ダンガンロンパ・α 絶望の学園と希望の落第生   作:橘 紅茶

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序章3 自己紹介編②

 一様に閉じ込められた超高校級の生徒たち。

 ここに集まったのもなにかの縁と、各々自己紹介をすることになった……のはいいが。

 

(あいつは……)

 

 周りの輪に入れず、ぽつんと立っている女子生徒。

 上から下まで漂白剤で染めたように真っ白な姿のそいつは、非常に見覚えのある顔をしていた。

 

「何してるんだ、財前」

「あ、城田! 城田も来てたんだね!」

 白い女子生徒は俺の姿を認めると、ぱっと表情を輝かせて駆け寄ってきた。

 

「まあ、俺はお前の付属物だからな。お前がいるなら呼ばれるんじゃないか?」

「せめてコンビって言おうよ。ほんとに城田は卑屈なんだからー」

 と、脇腹を軽く小突かれた。……卑屈じゃなくて事実だろ、俺達の場合は。

 

 この女子高生の名は財前(ざいぜん) 空月(あづき)。同じ高校から揃ってスカウトされた腐れ縁にして、学園の生徒達の中で1番気心知れた奴。

 そして……俺が『超高校級』を名乗れている大きな理由でもある。

 

《超高校級の情報収集家 財前 空月(ザイゼンアヅキ)》

 

 財前は探偵顔負けの情報収集能力を持つことから「超高校級の情報収集家」と呼ばれている……が、その一方で「壊滅的に物覚えが悪い」という致命的な欠点を抱えている。

 その為、俺は文字通り財前の「データベース」として、才能開発の授業をしばしば共に受けているのだ。

 

「私はクラス担任の先生に呼び出されたんだけど、城田も?」

「……まぁ、そんなとこだ」曖昧に言葉を濁す。

 薄々気づいていたが、ここに集められた生徒達は、例のプロジェクトとは無関係らしい。

 

「……ひょっとして、私と同じで、テストで名前を書き忘れて0点になっちゃったとか!?」

「それは違う! というかお前はやらかしたのか。うっかり0点取って呼び出しくらったのか」

「もし名前を書いてれば満点だったって」

「勿体無さすぎる……」クラス担任もさぞかし無念だっただろう。

 

 こんな異常なシチュエーションに友人が巻き込まれていたのは、不運なのか幸運なのか分からないが、いつもの調子でやりとりするうちに、だんだんと平常心が戻ってきた。

 

「ところで財前、そろそろ他のやつにも挨拶してきたほうがいいんじゃないか?」

「えっ」

 露骨に財前の表情が固まったが、予想の範疇なので言葉を続ける。

 

「互いの素性を明らかにするのが目的なら、いつまでも顔見知り同士で話し込むわけにはいかないだろ」

「でも……私のことだし、仲良くなる前に嫌われちゃうかも……」ごにょごにょと小声で反論する財前。

 

 こいつが数々の人間関係のトラブルに巻き込まれてきたのは良く知ってるし、極力相手と関わらず、波風立てずにやり過ごしたい気持ちも分かる。

 ……が、親睦を深める場で孤高を貫くのは悪手だ。「この場の16人以外に誰もいない」という今の状況なら尚のこと。

 

「安心しろ。俺の記憶にある限りでは、お前が地雷を踏むのはある程度付き合いが長くなってからだ。むしろ初対面の方が安全だと言える」

「ううっ、説得の仕方に容赦がない……」

「仮にしくじったら、俺がなんとかフォローしておくから。下手なこと考えずに、気楽に話しかけてこい」

「……わかった。頑張る……」

 今にも死にそうな声と面だが、なんとか覚悟を決めたようだ。この世の気苦労を背負い込んだような重い足取りで、恐る恐る集団の中に入っていく。

 なんだかんだで愛想は良いから、心配要らないとは思うが……。

 

 暫く見守っていると、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。どうやら友人は無事に会話を成功させたらしい。あの様子ならフォローも必要なさそうだ。

