機密戦隊ポリコレンジャー(不定期更新中です)   作:あばばばばsho

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第9話

 私は雨の中を歩いている。周りには、どこか見覚えのある景色が広がっている。なぜ歩いているのか、どこに向かっているのか分からないけれど、私はどこかに引き寄せられるように歩いている。

 かなりの距離を歩いた時、何もない裏路地になぜか意識が向いて、そこに足を踏み入れた。

 

「あれ?」

 

 何もない裏路地に、なぜか違和感を覚える。

 何もないと自分に言い聞かせ、振り返り、さっきまで歩いていた道に戻ろうとした時、私の後ろで爆音が鳴った。

 

「あ゛ッ……ぅう……」

 

 何もない空間から、女の子が現れた。

 

「お前はここで終わりだ」

 

 路地の反対方向から黄色い鎧をつけた何かが女の子と私の方に歩み寄ってくる。

 

「やめてっ!」

 

 私は何故かは分からないけれど、とにかくその女の子を守ろうとして、黄色い鎧に向かって突進をする。

 なのに、黄色い鎧は私にまるで気がつかないかのように、その歩みを止めない。

 私が黄色い鎧とぶつかろうとした時、私の体は黄色い鎧を通過した。

 

「あれ?!」

 

 ハッとして振り返ると、黄色い鎧は、左手でその女の子の首を持ち、その体を持ち上げ、右手で……

 

 

「だめぇぇぇえ!」

 

 

 A.D.2018 5/19 19:42 湊区 代場シティーセンタービル ポリコレンジャーラボ

 

「やっとお目覚めか」

 

 見回すと、懐かしい景色が広がっていた。ポリコレンジャーのラボだ。身体がなんだか少し痛むが、どうかしたのかな。私の寝ていたソファーの近くに狩野さんが私に背を向けて座っていた。

 

「うーん、夢か。あれ? でも何で私はここにいるんですか?」

「街を歩いていたら倒れている君を発見してね。ウィルスにでも感染したのかと思ったが、特に異常はなかったよ」

「そうなんですか……。原須さんはどこですか?」

「彼は今ちょっと出先でね。今いないんだよ」

 

 そういえば、さっきまでのことは夢なのかな……。私は2つの似た夢を見ていた気がする。一つは少ししか覚えていないけど、私が青い鎧を着た誰かに襲われる夢。もう一つははっきり覚えていて、ある女の子が黄色い鎧の人に殺されそうになる夢。

 

「狩野さん」

「何だ」

「私たちは自分勝手なんですか?」

 

 すると狩野さんは回転する椅子でこちらに向き、私の目を見据えた。

 

「夢の中で、誰かに言われたんです。私達は正義の味方なんかじゃない、私たちの力で傷つく人がいる、って」

「夢の中で君がそう言われたなら、君の意識の中にそういう考えがあるってことだな」

「うーん、よく分からないですけど、そうなんですか」

 

 狩野さんは立ち上がり、私の横に腰掛けた。

 

「誰も傷つけることなしに、世界を変えることなんて、無理だ」

 

 狩野さんはきっぱりと言った。

 

「世界を変える、ということは元々の世界を壊すことになる。創造の前には破壊が必要だ。破壊するには誰かを傷つけなくてはならない」

「そうですか……」

「この手の話は何度もしていると思うが……。そして、誰かを傷つけたとしても、世界を変える覚悟があって初めて、ポリコレンジャーとなれる」

 

 狩野さんはまた立ち上がると、ラボの中央の方に行って、何かを持って戻ってきた。

 

「君がその覚悟が出来たなら、これを渡そう」

 

 そう言って私に見せたのは、ポリコレチェンジャーだった。

 

「あれ? ポリコレチェンジャーは別の人に渡したんじゃ……?」

「ああ、彼女はすこし怪我をしてしまってね。ポリコレンジャーを続けるのも困難になってしまった」

「そうなんですか……」

 

