下校のチャイムも鳴り、生徒達がそれぞれ帰路に着く時間帯。帰っていく皆と別れ、一人職員室へ歩いて行く。
「殺せんせー、言われたとおり着ましたよっと」
失礼しますと一言。椅子に座ってなにかを書いていた黄色いタコがこちらに気づく。
「ああ、藤原君。これからテストを行うので、一回教室に行きましょう」
…え?テスト?
思ってもみなかった言葉に、戸惑いの声が思わず出てしまう。
「ええ。藤原君の学力の把握をしておくためです。残って貰うのは申し訳ありませんが」
だそうだ。まあこっちもいきなりE組に来たわけだし、そのくらいのことで怒ってもしょうがないだろう。ということで、気にしないように殺せんせーに伝えて、せんせーの後について教室に向かう。
「それにしても藤原君。今日は初めての暗殺教室でしたが、クラスの皆さんとは打ち解けられましたか?」
と、移動中に殺せんせーが聞いてくる。いやー、と頭を掻きながら返す。
「まあ、幼馴染や知り合いがいたことで多少は打ち解けられましたが、まだあまり話せていない人もいて...クラスに馴染むのにはまだ時間がかかりそうです」
ハハハーと苦笑いをして答えると、殺せんせーは顔に○の模様を浮かび上がらせながら微笑む。
「初日にしては上出来でしょう。まだ君の暗殺教室は始まったばかりです、ゆっくりと、君のペースで馴染んでいってください...っと。つきましたね。ではテストを始めるので席についてください」
はーい、と返事をして席に着くと、殺せんせーから一つ目のテストが配られる。って最初から英語か...苦手だ....
「や、やっと終わった...」
空もすっかり赤に染まった頃、教室内に俺の疲れきった声が響く。だって休憩一教科につき5分だよ!?流石に疲れるって...
「お疲れ様です、藤原君。採点はしておくので、結果が知りたければ明日にでも先生に尋ねてくれば教えますが...」
「ああ、それは大丈夫です。まだ転校してきたばかりですし、自分の学力程度なら把握しているので」
本当はテストのミスを見ると若干憂鬱な気分になるから面倒くさい、というのが理由なのだが。
それから軽く殺せんせーと話してから帰らされた。殺せんせーから「もう外も暗くなるので先生が送りましょうか?」と聞いてきたが丁重にお断りしておく。嫌な予感がしたからな。こういうときの予感は大体当たる。たぶん送って貰わないのは正解だろう。
「では殺せんせー、また明日」
はい、また明日。と返して軽く手を振るせんせーを尻目に教室から出る。そういえばまだ俺って転校初日なのに色々と面倒くさい目に遭ってばかりじゃないかな...家帰ったら寝よ....
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「ふむ...学力は高い方だと言ってもいいですが....」
葵が帰った後。殺せんせーは職員室で葵の受けたテストの採点をしていた。点数は中々に高く、普通に転入していればA組あたりには入れるだろうということがわかる。だが――――
(間違っている問題に暗記必須のものが多い。恐らく記憶することが苦手なのでしょう。しかしこれは...)
今殺せんせーの目の前にあるテストの科目は数学。点数、の文字の上に100という数字が赤で大きく書かれている。その解答欄は全て計算式で埋め尽くされ、殺せんせーがこっそり混ぜておいた高校生向けの問題も既存の知識のみで考えたのであろうテスト用紙の裏まで続く計算式の後、正しい答えが導かれている。
「恐らく頭がよく切れるのでしょう。これからの彼の暗殺が楽しみですねぇ....」
殺せんせーがそうつぶやいた瞬間。職員室に強い風が吹いた。その風が収まる頃には、もう職員室はもぬけの殻に...
「にゅやっ!...いけません、消灯をし忘れていました」
...今度こそ、暗くなった職員室には誰もいなくなっていた。