 さて、俺も他の話し相手を探さないとな……。

 

 

 ***************************************************

 

 

 自己紹介の相手を探していると、スケッチブックを抱えた男子生徒と目が合った。

 色素の薄い肌に澄んだ青い目。恐らく地毛であろう、赤みがかった茶髪。外見を構成する要素の全てが、そいつを外国人だと主張している。

 

 ……困ったな、滅茶苦茶こっち見てるぞ。

 とりあえず何か言わなくては。けど外国語なんて片言の英会話くらいしか使えねえし、そもそも俺のつたない英語でちゃんと伝わるのか? 

 

「あー……えっと……」

「…………」

 挙動不審な俺を見た外国人は、抱えていたノートに万年筆を滑らせ、スッと紙面を目の前に差し出してきた。白い紙面には、教科書のように流麗な字が書かれている。

 

『どうも、はじめまして。俺はアルフレッド・ユークレース。日本語は喋れないけど、読み書きや聞き取りは出来るから、気にしないで話しかけてくれよな』

 

《超高校級の翻訳者 アルフレッド・ユークレース》

 

 アルフレッド……? 確か、文字であれば、70ヶ国以上の言語を不自由なく操ることが出来る留学生、だったか。

 この文面によると、日本語は話せないだけで意思の疎通は可能なようだ。

 

「日本語……で普通に喋ってもいいんだな?」

 超高校級の留学生はこくこくと頷き、続いてノートの端に何かを書き足す。えーっと……。

 

『お前の名前も教えてくれるか?』

「俺は、城田 丈。……えーと、城壁の"城"に、田んぼの"田"に、大丈夫の"丈"……って言って分かるか? うん、それだ。その字で合ってる」

『城田 丈……っと。よし、覚えた! 俺のことはアルって呼んでくれよな!』

「わかったよ、アル」

 そう応えると、アルはにいっと満足げに笑った。人懐っこい笑顔につられて、こちらもつい口元が緩む。

 

 ……超高校級の翻訳者か。最初は戸惑っちまったが、言葉の壁を気にしなくていいのは非常に助かる。性格も良さそうだし、仲良くできるといいな。

 

 

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「オイ、そこの黒いの!」

 

 突如、甲高い声が耳に届く。

 反射的に振り返ると、背が低いセーラー服の少女が俺を思いっきり睨んでいた。

 

「お前だよお前! 人のことジロジロ見下ろしやがって、調子に乗ってんじゃないよ!」

「いや、見下ろしたくて見下ろしてるわけじゃないというか……」

 無駄にでかくて悪かったな、とその場にかがんで目線を合わせる。

「馬鹿にしてるのか! 殴るぞ!」

 ……が、火に油を注いでしまったようで、少女は眉を吊り上げて怒りだす。

 

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!?」

「アタイに喧嘩をふっかけるたぁ、いい度胸じゃねぇか。よし表出な!」

 駄目だ、全く話を聞いてくれる気がしない……! 

 それどころか相手はどんどんヒートアップしているようで、心なしか両目が肉食獣のように爛々と輝いている。

 

 誰かなんとかしてくれ、と心の中で助けを求めたその時……。

 

「あー、また竜崎さん喧嘩ふっかけてるんすか?」

 

 妙に間延びした声と共に、大柄な男子生徒が間に割って入った。

 アメフト選手のように屈強な体躯をしたそいつは、腰に携えた警棒に手をかけつつ、諭すように少女に話しかける。

 

「竜崎さん、敵意のない人に喧嘩売っちゃ駄目でしょ」

「ア、アタイはちょっと殴り合ってどんなやつか確かめようと思っただけで……」

「貴方の拳は一般人が耐えられる代物じゃないんすよ。そこんとこ分かってもらえます?」

「うー……」

 "竜崎"と呼ばれた女子生徒は、渋々といった感じで引き下がった。

 

 た……助かったんだよな。

 

