「魔王だ…」
「今さらなんで…」
「あの魔人には近づいては駄目よ」
「魔人、それに魔王…いつ襲ってくるかわからないぞ」
「仲良くしたいだなんて嘘に決まってる」
ヘレストナとテルクナロクが村を歩くなか、少し離れたところで人間達がひそひそと聞こえないように話している。
しかし残念ながら2人の魔人の前ではどんなに小さな声でも丸聞こえだ。
「ヘレストナ様…」
「聞こえない振りをしろ。この反応は当たり前。私達はここに居させてもらう側だ。私の望みは1つ1つの積み重ねが大切なんだ。変な気を起こすな」
「…はっ。承知致しました」
我が主であるヘレストナが頭を下げてまで行った行為を嘘と割り切り疑いの目で見つめる人間達。
それにに対してテルクナロクはそこにいる人間達を今すぐ消してしまおうか等と考え、ヘレストナに止められる。
テルクナロクはかつての冷徹な魔王ヘレストナを見てきたがために昨日からの行動に表には出さないものの戸惑う。
今、目の前に存在するものは本当にかつての魔王ヘレストナと同一人物なのか、と。
そう思ったとき、ヘレストナはテルクナロクを振り向く。
「今の私は魔王の私ではない。だが、」
「魔王ヘレストナ、昨日の話通り仕事はしてもらうぞ」
「ああ……だが1つだけ条件のようなもの、いいか?」
「…なんだ」
村人と共に笑顔で家を建築していたナオヤはヘレストナ達がやってくるのを見つけるとすぐに表情を引き締める。
ヘレストナに昨日通りの条件を守ってもらおうと言ったとき、ヘレストナからも条件が出されるということで先程引き締めた表情を更に引き締めた。
「そんなに警戒しなくてもいい。ただ、私のことを『魔王』でなく『ヘレストナ』と呼んでもらいたい、それだけだ」
なにを言うのかと警戒していたナオヤはそれを聞いて理解するのに5秒程の時間を使った。
「…はあ?」
そして脱力した。
まさか条件が自分の呼び方についてだったとは一欠片も思いもしなかったのだから。
「…ナオヤ、だったか?それで私達は何から始めればいい?」
「は?あ、ああそうだな…まず、テルクナロクは力仕事だな」
「…わかった」
突然ヘレストナに名前を呼ばれると思わなかったナオヤは腑抜けた声を挙げ、それを恥じながら咄嗟にテルクナロクの役割を与える。
ヘレストナとテルクナロクとしては一瞬ではあるが勇者の間抜けな顔を見て、思わず吹き出しそうになり、それを悟られないように表情を保つのに必死であった。
「で、まお…じゃなくて、ヘ…ヘレストナ…は……」
魔王と言おうとしてヘレストナとテルクナロクに睨まれたナオヤは言い直しながら
(やりずれー!魔王、戦うより相手にしずれー!)
と心の叫びを挙げていた。
「大変そうだな」
「…ええ…」
「なんでかくとうのゆうしゃさま、あんなにあわててるの?」
別の家の修理を手伝っていたカグヤとリツは3人のやり取り全て聞いていた。
スティは心を読む能力を持っているため感情がわかるが、やり取りは聞こえていないので何故ああなっているのかがわかっていなく、2人の勇者に説明を求めている。
2人がどう説明をしようかとしているところに不満そうな顔をしたヘレストナがやってきた。
「スティと一緒に居とけと言われた…」
「それのどこが不満なんだ?」
「ヘレストナ、わたしといっしょ……だめなの?」
スティの能力は心がわかるといってもあくまで感情がわかるだけで、思っていることを読み取ることはできない。
そのため、ヘレストナが不満なのは自分のせいなのかと悲しそうな目をしてヘレストナを見つめる。
「い、いや……スティと一緒は嬉しいぞ。というか、一緒にいることが駄目な訳ないだろう」
ヘレストナの言うことが本当だと感じたのか、スティは花を咲かせたようにパアッと輝かせた。
そんな2人を見ていた勇者達はヘレストナを許した訳ではないが、あの魔王がただの人間の子供を相手にあたふたするのが微笑ましいと感じていた。
「なら、何が駄目なの?」
「…家というものを一度作ってみたかったんだ」
「作ったこと無いのか?」
ならば何が駄目だったのかとカグヤが聞き、その答えにリツは純粋な疑問をぶつける。
そしてヘレストナのその疑問の答えに度肝を抜かれた。
「私達のいた魔界は、そんなものを作る暇なんてなかった。仮にあって作ったとしても、すぐに消される。そんなところだったんだ。家はあったが…とても家とは呼べない物だったな」
