機密戦隊ポリコレンジャー(不定期更新中です) 作:あばばばばsho
A.D.2018 7/8 14:35 杉波区 麻ヶ谷付近
「狩野さん、この近くですよね?」
『そうだが、まだウィルスの反応は消えたままだ。ポリコレイダーのステルス機能を使ったままで、その場で待機してくれ。』
「了解です。」
麻ヶ谷の中心部から少し離れたところに到着した。
ここ、麻ヶ谷に向かう間に、ずっとステルス機能を使って来たんだけど、周りの人には私のことが見えないから、何度も危ない思いをした。まあ、しょうがないけど…。
「あの、すいません。」
いきなり後ろから声をかけられた。
「はい、何ですか?」
あれ、何でこの人、私が見えてる…?
「やっぱり君がポリコレッドか!会いたかったよ!」
「うわっ!」
いきなりその人に肩をつかまれ、投げ飛ばされてしまった。
「何するんですか!」
周囲にどよめきが上がる。
「なんだあれ!」
「いきなり赤いのが現れた!」
「あのおじさん何やってるんだ…?」
いてて…。立ち上がると、周囲の人はみんな私とその人を見ていた。写真を撮ってる人までいる。
『まずい…。ポリコレイダーから離れてしまったせいで、ステルス機能がなくなってしまった…。』
「あっ…!確かにそうです…!」
狩野さんに言われて初めて気が付いた。
『だが、そいつはステルス機能が発動中にお前の存在に気が付いていた。おそらく天野の関係者であり、今回のウィルス反応の関連人物だろう。』
「…!気を付けます!」
確かに、この人は普通の人ではない雰囲気があるけど…。
「やっとこの日が来た。私の無念を晴らす時が。」
「やっぱり、あなた、ウィルスに感染してるの…?」
「いいや、まだ感染してない、と言った方が正確かな。」
そう言って、彼は羽織っていた服を脱ぎ捨てる。すると、上腕に何かを巻いているのが見えた。
「まあ見ればわかるさ。」
半ズボンのポケットから注射器のようなものを取り出し、それを上腕に巻いている器具に差し込んだ。
『インジェクション!タイプハラスメント!』
「うおわああああっ!」
注射器のようなものを差し込んだ直後から、その人は苦しみ始めた。
「えっ…!大丈夫ですか…!」
どんどん、上腕の部分からその人の体が変わっていく。もう、人間の形じゃなくなってしまった…!
変質したその人の形は、私が最初に戦ったウイルスに形が似ているけど、少し違う。あの時よりかはもっと人間に近い形をしていて、どちらかというとゴリラのような恰好だ。
かなりの人が逃げたけど、まだ少し人が残っている。
「邪魔だ。」
ウィルスはそう言うや否や、自身の体から黒い塊を放出した。
不味い…!
「危ない!」
間に合わなかった。黒い塊が撃ち込まれた人の体も、さっきのようにどんどん変化していく。
「そんな…!何も関係ない人を巻き込むなんて…!」
まだ残っていた人は蜘蛛の子を散らすように逃げた。
「邪魔だったから俺の手下にしてやろうと思ってな。安心しろ、俺の感染が解除されれば、こいつも元通りだ。」
「だからってその人を苦しめるのは間違ってる!あなたが何を思ってるのかはわからないけど、他の人を巻き込むのだけは許さない!」
すると、その男の変身したウィルスは大声で笑い始めた。
「他人を巻き込むな?笑わせるな。俺はお前らみたいな集団に巻き込まれて全てを失った!ポリコレ、コンプライアンス、そういうものに人生を滅茶苦茶にされた人はごまんといる。」
「でも、すべての人は公平に扱われるべきだよ!確かにあなたは私たちみたいな人に全てを奪われたかもしれない。でも、だからといって他の人を苦しめる権利なんてあなたにはない。きっとあなただってまたやり直せるはずだよ!」
だったら、とそのウィルスは口をはさむ。
「俺を倒して止めてみろ。だが、お前には俺は止められない。ウィルスに感染しながらも、自我を完全に保っている俺と、電脳世界以外では出力に限界があるお前との差は火を見るよりも明らかだ。」