「いやーすいませんねぇ。この人、ガタイの良い生徒には喧嘩ふっかけずにいられないみたいなんすよ」

 なんて迷惑な。……と思ったが、当人に睨まれた気がしたので口には出さなかった。

 

「ついでに自己紹介しときますね。俺ぁ一守(ひともり) 冬治郎(とうじろう)っていう奴です。んで、こっちのチビっ子が竜崎(りゅうざき) 閃奈(せんな)さん」

「チビっ子言うなデカブツ!」

「……ま、なんか適当に仲良くしてください」

 

《超高校級の喧嘩番長 竜崎 閃奈(リュウザキ センナ)》&《超高校級の警備員 一守 冬治郎(ヒトモリ トウジロウ)》

 

 竜崎 閃奈。フルネームを聞いて、ようやく記憶が繋がった。

 常日頃から喧嘩に明け暮れ、拳一つでいくつもの不良の山を築き上げたとかいう、物騒な逸話には事欠かない、手のつけられない問題児だ。

 ……彼女の(恐ろしい)情報ならいくつも知っていたが、あまりにも実物とギャップがありすぎじゃないだろうか。

 制服だって、サイズがあってないせいでスカートを引きずってるし……その姿だけ見ると、恐ろしいというより可愛らしいというか……。

 

「なんだい? 喧嘩ならいつでも買うよ」

 ……そんなこと、決して口には出せないが! 

 

「城田さんって言いましたっけ。さっきのは当たり屋みたいなモンなんで無料でいいっすけど、次からは料金頂きますからね」

「金とるのかよ!?」

「そりゃそうでしょ。俺の肩書きはタダじゃねえんすよ」

 

 一守は報酬次第でどんな仕事も引き受ける凄腕の警備員。「護る」ことに関しての超人的なスキルを買われ、あの厳重な希望ヶ峰学園の警備を一部任されているとか。

 ただ、報酬次第で動くってのは、裏を返せばメリットがなきゃ動かないって事で……。一部では「他人の安全よりも金をとる欲深い警備員」なんて陰口を叩かれている。

 まぁ、こうして助けてくれたのは確かだから、悪いやつじゃないとは思うが……。

 

 アクの強い2人だったな……。仲良く……できるといいんだが……。

 

 

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 次の自己紹介相手を探していると、柱の陰に奇妙なポーズで佇む、怪しい男が目に入る。

 ……あまり関わりたくないんだが……無視するわけにもいかないよな。

 

「あの……よかったら、自己紹介を……」

「影の如き男よ、我が名を問うか」

「あ、うん。嫌なら嫌で構わないんだ」

 早速話しかけたことを後悔したが、そんな俺をよそに男は高らかに名乗り上げた。

 

「応えよう。我こそは歌流院(かりゅういん) 詠道(えいじ)、超高校級のロックシンガーだ!」

 

《超高校級のロックシンガー 歌流院 詠道(カリュウイン エイジ)》

 

 10代・20代の若者の間で爆発的人気を誇るロックバンド『We-zard』のボーカル担当、それが歌流院だ。

 デビュー当時から注目度は高かったが、新曲「俺達は堕天使じゃない」がオリコンチャートで一位を取ってからは更に人気に火がついた。

 音楽番組で見かけた時は、落ち着いた雰囲気の男に見えたんだが……まさかこんな変人、もとい個性的な奴だったとは……。

 

「貴様の真名は……城田、とか言ったな」

「あ、あぁ……」

「予め、告げておこう。運命の(とき)が来るまで決して気を緩めるな。束の間に空が晴れていようとも、その翼が羽ばたく先は、光とも闇とも限らないのだからな……」

「……」

 

 紡がれる言葉が厨ニ過ぎて、反応に困るが……。

 恐らく「穏やかな時間が流れているけど、何が起きるか分からないから油断するな」という意味合いのことを言ってるのだろう。いや、知らないが。

 