「え、でもまお……昔魔王が代々魔人たちを統一してやって来ているって聞いたけど…。」
「それに、…ヘレストナは統一した上で国を作ったって…」
カグヤは魔王と言おうとして先程のナオヤと話していた条件を思い出す。
というより、ヘレストナの睨みによって思いださせられた。
リツは仲間の失敗を繰り返すまいと、意識して丁寧に言う。
「私が統一していたのはほんの一部だ。まだ統一されていないところは…あと8割は残っているな」
「「はっ…8割!?」」
「?」
ただでさえ多いヘレストナ配下の魔人が全体のたった2割であることに驚く勇者2人を余所に話の内容を理解出来ないスティは2人が何故驚くのかわかっていない。
「まあ、確かに多いが…ん?なんだ?」
「ヘレストナ、まかいってどんなとこ?」
「…そうだな。私がいた時の魔界の現状を伝えた方がいいかもしれないな」
私の生まれた場所は魔界の中心地。
魔界のなかでも1、2を争う激戦地区だったんだ。
知り合いだろうが身内だろうが関係ない。
弱いものは蹂躙され、殺されるだけの運命だったんだ。
私もそうなるはずだった。
そこで私の命を救ったのがアルディスだった。
…今考えてみればちょうどいい寄り代を探しているときに私を見つけたのだろうな。
私が幼い頃だったから覚えていないが、親は既に死んだそうだ。
私に何でもしてくれた。
私がかすり傷でも傷がつけば次の日には私に傷をつけた相手の存在が消されていた。
私がこの世界で生き残るための力が欲しいと言えば与えてくれた。
この時の私はアルディスが私を本当に大切にしてくれているって思っていた。
本当に大切にしていたのは私自身ではなくこの器だったがな……。
許されなかったことと言えば………そうだな、友人を作ることと1人でどこかへ行くことだったな。
…今は私の身の上話ではないが、ここからが魔界に関わることなんだ。
今から…100年と少し前かな、私の中に何かが入ってくる、そんな感覚がしたんだ。
そのとき、力を欲した私がアルディスの言う通りに魔方陣の中で目を瞑っていたのだが、その時に霊を憑依させたのだろう。
まず、憑依されたときは魔力が急激に増えたことから体がはち切れそうだったな。
まだ私が…いくつだ?まあ、大体300にならないくらいの……ああ、すまない。人で言うと10だな。
そのくらいだから体自体が耐えきれないかも知れなかったんだ。
アルディスが言うには私には素質がある、耐えきれるだろうとかいって放置されたがな。
アルディスの言う通り、私はそれに耐えきり…そこからだな。
私が魔王として名を馳せるのは。
始めは自分ものとなった力に戸惑った。
殺されそうになって反射的に反撃をしたら相手が消炭になっていたからな。
怖かったよ。見ず知らずの、私を殺そうとした相手とは言え、生き残るためとは言え、命を奪っているのは事実なのだからな。
それからは私の中の何かに穴が開いたようで…正直言って、記憶がない。
でもその時から自分の中に入っていた霊が大きく動き出したんだ。
霊の力が強くなって私の体の主導権を乗っ取るようになったんだ。
私は抗えなかった。
ただ、霊の主であるアルディスの言うことを聞くだけの人形となった。
そしてその力を持ってして魔界の一部ではあるが統一し、何故かはわからないが10年前から人界への侵攻を始めたんだ。
「あとは貴方達勇者が見てきた通りだ。10年という僅かな時とは言え、今の魔界はどうなっているのかは知らない」
「…どう、スティ?ヘレストナは嘘は…」
「うそ、いってないよ!」
「そう、ごめんね」
ヘレストナの言うことに嘘がないかスティに聞くが、即座にスティに怒られ、謝るカグヤ。
もし、スティが嘘を吐いていたら、という考えが全く無かったことにヘレストナは驚いていた。
「子供は良い意味でも悪い意味でも純粋なのよ」
そんなものなのかとヘレストナは疑問を更に深めていたが、これ以上考えてもわからないのでこのことを考えることはやめにした。
「スティがいうから信じるが、まさか家の話から魔界の、それも魔王の誕生の経歴を知れるとは思わなかったな」
「私としてもいつかは言うつもりではあったがこんな形で言うことになるとは思ってもいなかったな」
そしてヘレストナは苦笑した。
この会話によって初めて、魔王と勇者の間にあった溝がほんの少しではあったが埋められた瞬間であった。
今回もヒューマンライフっぽいとこ無かったな…
( ノ;_ _)ノ申し訳ないです