Fate/Masked Order Cosmos in the Rider belt   作:語屋アヤ

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第11節『二重奏♯Destiny's Play』≫1

 変身が解除された状態で雪原に伏して動かない音也を確認して、海東は「ふっ……」と勝者の強調も込めた安堵の息を吐いた。

 キバは蓄積されたダメージからもう限界だったようで、ファイナルフォームライドを解除すると程なく消滅した。

 

 一応警戒はして変身は維持しつつ、士達の安否確認へと向かう。

 荒れた教会の中で士は座り込んでいるが、予想通り霊基が崩壊するまでには至ってない。

 彼はディエンドを見ると半目を向けた。

 

「俺を囮に使ったな」

 

「半分正解と言ったところかな。相手が相手だ、次の策は用意して然るべきだろう?」

 

 ディケイドが仕留めたのならそれでよし。

 駄目だった時は自分がトドメを刺す。海東は文字通り二の矢を用意していた。

 

『士さんに何も知らせず実行したのは問題ですが、かなりの強敵だったのは事実かと』

 

 今回は音也のクラスがアヴェンジャーになった影響だろう。ディケイドとキバに対して異常な執着心を抱いており、戦い方がかなり短絡的になっていた。

 海東はそこに付け込んで戦略的に勝利を拾った形だ。

 

「ダークキバの変身者がファンガイアの王だったら、それこそ国一つを滅ぼせる力を持っていたかもしれない」

 

 変身者が人間、そしてサーヴァントという魔力供給が必要な縛りを持つ存在でなければ、下手したら単体で雷帝に匹敵する敵だった可能性もある。

 

「海東さん、ダークキバはどう?」

 

「ぐう……渡……わた、る……」

 

「倒れたままだ。うわ言のように息子の名を呟いてるよ」

 

「息子?」

 

「僕がさっき召喚したライダー、キバは紅音也の息子さ。どうやら彼は魔術的な暗示にでもかけられて、士に息子を殺されたと思い込んでそうだな」

 

 紅渡は人間の音也と、ファンガイアの母を両親にもつハーフだ。

 音也はファンガイアとの戦いの末、渡が生まれる前に息絶えたが、時を越え二人は出会い共闘している。

 

 魔術による暗示なら、深いものでなければ強い衝撃や現実との認識乖離で解ける可能性がある。海東があえてキバを召喚したのもそのためだった。

 

「じゃあ、悪い人じゃないってこと?」

 

「本来なら彼も人理を護るため召喚されたサーヴァントのはずだ」

 

『ならば、仲間に引き込めさえすれば貴重な戦力になるのではないかね!?』

 

『まだ正気に戻ってなくてもボーダーで洗脳解除は可能だと思うけど、問題はここまで運ぶ手段だね』

 

 ダークキバの戦闘力は雷帝を相手取るにも魅力的で、所長の期待はもっともだった。

 けれど先程の戦闘で音也の霊基はかなり疲弊しているだろう。このまま放置するわけにはいかず、かと言って下手に回復させるとまた襲ってくるリスクがある。

 

『Mr.藤丸、敵襲だ!』

 

 突如、ホームズから追加の危険を告げる声が響いた。

 

「そちらのレーダーは旧式のようだな。お陰でこちらも近付きやすい」

 

『その声は……!』

 

 マシュの驚きと同時に、彼らは吹雪の中から姿を現した。一人ではなく集団で周囲を囲まれている。

 

殺戮猟兵(オプリチニキ)待機。掛かってくれたな、本命が」

 

 彼らの中心にいるのは、海東達も知る現代的な衣服を着こなす、白髪で痩躯の少年だった。

 

「闇のキバは……もう使い物にならないか。まあいい、そろそろ不要になってきた頃合いだった」

 

『カドックさん……ですか……!?』

 

「マシュ・キリエライト? 何だ、通信か」

 

 

 白髪の少年はマシュの声に反応を示すが、その音源を悟るとすぐ興味を失ったかのように振る舞った。

 

 ――慎重派ってところかな。

 

 想定外の奇襲を心配したのだろうと、海東はその理由を想像する。

 

「ありきたりの言葉だけど、やっぱこう言っておいた方がいいのか」

 

 カドックは改めて、その視線と意識を藤丸立香へと集中する。そして宣言した。

 

