夏休みまで待って!!!!お願い!!!!
「戻ったぞ」
「アストね。例の人間はどうだったのよ?」
「奴自身はどうにかなるだろう。だが人間を率いている男、中々に手練れだった」
「へぇ...一筋縄ではいかなさそうね」
場所は魔界の王城...そのとある場所の暗い部屋。
部屋の中央には机が置いてあり、その周りを取り囲むように椅子が配置されている。
人間界から帰還したアストと、椅子に座っていた1人の魔族が言葉を交わしていた。
「おぉ...強い人間もいるのかぁ...!昂ぶるなぁ!なぁスピエル!アスト!次はオレにやらせてくれよ!」
「ガーベラ...でも貴方が出るにはまだ早いわ?獲物をじぃっくり、見定めてからでもいいでしょう?」
「そうだな。お前はザエルと並んで魔族の中でも最強格。それに先程言った人間にしても我々だけで何とか出来る。今の人間の相手などお前にとっては役不足だろう」
「なんだよ、冷めるなぁ...ま、そういうことなら楽しみは後に取っておくよ」
机の上に寝転がっていた、ガーベラと呼ばれた魔族が起き上がる。アスト達の言葉に気を落とすも、すぐに気を取り直すと、再び机に寝転がった。
「我々だけで、とか言いつつあのイグナとかいう人間逃がしてんじゃねぇか。俺にやらせろ。俺様なら人間1人捕まえるのも他の奴らを皆殺しにするのも余裕だぜ」
「...ベルゼ」
アストから見て最も遠い位置の椅子に座っていた、ベルゼという魔族が威張るように言う。
「随分自信があるのね。そんなに言うなら、次は貴方に任せようかしら。アストもそれでいい?」
「...いいだろう。だが呉々も油断するな」
「ったく、てめーは俺の親か何かか?ま、忠告どーも。そんじゃ片付けてきてやるよ」
そう言うと、ベルゼは窓を開けそこから飛び立って行った。
「ふん...相変わらず態度のデカい奴だ...ところで、ザエルはどこに?」
「あー、あの子の初陣についてったぞ?もしものことがあったら困るって」
「エリカか...あんな真似しておいてもしもの事も何も有るものか?」
「そうよね...少し同情しちゃうわ」
スピエルの顔が、微かに曇った。
「さて、こちらも早めに手を打とうか。それこそもしもあいつが失敗してもいいようにな」
「...えぇ、そうね」
彼等の意志は交差し渦巻き、しかしその魔手は確実に、少しずつ、抵抗者達へと迫っていた...。
「魔族だ!あいつらが来たぞ!」
「周りに人がいる場合その救助を優先しろ!行くぞ!」
ラクシアさんの指示で、俺達は戦いの場へ身を投じる。
『魔族』から人を、守るために。
「俺達も行くぞ!マーズ!」
「ああ。そらよっ」
声が聞こえた後、マーズは光の粒子の様になって俺の身体に流れ込んでくる。
俺の身体中に魔力が満ちてゆく。
よし、やるぞ。
敵を見据えて集中した後、俺は二つの剣を抜き放ち駆け出して行く。
敵影、まずは三つ。その内一つはこちらに攻撃の構え。
振り上げられた腕、その鋭い爪から放たれる一撃を俺は右で持った剣で受け流し、すぐさま左の剣で斬り上げる。
残る二つの敵が攻撃に移る前に素早く懐に飛び込み、連撃。
ロアの使っているような刀程のリーチや威力を持たない双剣という武器で戦う以上、それに合わせた戦い方を選ぶ必要がある。
そして俺が選んだのが、『素早く接近し、連続攻撃を叩き込む』こと。
威力が低いならば回数を重ねて補おう、という目的だったが、マーズの力によりその一撃辺りの威力も大きく増しているようだった。
あの時俺が倒れたのは、多分力を制御しきれなかったんだろう。そのせいでロアを危機に晒した。
もうそんな真似をしないためにも、少しずつ力をつけ、いつかあの力も制御できるようになってみせる。
だから、こんな所で倒れる訳にはいかない。
「悪く、思うなよ!」
身を捻らせながら回転し、周りを斬り刻む回転斬りで、俺は残りの二人を倒す。
「相変わらず多いなぁっ...せいやぁっ!」
「だからって負けるかよ!どぉりゃぁっ!」
周りを見渡すと、ロアやレギナも他のレジスタンスの皆と共に戦っている。やっぱり普通の魔族が相手ならどうにかなるってことだな!
だか...そう上手く行くわけもないんだよな、こういうのは。
「見つけたぜぇ、人間!」
辺りに鳴り響く叫び声と共に、空から誰かが降りてくる。鋭い爪に大きな翼。魔族で間違い無さそうだ。
「また増えやがったな!そんなに斬られてぇか!」
「はぁ?俺は『ゴエティア』のベルゼだぞ?てめぇら人間如きに負けるかよ!」
「ゴエ...何だって?」
「『ゴエティア』だ!ルシフェル様直属の魔族の部隊だよ!そん中でも俺は特に強ぇんだ、生きて逃げれると思うな!」
ロアが刀を向けて怒りの声をあげると、その魔族は自分について丁寧に教えてくれる。
そして、そのベルゼと名乗った魔族は、真っ直ぐ俺の方に突っ込んでくる。
ルシフェル、ってのは確か魔族の王の名前だ。王様直属となると相当強いんだろうけど...
