機密戦隊ポリコレンジャー(不定期更新中です) 作:あばばばばsho
それでは、第11話です。
A.D.2018 5/21 14:20 台頭区 朝草付近
適当なところに車を停め、私は端末を介して政の様子を観察する。私の使命はあくまで観察することに過ぎない。ただ、時々介入してしまうのは親心、というのであろうか。私は子供を持ったことがないのでわからないが。
そんなことを考えているうちに、政は敵に追い詰められていた。
私は知っている。このままだと、唯野のように死んでしまうことも。そして、介入しても最悪の未来が待っていることも。
『私はこんなところで死んじゃうような人じゃない!私は、死なない。死ねない。狩野さんと約束したんです。私の理想をきっと叶えるって。そのためになら、私はなんだってする!』
私は驚いた。こんな台詞が政の口から出たということに。今こそ、賭けるしかない。政が、この力をどう使うか、見届けるしか道はない。
「死なないなんて、そんな保証、どこにもないじゃないか!」
原須は泣きそうな声で叫んだ。私が介入しなければ、死ぬ。これは紛れもなくこれから起きることだ。しかし、介入したとして、もしかすると最悪の未来を避けられるかもしれない。今の政自身の力で。私は決心した。
「いや、あるさ。」
あの時のようにはならない、させない。嘘をついてでも、裏切ってでも、人を殺めてでも、完遂する。これ以上の犠牲は払えない。
「政、君はやっと私が望んだポリコレッドになった。自分を信じ、執念を燃やし、何度だって立ち上がる。決して私と同じ理想ではないが、見届けよう。君の未来を。」
『あ、ありがとうございます!』
政は嬉しそうな声で応える。少し胸が痛んだ。このような良心は捨てたと思っていたが。
「君はその手に掴んでいる。それは、現在の最強の抗ウィルス兵器だ。」
「狩野さん、何ですかそれは?!」
原須は知るはずもない。その力は、私が仕込んだものだからだ。
政は手中にあるカードに気が付いた。私はそのカードに全てを託すしかない。この馬鹿げたゲームが行われている世界では、そうするしかない。
「それはタイヨウセイバーだ。この混沌の時代に、新たな夜明けを運んでくる剣だ。その剣をもってすれば、すべてのウィルスは敵ではないだろう。」
与えてしまった。だが、こうするしかない。この強すぎる力で新たな争いが生まれる。いくら力を得ても、争いは止まない。そんな地獄のような時代の扉を開けてしまったのだ。
『狩野さん、ありがとうございます。でも、私はこの力はいらない。欲しいのは、こういう力です!』
私が声を発する前に、政はすでにカードをスキャンしていた。
『タヨウセイバー!』
私の知らない未来がそこにはあった。
A.D.2018 5/21 14:25 台頭区 植野動物公園
「お嬢さん、どうしたの?」
とある警備員が少女に声をかける。彼は、目の前で少女が自身のタブレット端末を地面に叩きつけたのを目撃していたのである。
「どうして奴があの力を使える…?まさか…?」
「何を言っているんだ、君?おいっ!」
少女は警備員の静止を振り切り、足早に去っていった。
A.D.2018 5/21 14:23 ???
『タヨウセイバー!』
タヨウセイバー??狩野さんが言ってたのは、タイヨウセイバーだよね…。この力はいらない、って言って、何かに突き動かされたみたいにカードをスキャンしたら、こんなことになっちゃった。ていうか、いらないって言ったのに、スキャンしちゃったの、どうして?まあ、いいか。
そういえば、タヨウセイバーって、どんなものなのかな?
「え?」
これ、盾だ!狩野さんは剣って言ってたけど、私が、争いたくないって思ったから丸い盾になったのかな?
「うわっ!」
色々考えていたら、一気に黒い火球を浴びて、後ろに吹き飛ばされてしまった。そういえば、まだ戦っていたんだった!
「やばいっ!」
吹き飛ばされた時に、思わずタヨウセイバーを手放してしまった。次の火球は盾で防ごうと思ってたのに!今までのダメージの蓄積から考えて、今火球を受けるわけにはいかない。
きたる衝撃に、目を瞑った。しかし、衝撃が来ることはなかった。
「えええぇ?!」
私の目の前で、丸い盾、タヨウセイバーが、宙に浮いて、回転しながら火球を防いでいた。
『そうか、タヨウセイバーのセイバーは剣のセイバーではなく、救うもの、のセイバーだというわけか。』
狩野さん、一人で納得してないで私にも説明してください…。でも、いつもの冷たいような声じゃなくて、なんだかうれしそうな感じがする。
『政、その盾は、もともとタイヨウセイバーだったものだ。なぜ剣が盾になったのかは不明だが、その性質は持っていると推測される。きっとウィルスの攻撃なら打ち消すことができるのだろう。』
ってことは…?