「えっと……忠告してくれてありがとう?」

「礼はいらん、ただ今この刻に感謝を忘れるな。闇を纏った天使の1人よ」

 歌流院はサングラスをクイッと持ち上げ、ニヒルに口角を釣り上げた。

 

 ……闇を纏った天使って、もしかしなくても俺のことか? 確かに黒い学ランに黒い外套羽織ってるけどさ。

 

「なあ、その喋り方って」

「趣味だ」

「そうか……」

 趣味なら仕方ない。……が、せめてもう少し分かりやすく喋ってくれないものだろうか。歌手だからか、声は腹立つくらい聞き取りやすいんだけどな……。

 

 

 ***************************************************

 

 

「ねぇ、そこの貴方。私が聞いてあげるから、名前と肩書きを教えなさい」

 

 一人の女子生徒が、唐突に上から目線で話しかけてきた。

 青を貴重とした制服に身を包み、ふんわりした髪をツインテールにしている。氷のように丸く澄んだ瞳には、どことなく意地悪な色が浮かんでいる。

 

「……俺は『超高校級のデータベース』城田 丈だ」

「あらそう、城田くん。ふーん。……地味な名前ね。肩書はちょっとオモシロイけど、貴重な時間を浪費する価値はあったのかしら」

 

 地味な名前で悪いかよ……と、無言でじっと睨んでみる。

 相手に気づいた様子はないが、俺がショックを受けたとでも思ったのか、フォローらしき言葉が重ねられる。

 

「貴方が冴えない君なのは事実だけど、だからって差別はしないから安心してね。私の光り輝く美貌の前では、誰もが等しく踏み台になる運命だもの」

「はぁ……」

「なに、その反応。まさか……この私を知らない、とか言わないでしょうね?」

 ツインテール女子の目がキッとつり上がる。その気迫に竜崎の姿が重なり、慌てて言葉を紡ぐ。

 

「知ってるに決まってるさ。立氷(たちひ) 千郷(ちさと)。超高校級のフィギュアスケート選手の立氷だろ」

 

《超高校級のフィギュアスケーター 立氷 千郷(タチヒ チサト)》

 

 立氷 千郷。それなりにニュースを見ていれば、彼女の名前を知らない人間のほうが少ないはずだ。

 圧倒的な技術力と優れた容姿から高い評価を受けていて、次期五輪ではメダル確実と言われているトップアスリートだ。スケートの時期になると、彼女の特集が毎日のようにテレビで組まれる。

 

 ……というような情報を思い出せるだけ伝えると、立氷は満足げにうんうんと頷いた。

 

「ええ、ええ。よく知ってるじゃない。取り柄のない男だって認識は改めるわ、城田君」

 すっかり機嫌を直してくれたようで、今の立氷はテレビで見るような品のいい笑顔を浮かべている。……よかった、本当に。

 

「ありがとな。けど、何度も言うが、あんたを知らない奴なんてそうそういないと思うぞ」

「私もそう思うわ。……けどね、ついさっき、私の名前を『タヒチ』って間違える大馬鹿と会ってきた所だったから。疑ってごめんなさいね」

「そ、そうか……災難だったな……」

 

 戻った機嫌が急降下しそうなので聞かないが……その大馬鹿は、どこぞの記憶力の悪い情報収集家だったりしないだろうか。心配だ。

 

 

 ***************************************************

 

 

 次に話しかけてきたのは、少し軟派な印象の男子生徒。

 かなりラフに着こなした制服と、ウェーブのかかった明るい金髪。もし風紀委員がいたら、あっという間に目をつけられそうな格好だ。

 

「よっ、黒いの。オレっちは獅子堂(ししどう) (すばる)ってんだ、よろしくな」

「城田だ、よろしく」

 

《超高校級のスプリンター 獅子堂 昴(シシドウ スバル)》

 

 獅子堂 昴は、陸上界で今最も注目されている大型ルーキーだ。公式大会への出場回数は少ないが、瞬間的なスピードは大人の選手すら寄せ付けない域に達している……とか。

 非公式の記録ではあるものの、日本記録を大幅に上回るタイムを叩き出したこともあると聞いた。

 