その時、狩野さんから通信が来た。
『やはり自我を保っていたか。今、義道がそちらに向かっている。それまではそいつをここで食い止めてくれ。』
「はい…!」
さっき移動中に狩野さんから説明があったけど、現実世界で使えるカードの枚数はポリコレイダーを入れて二枚まで、そしてポリコレイズの回数は二回までらしい。
あとカードは一枚しか使えない。腕の器具からタイプハラスメントって音が流れたってことは、ハラスメント型のウイルスなのかも…!もしかしたら、もしもし労働相談が使えるかもしれない…。
「噂のタヨウセイバーは出してこないのか。まあいい。ならばこちらから仕掛けさせてもらう。」
二体のウィルスはこちらに向かって飛んできた。
初めてウィルスと戦った時の記憶が一瞬フラッシュバックした。
A.D.2018 7/8 14:40 杉波区 cafe linen店内
「やっと見つけましたよ、天野さん。」
カフェの隅の席に座っていた天野を発見した銭倉は、天野の前に腰かけた。
注文を取りに来たウェイターに、銭倉はアイスコーヒーを注文した。
「で、何の用?」
天野は手元の携帯端末から目線を上げずに銭倉に尋ねた。
「まあ、貴方の今回の開発した新しい技術がどうなるのか、これを開発者であるあなたと一緒に見届けたいと思いましてね。」
「それだけじゃないんでしょ?」
「流石です。」
いつもの人当たりのいい笑顔をしたまま、銭倉は続ける。
「実はですね、ポリコレンジャー側も新しい人員を増やしたようでしてね。今日がそのお披露目になるかと。」
やっと天野は顔を上げた。
「どうせ君がなにか仕込んだんだろうけど。まあ、構わないよ。私はどっちが勝とうがどうでもいいからね。狩野と原須の能力よりも私の方が優れていることを証明し、最後に私の手で直接狩野を殺せばそれでいい。全てはそれだけのためだからね。」
「じゃあ、賭けをしませんか?ポリコレンジャーの新入りが天野さんのウィルスに勝てるかどうか。」
天野は小さく笑うと、それに答えた。
「実はね、ある程度能力が測れたらウィルスを回収しようと思ってるんだよね。」
「それは、今の段階ではポリコレンジャー側に勝てない、ということでしょうか?」
「ポリコレッドがタヨウセイバーを持っている以上、ウィルス側には有効打がないからねぇ。いくらポリコレッドが側に活動限界があるとはいえ、勝つのは難しいだろうね。」
銭倉の注文したアイスコーヒーが届き、銭倉はそれを口に含み、天野に疑問を投げかける。
「ウィルスの戦略ではポリコレンジャー側に勝てないなら、どうしてわざわざこんなことを?」
「まあ、今回の狙いは電脳世界からポリコレンジャーを引きずり下ろすことが主な目的だからさ。」
天野は再び手元の携帯端末に視線を落とした。
「やはりそうでしたか。世間にウィルスとポリコレンジャーの存在を広め、世界に亀裂を入れるための第一歩だと。」
銭倉はにやりと笑った。
「あなたと手を組むのは実に有効だったようです。あ、そろそろ時間なので行かないと。失礼します。」
そう言うと、銭倉は紙幣をテーブルに置き、店を出て行った。
「どいつもこいつも、自分の欲望のためによく動くなぁ。利用しているようで利用されていることに気が付かないのが一番怖いってことを知らないのかな。」
天野は店を出て行った銭倉の背中を見て、一人呟いた。
A.D.2018 7/8 14:55 杉波区 麻ヶ谷付近
「いい加減に逃げ回るのは辞めたらどうだ?」
ウィルスの感染したその男の人は殴り掛かりながら私に言葉を投げかける。
ヘルメット内に映し出されたタイマーを見ると、戦いが始まってからすでに十分以上が経過している。さっきの狩野さんからの通信によると、もしもし労働相談は、一体にしか効果が無く、現実世界では至近距離で発動しなきゃいけないみたい。
なんとか二人のウィルスを分断させて、なおかつカードをスキャンする隙を作らなきゃ…!
