Fate/Masked Order Cosmos in the Rider belt   作:語屋アヤ

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第13節『叛逆軍崩壊』≫1

 新たに完成したアジトの一室で、水澤悠は地図を広げて眺めていた。

 そこにはいくつもの書き込みが入っており、綿密な戦略や戦術が練られている。

 けれども、悠は見落としや計算違いがないか、重ねて確認と思案を重ねていた。

 

 もうじき戦力を揃えてヤガ・モスクワに攻め込む大規模作戦が開始されるのだ。

 己の判断一つでここからの歴史は大きく変わる。その責任の重さが悠の双肩にかかっている。

 

「おい、ここにいたか」

 

「音也さん、どうかしましたか?」

 

 断りもなく入室してきた紅音也は、カルデアとの連絡係であり、彼らが逃亡しないための保険として砦に居残っていた。

 

「ガキ共がまとわりついてきて面倒だ」

 

「人間が珍しいんですよ。子供は苦手ですか?」

 

 げんなりした顔の音也に、悠は苦笑して問うた。

 

「ガキのお守りはろくな思い出がないからな」

 

「ヴァイオリンを弾いてあげればきっと喜びますよ」

 

 ヤガの世界には楽器を演奏する文化はない。日々の糧を得るのに必死でそんな余裕がまったくなく、音楽文化は完全に衰退してしまっている。唯一の例外がイヴァン雷帝の宮殿だった。

 

「ヴァイオリンには弾くべき時と聴かせるべき相手がいる。その二つとも、俺が極める」

 

 大仰な手ぶり付きでそう言ってのける、絵に描いたような気位の高い音楽家の反応を返されて、悠は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。

 

「悠、お前はどこまで理解できている?」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

 急に音也が真顔になった。こちらが本題かと、悠も自然と気を引き締めて、叛逆軍リーダーの顔で応対する。

 

「異聞帯で叛逆軍のカシラまでやってるんだ。ここがどういう場所か、お前だってもう気付いてるだろ?」

 

 思わせぶりな言い回しのまま、相手の反応を気にせず音也は続ける。

 

()()()()()()()()()()()()とは誰なのか、をな」

 

「それは……」

 

 イヴァン雷帝です。と、決戦を控えていながら断言ができない。それぐらいに、悠もその意味を理解できていた。

 

「俺は息子の意志を継いでカルデア側につくと決めた。いや、破壊者(ディケイド)にか」

 

 今の紅音也は息子を奪われた復讐者であるが故に、彼の覚悟は既に決まっている。

 ならば自分はどうか。

 

「僕は守りたい物は守……」

 

 言い終えるより先に緊急事態の警鐘が砦に鳴り響いた。

 

 ●

 

 砦から外を確認すると、吹雪の中でもかき消されないぐらいにヤガ達の悲鳴が上がっている。

 殺戮猟兵(オプリチニキ)の銃弾と刃が叛逆軍に襲い掛かっていた。

 

 音也と悠は分かれて事態の収拾に動くと即決する。それぞれ一人でも多くのヤガを助けるためだ。

 砦の外に向かいながら、音也は預かっていたスタッグフォンを取り出し、登録されている連絡先に電話をかける。

 

『どうした? 何かあったか?』

 

「翔太郎か? 砦が雷帝の連中に襲撃されてる!」

 

『なんだって!? その砦にどうやってだよ!』

 

「そんなの知るか! 殺戮猟兵(オプリチニキ)がわんさかだ! クソ!」

 

 悠が砦の正門に向かい、音也は裏口から外に出たが、そこも既に殺戮猟兵(オプリチニキ)たちが襲来しており、ヤガたちの犠牲が出ていた。

 

「とにかく早く……うおっ!」

 

 突然、黒く細い杭が地面を縫うように突き出してきて音也を襲った。かろうじて横飛びに回避すると、前方から片手に槍を持ち、黒い貴族服に身を包んだ色白の男が悠然と立っている。長髪に彫りの深い精悍な顔立ちから、明らかに日本人ではない。

 ヤガではなく人種であり、槍を武器に人知を超えた技を使う者。そこから連想される答えは明確だった。

 

「サーヴァント……ランサーってやつか」

 

「如何にも余は異聞帯のランサー。此度は叛逆者を名乗る蛮族どもに躾をしに参った」

 

『ランサーだと! おいっ、聞こえてるか!』

 

 翔太郎の言葉はもう音也には届いていなかった。

 音也は気付いてしまったからだ。ランサーの杭は周囲にも突き出て、幾人ものヤガが貫かれており、その中にはまだ幼い子供も含まれていた。

 

「ふざけんな……!」

 

 子供は別に好きじゃない。だが、芸術が失われた世界で、厳しい環境に抗いながら生きているガキどもに、ご褒美として至高の音色を教えてやる。内心では、それも案外悪くないかもなと思う自分もいた。

 

 だが、今、奏でるのは己がための音に非ず。

 紅音也は渡の意思を継いでここにいる。内から溢れ出すのは止まらぬ憤怒。ならば奏でる場は戦場で、弾くべきはイヴァン雷帝への葬送曲なのだ。

 

「変身!」

 

 怨の思念を感知したかのように飛来したキバットバット二世でもって、音也は闇のキバへとその身を変えた。

 

 ●

 

 燃え滾る復讐者が並のサーヴァントを遥かに上回る出力で、彼我の距離を潰してくる。

 それを地面から突き出す杭が狙う。

 

