その辺を歩いていた令嬢を監禁してみた   作:るら

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御令嬢のお目覚め

 

 

 

 ジリリリ、とけたたましく鳴る目覚まし時計を止めると、俺はベッドから起き上がった。時計を見ると、針は朝7時を指していた。一瞬だけ仕事に遅れる、と焦ったが、よくよく考えると今日は土曜日、休日だった。

 

 薄給だが、週休2日という今時ありえないほどのホワイトさがウリの職場に感謝しながら寝巻を脱ぎ、ぱりっとしたシャツに身を包んだ。休日だからと言って、俺は遅く起きて生活リズムを崩すことはしない。そうしなければ襲撃の時に女の子の力を抑え込むための健やかな体を保つことはできない。その辺りは、監禁のプロとしての意識がついつい働いてしまうのである。

 

「……よく寝られたかな?」

 

 朝一番に必ず確認するのは、貴賓室の様子である。起きていれば朝食を用意しておくし、起きていなかったら静かに開けて冷めてもいい朝食―シリアルなどを置いておく。

 

 貴賓室のベッドには誰も居らず、毛布もめくれあがっていた。どうやらすでに起きているらしい。俺は台所で2人分のベーコンエッグとトーストを用意すると、雪音のいる貴賓室へ足を向けた。

 

「……あれ」

 

 ドアを開けて入ってみて、異変に気付いた。ベッドの上には雪音はいなかった。それは前もって知っていたのだが、この部屋のどこにもいないのだ。さては風呂に入っているのかと貴賓室に隣接しているユニットバスの部屋をのぞくが、そこにも誰もいなかった。

 

……まさか、逃げられた?」

 

 そんな馬鹿な。昨日ピザを渡した後もちゃんと鍵は閉めておいたはずなのに。そしてこの地下室から出られるのはあのドア以外にない。どうやって逃げたのか。

 

 俺がそう思ってあたふたし始めた丁度そのとき、衣擦れの音がベッドの向こうから聞こえてきた。慌ててそちらへ回ると、雪音はベッドからずり落ち、床の上で寝息を立てていた。ベッドの影になっていたので、入って来た時に見えなかったのだろう。

 

(ベッドで寝たことないのかね……)

 

 俺は呆れながら、雪音の身体を抱えてベッドに戻した。元々彼女の体温が低いからか、床で雑魚寝していたからか彼女の身体はひんやりとしていて、心地よい冷気を手のひらに残していった。

 

「……ん……んんっ」

 

 どうやらベッドに戻した拍子に目が覚めたらしい。雪音は声を漏らすと、ゆっくりとまぶたを開けた。俺が昨日ピザと一緒に渡しておいた白いパジャマは少し彼女の肩幅に比べて大きすぎたらしく、パジャマがずれて滑らかな鎖骨が露わになっていた。

 

 しかし頭ははっきりとしていないらしく、雪音は寝ぼけまなこのまま、むにゃむにゃと何かを呟いていた。

 

「お父様……今日は体調が悪いので学校を休ませていただいても……」

 

「体調が良くても今日は学校に行かせるつもりはないけどな」

 

 俺が答えると、雪音はようやく自分のいる場所と状況を思い出したらしく、はっと目をみはった。

 

「そうだった。 今は学校に行かなくてもいいんだった」

 

 それ以前に家の心配とか、俺に何かされなかったか不安がるとか、取るべきリアクションは他にもあるのではないだろうか。そう思いながらも黙ってトーストとベーコンエッグの載った皿をベッドの傍にある机に置いた。

 

 すると雪音は何を思ったのか、ズボンとパンツをずらしてその中を見ると、意外そうな顔をして俺の方に顔を向けた。

 

「私が寝てる間に犯らなかったの?」

 

「ああ」

 

 そう答えると、雪音は満足げに頷いた。

 

「そうよね。普通は相手が寝てる間に襲ったりしないよね。あなた、噂にきく紳士でしょ。美味しいご飯出してくれるし、学校に行かなくてもいいって言ってくれるなんて」

 

 彼女の紳士の定義は間違っていたが、それにつっこむ気にもなれない。

 

「……というか普通はって……前に寝てる間にそんなことが?」

 

 俺がそう言うと、雪音はええ、と答えて、

 

「……ちょっと前に肝丘……お父様が勝手に婚約させた男ね、その人が、私が寝てる間に布団の中に入って来たことがあるの。どうすぐ結婚するんだから、一夜を共にしても何ら問題ないはずだって」