「ところで城田、財前ちゃんってお前の彼女だったりする?」

「……は?」

 

 全く予想外の言葉が飛んできて、思考が一瞬フリーズする。

 彼女……え? 何言ってるんだこいつ、というか知り合って間もない奴に聞く台詞か? それ。

 俺の困惑もお構いなしに、獅子堂は次々と質問を投げかけてくる。

 

「ほら。お前、なーんか財前ちゃんと仲良さそうだし? さっきも長く喋ってたみてーだし。ひょっとすると、もしかしてっつー感じで思ったんだけど。で、どうなん実際?」

「いや、ただの知り合いだが……」

「将来付き合う可能性は?」

「1パーセントも無い」

「そーかそーか、オメーにその気はなしと。ふむふむふむ」

 神妙な顔でうんうん頷いていたかと思うと、その直後、とても良い笑顔で獅子堂は言った。

 

「そんならいっちょ告ってきますか!」

「流石に展開が早すぎねーか!?」

 つい大声で突っ込んでしまった。しかし、獅子堂の勢いは止まらない。

 

「なーに、こういうのは早けりゃ早いほうがいいんだって! 城田、オレっちが財前ちゃんと付き合っても怒んなよ? 約束な!」

「お、おう……?」

 

 一方的に約束を取り付けると、「じゃーな!」と、引き止める間もなく立ち去ってしまった。

 あいつの向かった先には財前がいるが……まさか、本当に告白しに行く気なのか? 

 

 ……そういや獅子堂って、女好きなことでも有名だったな。

 その割に浮いた話を聞かないから不思議に思っていたんだが……。瞬発力がありすぎるのも考えものだな……。

 

 

 ***************************************************

 

 

 続いて、集団から少し離れた位置に佇む男子生徒に声をかける。

 

「なあ、そこのあんた。自己紹介をしてもらってもいいか?」

「……俺か?」男子生徒は億劫そうにこちらを向いた。

 室内だってのに、やたらと着込んだ服装だ。首にマフラーまで巻いているが……暑くないんだろうか? 

 

「自己紹介……あー、俺も名乗らねーと駄目か?」

「無理にとは言わないが、俺としては全員の顔と名前を一致させておきたい」

「……まぁ、そうだよな」

 厚着の男子生徒は諦めたように目を伏せ、簡潔に答える。

 

「會嶋だよ。會嶋(あいじま) 銀司(ぎんじ)

 

《超高校級の??? 會嶋 銀司(アイジマ ギンジ)》

 

 會嶋か。あまり聞き覚えのない名前だが……この顔は新聞か何かで見たことがあるな。

「確か……」

「思い出す必要はねぇよ。……俺は肩書きを捨てたんでな」

 

「肩書きを捨てた」。

 その一言の衝撃で、言いかけていた台詞や考えていた事が全て吹き飛んだ。

 

「はぁ、捨て……肩書きを捨てるって、どういうことだよ!?」

「どういうこともなにも、言ったとおりの意味だ。悪いが、お前さんに話してやれる事は何もねえよ」

 

 そう言ったきり、會嶋は口をつぐんでしまった。

 肩書きを捨てた、超高校級の生徒……。聞きたいことは山程あるが、本人が話そうとしない以上、不用意に追及すべきじゃないだろう。

 

「……なんだ? 変な顔して」

 だから……ウインドブレーカーの背中に大きく書いてある「蔓巻西高校野球部」の文字には、触れない方がいいんだろうな……。

 

 

 ***************************************************

 

 

「あの、すみません。少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 鈴の音のような声に呼び止められて振り向くと、黄色い着物の小柄な少女が立っていた。

 質の良さそうな和服と下駄は、一応制服(らしきもの)を着ている他の生徒達の中でもひときわ浮いている。

 

