蒼炎のレジスタンス   作:シン・ファリド

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第7話 武を鍛錬せし槌

「さーて、どうやって捜そうか」

 

俺は悩んでいた。イストさんと合流して武器を造ってもらう、と決めたところまではよかったんだがな...。

王直属を名乗る魔族との戦いから1日。いつ魔族が現れてもいいように分散して色んな場所に出向いているレジスタンスの隊員からも魔族が出たという報告は無く、職人っぽい人を見たなんて報告もやっぱり無かった。

 

「そーいやさ、兄さんとイストさんって同じ場所で働いてたんじゃなかったっけ?えーっと...確か名前が...玉立研究所!」

「王立研究所、な?...まあ、建物は同じだが、俺は魔法や伝承を研究してるから実験室とかにいることの方が多いし、イストさんはずっと工房だ。...で、それがどうかしたのか?」

「もしかしたらその研究所にいたりして、って思ってな!」

 

...なるほど。そういえば、その可能性が頭から抜けていた。ロアはこういう時の直感や発想は中々優れていて、俺が見落としてた物に気づかせてくれたりする。

 

「確かに、捜してみる価値はあるかもね」

「だろー?」

「うんうん!今日はロア冴えてるね。いつもはあんなんなのに」

「一言余計だっての!」

 

...ま、普段が酷いのは否定しないが。さっきの『玉立』発言だって、いくら字が似てるからって普通間違えるもんでもないしな。

 

「じゃ、早速ラクシアさんに連絡取ってみるよ。...『イストさんの居場所について、研究所という可能性が浮上したので、確認のため出向いてもいいでしょうか?』」

『了解した。だがあそこは色んな設備、道具が揃ってる。とっくに敵が占領してる可能性もある以上、慎重に向かえ』

「『了解です』...っと。許可は出たし、研究所に向かおう」

「おうっ!」

「うん!」

 

2人とも気合十分。それじゃあ、善は急げって言うし早速...とその前に。

 

「マーズ、行くぞー!」

「...あぁ」

 

俺が呼ぶと、マーズはその翼で羽ばたきながらこっちに飛んでくる。さ、それじゃ今度こそ出発するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ねぇ、この先に研究所があるんだよね?」

「?そうだが...?」

 

俺達はもうすぐ研究所が見えてくる場所まで来ていた。

だが、突然レギナが何かに気づいた顔で俺に聞いてくる。

 

「...この先で誰かが戦ってる。この感じは...地の魔力かな」

「本当か!?急いだ方が良さそうだなっ...!」

 

魔力の感知が得意なレギナが誰かの魔力を感知したみたいだ。今の人間が戦う相手なんて、基本的には一種だけ。

...魔族が、この先で人間を襲っている。

もしくは、勇気のある誰かが魔族と戦っている。

どちらにせよ、助けなきゃいけない。

だったら...走れ、全速力で!

 

 

 

「見えた...相手は魔族みたい!」

「やっぱりか...!」

「よーし、そこのあんた!助太刀するぜ!」

 

魔族と戦う1人の男が見える。大槌を構えた男。

まさかと思った。さっきレギナは地の魔力と言っていた。

地の魔力に、大槌...

奇遇にもそれは、俺達の探し人に何もかもが一致していた。

 

「真か?それは助かるのう!...む?お主...」

「...やっぱり!」

 

その振り向いた顔には、見覚えしかなかった。

老人にも関わらず力強く巨大な槌を握り締めて戦う、老いを感じさせないその姿。

間違いない。

 

「イストさん!俺、イグナです!ここからは俺も戦います!」

「やはりか!うむ、共に戦おうぞ!」

「はいっ!」

 

相手の魔族は...他の個体と同じ様に翼や尾があって、武器は持たず素手で...そして、珍しく一人だけだ。どういう訳かは知らないけど、それなら戦い易い。

俺が走り出した瞬間に戦いが始まるのを理解したマーズが俺の中に入ってくる。身体中に力が流れ、満ちていく。

 

「おいおいおい...アスト様からの命令は人間一人の始末だぞ!?こんな大量に来られちゃ困るってもんだ!」

「知らないよ、そんなこと...っ!」

 

俺は早速双剣を引き抜き、その勢いのまま斬りかかる。

一撃目は回避されるが、即座に距離を詰め連続攻撃。

人間一人の始末...つまり、イストさんを倒すために送り込まれたってことか。

多分、イストさん一人が相手なら勝算があるくらいの実力なんだろう。

けど、ここからは俺達も相手だ。イストさんはやらせない!

