Fate/Masked Order Cosmos in the Rider belt   作:語屋アヤ

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第10節『夜想曲♭キバの鎧』≫1

 吹きすさぶ吹雪の中で、銃声とヤガ達の悲鳴が断続的に響いている。

 

 ヤガ達は皇帝に対して敵意を抱いている盗賊連中だった。

 駆紋戒斗が貴族達をまとめた反皇帝派のリーダーとなったことに納得ができず、グループから離反したメンバー達である。

 

 彼らは当初悠の率いる叛逆軍に入ろうとしたが、弱者の集まりに過ぎないとこちらも否定し、生き残るため盗賊へと堕ちた。

 そして小さな村で権力者に取り入り、自分達の隠れ家としたのだ。

 

 今その住処を、殺戮猟兵(オプリチニキ)を率いた『キバ』が襲撃している。

 仮面ライダーの圧倒的な力に、ただ武装しただけのヤガが敵うはずもない。

 銃声を遥かに上回る爆発音が響き、そこで戦闘――と呼ぶにはあまりに一方的だった蹂躙は終了した。

 

「くそ……化物め……」

 

 抵抗を試みた殆どの盗賊達はもはや息絶えた。辛くも生き残った一匹も怪我と痛みで動くことすらできず、うつ伏せの状態で苦々しく吐き捨てた。

 

「ぐがっ……あぐっ……」

 

「音楽も知らない(ヤガ)に言われるとはな」

 

 『キバ』に喉を掴まれ持ち上げられたヤガは、まともに声を発することも敵わず、うめき声を上げる。

 

「お前達は叛逆軍か?」

 

 問いかけながら、『キバ』は僅かに首にかけている力を緩めた。

 話さなければこのまま殺される。本能でそう悟ったヤガは苦しそうに声を絞り出す。

 

「違……う……俺達は、あんな……惰弱な奴らとは……」

 

「お前の音は醜いな」

 

 つまらなさそうにそう呟くと『キバ』は手を離した。

 ヤガは重力に引かれるまま雪原に腰を打ち付けて、本能で肺に空気を送り込む。

 

「あがっ! ゲホッ! ゴホ……!」

 

 逃げた盗賊を捕まえるために散っていた殺戮猟兵(オプリチニキ)達も、数匹のヤガを捕獲して『キバ』の元へと集結してくる。

 今回の惨劇で残った数名の生存者達。誰も彼もが抵抗した結果、既に傷を負っている。

 

「捕縛しました」

 

「こいつも含めて拷問をした後、釈放して放り出せ」

 

皇帝(ツァーリ)の敵は全て抹殺すべきでは?」

 

「今はまだその時じゃない。こいつらは撒き餌に使う。本命を釣るためのな……と言っても、お前達には理解できないか」

 

 殺戮猟兵(オプリチニキ)は夢見の世界から這い出た、自動で言われた命令をこなすだけの人形みたいなもの。お世辞にも思考力が高いとは言えない。

 今の問いかけも、先に命じられた絶対事項である『皇帝(ツァーリ)の敵を排除する』と矛盾するから出たことだ。

 

皇帝(ツァーリ)にとって最大の逆賊、叛逆軍を討つための布石だ。黙って命令を聞け」

 

 こんな盗賊の村一つ、本来なら殺戮猟兵(オプリチニキ)だけでも十分に対処できた。

 皇帝(ツァーリ)側とて保有するサーヴァントの数は限られている。このような些事を、それも皇帝(ツァーリ)を眠らせる役割を放棄させてまでやらせることだとは到底思えない。

 ならば、その真意は自分が倒すべき者達の討伐。それはつまり、サーヴァントを擁する叛逆軍を壊滅させること。

 

 もっともその真意は確かめねばわからず、また確認する気もない。『キバ』が自分の目的を果たすため()()()()()()()()()()のだ。

 己の内から沸き起こる復讐の音に促されるままに。

 

 ヤガは追い詰められれば強者に恭順する。この群れに壊滅的な損害を与えれば、もはや行くあては叛逆軍しかない。たとえそこまで首尾よくいかなくとも、噂話くらいは届くだろう。

 そして敵側にサーヴァントがいると知れば、奴らは皇帝(ツァーリ)の戦力を削るチャンスだと考えて、確実にこちらへ攻め込んでくる。

 断片的であれ『キバ』の意を理解した殺戮猟兵(オプリチニキ)達は、了解の意を示し捕縛したヤガを連行していった。

 