「自己紹介だな。俺は城田 丈、肩書きは「超高校級のデータベース」だ」

「ウチは千羽(せんば) 祈里(いのり)と申します。どうぞ宜しくおねがいします」

 

 千羽と名乗る少女は、ぺこりと礼儀正しくお辞儀をした。

 

《超高校級の折り紙職人 千羽 祈里(センバ イノリ)》

 

 千羽……彼女があの「超高校級の折り紙職人」か。変わった才能の持ち主だから、よく覚えている。

 複雑な構造の折り方でも、一切の狂いもなく正確に素早く折ることが出来るそうで……折り紙細工の日本庭園、宇宙戦艦、ツチノコなどなど、数々の作品を創り上げている。

 

「「超高校級のデータベース」さん……ウチも人のことを言えませんが、変わった才能ですね」

「字面ほど面白みのない才能で申し訳ないな」

 自嘲気味に笑って言うと、千羽は不思議そうな顔をする。

 

「そうですか? ウチはパソコンもケータイも上手に扱うことが出来ないアナログ人間なので、そういった機器を扱える方は尊敬します!」

「いや……俺はただ記憶力がいいってだけで、技術方面の才能では……」

 どうやら「データベース」という字面が誤解を生んだらしい。

 

「城田さんもパソコンやケータイが苦手なのですか?」

「苦手ってわけじゃないが……」

「やはり、お得意なのですね!」

「……ああ。そうだよ……」

 無邪気に輝く瞳に圧倒されたため、俺は説明を放棄することにした。

 肩書きについて誤解されたままだが……まぁ、どうせ大した才能じゃないしな……。

 

 

 ***************************************************

 

 

「お兄さん達も災難だよね。何も悪いことしてないのに、こんな薄気味悪い建物に閉じ込められちゃうなんてさ」

 猫型のフードを被った少年が、軽い調子で話しかけてくる。

 ……いつの間に俺の隣に来たんだろうか? わりと周りにも気を配っていたつもりだが、話しかけられるまで全然気づかなかった。

 

「あ、僕は黒井根(くろいね) 小太郎(こたろう)だよ。よろしくねっ、お兄さん」

 

《超高校級の不運 黒井根 小太郎(クロイネ コタロウ)》

 

「……高校生……なんだよな?」

「当ったり前じゃん! 人を見かけで判断したら、碌な目に遭わないよ?」

 竜崎も小柄だったが、それ以上だ。顔つきも仕草も、どう見ても10代後半には見えない。飛び級した小学生と言われても信じてしまう。

 

 しかし、黒井根 小太郎か……名前も顔も全く記憶にないな。

 

「すまないが、あんたの肩書きを教えてもらってもいいか?」

「うーんとね。僕は超高校級の不運って呼ばれてるよ」

「へぇ、超高校級の……不運!?」

 

 希望ヶ峰学園には毎年、一般の高校生たちから抽選で選ばれる「超高校級の幸運」という枠がある。

 しかし、「超高校級の不運」とは……学園も妙な才能をスカウトしたものだ。

 

「だから、こんな事になっちゃったのって、ある意味僕のせいかもしれないというか……。なにか起きる前に謝っとくけど、ごめんね?」

「はぁ……」

 少しも悪いと思ってなさそうな調子で謝られてもな。

 

 まあ、幸運とか不運って自分の意志で発動するものじゃないし、こいつに責任をなすりつけるのはお門違いだよな。

 

 

 ***************************************************

 

 

「失礼、君とは自己紹介がまだだったよな。よければ名乗ってくれないだろうか?」

 自己紹介の相手を探していると、見るからに体育会系といった風情の、鉢巻を巻いた長ラン姿の男子生徒が声をかけてきた。

 

「『超高校級のデータベース』城田 丈だ。忘れても構わないが、覚えていてくれると嬉しい」

「城田君だな。自分は超高校級の応援団長、寿(ことぶき) 桜狼(おうらん)だ。よろしく頼む!」

 

