蒼炎のレジスタンス   作:シン・ファリド

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第10話 蝕み奪う闇

「おい、マーキュリー」

「...どうした?マーズ」

「...チッ、役目を果たせずどこへ消えたと思えばこんなとこにいやがったか。お陰で"また"人間に力を貸す羽目になっただろ」

「...すまない」

 

ここはいわば、別次元...龍界。

外でイグナ達が話している隙に、俺はここへマーキュリーを呼び出し、こっちも聞きたいことを聞かせてもらうつもりだった。

 

「...まあいい。てめぇの人間を見る目は間違いねぇ。あいつ、利用価値はあるんだろ?」

「利用する気は毛頭ないが...彼は確かに強い」

「そうかよ」

「だがそれはお前もだろう?お前が選ぶということは...」

「あぁ。最初は使えそうだと思ったが...どうかな」

「と、言うと?」

「甘過ぎる。願いが強く大きいが...その願いが甘いんだよ。どっかで壁にぶつかって折れでもしたらな...」

「心配しているのか?」

「心配していると言えばしているな。武器が壊れたら修理するのは面倒だ。次を探すのもな」

「相変わらず、だな」

「...それがどうかしたか」

「...いや?」

 

そうだ。俺は変わってねぇ。あの日、この姿を手に入れてからずっとな。

 

「さて、それじゃあ色々と聞かせてもらおうか」

 

─────────────────────

 

「そして、カンナ様を探し続けていた所を、アストと名乗る魔族に見つかり、王女は自分達が捕まえている、と...」

「それで、人質にされて逆らえず、ここを抑えていた」

「そういう事です。...くっそあいつ絶対締め上げてやるからな...騙しやがって...」

 

大体の経緯を俺達が理解した所で、グレイが素に戻る。説明は終わり、の様だ。

 

「そんで、これからどうすんだよお前ら。俺は魔族共ぶっ飛ばさねぇと気が済まねぇが」

「無論、このまま戦い続ける。これからの為にここを取り返しに来たんだからな」

「ふーん...カンナ様も一緒か?」

「あー...レギナ、どうするんだ?」

 

王女という立場であることを俺達が知った以上、安全なところで待っていても俺達は何も言わないつもりでいたが...

 

「勿論、ついてくよ!皆の力になりたいし!」

「助かるよ。...で、そういうことみたいだが?」

「なら俺も同行しよう。カンナ様には誰だろうと手出しさせない」

「それは心強いな。これからよろしく頼む」

「言っとくがお前に力を貸す訳じゃねぇ、俺はカンナ様に力を貸すんだ。そこ間違えんじゃねぇぞ」

「...あ、あぁ...」

 

こうして、主一筋の乱暴騎士を仲間に迎え、俺達はまた一歩、前に進むのだった。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

「さーて、何かしら残ってねぇかな...」

「兄さん、何を?」

「まあ、物色ってとこだな。研究道具とか作った魔道具とか...使える物が残ってれば持って行くんだが...」

 

俺は今、中央区工房に来ていた。一度敵に制圧されている以上、何が無くなっているか一応確認しておくべきだと判断したんだ。因みに、イストさんもここにいる。皆の分の武器を作っているみたいだ。

ラクシアさんへの報告も済ませてあるから、いずれ残りの人達もこちらに来る。それまでの時間で一通り探しておきたいが...

 

「で、そういうお前は何でここに?」

「オレか?オレはー...探検してた!」

「...聞いた俺が馬鹿だったな、これは」

 

そうだった。こいつがこんなに広い、初めて来る場所に来て、しかも自由な時間まであるときたらそりゃあこうなるな。

 

「何でだよ!?いいじゃねぇか別にー!」

「駄目とは言ってないが...レギナ達は見張りだろ?お前もそっちにいればいいだろ」

「暇になったからな!グレイも大分回復したみたいだしな!」

「...まあ、そうだが...」

 

確かにグレイの実力は個人個人では俺よりも上だ。王家に仕えていただけの事はあるが...負けてはいられない。

 

