元・魔王の成り下がりヒューマンライフ!   作:叶麻直

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小さな魔王

3年前、この世界は魔王に滅ぼされかけていた。

 

魔王とは膨大な魔力を持った魔人であり、全ての種族の敵である存在だ。

 

魔王は突然現れて魔王は多くの街や村を壊滅させ、多くの種族を絶滅寸前にまで追い込んでいた。

 

そんな魔王の暴挙に人々は絶望した。

 

そして人々はひとつの伝説に頼った。

 

それは勇者という存在。

 

魔王という悪の存在に打ち勝つことのできる者。

 

伝説には勇者召喚という極上級召喚魔法で勇者を呼び出さなければならない。

 

それは異世界から呼び寄せるものだという。

 

生き残った魔法使いが魔力を全て用いて呼び出した結果、3人の勇者が召喚された。

 

1人は剣の勇者として、1人は魔法の勇者として、そして1人は格闘の勇者として。

 

勇者たちは3年の時をかけて魔王から奪われた土地を全て取り戻し、ついに魔王城へと乗り込んだ。

 

結果、3人は魔王城をうち壊すことに成功した。

 

人々は3人の勇者を讃え、近くの村で魔王討伐を記念する祭りが続いた。

 

しかし、勇者の3人もこの世界の人々も知らないことがあった。

 

それは、魔王は倒せていないということ。

 

もちろん勇者たちはとどめをさしていた。

 

しかし、魔王は生きていた。

 

ただし、魔王としての全ての力を失って。

 

 

 

 

 

祭りが始まったころ、勇者によってうち壊された魔王城のなかで瓦礫が動く。

 

中から出てきたのは青紫の髪にルビーのような赤い目を持った少女であった。

 

少女が立ち上がると、ふらつきながらも追い詰められた様子でその場を立ち去っていった。

 

腰まで伸びた髪をなびかせながら走るその後ろ姿はただの幼い少女にしか見えない。

 

しかし、その少女こそが世界を震撼させた魔王であった。

 

 

 

しばらく走った彼女はある村へたどり着いた。

 

そこはかつて魔王としての彼女が壊滅させてしまった村であった。

 

そこでは祭りが開かれていた。

 

村では大人も子供も魔王の脅威が去ったことに安心しているのか嬉しそうであった。

 

「──っ!」

 

彼女はとっさに木の後ろに隠れた。

 

その視線の先には魔王としての彼女を滅ぼしたあの3人の勇者がいた。

 

彼女は逃げたいと思った。

彼女は恐れた。 見つかることを、殺されることを、しかしなによりも ──

 

 

不意に声をかけられた。

 

彼女と同じくらいの少女が話かけていた。

 

「おまつり、いかないの?」

「まつ…り…魔王を倒した、から?」

 

少女は首を傾げながらもうなずいた。

 

彼女は急ぐようにそのまま少女から立ち去ろうとするが、手をするの掴まれる。

 

振り向くと、少女が笑いかける。

 

「かなしそう、わたしとおまつり、いこう?」

「…」

 

すると少女は悲しそうに顔を歪める。

 

「すこしだけ」

 

彼女はため息をつくと渋々

 

「わかった。少しだけ、ね。」

 

少女は途端に笑顔を弾けさせた。

 

「わたしはスティ!」

「…ヘレ…ストナ」

「よろしくね!」

 

彼女、ヘレストナはまだ警戒するもののほんの少しだけ緊張を解いて名を名乗った。

 

 

それが過ちであったことに気付かず。

 

 

ヘレストナはこう思っていた。ほんの少しだけならばれないと、ほんの少しだけ楽しみたいと。

 

楽しかった。初めて人間の祭り、というものに参加して。

 

 

 

しかし、その時間は長く続くことはなかった。

 

 

 

「スティ、その子誰?村の子じゃないよね?」

 

若い女が話しかけてきた。

 

ヘレストナは声を聞いた途端硬直し、スティは駆け寄っていった。

 

「こんばんは!魔法の勇者さま!」

「あぁ、こんばんは。祭りはどうだった?」

 

その人物はなんと、魔法の勇者であった。

 

「おまつり、たのしかったよ!つぎはあのおみせにいくの!いこうヘレストナ!」

 

ヘレストナは重大なことを思い出した。

勇者たちは魔王の名を知っているということを。

 

ヘレストナ、という名を聞いて魔法の勇者はピクリと反応した。

 

「ヘレストナ、だって?…青紫の髪にその赤い目、それに…」

 

魔法の勇者はヘレストナの細い首につけた首飾りをみる。

 

ヘレストナは無意識に首飾りに手を伸ばす。

 

その首飾りかつて昔に作られた勾玉というアクセサリーに似ていた。

 

ただし、その首飾りの石は逆さまであった。

 

これは、魔人にとっては『堕ちた魂』として魔王勢のシンボルであった。

 

「…間違いない。外見は違うが、お前は魔王ヘレストナだな?」

 

魔法の勇者は先ほどのような穏やかな声とはうって変わった緊迫した声になる。

その目は魔王であった彼女に向けた鋭く冷たい目であった。

 

「何で生きているんだ?何を企んでいる」

 

周りの祭りの活気の中、この3人の場の空気だけが凍りついた。

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