 結果的には、盗賊が占拠していた街にも平穏が戻った。善良なヤガ達も普段道理の生活ができるようになるだろう。

 雷帝に恐れ従順に支配される地獄の日常が。

 

 皇帝(ツァーリ)に仕えることが己の使命。

 けれど、課せられた役割をいくらこなしても、胸に去来するのはただ虚しさだけだ。『キバ』は空を仰ぎ嘆きの言葉を吐いた。

 

「なぜ、この世界には美しい音色が響かない……」

 

 ●

 

 降りしきる吹雪の中を二台のバイクが疾走している。

 一台はマシンディケイダー。士が運転し、彼の背にはフォウを抱えながら立香が捕まる。

 

 もう一台は海東が駆るマシンディエンダーだった。

 相変わらず人間なら凍死は免れない気温であるが、吹雪の勢いはそれほどでもなく、宝具として召喚されたライダーのバイクなら走行に支障はない。

 

 パツシィの住んでいた街から略奪を実行し、来襲した殺戮猟兵(オプリチニキ)から無事逃亡しきってアジトに戻った叛逆軍は、現在急いで大勢の立て直し中だ。

 負傷者も多く、ただでさえ少ない人材はより深刻な人手不足に陥っている。

 

 そんな中、盗賊を討つため雷帝側のサーヴァントが単独で動いているという連絡が入った。

 しかもそのサーヴァントはキバと名乗っていたらしい。

 少なくとも、士と海東には身に覚えがあるライダーだということもあり、まずは接触が急務となった。

 

 略奪を終えた悠は叛逆軍の指揮で慌ただしく、とてもではないが拠点から離れられない。

 結果、立香を含めた三名での行軍となったのだ。

 

 海東は並走する士と立香の様子を見る。

 二人共ほとんど会話もなく景色を眺めるだけ。どちらも心ここにあらずと言った風だ。

 

 士は仮面ライダーWとの遭遇で、いくつかの情報を入手した。

 それは既にカルデアや叛逆軍のメンバーにも共有されている。

 

『僕達はわけあって座に登録されたライダー達とは別行動をしている。ここに来たのは依頼人、鳴滝の時空を越える力によるものだ。実際のところ彼は支援者といったところかな』

 

「あいつは何を考えてる」

 

「俺達の受けた依頼は雷帝を倒すことと、裏で糸を引いている連中の調査だ。今回は味方と考えていいだろうぜ」

 

「裏で? クリプターって連中のことか?」

 

 鳴滝が呼んでいた敵の名前であり、彼らが元カルデアスタッフであることもホームズから説明は受けている。

 

「いや、正しくは()()()()()()()()だ」

 

『その正体を掴むことも、白紙化された世界を救うために必要なことなのさ』

 

「なるほど。大体わかった」

 

 あえて探偵ライダーが動いているのならば、何かしら調べることがあるのだろう。

 ここまでは士の予想していた範疇内であり、さほど驚くべきことでもなかった。

 

「で、お前達はこれからカルデアに合流するのか?」

 

『いや、残念ながらまだその時じゃない。僕らは僕らで調査をしなければならないし、使える力にも限りがあるからね』

 

「俺達はこの世界じゃお前と同じサーヴァントってヤツにならないと活動できないらしい。魔力が切れたらその時点で強制送還だとさ。面倒な首輪を付けられっちまった」

 

『それにライダーではない仲間も迎えに行かないといけない』

 

「ライダーじゃないだと?」

 

「ああ、亜樹子やときめ……鳴海探偵事務所のメンバーも、白紙化に巻き込まれないよう一緒に来てる」

 

「そいつらは戦えるのか」

 

『二人は戦闘員じゃない。けれど彼女たちも魔力によって現界を維持しているのは同じだ。僕らが消えると彼女達も共に消える。その様子だと、君の仲間達は一緒じゃないみたいだね』

 

「元々俺は一人だ」

 

 士は素っ気なく答えた。

 彼らと最後に合流したのはデスゲームでオーマジオウと対峙した時だった。

 

 あの時は手も足も出ず全員吹き飛ばされたが、海東が生きているならあいつらもどこかで生きているだろう。そこで思考を放棄しており、あえて合流はしていない。

 