「そんなに暇ならこっちも早めに終わらせる。その後で訓練でもしようか」

「お!本当か!?」

「あぁ。イストさん、ここ外しますけど大丈夫ですか?」

「勿論じゃ、若いのは存分に鍛えてこい」

「ありがとうございます」

 

そういうことなら、早く終わらせないとな。少しでも早く、あいつやラクシアさんと同じくらい強く...いや、追い越すぐらいの気持ちでいないと。

 

「...にしても、妙だな」

「何がだ?」

「殆ど物が減ってない。魔道具も研究資料も...いや、有り難いことなんだがな?」

「きっと使い方分かんなかったんだろ!この前来た自称強い奴とか、特にバカそうだったしな!」

「...じゃあお前は使い方わかるか?例えば、これ」

 

そう言って俺が、手元にあった道具を渡す。魔力を動力に動き、映像を記録、再生する物だ。すると...

 

「...分からねぇ!」

 

元気な返事が返ってくる。予想通りの内容で。

 

「じゃあ同類だな」

「う、うっせぇ!」

「ったく...よし、取り敢えずこれくらいにしとくか。ほら、外出るぞ」

「あっ、待ってくれ兄さーん!」

 

弟がついてくるのを尻目に、俺は歩きながら考え事の続きをする。

魔道具が消えてないのは、使い方が分からなかったからだったり、役に立つ物だと判断されなかったからだったりと考えられるし、資料も...人間と魔族で使う言語は違う、だから読めない。故に放置してもおかしくはない。

じゃあ、食糧は?

工房に来る前に調理室を覗いた。元の量こそ知らないが、少なくとも数日分ぐらいは保ちそうな量、保管されていた。

食文化の違いもあるし、自分達で食べなかったのはまだ分かるが...処分しておけば相手に打撃になるのにな。

 

「...考え過ぎか?」

「?どうした兄さん」

「いや、何でもない...ほら、もうすぐ外だ」

「おっ!よーし、早速始めようぜ!」

 

考えてもキリのない謎を頭の隅に押し込み、俺はロアとの打ち合いを始めた。

 

 

 

「そこだぁっ!」

「まだまだ!そんなんじゃ敵には当たらないぞ!」

「おらぁぁぁぁっ!」

「おっ...とぉっ!...今のは良かったな」

「だろー!?俺もそう思った!」

「...お前なぁ」

 

はっはっはと、大笑いしてみせるロア。

呆れた顔で、それを見る俺。

少しだけ、昔に戻ったような気がした。

 

...でも、まだ帰れない。

この戦いが終わるまで、平穏な日常には帰れない。

早く、終わらせよう。

 

「よしロア、それじゃあ続きを...」

 

改めて、双剣を握り直したその瞬間。

 

「『敵襲っ!東の方角から、魔族の部隊がこっち向かってきてる!』」

 

通信機を通しての、レギナからの声。東の空を見ると、確かに黒い影が空を舞っている。

 

「...訓練どころじゃ無さそうだ...行くぞ、ロア」

「おうっ!」

 

俺達は武器をしまい、敵の現れた方へと、最短の道を走り抜けて向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、遅れた!」

「あっ、イグナ!」

「遅かったな、どこで道草食ってやがった」

「運悪く訓練中でな...それでレギナ、戦況は?」

「今の所互角に戦えてるけど...前来たアストって奴が、グレイと戦ってる!」

「アストが!?やっぱり向こうとしても、ここは取られたくないか...!」

 

かつて戦い、俺達が退くしかなかった相手が、攻めてきている。

しかも今度は、ラクシアさんがまだいない。

かなり厳しい戦いに...ん?ちょっと待て?