 力強い声と勢いに気圧されつつ、差し出された手を握り返すと、その手を更に強い力を込めて握られた。出かけた悲鳴を喉元でぐっと堪える。

 ……爽やかな笑みを見るに、彼に悪気はない。多分。

 

《超高校級の応援団長 寿 桜狼(コトブキ オウラン)》

 

 寿は数々の名勝負の立役者として知られる「超高校級の応援団長」だ。その力強い声援をうけると、たとえ万年補欠の部員でも真の力に覚醒すると言われている。

 様々なチームの応援の要請に応えるために全国各地を飛び回ってて、滅多に校内にいないという話だが……。

 

「半月ぶりに暇が出来たので立ち寄ったんだ。少し顔を出すだけのはずが、こんな事態に巻き込まれるとは」

「それは……災難だったな……」

「全くだ。明日にも仕事が入っているので、なるべく早急に解決してほしいところだよ」やれやれ、と肩をすくめる寿。

 今日が休みで明日からまた応援に……って、随分慌ただしいな。

 

「疲れないのか?」

「なに、いつものことさ。皆に必要とされれば、俺は何処にでも飛んでいくだけだ」

 と、圧倒的光属性の爽やかな笑顔で答えられた。

 高校生なのに立派なやつだな……。これがイケメンって奴か。

 

 

 ***************************************************

 

 

「そこのあんた。よかったら名前と肩書きを聞かせてくれないか?」

「自己紹介ですね。承りました」

 ワンピース風の制服を着た女子生徒は、抑揚のない声で答えた。

 血が通ってるか不安になる白い肌といい、精巧な人形のように整った顔つきといい……まさに「人間離れした美しさ」だ。

 

「俺は城田 丈だ。一応『超高校級のデータベース』って呼ばれてる」

「『超高校級の庶務』こと浮葉(ふわ) (みどり)と申します。どうぞお見知りおきを、城田様」

 浮葉と名乗った女子生徒は、細い指でスカートの裾をつまみ上げ、流れるような動作で一礼した。

 

《超高校級の庶務 浮葉 緑(フワ ミドリ)》

 

 あらゆる仕事を本職と同等以上にこなし、1人で10人分の働きをする凄腕の庶務……それが浮葉 緑だ。

 希望ヶ峰学園にスカウトされてからは、生徒会の補佐に清掃スタッフ、臨時事務員から購買部の謎の店員まで、場所を選ばず八面六臂の活躍を見せているそうだ。

 

「わたくしの庶務という肩書きですが、主な仕事は雑用です。ですので、わたくしのことは超高校級の雑用係と呼んでいただいても構いません」

「いや。流石にそうは呼ばない……というか呼べないぞ」

「そうですか? では、超高校級のパシリと」

「更に呼びづらいな、それは……」

 俺がそう言うと、浮葉は黙ってしまった。

 

 表情からは読み取れないが、ひょっとして傷つけてしまったんじゃあ……。

 

「……おかしいですね? 『自己紹介の際には小粋な冗談を混ぜるとよい』と本に書いてあったのですが」

「おかしいのはあんたの冗談のチョイスだよ!」

 

 浮葉は表情を変えないまま、不思議そうに首をかしげた。

 歌流院といい……真面目で大人しそうな奴は変なことを言わなきゃいけない校則でもあるのか? 

 

「ちなみに先程の"おかしい"は変だという意味で、決して笑いをこらえているわけではないので御安心を」

「分かってるよ!」

 

 ……無機質な見た目とは裏腹に、かなり愉快な奴みたいだ……。上手くやっていけるだろうか……。

 

 

 ***************************************************

 

 

「やあ。ボクはキミが最後のお相手なんだけど……キミもそうかな?」

 柔らかい笑みをたたえた眼鏡の女子生徒が、奥の方から歩いてきた。

 桃色のカーディガンに、明るく輝く髪を留めるハート型の髪飾り。少女趣味、という単語が脳裏に浮かぶ。

 

「ああ。俺もあんたで最後だ」

「それはよかった」

 女子生徒は柔らかく微笑んで、手を差し出した。

 

