことで避けるが、それを見越していた様に左手を引っ込めながら右手のナイフを下から上に振る。
が、それも後ろに少し下がることでそれを回避。
葵の慣れた動きに生徒から感心の声が上がるが殺せんせーがたしなめる。
「まだ藤原君の攻撃は終わっていませんよ?」
その言葉の瞬間、ナイフを上げきった葵が右足を前に出し、そのまま上げたナイフを烏間先生の胸に突き出す。
烏間先生はその手を払うことで躱す。
が、その次の瞬間大きく跳んで葵から距離をとった。
どうしてあんなに大きく下がったんだ...?そんな疑問は倉橋の言葉で氷解した。
「あっ!!あーちゃんの左手!」
皆が葵の左手に注目する。
「右手の攻撃に注目させている間に左手のナイフを持ち替える。マジックで使われるミスディレクションと同じ原理です...って聞いていますか皆さん!!」
殺せんせーの解説が入るが、模擬戦闘に見入っているようで誰も聞いていなかった。
――――
右手での攻撃はフェイク。それに注目させておいて左手のナイフを逆手から順手に持ち替えて攻撃。最悪掠るくらいはいけると思ったんだけれども...
「なかなか良い攻撃だったが、まだ甘い。もっとターゲットの動きを予測して動くように」
あんなに余裕を持って回避されるとは...自信がなくなってくる。
「じゃあちょいと反則臭いですが....ソラァッ!!」
持っていた2本のナイフを投げる。烏間先生は2本とも余裕の表情で避けきる。
「闇雲に投げただけでは当たらんぞ。相手の意表を....ッ!!」
ジャージのポケットから先程借りておいた残りのナイフを取り出す。今あるナイフの本数は10本。2本は出さずに残りの8本を投げつける。同時に。
広範囲に広がるナイフを烏間先生は大きく横に飛ぶことで回避。だがその行動は流石に読める。着地点にナイフを1本投げるが、指でナイフの刃を挟むことで止められる。
近付いて最後のナイフで攻撃を仕掛けようとするが、殺せんせーに止められる。
「3分経過です。残念ながら、烏間先生の勝ちですねぇ」
ニヤニヤしながら言うので、最後のナイフを殺せんせーに向けて投げるが、やっぱり余裕で躱された。畜生。
皆のところに戻ると、男子共に囲まれて質問攻めにあった。なんでそんな慣れた動きなのかだとか、動きの参考にした人とかいるのだとか。
あーはいはい、ピースピース、と適当に相手をしていると、後ろから触手で肩を叩かれる。
なんですかと返すと、
「藤原君は後で話があるので放課後残ってくださいね」
と言われた。嫌な予感がする。帰りたいなぁ...
戦闘描写って難しい。
あと葵は真剣白刃取りで当てたというのは納得いかないので殺せんせーが烏間先生の勝ちを宣言したことに納得しています。