 

「俺もいるぜっ!」

「待て!やめろ!やめろぉっ!」

「うるせぇっ!黙ってろ!」

 

横から刀を抜いたロアが突撃してくる。

雷を纏った素早い太刀筋は、少しずつ、だが確実に敵を追い詰めていく。

...ちょっと待て。

 

「おらおらぁっ!その程度なら俺一人でも勝てちまうぜ!」

「怖ぇ...怖ぇよぉ...」

「知るかっ!何も悪くない人達を散々恐怖させといて今更何言ってやがる!」

 

確かに、ロアは強い。

確かに、イストさんは老いている。

...だが。

少なくともレギナが感知してから俺達がここにくるまでの間、こいつはイストさんと互角にやり合ってた筈だ。

 

「追い詰めたっ!次で倒す!」

「来るなぁぁぁぁっ!」

「...ロア!気を抜いてはならぬ!」

「え?」

 

...何で、俺達が来た途端こうもあっさり追い込めるんだ?

 

「...ま、俺は負けないけどなァ」

「なっ!?」

 

突如として、あの魔族の足下が歪みだす。

例えるならば...石を投げ入れられた水面の様に。

しかも、それだけに終わらず...奴は地面の中へ沈んでいった。

 

「おい!逃げんな!出てこいっての!」

「...待ってロア、後ろ!」

「出てきてやったぜ、お望み通りィ」

「後ろ...!?」

 

ロアが怒鳴った次の瞬間、奴は沈んだ場所とは別の場所から現れる。まずい、ロアが...!

 

「させぬぞ!」

「...チッ、老いぼれがァ」

「あっぶね...助かったよイストさん!」

「礼には及ばんわい...それよりも気をつけろ!奴は...天魔術の使い手...!」

「テン、マジュツ?」

「...奴は油断しようものなら即座に命を奪われる危険な相手だ、とだけ覚えておけばいいわい」

「そ、そうか...わかった!」

 

天魔術。

魔法の研究の際に読んだ本に記述があった。

闇の力を高めていくと辿り着く領域。

個体によって違う力が目覚めるが、どれも使い方次第で高い効果を発揮するという。

多分あいつの力は...水に潜るように地面に溶けられる術、ってとこだろうか。

けど、その身から放つ魔力は消せない筈。

なら...

 

「ロア!一旦下がれ!」

「兄さん!?何で!」

「俺に考えがある!」

「...そうか、なら信じるぜ!」

「助かる!」

 

ロアに後ろに下がってもらい、俺が前に出る。

勿論、あいつの移動範囲に際限が無いのならそんなの意味がない。それは分かってる。

だからまずは。

 

「天魔術だかなんだか知らないが...姿を隠して奇襲する卑怯者に変わりは無い!かかってこい臆病者!」

「てめぇッ...人間の分際で生意気言いやがるなァ!」

 

よし、安い挑発だとは自分でも思ったけど、何とか乗ってくれた。こっちに注意は向いたし、あいつが地面に溶けたから、次は...

 

「さぁ、俺を追いかけてみろ!俺を殺してみろ!俺はお前如きに負けたりしない!」

「好き勝手いいやがるなァ!望み通り殺してやるよォッ!」

「...兄さん、何やってんだ...?」

「恐らくあの術を破る術を探しているのか...あるいは

、見つけたものを試そうとしているのか」

 

俺は煽るのを忘れないようにしつつ走り出す。なるべくロアから遠い場所へ。

...よし、そろそろ頃合いか。

 

「『レギナ!あいつの魔力、見えるよな?』」

「『うん!もうすぐイグナに追いつきそう!』」

「『じゃあ頼むぞ、小さめに!』」

 