『見たところ、火球も衝撃波もウィルスがもとになっているだろう。つまり、すべての攻撃をウィルスに頼っている敵の攻撃は全てその盾で消滅、無力化できると考えられる。』
すごい!これなら、あの黒い人の本体にも近づける!
「よし!」
自動操縦で戻ってきたポリコレイダーに乗り、最大の加速をかける。すると、さっきみたいに地面にいたウィルスはまた本体の黒い人に吸い寄せられた。今度は衝撃波が来ることはなかったけど。
『相手が、タヨウセイバーの特性を認知し、これ以上の攻撃は無駄と判断したのかもね。』
原須さんの声だ。原須さん、さっきまであんまりしゃべってなかったけど、気のせいかな?
私を乗せたポリコレイダーは、黒い人の前に到着した。
「あなたが誰かは知らないけど、あなたに取りついてるウィルスを消滅させて、今まで一人で頑張ってきたあなたを助けるよ。」
「正すは世界の常識!救うは少数派!ポリコレッド、見参!」
また言えた!これ、結構気に入ってるんだよね。
『なんなんだそれは?』
『どうしたの?』
あ、そうだった!前回は狩野さんも原須さんも聞いてなかったんだった!は、恥ずかしい…。
そんなやり取りをしていると、目の前の黒い人は、今までとは違った雰囲気になった。今までの、何もない感じじゃなくて、悲しみ、怒り…、そんな感じ。
「お前に…お前に何が分かる!あいつの言いなりになっている、お前に救われるくらいだったら死んだほうがましだ!」
そう黒い人が叫んだ瞬間、黒い人の表面が、黄色くなった。まるで、ウィルスが浸透して黄色い鎧の内側に入ってしまったような…。
現れた黄色い鎧は、以前見たのと全く同じだった。鎧の所々にある青と黒の稲妻の意匠を除いて。
A.D.2019 5/21 14:30 ???
朝に覚醒するときのような、浮き上がるような感覚がして、意識が戻った。目の前は暗闇だ。そういえば、俺はあいつにウィルスを打ち込まれたのだったな。結局、俺は奴に利用されていただけだった。奴に力を貸せば、俺の手であいつらを倒せると思っていたが。
声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。声は徐々に鮮明になってくる。まさか、この声は、偽物ではない、あのポリコレッドのものなのか?
「…させて、今まで一人で頑張ってきたあなたを助けるよ。」
一人で頑張ってきた?俺を助ける?何を言っているんだ。俺の夢も希望も、全部お前の仲間に奪われた。お前に助けられる筋合いなんてない…!
「正すは世界の常識!救うは少数派!ポリコレッド、見参!」
世界を微塵も知らないような奴が、世界を語っているなんて、許されない、許さない。
そう思った瞬間、目の前の暗闇は晴れた。いや、暗闇と一体となったと言うべきか。そして、心のうちにあらゆる人の声が木霊した。きっと、ウィルスに感染した人々の声だろう。その声を聴いた瞬間、俺の怒りは頂点に達した。
「お前に…お前に何が分かる!あいつの言いなりになっているような、お前に救われるくらいだったら死んだほうがましだ!」
「あいつって誰?私は誰の言いなりになんてならない!」
哀れだな。自分があいつに利用されていることにさえ気がつかない。前の俺と同じだ。無知は罪だ。その罪を、こいつに背負わせるわけにはいかない。罪を背負うのは、俺だけでいい。
「分からないのか?お前は狩野に騙されている。あいつは自分の都合のいい世界を創ろうとしているだけだ。自分の計画に必要ならば、仲間を裏切り、切り捨て、敵も容赦なく殺す。そういうやつなんだよ!」
「確かに、狩野さんは、アンチポリコレ派を全て倒して、みんなが公平に過ごせる社会を創ろうとしている。でも、私は違う。私の理想は、戦わずに、みんなでそういう社会を創っていくこと。そのために私はもう一度ポリコレッドになったんだ。」
そんなこと、できないに決まっている。そんなことが可能なら、とっくの昔に達成されているはずだ。何も知らないから、こんなことが堂々と言える。こいつの身も心もここで折って、二度とこの世界に立ち入らせない。
A.D.2018 5/21 14:34 ???