 探すにしたって、オーロラでの移動も自由にできなくなった。

 今では辛うじてマシンディケイダーが呼び出せる程度だ。

 

『変わったね、君は』

 

「詳しい事情は聞かねぇよ。だがな、一度繋いだ絆はそう簡単に消えるもんじゃねえ。それはお前さんが一番わかっていることだろ、ディケイド」

 

「どうだろうな」

 

 翔太郎がやれやれだと肩をすくめたところで会話に一区切りが付いて、Wはリボルギャリーと共に街を離れていった。

 

『遠からず僕らは再会するだろう。次に会った時の支援は約束するよ。それと、この世界を突破するためのキーは、世界の破壊者とカルデアのマスターだ』

 

 それがWから士へ向けて語られた、別れの言葉だった。

 その真意は士にもわからない。それでも、世界の破壊者としての士が求められていると考えれば、己の成すべきことは()()()()()

 

 もう一人のキーと呼ばれた藤丸立香が考えているのは全く別のこと。略奪時に別れしまったパツシィについてだった。

 

 海東曰く、パツシィは街のヤガを銃で撃とうとしていたらしい。立香には彼が理由もなくそのような行為に及ぶとは思えない。

 

 何か大事な理由があったのではないか。どうしてそれを教えてくれなかったのだろう。

 もしもう一度パツシィに会えたら、何を言えばいいのか。

 そもそも、まだ殺戮猟兵(オプリチニキ)が彷徨いている可能性のあった戦場で、たった一人上手く逃げ切れたとも限らない。

 

 同じような考えと心配が、何度も頭をぐるぐると巡る。

 その度に浮かぶ答えは違ったり同じだったり。つまり名案と称せるものは出せずじまいだった。

 

「ここが言われていた村だよ、お二人さん。いや、これは村だった……というべきだね」

 

 海東が思考の沼に嵌る二人を、現実に引き上げてバイクを止めた。

 

 立香達は同時に道々の村で檄文を配るよう依頼も受けている。

 けれど、そちらは前回の配布と違い芳しくない。一つ前に立ち寄った村では取り付く島もないまま断られてしまった。

 

 最初に配った村々では、雷帝の脅威に諦めつつも心の中では『皆が力を合わせればあるいは……』という淡い希望が見えていたが、今回は雰囲気がまるで異なる。立ち寄った街のヤガ達は完全に戦意を失っていた。

 その理由を問うと隣村を見ればわかると言われて、わざわざ先に足を運んだのだ。

 

「おいおい、何だこれは?」

 

 そこはまるで、大地震やハリケーンに飲み込まれたような惨状で、村はまともな形を遺していなかった。

 この村だけが天変地異に襲われたような、言い難い違和感さがそこにある。

 

「一体……これは……何があったのかな?」

 

『こちらでも映像を確認した。これは隕石でも衝突したような無惨な残骸だ』

 

「隕石だと?」

 

『これは……よく見るとクレーターの下に民家と思わしき跡が見えます』

 

 マシュの言うように、雪の下からチラチラと家の一部に見える残骸が見て取れた。それは何か巨大なものに押し潰されたようにへしゃげている。

 

「とあるライダーの世界では渋谷に隕石が落ちて、そこからエイリアンが出現していたけれど、今回は関係なさそうかな」

 

「それなら今頃見えない敵に襲われているだろ」

 

『いずれにせよ、これは雷帝が力を行使した結果なのは間違いないと思うよ』

 

 モニターの向こうで状況判断をしていたダ・ヴィンチが言った。

 殺戮猟兵(オプリチニキ)の軍勢、そしてサーヴァント以外にも、村一つをここまで完膚なきまでに破壊する力を皇帝(ツァーリ)は備えているのか。

 

 立香の頭にかかっていたモヤが、緊張感と共に払われた。

 パツシィのことは変わらず心配だ。けれど、自分達がここに来た理由から、いつまでもよそ見はしていられない。

 

「なるほど……使うためにゲットするのは主義じゃないのだけど、今回ばかりはあのお宝を手に入れておいた甲斐はあったようだ」

 

 士と立香、そしてカルデアのメンバーが崩壊した街に注目している中、誰にも聞こえないような小声で海東は呟いた。

 

 




今回は海東大樹もバイクを持っている設定です。
レッツゴーライダーキックでようやくちゃんと乗れたと思ったら、バトライド・ウォーだとメッチャ自前の足で走ってたけど持ってます。
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