()()()()()()()、最後のマスター。僕の名はカドック・ゼムルプス。この異聞帯(ロストベルト)を担当する。魔術師(クリプター)の一人だ」

 

 ●

 

「カドック……」

 

 立香は相対する相手の名を、自分の中に刻み付けるようつぶやいた。

 睨み合う二人の青年。二人のマスター。両者の間で現在の優劣はあまりにハッキリとしていた。

 

『レイシフト適正、中でも最高値を持つ者で構成されたAチームの一員であり、そしておそらく――』

 

 冷静さを保つホームズが口を開く。

 魔術王ソロモンが起こした大災害――人理の焼却。

 本来、それはカルデアが用意した四十八名のマスターによって調査と解決がなされるはずだった。中でもAチームとはその中核を為す存在、マシュと合わせて八人の、まさしく選ばれしマスターだった。

 

「説明は結構だ。そいつなんかに覚えてもらわなくていい」

 

 そう言い放ったカドックの視線と言葉は吹雪と同様に凍てついたものだ。

 

「ヴォーダイムから聞いてるだろう。世界滅亡の計画に加担した七人のクリプター。僕はそのうちの一人だとわかれば十分だろ」

 

 多くの者にとって、それで敵か味方かの分別は付く。彼は人理を救うためにどうあっても倒さねばならない敵だ。

 けど、それをすぐには飲み込めない者が一人いた。

 

『では本当に――本当に、キリシュタリアさんは、そして他の皆さんは!』

 

「よく喋るようになったな。昔は言われたことしか返さなかった子が……だが、口を挟むなキリエライト」

 

 続く言葉によって皆、マシュがかつてのカルデアでどのような扱いを受けていたのかを理解できた。

 

「僕達は君を備品として扱った。無言でついてくるサポート役。レイシフト先でサーヴァントを召喚するための単なる装置としてな。君が僕達に人権やら人格やらを考慮する必要はない。僕達もそうだったんだから」

 

『それは……そんな、事は……』

 

 マシュには明確な躊躇いが見える。けれど、今の言葉で心の整理はできたらしい。

 

『……いえ。カルデアの敵、なんですね。カドックさんは』

 

「そうだ。とうに宣戦布告は済ませた。僕達はクリプター、この異聞帯――ロストベルトを育成し、汎人類史に終わりをもたらす」

 

 いや、とカドックは一度言葉を止めて言い直す。残酷に客観的な事実を告げる。

 

「というかもう、終わったも同然か」

 

『異聞帯……それがこの特異点の名なのですか?』

 

「点じゃない、帯だ。最早転換期は過ぎ去り、今も個別の歴史を紡いでいる……ロックが聴けなくなったのは残念だが、魔獣の遠吠えも似たようなものだ」

 

「どうしてそんなことを」

 

「君に答える責務はない」

 

 問う立香に対して、カドックはマシュに対してそうしたようには答えない。

 

「ただ、殺す前に少し話をしようか。藤丸立香、あの時君はどうして僕達の代わりに死ななかった?」

 

『え――?』

 

 カドックの質問にマシュは言葉を失った。彼の意図を理解できなかったのは立香も同じだった。

 

「そんなこと言われても……」

 

 あの場にいた理由も、生き残った要因も単なる偶然に過ぎない。運悪くカルデアに連れて来られ、運良く生き残った。それだけだった。これが立香の認識であり、当時を知る者達も共通だろう。

 

「ま、理不尽な説教だけどな」

 

 それはカドックも理解している。それでも彼はその真意を告げた。

 

 クリプターは全員、立香が世界最後のマスターとして人理を救済した事実を知っている。それは本来、自分達Aチームが為す功績だった。

 けれど彼らは最初のレイシフト――乱暴に言ってしまえば一種のタイムトラベルの開始中に起きた爆破テロによって、ある意味時間の狭間に取り残されるように、意識不明のままコフィンの中で凍結となった。

 

 立香は本人のせいではない体調不良で居眠りしてしまい、所長の怒りを買って最初のレイシフトメンバーから外されてしまったことで、爆破から逃れることができた。

 

 それら事の顛末を知った上で、カドックは断言する。

 自分達Aチーム誰かが――特にヴォーダイムならば、もっと上手くやれた。

 もっと少ない犠牲で、もっと早く人理を救済できた、と。

 