「分からないのか?お前は狩野に騙されている。あいつは自分の都合のいい世界を創ろうとしているだけだ。自分の計画に必要ならば、仲間を裏切り、切り捨て、敵も容赦なく殺す。そういうやつなんだよ!」
確かに、狩野さんはそういう考えだよね。でも、私は狩野さんのじゃない、私の理想を叶えるって決めたんだ。
「確かに、狩野さんは、アンチポリコレ派を全て倒して、みんなが公平に過ごせる社会を創ろうとしている。でも、私は違う。私の理想は、戦わずに、みんなでそういう社会を創っていくこと。そのために私はもう一度ポリコレッドになったんだ。」
そう言うと、黄色い鎧の人は詰め寄ってきた。
「じゃあ、今俺が感染しているウィルス、どういう経路で広まったかわかるか?」
そんなの、知るわけない。ウィルスを撒いたのは、アンチポリコレ派で、私じゃないんだから。
「このウィルス、実は一つのSNSの投稿から広まったものだ。その投稿を拡散すると、ウィルスに感染する。」
そんなことが出来るの…?じゃあ、学校の副校長先生とかも、その投稿を拡散して…?それにしても、その投稿って、どんなものだったのかな?
「そして、その投稿の内容は、外国人を酷く差別するような投稿だった。そして、その投稿は批判的意見、肯定的意見を交え、様々な形で拡散され、何千人がウィルスに感染した。それに、この投稿に対しても誹謗中傷が相次いだ。この意味がわかるか?」
そんな…。そういえば、原須さんは、選民意識がどうとか、差別意識がどうとか、言っていたけど…。
「無知なお前に特別に教えてやる。この世界ではもう戦争は起こっている。日常的に。自分と同じ意見を持つものを仲間とし、その他の意見を持つ人々を差別する。そして、名ばかりの正義を振るってお互いに傷つけあう。こんな醜い人間しかいない世界で、どうやって抑止力なしに、みんなで、公平に暮らせる社会が創れる?お前はそういう世界を創って皆を救いたい、とか考えているようだが、人類はそんなものを求めていない。人類は、争い、権力、そういうものが欲しいんだ。無知なお前の目に映る平等は紛い物の平等だ。それがわからないなら、今すぐここから消え失せろ。」
涙が出そうだ。黄色い人と、狩野さんが言うように、力でしか解決できない、そんな気がしてきた。少し前に、みんなで公平な世界を創っていこうと決心したばっかりなのに。私は、何も知らなかった。副校長だけじゃない。何千人もの人が、たった一つの投稿で、他人を差別して、争っている。いつ本当の戦争になっても、おかしくない。そんな現実を、今、初めて知った。いや、目を背けていただけなのかもしれない。
『知らなかったら、これから知ればいいじゃない?』
「原須さん…?」
悩む私に、原須さんは通信で優しく話しかけてくれた。
『政、君にはまだまだ知らない現実がたくさんある。でも、君の理想は素晴らしいものだ。その理想を現実にするために、これから知っていけばいい。そうすれば、誰もが公平に暮らせる世界が来るかもしれない。それを叶える力が、君にはある。今までの君を見ていて、そんな気がするんだ。』
原須さん、ありがとうございます。確かに、こんなところで理想を、夢を諦めるなんて、ポリコレッドとして、私という人間として、できない!狩野さんとの、そして自分との約束なんだから!
「私、決めたよ。私は無知だけど、これから世界をどんどん知りたい。だけど、絶対私の理想を諦めることはしない!今回のウィルスのこと、教えてくれてありがとう。私の理想の実現の難しさ、改めてわかったよ。でも、あなたのことも、もっと知りたい!」
「お前になんか、教える訳ないだろ…!」
黄色い人は、震える声でそう言うと、腰のホルダーに手を伸ばした。
『まずいっ!奴にカードをスキャンさせるな!この世界から出られなくなる!』
狩野さんの焦った声がする。黄色い人は既にカードを取り出していた。
「やめてっ!」
私は黄色い人にとびかかり、腕を抑えた。どういう効果で電脳世界から出られなくなるのかはわからないけど、今は狩野さんを信じることにする。
「だったら、このカードをスキャンさせてくれたら、俺のことについても教えてやろう。」
『政、そんな奴の口車になんか乗ってはだめだ!教えるなんて嘘かもしれないじゃないか!』
『そうだ。彼については、私から説明する。』
確かに、黄色い人は嘘をついているかもしれない。でも、この機を逃せば、いつ黄色い人がどうして私と狩野さんたちにこだわるのか、わからなくなってしまうかもしれない。
「お前、まさかとは思うが、狩野が言うことをそのまま信じるわけではないよな?あいつは自分に都合のいい部分だけしかお前に伝えないだろう。俺を信じるかどうかは、お前次第だ。」
狩野さんを信じるか、この黄色い人を信じるか。
「ハッ!甘いな。お前は俺がここで倒す。」
まずい!迷っているうちに、黄色い人を抑えている力が弱くなっていた!
