8月8日。全てが終わり始まった日   作:サイヤング

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シリアスから始まる恋愛があっても良いじゃない。


終わりの日

8月8日。

この日俺は生涯忘れられない日になってしまった。

高校三年の18歳の誕生日。家に電話が鳴り響いた。

 

家にはいつもの事だが、妹の小町と俺だけ。両親は仕事に行っているはずだ。家の電話が鳴ることは本当にたまにしかなかった。だからだろうか嫌な予感はしていた。

 

「およ?珍しい電話だ」

 

何時もなら立ち上がるのが面倒で小町に出てもらうがこの日は自分から立ち上がり電話を取りに行っていた。

 

「お兄ちゃんが自分から行くなんて珍しい~。よろしくね!」

 

テレビを見てる小町は上機嫌で腰を下ろす。

電話に近付くと嫌な予感が強くなったような気がした。

 

なんだ?

心臓がかつてないほど五月蝿く落ち着かない。受話器に手をかけて耳に当てる。

 

[もしもし。此方警察です。比企谷さんのお宅で間違いありませんか?]

 

警察?覚えのない相手に一瞬混乱してしまうが返事を返す。

 

[そうですか。落ち着いて聞いてくださいね。本日午後3時頃、親御さんの乗っている車が事故に合いました。車は潰れておりお二人は即死でした]

 

そこからの記憶は無い。

 

先程まで賑やかだった部屋にあるのは両親の写真に遺骨。あまりに現実味がなく、隣りで泣いている小町をなだめる事しか出来なかった。両親の親戚や兄弟が集まり涙を流している。色が無くなっていくそんな不思議な感覚に落ちていきそうになる。

 

親戚や兄弟に色々と言われたような気がするが気休めにもならない。一度も会ったことも話したこともない相手ばかりだ。

 

「お兄ちゃん...小町達これからどうなるの?」

 

両親が残してくれたお金。それに保険金が入ってくる。だが一生暮らせるだけのお金は無かった。二人が働いていた会社から死亡した際のお金が振り込まれるという説明があり頭を下げられる。小町は許せない気持ちで一杯であり、それは俺も同じだった。

 

所詮俺達は餓鬼だ。高校生らしくないと言われたり、リスクリターンが出来ると言われていてもこんな状況で出来ることなんて何も思いつかなかった。本当なら身寄りを探して親戚などが引き取ってくれたりするのだろうが、今まで関わり合いが無い二人の学生を引き取る人なんて一人もいなかった。小町だけならという声もあったが、小町が全力で否定。その事もあり引き取り手も無くなってしまった。

 

誰もいなくなった家に小町と二人。

 

「お兄ちゃん...小町達どうなるんだろうね」

 

先程は答えられなかった問いに今度は答える。

 

「分からねーよ」

 

「そう、だよね」

 

「でも。小町だけは守るから心配すんな」

 

優しく小町の頭を撫でながら言う。そんな保証も無いのに小町は笑ってくれる。暫くお金の事はなんとかなりそうだが収入が無ければ無くなってしまう。働かなければ生きていけない。小町は総武高校に入学したばかりだ。小町を守ると決めたなら、俺は。

 

ピンポーン。

 

そんな葛藤の中チャイムが聞こえた。

いつのまにか陽は落ちて辺りは夜になっている事に玄関まで来てようやく気付く。扉を開けると意外な人がそこにいた。

 

「やあ比企谷。大丈夫...ではないな。すまないあげてもらえるか?」

 

恩師であり、奉仕部顧問の平塚先生ともう一人。

 

「こんばんは、比企谷君。私もあげてもらえるかな?」

 

雪ノ下雪乃の姉である、雪ノ下陽乃さんがいた。

 

「...どうぞ」

 

何時もならすんなりあげるなんて絶対にしない。だがこの時は、目の前の二人が来てくれて心底安心していた。だからだろうか自分でも気付かずに先程まで出なかった涙が溢れていた。

 

「よく頑張ったね比企谷君。お姉さんが来たからもう大丈夫だよ」

 

からかってくる雪ノ下さんではなく真面目な顔で抱きしめてくれる。涙が溢れ、声に嗚咽が混じる。暖かい。親戚や友人には無かった優しい感情が流れてくる。

 

「お兄ちゃん?」

 