「ボクは如月(きさらぎ) 鳴心(めいこ)……恥ずかしながら、超高校級のメンタリストなんて呼ばれているよ」

 

《超高校級のメンタリスト 如月 鳴心(キサラギ メイコ)》

 

 如月 鳴心。ひと目会っただけで他人の心を丸裸にしてしまうという、超高校級のメンタリストだ。

 あまりに心理を読み取りすぎて気持ちが悪いから、別名・超高校級のサトリとも呼ばれているとか……。

 

「その別名、可愛くないから好きじゃないんだよね」

「っ!?」

 驚きに目を見開く。まさか、本当に心を読まれたのか?

 

「あ。今、図星って顔をしたね? ひどいなぁ、妖怪と一緒にするなんて。ボクの名前を知ってる人って大抵同じことを考えるからさ……予想は出来てても中々傷つくんだよ?」

 どうやらカマをかけられたらしい。

「……ごめん」

「ふふ、冗談だよ。キミは案外感情がはっきりしてるタイプなんだね」

 口元に手をあてて、クスクスと笑う如月。掴みどころがないというか……こちらのペースを乱されるというか。

 

 

 

 

 一通り自己紹介を終えて、ふうと息を吐く。皆の間に流れる緊張感が多少和らいだ気がする。

 

「それで、ここは一体どこなのでしょうか?」道を尋ねるような気軽さで、千羽が話を切り出した。

「オレっちも全部見て回ったわけじゃねーけど、あそこに学園のエンブレムが飾られてるっつーことは、希望ヶ峰の姉妹校とか、秘密の施設とか……なんかそーいう奴なんじゃねーの?」

 体育館の壁に刻まれた校章を、獅子堂が指差した。見慣れた希望ヶ峰学園のマークだ。

「姉妹校……か。そんな話は聞いたことが無いけど……」小峠が難しい表情でつぶやく。

 

「大事なのは、WhereじゃなくてWhyじゃないかな。すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それと──」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょうか」如月の疑問に、浮葉が続く。

 

 何故俺達でなければならなかったのか? そうだ。それが不可解だ。全員が学校を訪れたという共通点はあるが、経緯がてんでバラバラだ。

 俺は今日行われるプロジェクトに参加するため。財前は担任に呼び出されて。寿なんかは、休みの合間に立ち寄っただけと言っていた。

 

「なにか意図がありそうだよね。攫われるタイミングも、皆の経歴とかもバラバラだし。16人攫うなら、一つのクラスをまるごと誘拐すればいいだけだもんね?」

「さり気なく恐ろしいこと言ってません?」

「やだなぁ、一守のお兄さん。こんなのただの思いつきだよ」

 

 疑問を口にする者、考察する者、それに相槌を入れるもの。口々に話し合うが、やはり決定的な答えは得られない。

 

「そう言えば、"ホームルーム"ってまだ始まらないのかなぁ」

 財前がぽつりと呟いた、その時。

 

『ピンポンパンポーン────』

 

 唐突に、体育館にチャイムが鳴り響いた。

 腕時計に目をやると、針は14時──パンフレットに示されていた時刻を示していた。

 僅かなノイズの後、スピーカーから場違いなほど明るく耳障りな音声が流れ出す。

 

『うっぷぷぷぷぷ、お待たせしました。ただ今から"ホームルーム"を始めます。オマエラ、ステージ上にちゅうも──く!』

 

 直後、物陰から何かが勢いよく飛び出し、軽やかに壇上に着地する。

 そいつは……白と黒の二つの体を不格好に縫い合わせた、どこか不気味なデザインのマスコットだった。

 

「やぁ、オマエら! ボクはモノベア。この学園の管理者さ。ヨロシクね? うっぷぷぷぷぷぷぷ……」

 

 

 

 




(6/22 追記・修正)なんで途中で文章が切れてたんすかね? 次からはこういうことがないよう気をつけたいです。
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