「ところで、兄さん」
夕暮れ時、レジスタンスのキャンプ場を歩いて回る途中...ロアが話を切り出す。
「どうした?」
「いや、さっきのあのすっげぇ力の話、まだ聞いてなかったなーって!」
「あーそれ、私も気になってた!何かあったの?」
そういや、まだ話してなかったな。2人とも興味津々だ。
だが...調べ始めたばかりの例の龍が直々に契約しにきたなんて言ってもなぁ...信じがたい話だしなぁ...
「んー、どう説明するか...」
『説明には及ばねぇ』
声が聞こえる。その直後、俺は身体から力が抜け落ちていくような感覚に襲われる。
そしてその感覚は間違っておらず、実際に俺の身体から噴き出した魔力は、やがて人の姿を形成する。
だがそれは...ただの人間の姿には程遠かった。
「ふぅ...やっぱ実体があると便利だな」
「うわ何か出た!」
その両腕は魔物の様にゴツく真っ赤な腕で、背には翼が生えている。正体不明の存在を前に、すかさず俺達は武器を構える。だが...。
「自分が契約した相手の事も忘れたか?」
「...まさか、あんたって」
「そうだ」
どういうことだ?、とでも言いたげなロア。
俺が説明を始める前に、その人?が口を開く。
「俺はマーズ、炎の龍だ。そこの人間と契約し力を貸すことにした。まあ、お前らもこいつの仲間みたいだからよろしく頼むぜ」
「ほーん龍...うぇっ!?龍!?龍ってちょうど今日兄さんが言ってた!?」
「ああ。さっきの戦いの中で現れたんだ。どうやら俺に力を貸してくれるらしいんだが...」
そりゃあ、驚くよなぁ...っていうか、俺も色々と聞きたいんだけどな。
「あれ?でも龍って、魂喰いに来るんじゃなかったっけ?」
「ハッ。確かにそれも可能だが、それはお前ら次第。特にイグナ...お前が持っているのはこの俺を惹きつける程の願いだ。まあ期待はずれな真似はするなよ」
...どうやら龍ってのは、俺の思ってたイメージとは大分違うみたいだ。最初の契約の時の威圧感は何処へやら。
「...ん?あんたさっき炎の龍って言ったよな?ってことは他の龍もいるのか?」
この世界の生物が持つ魔力には色んな属性がある。俺は炎でロアは雷、レギナは風...他にも色々あるんだが、ともかく。
わざわざ炎の龍って名乗ったんだ。他の属性の龍が居てもおかしくない。
「大正解だ。ま、いつか会える日が来るかもな」
「ほぉー...」
ロアの考えてることは、兄である俺にはだいたい分かる。どうせ『俺も龍と契約してもっと強くなりてぇなぁ!』とか思ってるに違いない。
「お前らー、飯の時間だぞー」
ラクシアさんの声だ。そういえば昼に、何人かの人が遠くに出向いて魔物の肉を持って帰って来てたっけか。
魔物は人間を見かければ攻撃してくる危ない奴らだが、その肉は火を通せば普通に食べられる物だ。普段は余り食べないが、食料も限られる今となってはそうも言ってられないしな。
「飯か。じゃあ俺は適当にフラフラしてくるからな、話があったら好きに呼べ」
「あれ?マーズは食べなくていいの?」
「龍は空腹なんぞに苦しむ種族じゃねぇんだよ。わざわざ人間の限りある食料を奪おうって気もねぇから勝手に食ってろ」
それだけ言い残すと、マーズは歩いてその場を去った。
言い方はきついけど、あれがあいつなりの優しさ...なのか?いや違うか?分からん。
ま、取りあえず。飯食うか。腹が減っては何とやらだ。
「おー、魔物の肉も悪くねぇな」
「うんうん、普通にいけるよこれ」
ロアとレギナの言う通り、弱めの炎魔法で焼かれたであろう魔物の肉は、十分美味しく出来上がっていた。
人数の都合もあって一人当たりの量は全然だけど、そこは状況が状況だ。仕方ない。
だが、そんな状況であるからこそ、ただの食事でも何か起きることはある。
「あっ!?俺の分どこ行った!?」
誰かの叫び声。そして何処からかの物音。
誰かが食料を盗んだのか...?
「ねぇ、あっちに人影見えたよ!」
レギナが外の方を見ながら叫ぶ。恐らく物音の方向を聞き分けて向いた方向に見つけたのだろう。相変わらずレギナの感覚は凄いな。風属性の使い手は感覚が研ぎ澄まされるって話だが...っとそんなことはさておき。
「追いかけるぞ!ロアも早く!」
「分かってるって!」
すぐさま武器を手に取り、俺達は駆け出した。
「...フッ、やはりこうなるか」
後ろの方から声が聞こえたかと思うと、マーズが翼を使い飛行していた。
発言の意図は置いておくとして、今は急がないと!