中々戻って来なかった俺を心配したのか小町が見に来た。恥ずかしいなんて思わず、我慢出来ずに陽乃さんの胸の中で声を上げて泣いてしまう。

 

「比企谷の妹もよく頑張ったな」

 

平塚先生も優しく小町を抱きしめる。

 

「うぐっお、お母さんとお父さんが」

 

「我慢なんてしないで泣いていいんだ。全て私にぶつけなさい」

 

小町の泣き声が聞こえる。自分の声と重なる。

今はこの人達に全てをぶつけても良いんだと喉が枯れるまで泣き続けた。

 

小町は泣き疲れたのか平塚先生の胸の中で寝てしまったので今は平塚先生に小町の部屋まで連れて行ってもらっている。

 

「少しは落ち着いた?」

 

「はい...あのすいません。正直助かりました」

 

あのまま抱え込んでいたら俺は壊れてしまったかもしれない。小町を守るなんて言いながら何も出来ずに。

 

「別に良いよ。君には私達も助けられてるからね」

 

「俺は何もしてませんよ...それに雪ノ下さんを助けた事なんて無いと思いますし」

 

「そう?でもさ助けられたってさ結局のところ、相手がどう思うかでしょ?私が助けられたと思ったらそれはやっぱり助けられた、なんだよ」

 

「雪ノ下みたいなこと言うんですね」

 

「ふふ、姉妹だからね」

 

こんな会話。もう出来ないと思っていた。

 

「俺。学校辞めようと思います」

 

「へえ。それで?学校辞めてどうするの?」

 

「働きます」

 

「あははは、君らしくも無い答えだね」

 

「小町を守るって決めましたから」

 

お金が無いと生きていけない。それは何よりもリアルであり現実である。お金が全てじゃ無いって言い繕ったって問題になるのはお金だ。

 

「そっか。でもね比企谷君が折角覚悟決めたようで悪いんだけどね。お姉さん、それには賛成出来ないな」

 

「....賛成出来なくても解は既に出ましたので止められませんよ」

 

「ううん。止めるよ、君がいないとつまらないからね」

 

「雪ノ下さんを楽しませる為に学校に行ってるわけじゃ無いですよ?」

 

「そう?私は楽しいけどね」

 

「それにお金が必要な事は決まってますから」

 

「高校中退して雇って貰えると思ってるのかね?世の中そんなに甘く無いよ?いくら理由があるって言ってもね」

 

雪ノ下さんの言ってる事は正論だ。高校も満足に行っていない奴が就職して直ぐに辞めないなんて誰も思わないだろう。そんな人間を会社は欲しいとは思わない。

 

「アルバイトでも何でもやってやりますよ」

 

「それは誰の為?」

 

「自分の生活の為ですよ。当然じゃ無いですか」

 

「違うね。君が卒業するまでのお金はあるはずだよ。あと5年は働かなくても暮らせる額は貰ってる筈だからね。なのにそんなに焦る理由は小町ちゃんだね?」

 

「小町は関係ないですよ」

 

「君はいつもそうだね。自分を犠牲にして誰かを守ろうとする」

 

「そんな主人公みたいな奴じゃ無いですよ俺は」

 

「そうだね。主人公だってもう少し自分に甘いもの。君みたいな主人公なんていないよね」

 

「何が言いたいんですか?」

 

ピンポーン。

 

雪ノ下さんの答えを聞く前に呼鈴が鳴る。時間を見ると夜の10時だ。こんな時間にうちに来る人なんていないはずだ。でも何故か数人だけ、頭に浮かんでしまう。

 

「これが私の答えだよ。ほら確認しに行きなよ」

 

「......分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「君という人間は、君が思ってるよりもずっと...」

 

「ずっと。何なんだ陽乃」

 

「静ちゃん!?えーと、いつから?」

 

「そうだな。比企谷妹をベッドで寝かしつけてきたから。比企谷が働きますって言い始めた辺りだな」

 

「殆ど聞いてたんだね...趣味悪いぞー」

 

「陽乃程じゃないさ。それで、ずっと?」

 

「もう!別に良いでしょ!!」

 

全く!静ちゃんは!だから結婚出来ないんだよ!

 

ふう...比企谷君。君は、君が思っているよりもずっと皆んなからもそして、私からも必要とされてるんだから。

 

 

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