 再び狩野さんは回転する椅子に腰掛けた。

 

「それで、お前はどうする? ポリコレンジャーをやるか、やらないのか。やらないなら、今すぐ帰ってくれないか。私は色々と忙しいんだ」

「私はもうポリコレンジャーをやりません。誰かを傷つけるのも、誰かから傷つけられるのも、もう嫌なんです」

「そうか。それなら帰ってくれ」

「あ、倒れてた私を助けていただいてありがとうございました」

「そのことなら礼には及ばない。君には今までお世話になっていたからね」

 

 そういうと狩野さんは奥へ行ってしまった。

 ポリコレンジャーラボから出て、エレベーターを使って下に降りる。外に出てみると、さっきまで雨が降っていたのか、地面は濡れていたけれど、空は綺麗に晴れていた。

 

 

 A.D.2018 5 /19 20:07 湊区 代場シティーセンタービル ポリコレンジャーラボ

 

 政がここを離れて数分経った。

 

「さて、どうするかな」

 

 インスタントのコーヒーを淹れ、数あるデスクトップパソコンの前に座る。

 

「まあ遅かれ早かれ彼女にはまた戻ってきてもらわないといけないが……。もう少し様子を見るか」

 

 そう独り言を呟いていると、事件現場の調査、という名目で遠ざけていた原須が戻ってきた。彼も政同様、唯野が死んだことを知らない。彼には、唯野は精神的ショックで入院中だと伝えている。

 

 原須は自分のデスクに向かおうとしたが、私に声をかけた。

 

「ところで、誰か来たんですか? 入り口に少し足跡がついてたんですけど」

 

 面倒なところに気がつくやつだ。原須に政がここに来たことを伝えると面倒なことになりそうだ。

 

「ああ、いつものスポンサーの人が来ててね」

「狩野さん、あそこの財閥、かなりやばいって噂ですよ? 兵器の開発がどうの、とか。僕たちの技術が盗用される可能性だってあります。そろそろあそこと関わるのは……」

「盗用されたって構わないさ」

「お言葉ですが、今回の件でもそうですが、何故そんなに余裕そうにしているんですか? ウィルスの被害も、各所の協力で増加傾向は緩くなってきたとはいえ、まだ感染したままの人も大勢います。我々の技術が盗用されれば、もっと被害が広がる可能性だって……」

「君の気分を害してしまったなら申し訳ない。だが、今は悲しみに暮れている時間はない。こうしている間にも、敵は世界を支配しようと動いている」

 

 カップに残ったコーヒーを飲み干し、椅子から立ち上がり、ラボの出口に向かう。

 

「じゃあ、唯野の家族に会ってくるから」

 

 そう言ってラボを出る。こんなのは偽りの目的。私の本当の目的は……

 

 

 A.D.2018 5/20 12:40 都内某所

 

「何だと?! あれは偽物のポリコレッドだったというのか?」

 

 少年は驚きと憤怒の混じった視線で少女を睨む。

 

「ねぇねぇ、そんなに怖い目で見ないでくれる? 殺したのはこの子じゃなかったんだから。あそこにいる子と全然違うでしょ?」

 

 そう言って少女は手元にあるタブレット端末で少年に政の写真を見せ、脇にある寝台の上に横たえられた唯野を指さした。

 

「替え玉を用意する必要があったのか?」

「何かしらの原因で、元々のポリコレッドが出動できなくなった可能性があるね。ただ、興味深いのは、私があの子を殺した時、この子が現れたことだね」

 

 少女は再びタブレットを少年に向ける。少年は身を乗り出して尋ねた。

 

「そいつはどうなったんだ? その様子だと取り逃したようだが」

「君に小馬鹿にされる時が来るとはねぇ? まぁ、あいつが来ちゃったからね」

「あいつって、狩野か」

「そういうこと」

 

 少女は立ち上がり、部屋の奥の方に行くと、ウィルスアブゾーバーを手中に、少年に近づいた。

 