「ふっ…!はっ…!」
迫りくる二体のウィルスの攻撃を躱し、いなし続ける。しかし、肉体的、精神的な疲労もたまってきた。ポリコレイダーを脳内で動かして、牽制もしているけど、攻撃を避けながらだと、全然正確に制御ができない。どうしよう、と思っていたその時、狩野さんから通信が来た。
『政、これから作戦を伝える。』
「了解です…!」
狩野さん、ナイスタイミング!私は攻撃を躱しながら答えた。
『まず、ポリコレイダーに乗って距離を取れ。この状況でも自分の所にポリコレイダーを持ってくることくらいは出来るだろう。』
そして、と狩野さんは伝える。
『もしもし労働相談をスキャンしろ。』
「タヨウセイバーじゃなくていいんですかっ…?」
びっくりした。狩野さんなら、ポリコレロッドとか、タヨウセイバーとかをスキャンしろって言ってきそうだと思っていたから。
『どうせお前の事だから、もしもし労働相談を使おうと考えているというのはこっちもお見通しだ。お前の理想と可能性に賭けてみるだけだ。』
「ありがとうございます!」
その瞬間、少し安心してしまった。
「気を抜いてんじゃねえ!」
男の人のウィルスのアッパーをもろに食らい、私の体は宙に浮いた。
少し薄れた意識の中で、私は必死にポリコレイダーを呼び寄せる。次の攻撃が来る前に間に合わないと…!
「うわっ…!」
攻撃が来る前にポリコレイダーは到着したけど、乗り損ねてしまったせいで、私は自分で呼んだポリコレイダーに跳ね飛ばされてしまった。
その時、今度は原須さんから通信が入った。
『今だよ、政!この距離が詰められないうちに、もしもし労働相談をスキャンするんだ!』
「分かりました!」
なるほど…!結果オーライということにしよう!
地面につく前に空中で体勢を変え、着地に備える。足が地面に着くか着かないうちに、腰のホルダーからカードを取り出し、スキャンさせた。
『もしもし労働相談!』
電子音声が流れると、手元には、ガラケーというか、エンターキーしか押せない受話器みたいなものが現れた。
「スキャンできました!」
『よし!じゃあ、次は二体を分断する段階だね。ポリコレイズの時のエネルギー障壁をうまく使って二体目のウィルスを近づけないようにするんだ。』
なるほど…!たしかにポリコレイズの時に現れる障壁なら、バリアーの壁みたいに使えるかも!
「やってみます!」
ポリコレイズを使えるのは二回だけ。一回は、もしもし労働相談でウィルスを分離した後に使うために取っておきたいから、失敗はできない。
もしもし労働相談を手に持ち、今度は私からウィルスの方に走っていく。手前に二体目のウィルス、奥に一体目の、変身した方のウィルスがいる。
「はあっ…!」
『ポリコレイズ!』
二体目のウィルスが私に飛び掛かった瞬間、私はスライディングをして、すかさず背中にポリコレイズのエネルギー障壁を発生させた。これで少しの間は時間稼ぎができるはず!
「なるほど。一対一の対決を望むということか。ならばそれに応じてやろう。」
変身したウィルスの人はそう言うと、再び私の方に突進をしてくる。
「確かに、一対一の対決だけど、それは拳での対決じゃない!」
ウィルスの拳が私に触れる瞬間、私はもしもし労働相談のエンターキーを押した。
前に使った時のように、視界はホワイトアウトした。
A.D.2018 7/8 15:02 ???