 感情任せな単調な動きだと、ランサーは思う。紅音也は戦士として場数を踏んだ仮面ライダーの一人だとマスターから伝えられていたが、己の知る歴戦の戦士に比べれば未熟だ。

 その評価は、かつてオスマン帝国の侵攻を幾たびにも渡り撃退し続けた、大英雄ヴラド・ツェペシュならば当然のことだった。

 

 ダークキバは慣性に抗うように身を翻し串刺しの結末を避けて、なおも前進を止めない。

 しかし姿勢は崩れており、その動きまで読んだヴラド三世が手にする先んじて槍を突きこむ。

 

「らぁっ!」

 

 それを鎧をまとった左腕で強引に受けながら、力任せに右腕で打ち返した。

 

「ぬうっ!」

 

 今度はヴラドがその拳を腕で防ぐ。苦し紛れの一撃と思いきや、それは意外な重さを伴いヴラド三世を下がらせる。

 音也の技量がそれ程でなくとも、ダークキバの鎧は凄まじく硬く力強い。

 

 ここがもしかつての歴史が崩壊したロシアではなく、彼の故郷ルーマニアだったならば、絶大な知名度補正がかかりこの差も潰し圧倒できた可能性はあるだろう。

 

「どうしたァ、その程度かっ!」

 

「蛮族が!」

 

 周囲に残るヤガを捨て置き、杭がまるで一個の生命じみた動きでうねるようにダークキバを追う。

 鎧の力に任せて強引に突破するならば、槍の間合いを生かして近付かせずに精神とスタミナを削る。

 

「英雄ってのは随分とせせこましいんだな」

 

 相手からの挑発は、ヴラド三世からすれば無策への自己弁護でしかなく、思わず口角を吊り上げる。

 

「満足に戦略も立てられぬ愚図な獣ならば、叛逆者もろとも串刺しに処すまで」

 

 復讐者に対して、ヴラド三世もまた憎悪に似た感情が湧き始めていた。何よりも忌々しさが滲むのはあの鎧だ。

 

「民を拐かしこの醜悪な魔窟を創らせた、悪鬼に相応しき醜悪な姿よな」

 

 叛逆軍のヤガたちは知らない。自分がやろうとしていることの本質が何か。それを知っているならば、このような蛮行におよぶはずがないだろう。

 

「少なくとも、お前の悪趣味なそのトゲよりはマシだがな!」

 

 それを先導しているのは星見の者たち(カルデア)であり、仮面ライダーと名乗る異形種共だ。

 ダークキバが離れた位置から腕を突き出す。あれは相手の動きを封じる魔方陣を召喚する予備動作だ。

 その動きを作った瞬間に察知して、黒杭が突き出し鎧を抉る。

 

「ぐあっ!」

 

「動きが鈍ってきたな。魔力切れが心配か?」

 

 ヴラド三世は貴族であり、優れた戦略眼を持つ武人でもある。使用者の紅音也はともかく、ダークキバが油断ならない力を秘めていることは、初撃を受けて素直に認めていた。

 そして、エーテルによって我が身を構成するサーヴァントにとっては、出力の高さは寿命の短さにも繋がる。

 

 前回の戦闘では無理な力の運用で、ダークキバは一度魔力の底が尽きたとも聞いている。

 ブラド三世を撃退した上で、さらに砦を護らなければならない音也は、ここですべての力を出し切るわけにはいかない。

 ダークキバの力を持ってしても押し切れない現状は、それが理由だとヴラド三世は冷静に見抜いていた。

 

「はっ、お前なんぞ……っち!」

 

 ダークキバは虚勢を張る間もなく黒杭に追い回される。こちらも魔力は消費しているが、近くにマスターが控えている。その優位を生かしてけん制を止めない。

 

「大義を持たぬ貴様の復讐心など、所詮はその程度が関の山」

 

 この世界は異聞となって時の流れの中で刈られた。

 ならば、撃退者である己がこの地に呼ばれて為すことは決まっている。

 

「余は再びこの世界が時を刻む奇跡を護る! そのためにこの凍土の地へと顕現したのだ!」

 

 今この時が異常だというならば、それを正道へと変えて見せよう。そのためにまず為すべきは仮面ライダーの討伐。

 

「その鎧、我が槍で刺し貫き、星見の者たち(カルデア)への見せしめとしてくれよう!」

 

「やってみろ!」

 

 ヴラド三世の宣言に、ダークキバも覚悟を決めたのか、必殺を解禁する黒笛を取り出す。双方に宝具をぶつけ合う気概でその身に魔力を溜め込む以上、決着は目前に近付いている。

 

「なに……!」

 

 しかしベルトのコウモリに黒笛を噛ませる手が途中で停止した。それが何者かによって強制された事態なのは、ダークキバの様子からしても明らかだ。

 そして、ヴラド三世にはこの力に見覚えもあった。

 

「もういいランサー。そこまでだ」

 

 黒のローブを纏い、その手には刻まれた令呪の刻印。安全地帯に控えていたはずのマスターがその姿をわざわざ現した。

 

「この砦は陥落した。目的は達成だ」

 

「くそ、人様の喧嘩に割って入るのは何処のどいつだ?」

 

 短時間ならば、対象の肉体を取り巻く時間を強制停止させる技術。魔術の域を越え魔法に近いそれを扱う者は、ダークキバを前に名乗り上げる。

 

「俺は時の流れを司る証明者。新生タイムジャッカー、加古川飛竜だ」

 

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