「さて、感染した人も必要数に達したし、そろそろ実験も最終段階に入るよ?」

「そいつを使ってなにをする……ぇ?」

 

 少年が気がついた時には、すでに少女は少年の腹にウィルスアブゾーバーのウィルス吸入口を突き立てていた。

 

「君みたいに、ウィルスへの抗体が優れている奴に、過剰量のウィルスを注入するとどうなるか、実験してみたくなってね」

「なん……だとっ……ぅゔっ!」

「今君の中には、今回発生したウィルスの全てを注入している。ウィルスへの抗体、向こう側ではポリコレ係数とか呼んでいるものらしいが、そいつは電脳世界での強さに直結する。君みたいなやつがその力を持ってても宝の持ち腐れってやつだよ。私が有効利用してあげる」

「ゔぁぁっ……あ゛っ……」

 

 少年はしばらく身悶えると、蹲って動かなくなった。

 

「流石、命は保っているようだな。もう長くはないだろうが」

 

 少女は、少年の懐からポリコレチェンジャーとポリコレメモリを取り出す。

 

「さて、奴らが来る前にチューニングを済ませておくか」

 

 少女がキーを叩く音だけが、室内に響いた。

 

 

 A.D.2018 5/20 12:50 湊区 代場シティーセンタービル ポリコレンジャーラボ

 

 政は狩野さんに辞めさせられる形でポリコレンジャーを去り、唯野は先日の件で精神的ショックでポリコレンジャーを去った。いまだ増え続け、しかも人々の意識を取り戻す方法がまだ確立できていない僕らは、なす術がない状態だ。

 

「今回ばかりは、人々の意識を取り戻せる可能性は低いですよ、狩野さん」

「この前、週刊誌をはじめとしたメディアに、とあるSNSの投稿を拡散すると、原因不明の意識不明の状態になる、という記事が出てから、ウィルスの増加はだいぶ遅くなっている」

 

 そういえばそんなこともあった。このことを天罰だと言う人もいれば、人権擁護団体の行き過ぎた制裁だと言う人もいる。さらにはこれを利用したビジネスも生じたとか。

 

「だからといって、このまま放置するわけにもいきません。敵が新しい種を撒いてくる可能性だってあります。やはり政がポリコレッドを続けるべきだと思います。彼女なら僕らの限界を超えてくれる気がします」

「私もそれを思っていてね。彼女にこれを預けることにするよ」

 

 そう言って僕に見せたのは、ポリコレチェンジャーとポリコレメモリだ。

 

「もう彼女にかけるしかないからね」

 

 狩野さんがそう言い終わった時、僕のモニターに異変があった。

 

「あれ? ウィルスの反応が消え始めています!」

 

 狩野さんは椅子から立ち上がり、僕の方に向かってきた。

 

「よく見ろ。ここにウィルスが収束している」

「何故こんなことが……」

「敵の狙いは分からないが、これは緊急事態だ。私は政に会ってこよう」

「ウィルスの収束場所の詳細は、後でデータで送ります」

「よろしく頼む」

 

 狩野さんはポリコレチェンジャーとポリコレメモリを掴み、外へ出てしまった。

 非常にまずいことになりそうだ。そんな予感がする。

 

 

 A.D.2018 5/21 13:11 隅田区 隅田区立隅田第三中学校

 

 午後の授業が始まった。月曜日のこの時間は数学だけど、いつもは眠くなる。けど今は、こないだ見た夢のことが頭に離れない。青い鎧に殺されそうになる夢。そして、女の子が黄色い鎧に殺されそうになる夢。どっちの夢でも私は無力だった。今もそう。誰も傷つけずに、みんなが平和に暮らせる世界なんか、創れるわけないのに。もし出来るなら、もう誰かが私なんかよりも先にやってる。

 

「おい、お前こんなのも分からないのか?」

「よくそんなので小学校卒業できたなぁ?」

 

