けものフレンズR ~fan fiction~ 作:リバース
イエイヌに連れられて、草原を歩いていく。
これから何をすべきか、あたしは何も思いつかない。
「着きました!」
元気のいい声で、顔を上げた。
「えっと、ここは……?」
動物を模した奇抜なデザインの建物がいくつもあって、積まれた石で囲われている。集落みたいな場所だけど、井戸や掲示板のようなものはない。
「私のおうちですよ。」
「ほ、他にも誰かいるの?」
あたしの質問に、首を振った。
寂れた集落の中心部でも、誰かの声はしない。
「……ここには昔何人もヒトがいたんです。よく私も遊んでいました。」
イヌを模した家の扉を開けた。
ベッドや机といった生活に最低限の物はあるけど、1部屋だけしかない。もしかしたら、集合住宅じゃなくて宿泊施設なのかもしれない。イエイヌが住んでいることもあって、手入れされているけれど、少し古びている感じがする。
「座っていい?」
「えっ、あっ、遠慮なく……」
シュンとしているイエイヌに首を傾げながら、椅子に座った。
「はぁー……」
深いため息が出た。
まだまだわからないことだらけで、思い出せないこともある。
転生、なのかな……。
こういうとき、男子はテンションアゲアゲなんだろうなぁ。
「どうぞ。」
湯気が立っているカップが置かれた。
「えっと……」
「落ち着きたいとき、葉っぱをお湯に入れて、飲むんですよね?」
「うん、よく知ってるね。ありがとう。」
喉に温かさと香りが溢れて、穏やかな気分になれた。
簡易キッチンには電気ケトルがある。
たぶん離島の、廃れた集落でも家電製品が使えるんだ。
「ねぇ、電気が通って……どうかした?」
「……おすわりって、言ってもらえませんか?」
申し訳なさそうに、そうお願いしてくる。
「……おすわり」
「はい!」
「なんで床なの!?」
ぺたんと股下を床につけて、両手をちょこんと曲げている。
「かわいい……、じゃなくて!」
「はい!」
そうじゃないんだよなぁ。
立ち上がらせるために手を差し出せば、お手された。
「な、撫でてもらえませんか?」
「えっ、うん。いいよ!」
お願いだからね。
仕方ないよね。
さっきは助けてくれたからね。
「いやー、久しぶりにしてもらえて嬉しいです!」
髪はとても柔らかい。
目を細めて、心地よさを味わっている。
あたしも味わっている。
「やさしい、撫で方…ですね」
「な、泣いてるの?」
「あっ……」
撫でるのは中断した。
寂しそうな表情のイエイヌの涙を、袖で拭いてあげる。
「……いろんなヒトと、遊んでもらったんです。でも、みんないなくなってしまった。一期一会っていうんですよね。……でも今はもうずっと会っていなくて。」
「そんな……」
「でも、でもいつかまたみんなと会えるって。……だからお留守番しているんです。」
どれくらい、という質問を聞くことはできなかった。
イエイヌの辛い表情が物語っているから。
「あなたは……、どこにも行きませんか……?」
「……ごめん、わからない。あたしね、何をしたらいいかわからないの。」
「このおうちには!」
イエイヌは、声を張り上げた。
「ここには、ヒトが使っていた物がたくさんあります。セルリアンからだって、あなたを守りますから。……だから、ずっと一緒にここで。」
イエイヌと静かにここで過ごすこと。ここには電気も通っているし、家具だってある。イエイヌが守ってくれて、ずっと独りぼっちじゃなくて、他の人に会えるかもしれなくて。
あなたにとっては、あたしはヒトのままなんだろう。
「ジャパリパークっていうんだっけ。あたし、旅をしたいの。」
「……え?」
「まだまだ知りたいことがたくさんあるんだ。」
「しりたい……?」
「なんであたししか人がいないかーとか。なんでセルリアンって危険なのかなーとか。……なんで君みたいなフレンズがいるのか、とかね。」
「で、でも、外は危険ですよ。」
「うん。足手纏いになると思うよ。でも、がんばりたいんだ。」
「それって……」
「あたしがちゃんと自立すること、イエイヌちゃんには手伝ってほしいの。」
「でも、お留守番……。」
「散歩に行こう、いっしょに冒険に行こう。イエイヌちゃんとジャパリパークを知りたい。……どう?」
イエイヌちゃんは目を閉じた。
静寂が流れる。
たぶん、いろいろな葛藤があると思う。
「…………ありがとう!」
イエイヌは旅をする種ではない。ヒトと同じくおうちを持って、平和で変化のない生活を好む。慣れない生活は未知で、確実にイエイヌの負担になるだろう。そう考えることはできる。
でも、彼女はイエイヌじゃなくて、
イエイヌちゃんだから。
イエイヌちゃんには、彼女らしさを見つけてほしい。
そして、あたしも。
「これ、借りていいかな。」
「いいと思いますけど……」
着替えるのは、珍しいのかな。
タンスを開けば、子ども用の服が残されていた。
「だいじょーぶ、ちゃんと返しにもどってくるから!」
心機一転。
気分は、ジャングルの探検隊。
青いベストジャケットを羽織って、羽飾りのついた探検帽を被っただけなんだけどね。
「よしっ、いこう。イエイヌちゃん!」
「はい、ともえさん!」
えーと、男子ならこういうんだよね。
「あたしたちの冒険はこれからだ!」