「いたっ!あそこ!」
「了解!レギナはそのまま、俺は横道から!」
「分かった!」
泥棒と思われる人影の場所を確認し、先回りし、挟み撃ち。
相手が1人なら、こうすればすぐにでも捕まえられる。
で、その正体はというと...
「...な、なんだよ。これは返さないぞ」
まだ幼い子供だった。
恐らく戦いに巻き込まれる中で親と離れてしまったのだろう。食料も無かったから、盗んでいった、と。
さてどうしようかと思っていると、マーズがいきなりその子供に掴みかかった。
「おい、何やってんだよ!?子供だぞ!」
「まあ見てろ...いや、その前に。折角だ、龍であるこの俺からお前らに1つ教えてやろう」
片腕で子供を掴み持ち上げたまま、マーズは話を続ける。
「人間ってのはな、結局のところ自分が一番大事なんだよ。こいつだってそうだ。自分が生き延びるために人の食い物を奪った」
冷たく、聞く者を突き刺す様な声で語るマーズ。
「別にそれは何も悪いことじゃない。寧ろ人間として真っ当だ。だがもしこいつが盗みを働いたせいで死ぬ誰かがいたとしたら?こいつはそんな事考えもせずに自分が生きるためにしたんだろうな。逃がせばまた繰り返すかもな。じゃあ...」
マーズは子供を掴んでいない方の腕に魔力を込め始める。おいおい...!?
「ここで消しておくのがお前ら自身の為だ」
「...させねぇよ!」
俺はすぐさま両手を伸ばし、子供を抱くようにしてマーズから引き剥がす。
「...?」
「えーっと、ちょっと待っててね」
不思議そうな顔をするマーズを余所に、俺は貰ったばかりのスカーフで早速ラクシアさんに連絡を取る。
「親とはぐれてしまった子供を保護しました。キャンプに連れて行ってもいいでしょうか?」
『ん?そんなこと聞くまでもないだろ、勿論歓迎だ』
「ありがとうございます」
連絡を終えて子供を見ると...マーズに怯えて、マーズから一番遠いところにいたレギナの後ろに隠れている。
そりゃそうか。殺されかけたんだもんな。
「そうだな...じゃあレギナ、あとロア。この子のこと、頼んでもいいか?」
「うん!えーっと...名前は?」
「...デシア」
「そっか。じゃあ...デシア君!私達から離れちゃだめだよ?」
「...うん」
デシアを連れて2人は先に帰って行く。さて、こっちも話を済ませるか。
「...おい、お前どういうつもりだ?」
「それはこっちの台詞だぞ?あの子は悪くないってさっき自分で言ってたじゃないか」
「あぁ。人間がそういう物である以上、あいつは悪くないしおかしくもない。ただ、戦いにおいては何も出来ない癖に生き延びようと飯を奪っていく。お前達からしてみれば邪魔だろ?」
相変わらずの発言。随分冷たいんだな...だけど。
「奪わないと生きていけないならこっちから与えてあげればいい。足りないなら俺が我慢する。俺の願いは無駄に命を奪うことじゃない」
「ほう...?お前の願いは魔族の連中を倒すことだろ?」
「そうだ。皆の為に」
「そう、皆の為に魔族を倒す。お前が我慢してまで限りある物を誰かに分け与えれば、その願いは遠退くぞ?」
「そんな事ないさ。勘違いしてるかもしれないから言っとくけど、別に俺の言う『皆』はロアやレギナだけの事じゃない」
「...何だと?」
やっぱりちゃんと俺の願いは伝わってなかった。なら、しっかり知っといてもらわないと。
「俺は...救える命が手の届くところにあるなら手を伸ばす。俺が救うことの出来る全ての命...それが俺の言う『皆』だ」
「...ハッ、救える命なら例え自分の得にならなくても救うってか」
「その通りだ。人を救うのに損得の話なんて要らない」
「そうかよ。自分のことはどうでもいいってか...分かったぜ」
マーズは呆れたような、だけど嬉しそうで、期待してそうな...色々と入り混じったような顔で俺に言う。
「お前のその綺麗事の極みみたいな願いが叶うか、お前が本性を表すか。どっちかが訪れるその日まで、俺はお前に力を貸す。だがお前は最後に俺が正しかったと思い知ることになる。楽しみにしとけ」
少しだけ、冷たさがなくなったようなマーズの声。俺もそれに応える。
「それは助かるよ。けど、本性を表すも何もこれが俺の本性だ。あんたこそ、本当は人間はあんたが思ってるよりもずっといい種族だって知った後で謝ることになるのを心待ちにしてるといいさ」
「上等だ」
言葉を交わしお互いの意志を知った俺達は、キャンプ場に戻る。
俺達の、ちょっと歪なコンビが誕生した瞬間だった。
キリのいいところまで書いてたらなんか文字数増えた気がする そして早くオルブレを書くんだよ俺