「はっ!おらおらぁっ!」
「...!」
魔力を拳と共に連続で浴びせてくる。
一発一発が結構な威力で、受けきれるか微妙だけど...
...何か、妙だ。
いや、感じ取れる魔力はかなり大きいんだが...その割には...
『あいつ、使い方がなってねぇな』
中にいるマーズの声が聞こえる。なってないってどういう...?
『魔力の使い方が下手なんだよ。あいつ、多分だが遠距離戦の方が得意だ。さっきからあいつ、でかい魔力を考えなしにぶつけてるだけだからな。仮にも王様直属を名乗るんならもうちょい上手く戦うだろ』
確かに...よくよく考えてみれば、似た戦闘スタイルのレギナの方が、魔力は少なくても戦い方は上手い。
常に魔力を纏わせ続けて無駄に消耗するんじゃなくて、攻撃する一瞬に絞って魔力を瞬間的に解放する方が、長い間持つ。
魔力の総量が多いからこそなのかもしれないけど、それなら尚更遠距離から一方的に浴びせ続けた方が強い。
なのに、わざわざ接近戦を?
『そういうこった。間違い無くあいつ...お前達を嘗めてるぜ。そこにつけ込め。そして、叩きのめしてやれ』
ま、向こうが油断してるなら本気を出す前に倒した方がいいよな...よし!
...とは言っても、魔力の差を簡単に覆せる訳じゃない。
ただ、俺は1人じゃない。協力して戦うことが出来る。
だから今の俺が出来ることは、俺達の攻撃を通せる隙を見つけること。
「どうしたどうしたぁ?反撃できないかぁ!?」
こいつっ...こっちは集中してるってのに!
攻撃を受け、流し、次に備える。それを繰り返し続ける。
あまりにも大振りなその拳は一見隙だらけにも見えるが、下手に反撃すれば恐らく受け止められてしまうだろう。だから...
「お?剣二本で受け止めたな?それじゃあ次の一撃は受けれないなぁ!」
わざと、隙を晒す。
そして叫ぶ。
「今だっ!」
合図に気付いたロアとレギナが、左右から攻撃を浴びせようとする。
だがベルゼもそれを黙って受けるほど馬鹿じゃない。すぐさま俺への攻撃を止め、左右からの攻撃に"両手で"対応する。
それを、待っていた。
「お前も腕二本で受け止めたな?」
「しまっ...!」
ベルゼが焦りを顔に浮かべるが、もう遅い。
俺は懐に飛び込み、腕を交差させて剣を構える。
「それじゃあ次の一撃は、受けれないなぁっ!」
そして、交差させた両腕を開く。剣には勿論、最大限の魔力を纏わせて。
その一撃は、確かに敵の胴を抉り斬り、大きな傷を付けた。
「がぁぁぁっ!てめぇぇぇ!俺様に傷を付けやがったなぁ!?」
怒りに満ちた表情、声で、ベルゼが怒鳴り散らす。
流石に、もう油断してくれないだろうし、ここからはもっと厳しくなる...
...と、思ったんだが。
「ちぃっ...だが!今日はあくまでてめぇらの強さを量りに来ただけだ!次は本当に殺してやるから、覚悟しとけよ!」
物語の小物な悪党みたいな捨て台詞を吐いて、飛び去って行った。まだ倒れてなかった他の魔族の兵達も、それを追いかけて逃げ帰っていった。
そりゃまあ、一番強い奴があんな帰り方したら士気も落ちるし、逃げたくもなるよなぁ...。
「...何だったんだろ?特に強いー!とか言ってた割に私達だけで勝てちゃったけど...」
「んー...あ!分かったぜ!あいつあれだろ、バカってやつだろ!」
ロア...こいつに言われちゃあもうお終いだな...
少し笑いそうになりながらも、ふと真剣に考える。
あいつがもし最初から本気で来ていれば、なすすべなくやられていたであろうことを。
それに、あいつがくる前、戦いの中周りを見渡して思っていたが、皆が皆武器を持っている訳じゃない。
慣れない暴力を使わなきゃ行けない人もいるし、魔力を実際に戦いで使うのだって慣れてない筈だ。
そんな状態でも戦えるような...もっと具体的に言えば、簡単に使える武器が欲しいところだった。
それが可能かもしれない人のことも、知っていた。
「おっと、もしかしてお前も同じ人のこと考えてたか?」
「ラクシアさん。ラクシアさんは誰のことを?」
「イスト...だな」
「...どうやら考えは同じようですね」
イストさん...それは、この国の武器職人の名前だった。
俺やロア、レギナの今使っている武器を作ってくれたのもその人だった。
あの人なら、皆の武器も作れるし、作ってくれる筈。
無事に生きていることを願いながら、俺達は一度キャンプ地へと戻った。