 教室の右後ろの方で、何やら囃子立てる声が聞こえる。多分、伊地目(いじめ)君に関してだ。

 伊地目君は、先月この付近に引っ越してきた転校生だけど、いつもみんなよりすることが遅くて、最近はこんなふうに言われることが多くなってきた。

 伊地目君も、静かな子だからあまり言い返すことのない子だから、喧嘩にはなっていないけど、ああいう言い方をされるのは嫌だと思う。

 だけど、私は他の人たちを止めることをしていない。私が止めたって、無駄だ。無力な私なんかが……。

 

「……りごと! ……おい、政!」

 

 ハッとして顔を上げると、私のことを呼ぶ先生と、教室のドアから顔を出す教務の先生がいた。

 すると、教務の先生は、私を外に呼び出した。

 

「君に用があるって人が来ててね。例の女の人なんだけど……」

 

 例の女の人って……もしかして狩野さん?! 

 

「そういえばあの女の人、こないだ転校しちゃった唯野にも会いに来てたな……」

「唯野さんって、私のクラスにいた人ですか?」

「あ、そういえば同じクラスだったね」

 

 私は新学期早々ポリコレンジャーに行くことになってて、学校を休むことがかなり多かったから、クラスの人の顔と名前がまだ一致していない人が多い。唯野さんは、こないだ転校したっていうことを聞いたけど、顔はよくわからない。

 階段を降り、応接室と書かれた部屋の前にたどり着いた。

 

「僕はここで失礼するから」

「ありがとうございました」

 

 教務の先生はそそくさと去ってしまった。

 

「失礼します」

 

 恐る恐るドアを開けると、私の予想通り、狩野さんがソファーに座っていた。

 

「やあ。久しぶり……でもないか」

「何度も言ってますが、私はもうポリコレンジャーをやりません」

 

 そうだ。私はもうポリコレンジャーなんてやらない。また始めたって、どうせまた迷うに違いない。

 

「本当ならまた代役を用意したいんだがね。どうにもポリコレッドの鎧に適合する人が見つからなくてね」

「私が適合したって、私に戦う気がなければ意味ないじゃないですか」

「実は敵が新たな動きを見せた。今までばら撒いていたウィルスを一点に集中させた。今まで観戦していた人から、全てのウィルスが消え去った」

「じゃあ、みんな治ったってことですか?」

「まあ、そういうことだ。だが、彼らがウィルスを集中させたことにより、さらなる脅威となる可能性がある。それを調査してもらいたくてね」

 

 そう言って狩野さんは私にポリコレチェンジャーとポリコレメモリを差し出す。

 

「本当は望んでいるはずだ。ポリコレッドの力を」

「そんなことないです!」

 

 私がポリコレッドの力を望んでいるなんて、そんなことはありえない! ポリコレッドの力なんて持ったって、私には何もできない、何も決めることはできない、何も創り出すこともできない。

 

「君は一度得た力を失って、無力感に苛まれているはずだ。君は私たちの想像を超えて、殺すしかなかった敵を、見事に助けた。だが今はどうだ? 私や、夢の中の人物に少し言われたくらいで、お前は簡単に折れるような奴だったのか?」

「……っ……」

「ポリコレッドの力を、君は思うままに使うことが出来るだろう。世界を変えることが出来る力を持つものが、その力と責任を放棄しているのは、ただ逃げているだけだ。君はポリコレッドの力で、世界中の人が平等に暮らせる世界を作るんじゃなかったのか!」

 

 悔しい。確かに狩野さんの言う通りかもしれない。身体中が、熱くなった。

 

「泣いているのか? 悔しかったら、見せてみろ。お前の理想が、実現できる可能性を」

 

 泣きながら、私はポリコレチェンジャーとポリコレメモリを手に取った。

 

「それでいい。ウィルスの収束場所付近まで、私が送ろう」

 




約2ヶ月ぶりの投稿です。
生活も少し落ち着いたので、書く余裕ができました。
次話もいつになるかわからないですが、よろしくお願いします。
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