目を開けると、私の周りには白い空間が広がっていて、少し離れたところに、さっきの男の人が立っていた。ウィルスに体を侵される前の状態で。
「お前にこんな能力があるとは聞いていなかったが。」
「やっぱり、天野さんからそのウィルスの注射器みたいなものをもらったの?」
その男の人は天野さんの名前を聞いたとき、少し笑った。
「まあ、そんなところだ。俺のポリコレ係数が低いとかなんとかって言って俺に接触してきた。」
「あなたは天野さんに騙されてる!あの人はあなたの為を思ってウィルスの注射器をあげたんじゃない!それに…」
「そんなこと、わかってるさ。」
その男の人は私の言葉を遮り、続ける。
「俺は、俺を陥れたやつに対して復讐ができればそれでいい。利用されたってかまわない。その希望が叶うなら。」
この人、あの佐別さんって人と同じだ。佐別さんは自分を不平等に扱われたことに対する憎しみだったけど、二人とも憎しみがもとで戦ってる。それなのに、ポリコレ係数は全然違う。ポリコレ係数って、何なんだろう…。
「憎しみをもとに戦ったって、空しいだけだよ。私ももう一人、憎しみで戦っている人を知ってる。けど、その人はいつもとても悲しそうなんだ。」
その男の人は私に近づきながら、口を開く。
「お前には、人に貶められ、地位も、家族も、財産も、何もかも失った経験はないだろう。なんでもないようなことで、パワハラだの、モラハラだの、セクハラだのと言われ、自分よりも能の無い奴に蹴落とされる。お前には何もわかっちゃいない。」
確かに、もし私がこの人のように全てを失ってしまったら、恨みに思わない、ということはできないかもしれない。そして、ウィルスを用いた力に誘惑されちゃうかもしれない。
「まだ15歳にもならないお前に現実を教えてやる。人間ってのはな、みんな自分の事しか考えてないんだよ。お前も、いつ信じてた友達、家族に裏切られるかわからない。お前らみたいにポリコレを唱えている奴らだって、自分たちが傷つきたくないからそんなことをやってるんだ。」
「それでも!」
今度は私がその人の言葉を遮った。
「それでも、私はみんなが平等に暮らせる世界を創りたい。誰かが理不尽に扱われることのない世界を創りたい!」
その人は今度は大声で笑った。
「そもそも平等ってなんなんだ?俺もお前も違う人間なのに、平等にしようってのがおかしいんだ。人よりも能力のある俺が、他の奴らと平等に扱われるっていうのは、逆に差別なんじゃないのか?」
前までの私は、ここで言い返せなかったかもしれない。でも、最近色々考えて分かったことがある。それは…
「確かに、人間はみんな違う。でも、みんな人間なんだ!そこは絶対に変わらない。あなたとはもっと話したい。もっと話せば、私の理想の世界がより良いものになる気がするんだ!」
私がそれを言い終わると、また視界がホワイトアウトし始めた。もしもし労働相談の時間切れだ。その男の人の表情を見ることはできなかった。
A.D.2018 7/8 15:06 杉波区 麻ヶ谷付近
気が付くと、私は地面に倒れていた。目の前では、丁度二体のウィルスが立ち上がっているところだった。二体目のウィルスも、もしもし労働相談の時間は倒れていたみたいだった。
『政、残念だが奴のポリコレ係数は若干上昇したが、5を超えることはなかった。分離失敗だ。』
「了解です…。」
当然だと思った。だって、あの人はまだ納得してない。納得しない限り、ポリコレ係数をあげたって、意味がない。ポリコレ係数という指標そのものが正しいかどうかさえわからないけど。
『政、後ろを見てみろ。』
え…、後ろ?
「久しぶりだねぇ?政正子ちゃん?」
この声は…。
振り返ると、やっぱりそこには青い鎧を着た人が立っていた。天野才乃だ。
「あなた、人を騙してウィルスに感染させるなんて…!」
「私はただ選択肢を与えただけだよ?選んだのは彼。」
「人の痛みに付け込むなんて、ただ利用しているだけでしょ!」
目の前の天野はそれを聞いて肩を竦めた。
「利用するも何も、利害関係が一致してるんだから、どうでもいいじゃない?」
言い返そうとしたその時だった。
「やっぱり悪人には生きている価値なんてない。アンチポリコレ派はここで殲滅させる。」
右から見たこともない緑色の鎧を着た人が歩いてくる。
殲滅って、最近聞いたけど…。もしかして…?
だいぶ役者も出揃ってきました。色々な角度から「ポリコレ」を考えたいので、あらゆるスタンスのキャラを出す必要があると思っており、なかなかキャラが多くなってきてはいます。
昨今の人種差別問題関連のニュースやネットなどを見ても、あらゆる意見の人がいて、色々考えさせられます。
大体の着地点は見えてはいるのですが、そこに持っていくのにあと何話かかるんだろう…って感じですね。
完結までは絶対書きたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。
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