「あの時は俺しかいなかった。それだけだよ」

 

「そうだ。たまたまだ。全てはたまたま。君がいたのも選ばれたのも。人理焼却の犠牲者は決して少なくない。おめでとう、君は最多の犠牲者を出した訳だ」

 

 立香は否定しない。できるはずもなかった。自分の非力さは自分が一番よくわかっている。旅の間、ずっと痛感してきた事実だ。

 

『カドックさん。わたしは立香のサーヴァントです。現在の貴方の立場がどのようなものであれ、マスターへの侮辱を許すほど寛容ではありません』

 

 そしてこんな時、立香の代わりに怒ってくれるのは決まってマシュだった。

 

「大体わかった。負け惜しみの八つ当たりか」

 

「そうだね。勝者は結果論でしか語れないが、敗者はいくらでもIFを並べられる。みっともないがね」

 

「あんたら仮面ライダーとやらも勝者の側だったな」

 

「ああ、()()()()な」

 

 士はシニカルな笑みでそう返した。戦い抜いて、勝利も敗北も噛み締めてきた彼らだからこそ、もしもの無意味さもよくわかっている。

 

『それに、カドックさんのご指摘で一つ確信しました。たとえAチームの皆さんでも、あの結末は迎えられなかった。マスター立香がいたから、わたしは今も生きています!』

 

 ああそうだ。それだけはきっと誇っていいことだろうと立香も思える。

 失ったものはたくさんあったけれど、自分は最後までマシュと手を取り合い走り続けた。世界を救って最初に二人で見上げた青空の美しさは、一生忘れない。

 

「ま、そうか。僕達なら遠慮なく君をどこか良いタイミングで切り捨てただろうね」

 

『カドックさんがロシアを担当ということは、他の方々は……』

 

「ああ、当然。けど知っても無駄だろうさ」

 

「そもそも目的がわからない。どうして君達は世界を滅ぼそうとしているんだ」

 

 立香の問いかけに、カドックも今度は回答する。

 

「別に。僕達が滅ぼすのは世界じゃなく、汎人類史(そちら)だけさ。まあ、他の異聞帯とも戦う予定だから消えてもらうのはここ以外の全てか」

 

「さて、そろそろ向こうはやる気みたいだよ、マスター君」

 

「無駄話ももういいだろう」

 

 カドックは引き連れている部下達に視線を送る。

 

殺戮猟兵(オプリチニキ)――」

 

 それは殺戮の開始を告げる号令になるはずだったのだろう。

 けれど、それより先にディエンドの弾丸が殺戮猟兵の額をその仮面ごと撃ち抜いた。

 

「隠れて隙を突くのは好きだけど、やられるのは不快でね!」

 

 隠蔽して接近された借りを奇襲で返した。

 

 ディエンドは迫りくる殺戮猟兵(オプリチニキ)達を順番に狙撃する。彼にとっては、額を正確に射抜けば容易く倒せる相手だ。

 その間に立香は士と共に教会内に身を隠す。

 

 ――これは厳しいぞ。

 

 立香の中で焦りが募る。

 単騎の戦闘力ではこちらが大きく上回っていても、殺戮猟兵(オプリチニキ)は団体での物量押しだ。

 こちらの戦力はディエンドと己だけ。むしろ自分はこちらのアキレス腱であり、急所として守られる側だ。今だって下手に顔を出すだけで、流れ弾に被弾しかねない。

 

 いっそディエンドの邪魔にならないよう完全に潜むのも手ではあるが、立香はまともな魔術師よりも魔力のパスが短い。戦闘中に魔力供給が途切れてしまうと致命的だ。

 

「この程度なのか? 人理を救済したマスターっていうのは」

 

 軍勢を指揮するカドックが拍子抜けと言わんばかりに煽ってきた。

 

 ディエンドは反撃しているように見えても防戦一方で、積極的な攻勢には出れない。

 根本的な原因は先程の戦闘だ。士は消耗が激し過ぎて戦えず、立香も身体の限界が近い。

 

 ライダーの二体召喚に連続の宝具使用。短期間に大量の魔力を引き出した肉体的な負荷はかなりのものだった。さっきから指先の感覚がなく、その原因は寒さによるものだけではない。