 

「いや、あるだろ」

 

「そうでしょ? その時はなんとか部屋の外に追い出して、後でお父様に言いつけたんだけど……『肝丘くんとならいつでも交わっちゃってオッケーだぞ』って言われて……」

 

(やべーなお前の親父と婚約者) 

 

 いくら婚約者と言っても、互いの同意なしにその一線を越えれば、性犯罪にもなりうるのだ。そして父親ももう少し娘の気持ちを考えてやるべきではないのか。

 

「……まあいいや。朝飯食い終わったらその机に置いといてくれ。そのうち取りに来る」

 

 雪音が頷いたのを確認すると、俺は貴賓室の扉を閉め、台所へ向かった。自分の分のベーコンエッグもトーストも冷めてしまっていたが、温めなおすのも面倒なのでそのままトーストを齧りながら、テレビをつける。

 

『今日のニュースです。

 昨日の午後8時ごろ、〇〇町で如月雪音さん(17)が行方不明となりました。父親の甲州さんによると、学校帰りの途中で誘拐されたか、事故にあったのではないかとのことです』

 

 もうニュースになっていた。俺も監禁を始めた最初の頃はニュースを見るたびに見つかるのではないかとびくびくしていたが、最近では暇つぶし程度にしか思わない。雪音が綺麗な和服を着て上品に座っている写真を画面に映し出しながら、アナウンサーは読み上げを続ける。

 

『……甲州さんは「如月不動産」の社長でもあり、もし誘拐なら莫大な身代金の請求が目的だろうと警察はコメントしています』

 

 俺はそれを聞いて、拳をテーブルに叩きつけたくなった。俺はそんな不純な動機で雪音を誘拐したのではない。彼女の純潔を最高のシチュエーションで頂戴するという極めて純粋な、そして生物として当然の欲求を満たそうと努力する健全な考え方のもとに行動しているのだ。

 

 それに身体を好きにさせてもらう代わりに、監禁した女性には絶対に自分から暴力をふるうことはしないし、できるだけ希望は叶える。俺は監禁した相手をひたすら欲望の捌け口にするだけのような人間ではないのだ。

 

『雪音さんを見つけた方は県警まで連絡を……』

 

 俺はテレビの電源をぶつりと切ると、片づけのために食器を台所へ持っていこうとした。するとその時、ぴんぽーん、と玄関のチャイムが鳴った。

 

 こんな朝早くから一体誰だろうか。俺は一人暮らしだがちょっとした事情で一軒家に住んでいるので、金持ちと思われて新聞を取れと言うヤツや妙な宗教に入れと言ってくる者が来たりすることがあるのだ。この前などダイレクトメールで風俗店のサービスチケットがポストに入れてあったりした。貴賓室に誰でも俺好みの女を連れ込めるのでその時は、間に合ってますという返事を風俗店に送り返した。

 

「今開けます」

 

 俺がそう言って玄関へ走り、ドアを開けた。

 

「あ、こんにちは……」

 

 そこにはスーツを着た太っちょの男が立っていた。年齢は20代後半といったところで少し彫りが深く、頬と喉にたっぷりとついた脂肪が無ければまあまあな顔になりそうである。男は鋭い目で俺を見て、口を開いた。

 

「ちょっと訊きたいことがあるんですが」

 

「はあ……なんですか」

 

(むしろ何をしに来たのか、こっちが聞きたいけどな。)

 

と思いながらも、表面上はただ怪訝な顔をして、続く言葉を待っているふりをしていた。

 

「……お宅に、如月雪音さんはいらっしゃいませんか」

 

「……はい? 誰ですそれ?」

 

 俺はしらばっくれながらも、どっと背中から冷汗を流していた。どうしてこの男はその名前を出してくるのだろう?

 

「ニュース見なかったですか?」

 

「……いや、さっき起きたばかりなんでね。それよりこんな朝っぱらから、なんでうちに? あと誰ですか?」

 

 俺が逆に訊くと、男はああ、と言ってポケットから名刺を取り出すと、俺に手渡した。その名刺を右から目で追っていき、最後に書かれていた男の名前を見て、俺は愕然とした。

 

 

『如月不動産 専務 肝丘京太郎』

 

 

ー雪音の言っていた、婚約者の名前だった。

 

 

 

 

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