 

「そういえば、アストって...」

 

───そして、カンナ様を探し続けていた所を、アストと名乗る魔族に見つかり、王女は自分達が捕まえている、と...───

 

...なるほど。

相手の方が圧倒的に多いのに、何故互角に戦えているのか、よくわかった。

 

「おらぁぁぁぁぁっ!俺を騙すその根性だけは認めてやってもいい!だが許さねぇ!とっとと死に晒せてめぇらぁぁぁぁあっ!!」

 

声の方を向くと、案の定グレイが大暴れしていた。

対峙しているのはアスト1人の様だが、攻撃の余波で周りの兵士が吹っ飛んでいく。

 

「なるほど。目当ての王女様とは合流できたか。良かったな?」

「ああよかったよ!だから遠慮なくてめぇを潰せるぜ!」

「...やれるものなら、な」

 

相変わらずの騎士らしくない乱暴な口調と、その乱暴さの欠片もない繊細で鮮やかな攻撃だが、アストはそれを短刀で受け流す。

アストの方が反撃に出ると、グレイはしっかりそれを受け止め、押し返す。

互角の応酬...けど、見とれている場合じゃない。

 

「ここからは俺達も加勢する!レギナも今まで通り頼む!」

「うんっ!」

「よしマーズ、お前も!」

「言われずとも、わかってるぜ」

 

戦況の把握を終え、俺達は走り出した。

その時アストは、後ろへ飛び退いていた。力を溜めているように見えた。

どんな技が来るかは分からない。こちらに気づいた様子は無いから、恐らく正面への攻撃。

グレイはといえば、飛び退いたのを好機と見てか踏み込んでいる。

 

「よし、俺達は側面から...!」

 

互角の戦いを崩すべく、それでも相手の技への警戒を忘れずに、俺達も飛び込んでいく。

そこで奴が放ったのは...

 

「『テンタクル・ウッズ』」

 

魔族が本来持つ筈のない、木の魔法だった。

 

 

 

 

 

「あっぶねぇ...」

 

本当に、間一髪だった。

剣を握り締め、思いっきり魔力を込めて引き抜こうとした瞬間に、地面から無数の木の根が生えてきて、オレ達を攻撃してきた。

兄さんが咄嗟に炎を撒いてそれを燃やし、数が減ったお陰で切り落とせたけど...

グレイも、前兄さんの攻撃を防いだときと同じ様に氷を纏って身を守っていた。全員致命傷は免れたみたいだな!

 

「なんで魔族のお前が、木の魔法を?」

「...兄さん?」

 

...兄さんが怪訝そうな顔をして、アストに問う。

何が変なのか、オレにはさっぱりだけど...

 

「それが我が天魔術、だと言ったら?」

「何?」

「誰彼構わず、とはいかないがな。生死をさ迷う程の傷を負わせれば、魔力を奪い取り己の物に出来る。それが我が術」

「なるほど...それで人間から奪った力がそれって訳か」

 

よ、よくわかんねぇ...けど、オレ達から何か奪ってったってのだけは分かった!

 

「じゃあ...返してもらうぞ!」

「っ!おいロア、闇雲に突っ込むな!」

「うおおぉぉぉぉぉっ!」

 

命も、住む場所も、平和も、魔力さえも。

何もかも奪っていく魔族への怒りのままに、オレは剣を握り走り出す。

アストは、さっきと同じ構え。さっきは咄嗟だったから危なかったけど、どんな技が来るか分かってれば、どうにか出来る筈...!

 

「『フレイムゲイザー』」

「うぉっ...!?」

 

全く違う、技。

踏み込んだオレの足元から炎が噴き出し、オレはその直撃を浴びてしまう。

 

「そういえば、雷の力はまだ持っていないな...次はお前から頂くとしよう」

「させる訳、無いだろっ!」

 

倒れ込んだオレの視界に、迫ってくるアストと、それを食い止めようとする兄さんが映る。けど...

 

「お前は殺す訳にはいかないからな。少し眠っていて貰おうか?」

「...っ!」

 

炎を纏った双剣の一撃を掻き消す様に、水が奴の手から溢れ出し、兄さんを呑み込んでしまった。

 

「ちっくしょう...寝てる場合じゃねぇ...!」

 

オレは立ち上がって、剣を構えたけど、受けた傷のせいで全身が重い。

そして、再び飛んでくるあいつの攻撃。

無数の根が、逃げ道を覆い隠すように広がり、向かってくる。

どうにか、しないと...!そう思い、踏み込んだオレは次の瞬間...

 

 

 

 

あいつの目の前まで、一直線に距離を詰めていた。

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