敢えてスカーフを通して、俺は小声でレギナと話す。

あいつはあくまで地面に溶けた後、瞬間移動して攻撃してくる訳じゃない。

それはさっき、あいつが地面から出てくる一瞬前にレギナが警告してたから気づけた。

だからといって、地面の中に攻撃する方法は流石にない。

だったら、出てくる瞬間を狙うしかないが、そこそこの手練れであるあいつを相手に出現を察知して即座に振り向き、致命傷を与えるなんて、事前にあいつが出てくる場所でもわかってない限り不可能だ。

だから、レギナに敵の場所を教えてもらう。

けど、さっき地面に溶けている状態でも俺の挑発に乗ってたことから、多分地面に溶けてる間も外の声は聞こえるんだろう。

だから、俺が聞き取れる最小限の声で。

 

「『イグナの左側後方から、来るよ』」

 

抵抗者の証たるスカーフを通じ、小さな声でレギナが俺に敵の居場所を伝える。

その言葉通り、奴はやってきて...

 

「さぁ死ね...何ィッ!?何故お前がこっちを見て...!」

「今だ...マーズ!最大火力!」

『ほらよ。さぁ、焼き尽くせ』

 

体内からのマーズの声。準備はとっくに出来てたみたいだ。

そして俺は、二つの剣を思いっきり振りかぶる。

交差させた剣を開いて斬ったベルゼの時とは違い、最初に大きく開いてから、それを閉じて敵を斬る。

 

「うぐァァァァァァッ!」

 

刃は通った。敵は燃えた。

だが...死んではいない。

 

「畜生...畜生ッ!」

「そこまで弱くはないか...!」

「せめて...一人は殺して...ッ!?」

「とっととくたばれ」

「うわっとと...って、マーズ!?」

「あ...あぁッ...」

 

必死に起き上がろうともがく様。警戒していた俺達を余所に、マーズが俺の身体から飛び出してきて、躊躇なく炎を浴びせて焼き払う。

 

「...容赦ないな。わざわざ灰にしなくても良かっただろ」

「こいつは魔族だ。人間のお前が同情する理由は無いだろ?」

「...まあ、な」

 

戦いを仕掛けてきたのは魔族だ。それによって、関係無い多くの人が巻き込まれた。恨むべき相手だ。

...けど、生きてるのに燃やし尽くすのは流石にちょっとなぁ...

 

「何はともあれ助かった。礼を言うぞ。」

「こちらこそ、無事に生きていてくれてありがとうございます。早速なんですけど、頼みたいことがあって...」

「武器が足りんか?」

「話が早いですね...そうです、武器を造ってほしくて」

 

戦いは一段落した。研究所がどうなってるかは分からないけど、見たところ特に見張りの魔族とかがいる様子もない。イストさんが守ってくれていたんだろうか。

 

「だが...材料も設備も足らん。研究所も、奪われてしまったわい」

「...え、でも外側からはそんな様子一切無いですよ?」

「そうじゃな、儂も最初はそう思い中の様子を見に行った。じゃが」

 

そこで一度言葉が切れる。その後放たれた言葉は、俺達を驚かせるには十分すぎる物だった。

 

「1人の人間がそこに居た。研究所を守ってくれたのだと思った。感謝の言葉を告げようとした次の瞬間...奴は槍をこちらに向けていた」

「なっ...」

「何も出来んまま儂はやられてしまったよ。命からがら逃げ帰り...それ以降、さっきの奴のような追っ手が送り込まれてきたという訳じゃ」

「...そう、だったんですね」

 

研究所には、人がいる。それだけなら嬉しい報告だった。なのに、そいつはイストさんに武器を向けた。

つまり...俺達の敵。魔族の味方ということになる。

しかも、相当な強さの。

 

「こりゃ大変そうだな...兄さん、一旦戻るか?」

「...いや、このまま行こう。大変だろうけど、俺達でやるぞ」

 

研究所を取り戻して、戦いを前に進める。

いつまでもラクシアさんや皆に頼ってられない。

俺達の、力で...!

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