 

「そろそろ頃合いか、キャスター」

 

 カドックの呼び出しを受け、彼の傍らに白い長髪と白のドレスを纏う少女のサーヴァントが出現した。

 

「ガールフレンドの前で格好を付けたいのかな、少年君?」

 

 殺戮猟兵達の攻撃が途切れた僅かな間を突き、ディエンドの銃口がカドックへと向けられた。

 だが、そのトリガーか引かれるより早く、傍らの白き少女の抱く人形の頭部から氷の礫の混ざる強烈な吹雪が放たれた。

 

「ぐっ!」

 

 ディエンドは暴風に呑まれかけながら身を翻し何とかやり過ごす。

 

『あの女性はカルデアを壊滅させた……!』

 

 忘れもしない。カルデアを凍結させた張本人が、今この窮地に再び姿を現した。

 

「わたくしが踊りの心得のない小娘と思って?」

 

 ドレス姿の少女は、スカートを靡かせることなく、雪上を滑るように移動しディエンドとの距離を詰める。

 彼女の滑った地からは猛烈な吹雪が巻き上がった。

 

皇帝(ツァーリ)の威光に平伏せよ。汎人類史の野獣。我が名はアナスタシア。この大地でも王朝を築く、未来永劫の王家の女」

 

「アナスタシアと言えばロマノフ王朝の皇女様かな。踊りの相手としては申し分ないが、悲劇の皇女様がなぜ英霊に?」

 

 それに、胸に抱いた人形の放つ冷気がかなりの勢いなのは見ていてわかる。カルデアを凍結させた実績も含め、キャスターとして決して侮れる相手ではない。

 

「わたくしには野蛮な英雄譚や狂った王の物語がなくても、ヴィイがいる」

 

 うっすらと笑みを浮かべながら、彼女は胸に抱く人形を撫でる。

 

「わたくしは、異聞帯のサーヴァントとしてあなた達を排除する――この永久凍土の世界で永遠に煩悶する彫像におなりなさい」

 

「お断りだね。どうせなら盗み甲斐のある美しい彫像を用意してくれたまえ」

 

 シアンと白が雪上を舞う。

 氷結晶と光弾が行き交い、付かず離れず踊るように円を描く。

 鮮やかに滑り、軽やかにステップを踏む。皇女と盗賊による、華麗で命賭けの舞踏会だった。

 

『不味いなディエンドが完全にマークされた。殺戮猟兵(オプリチニキ)が教会内へと踏み込んでくる』

 

 一人で多くの敵を抑え込んでいたディエンドは、今やアナスタシアの相手だけで手一杯だ。手薄になった立香を仕留めにくるのは当然の理だった。

 

『もはや猶予はない。急いで令呪を使いMr.士を戦線復帰させ撤退すべきだ』

 

 状況があまりに見えないため、クリプターと雷帝との決戦に備え、できるだけ令呪は温存するのが当初の方針だった。

 だが、ここでやられてしまっては元も子もない。とにかく生き残ることが最優先だ。そうなると、ダークキバはこの場に残していくしかない。

 

「あいつ……まだ……!」

 

 驚愕の声を漏らした士の視線は、迫りくる殺戮猟兵(オプリチニキ)達よりも更に奥へと向けられていた。いつの間にか、伏していたダークキバが立ち上がっていたのだ。

 背後の異変に気付いた殺戮猟兵達も前進を止めて身構える。

 

「まだ、だ……!」

 

「構わない。敵対するなら容赦せず殺せ」

 

 カドックから命を受けた殺戮猟兵(オプリチニキ)達は、疾走を始めたダークキバに銃を構える。ディケイドを異常に敵視して、今やクリプターにも敵視される彼の狙いは、そのどちらでもなかった。

 

 殺戮猟兵(オプリチニキ)達と衝突する前に跳躍し、アナスタシアと戦いを繰り広げるディエンドを蹴り飛ばした。

 

「うぐあっ!」

 

 いきなりターゲットを消失した人形の攻撃は、教会へと向かい立香のすぐ近くで巨大な氷結晶を造り上げる。

 

 再び始動した復讐者は全員に注目される中で言葉を紡いだ。

 

「これは……運命だ」

 

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