黄色い人が私の腕を振りほどき、カードをスキャンしようとしたその時、黄色い人は視界からいなくなって、私の前には青い鎧の人がそこに立っていた。あれ、どこかで見覚えが…?
「お二人さんには、どっちかでもここで死なれると私にとって、不都合ってわけ。本当は、そこの赤いのはここで処分しても構わなかったんだけど、事態が事態なものでね。」
周りを見ると、黄色い人は、地面に倒されていた。今来た青い鎧の人に、蹴り飛ばされたみたい。そこの赤いのって、私のこと?事態が事態って、黄色い人が暴れてるってこと?
「お前…よくも俺にウィルスを打ち込んだな……っ!」
黄色い人が立ち上がって、青い鎧の人に近づこうとした時、黄色い鎧は黒くなりはじめた。まるで、黄色い鎧の所々にある青と黒の稲妻の所から、黒いものが染み出してきたみたいだ。
「さすが、ポリコレ係数が高いだけあって、ウィルスを注入されたのに死なないばかりか、それを何らかの力で抑制し、自我を保ったんだね。でも、私がウィルスを管理していることを忘れちゃ、困るよねぇ?」
今、何て言った?この青い人が、ウィルスを管理している?それじゃ、いままでの事件の悪い人は、全部この青い人だったの…?!
さっきまで黄色かった鎧は、すっかり黒くなって、動きも完全に止まってしまった。この青い人が全て悪いんだ。この青い人だけは、絶対に許せない…!
「そこで怒ってる君、何か勘違いをしていない?ウィルスを撒いているのも、管理しているのも私だよ。でも、もともとのポリコレ係数が高ければ、少量のウィルスじゃ感染しないんだよ。つまり、私は君たちの排除すべき人間を片っ端から感染させてるってだけ。」
「私は、ポリコレ派も、アンチポリコレ派も、みんなが公平に暮らせる世界を創るって決めたんだ!だから、私にとって排除すべき人なんてこの世界にはいない!」
ポリコレ係数がどうとかっていうのはわからないけど、私にとって、排除していい人間なんていない。
「ああそう、それはよかったね。でも、あともう一つあるんだよ。君は、私に勝てない。」
青い人は、きっぱりと私に言った。それ、どういうこと…?なにか、強い武器でも隠し持っているのかな…。
「君にとって排除すべき人間がいないのだったら、私も当然君にとって排除すべき人間ではない。君は矛盾を抱えているんだよ。戦わずに世界を変えたい、とか言って、その腕に巻きつけているのは何?それはれっきとした戦いの道具じゃない?」
何も言い返せない。私は、世界を変える力があるポリコレチェンジャーが欲しかった。でも、青い人が言うように、力を使うということは、相手を威嚇するか、争うかしかない。だけど、目の前の青い人を、私は許せなくても、倒せない…!
「少しはこの前会った時よりか成長しているかと思ったけど、買いかぶりすぎたね。でも、今は君を殺すより先にやることがあってね。君くらい、いつでも殺せるし。」
そういうと、青い人は、黒くなった人と一緒に消えた。
苛立ちと、焦りと、怒りと、悔しさと、いろいろな思いが心の中でぐるぐるし始めた。私の、みんなで、みんなが公平に暮らせる社会をつくる、という理想と、目の前に絶対許せない相手がいた、という現実。私はどうすればいいんだろう…。でも、さっき、夢を、理想を諦めないって決めたばっかりだ。絶対、この気持ちに決着をつけなきゃ。
『政、とりあえず戻れ。』
「…了解です。」
狩野さんからの通信に応え、私はポリコレチェンジャーの横のボタンを押した。
『電脳転移システム、起動』
11話、ご読了ありがとうございます。
次回の投稿は少し先になってしまいそうです。申し訳ございません。
どこかで20話くらいで締めたい、と言ってましたが、20話で終わりそうにないですね。着地点も決めていますが、それに至るまでの過程で、これを描きたい、これは削ろう、というものが書いているうちに増えてきてしまうのです。こういうライブ感もネット小説の強みなんですかね。
今後ともよろしくお願いいたします。