俺達は走り続けていた。誰かを助ける為、爆発の起きた方向へと、ただ真っ直ぐに。
そして街の中まで戻ってきたとき...そこには信じたくない光景が広がっていた。
「酷い...」
建物は倒壊し、辺りに瓦礫が散らばっている。
人々は逃げ惑い、それを追いかけるのは人ならざる者達。
翼や牙や尻尾...人間には無いそれらを備えたその種の名は、魔族。
ただ目に映る生物を襲うだけの魔物とは違い、知性を持ち、種として協力し行動する。俺達人間と何ら変わりはない。
だが、かつて人間と敵対していた記録こそあったが、最近はそんな動きは無かった。ここに来て突然だ。
「ああっ...やめろ...やめてくれぇっ!」
「嫌っ...死にたくない...!」
襲われる人達の声が聞こえてくる。考えてる場合じゃない。
「行くぞロア、レギナ!」
「おう!特訓の成果、あいつらに見せてやる!」
「これ以上...死なせない!」
俺達はそれぞれの武器を構え、戦場に飛び込んだ。
力の差は、それ程の物では無かった。
だが、敵はいつまでも何処からも現れる。
「くっそ!もうだいぶ倒したろ!どれだけ沸いてくるんだよこいつら!」
「落ち着けロア!いくら数が多くても無限じゃ無い筈だ!」
「分かってる!けど、こっちの魔力も無限じゃねぇし...!」
「ああ...。さて、どうするか...」
ロアの言う通り、魔力も体力と同じで休憩も無く使い続ければ消耗する。
だが、そんな事を言い訳にするつもりは無い。兎に角今は、敵を倒すだけだ。
「...!でかい奴、来るよ!」
レギナの声が聞こえ、その方向を向くと、他よりも巨大な魔族が近付いてきていた。
「あいつがここらの隊のボスか...?」
「おいおい...勘弁してくれよ」
「どうした?怖じ気付いたか?」
「なっ!んなわけねぇだろ兄さん!」
「知ってるよ...行くぞ!」
言葉を掛け合う内に、覚悟を決める。
残り僅かな魔力を振り絞り、俺達は立ち向かった。
「はぁっ!」
「おらぁっ!」
炎の剣と雷の刀が、ほぼ同時に振り下ろされる。
"それら"は確かにあいつの身体を斬った。だが、それだけだった。
「...嘘だろ」
俺達はその一撃じゃ、傷一つ付けられなかった。
俺達が呆然としている間に、敵は反撃の構えを取っていた。
「あ────」
気づいた時には、俺の身体はあいつの爪に抉られていた。
「がっ...」
「兄さ...っく、離せっての!」
「ロ...ア...!」
俺が吹っ飛ばされ、こっちに気を取られたロアが抑えつけられる。
「イグナ!ロア!待ってて、今行...うわっ!?」
「レギナ...ッ!」
周りの敵を相手にしていたレギナも、攻撃の手を止めてこっちを助けに来たその瞬間に、捕まってしまう。
すぐにでも立ち上がって助け出したいのに、身体は動いてくれない。
このまま時間が過ぎていけば、皆も俺も殺されるだろう。
だけど、そうさせるわけにはいかない。
もし俺の命一つで...あいつらを救えるのなら...俺は...俺は...!
だが俺の意志とは反対に、意識は薄れ、視界は黒く染まっていった。
「...ここは...?」
目が覚めると、全く知らない場所に俺は立っていた。
何だ、この場所は...この世界の物とは思えないような、綺麗な場所...これが死後の世界、という物なのか?
って、冗談じゃない。こんな所で死んでたまるか...!
あいつらを置いて逝けるか...俺があいつらを守るんだ...!
「願い持つ人の子よ...」
「...誰だ?」
何処からか声が聞こえてくる。一体何がどうなって...?
「我は...龍」
「龍...」
龍。俺の知る限り、その名が意味する存在は一つ。
強い願いを持つ人間の前に現れ、その魂を喰らうという。
「人の子よ、力が欲しいか」
龍が問いかけてくる。
「当たり前だ」
そして、俺も答える。
「ならば...お前の望みを言うがいい」
姿も見えぬと言うのに、威圧感を放つような声で告げる龍。
...力を欲するならば、望みを言えという龍。
そして、龍は人の魂を喰らうという伝承。
もし、伝承が本当ならば。もし、俺の想像した通りならば。
きっと龍は、人に力を与えるその代価に人の魂を求めるのだろう。
ここで力を手に入れたとしても、やがて俺は魂を喰われて死ぬのかもしれない。
けど、そんなのどうだっていい。
今はただ...皆を守りたい。
そして、その為に...
「そんなの決まってる...あいつらを倒すことだ!」
「良いだろう...その望み、聞き入れた。契約の時だ」
龍の声が聞こえると、視界が光で白く染まっていく。
その光が晴れると...
「離してよっ!離しなさいよ!」
「くっそぉ...こんな所で...!」
あの不思議な場所から、元いた所へと戻ってきた。
夢、だったのだろうか?
...いや、ほとんど使い切っていた筈の魔力が回復するどころか増している。
そうか...俺は力を得たんだ。
なら、この力で皆を守ってみせる!
「2人から、離れろ!」
俺は剣を振るい、炎を放って攻撃する。
これ自体は元々出来た技だが、威力が明らかに上がっている。
炎は的確に敵だけを襲い、2人はその隙に逃げ出す。
「ありがと、イグナ!」
「すっげぇ兄さん、今のどうやったんだ!?」
「話は後だ、今は残りの敵を片づけるぞ!」
「...そうだな!よーし、行くぞー!」
「さぁ、反撃開始だ!」