けものフレンズR ~fan fiction~ 作:リバース
天気は快晴、ピクニック気分。
ここは、イエイヌちゃんのおうちがある平原地方。
行き先も決めないまま歩いているわけじゃなくて、地図を見ながら『森林地方』に向かっている。ジャパリパークは大きな島で、ホントかどうかわからないけれど、様々な気候が隣接していて火山を中心とした円とすると、扇形に分けられる。
「目指すはジャパリパーク1周ってこと!」
「でも、どうして、しんりんちほーなのですか?」
「砂漠地方は、砂だらけで暑そうだからね。できれば避けたいんだ。」
「へぇ~、そうなんですね。」
島の西にある砂漠か、島の東にある雪山か。
イエイヌやあたし的には雪山を選ぶ。
森林地方や水辺地方で、防寒具が準備できればいいんだけどね。
「そこのお二人、少しいいか?」
「「はい?」」
フレンズたちは白騎士と黒騎士と言っていいだろう。槍を持っていて、その佇まいや装備からも西洋の騎士を思わせる。獣耳は柔らかそうだし、槍の先端は角を模している気がする。
「もしかして、サイのフレンズ?」
「そうだ。私はクロサイ。そしてこちらは姫だ。」
「気軽にシロサイとお呼びくださいませ。」
「ど、どうも。イエイヌです。」
礼儀正しくお辞儀をする。
イエイヌちゃん、溢れんばかりの気品にちょっと動揺しているね。
「あたしは ともえ、よろしくね! あっ、ちょっと失礼。」
鞄から図鑑を取り出して、サイのページを開く。
シロサイもクロサイも灰色といっていいし、よく似ている。
食べるものだとか、それによって身体の構造に違いがでてきているけれど、写真を見比べてもかなり似ている。シロサイちゃんやクロサイちゃんはそれぞれ個性があってわかりやすいけどね。
「あの、何かあったのでしょうか?」
「いえ、あまり見かけない方々でしたので、お声をかけただけです。」
「私たちは食料調達の帰りでな。しんりんちほーから戻ってきたのだ。」
背中に背負っているのは、竹で編まれた籠だ。
手作り感が溢れている。
「すごい、いっぱいだ。」
「きのこが私たちの中では、ブームになっていますの。」
籠の中には同じ種類のキノコがあるけど、椎茸しかわからない。
「博士たちが提示した物を探すのは、苦労するがな。」
「小さいですし、ちゃんと近づくまで、見分けがつきませんものね。香りも独特ですし。」
視力があまり良くないからかな。
眼鏡でもあればいいんだけど。
「どうです、いくつか差しあげましょうか?」
「ご、ごめん。生のままじゃちょっとね。」
「あら、そうですの。」
「ねぇ。森林地方って、あっちであっているの?」
指差してみたけど、伝わるだろうか。
どっちから来たのかはわかるかもしれない。
「ええ。あなた方もキノコを?」
「ううん、旅をしているんだ。」
「あら、旅をするフレンズなのですね。」
「道中、セルリアンには気をつけるんだぞ。」
「わ、私が守りますからね!」
「ふふっ、頼もしいですわね。」
うん、ほんと頼もしい。
あたしの腕を取って、ポジションを取られないようにしている。
「では、失礼しますわ。」
「セルリアン退治をしているフレンズもいるから、頼るといい。」
「また機会がありましたら、お会いしましょう。」
「うん、ありがとう。シロサイちゃん、クロサイちゃん。」
「「ちゃん!?」」
踵を返したフレンズたちは、またあたしたちを見た。
仲良く揃って恥ずかしそうだ。
********
森林地方っていうか、森林が近づいてきた。
日が暮れてきているからこのまま森に入るのは避けたい。
「ねぇ、今日は休もうか?」
「そうですね。……どこで?」
「そりゃあ、野宿だけど。」
「き、危険ですよ!」
「まあ、確かに。火でも起こせればいいんだけどなー。」
意気揚々と旅を開始したものの、野宿は初めてだ。
明るさの確保も、マッチやライターがないとできない。
知識としては火起こしを知っているけれど、必要な道具を作ることも使うことも、あたしはできないだろう。イエイヌちゃんにとって足手纏いになっているのが、現状なんだよね。
「あっ、おうちがありますよ!」
「ほんとだ!」
森と平原の境目に、レンガ造りの民家があった。
灯りがついていて、窓から光が漏れ出している。
「ごめんくださーい!」
「は、はいぃ」
扉が開けば、オドオドしたフレンズが目の前に現れた。
白とピンクを基調としたドレスで、耳が垂れている。
「ブタのフレンズ?」
「そ、そう、ブタです。よ、よろしくおねがいします!」
あまり初対面のフレンズと話すことが得意ではなさそう。
「……だれ?」
またフレンズがおうちの中から様子を見に来た。
シャツの上から、ポケットのついたエプロンを羽織っている。
そして、どこか寂しげな印象がある。
「あたしはともえ!」
「イエイヌです。」
「……私、フクロオオカミ。」
フクロオオカミってたしか。
「あのー、一晩ここに泊めてもらえないかなって。」
「……そう、いいよ。あなたは違うみたいだし。」
あたしを見て、そう告げた。
ちがうっていうのは、どういうことだろう。
「あっ、うん、ありがとう。」
「……みんなとお留守番、しててね?」
「は、はい、お気をつけて!」
フクロオオカミは薄暗い闇の中へ消えていく。
「どこに行かれたんですか?」
「食べ物を、探しにいったんだと思います。」
ブタちゃんは、両手を前でキュッと組んでいる。
「夜行性だからかな。」
「あっ、どうぞ中ヘ。」
ベッドやテーブルはずいぶん古ぼけている。
太陽電池によって溜まった電気で、灯りはついているんだろう。
最低限の設備が整っているけれど、さびしい。
「えっと……、どうぞ。」
ジャパリまんと、コップに注がれた水を用意してくれた。
「いいの?」
「はいっ! お客様には最大限のおもてなしをって、いつも教えてもらっているんです。」
「そうなんだ、ありがとう。」
お腹ペコペコということもあって、あたしたちはすぐに平らげてしまう。
ほっとしたこともあって、大きなあくびが出た。
あくびはイエイヌちゃんにも移ったようで、微笑み合う。
「えっと、屋根裏部屋でいいでしょうか……?」
「いいよいいよ!」
案内してくれたけれど、設備も十分揃っている。それだけじゃなくて、部屋がピカピカに掃除されていることに感嘆の声が上がる。
「掃除は、ブタちゃんがやったの?」
「えっ、ええ。私にできることはこれくらいなので……おやすみなさい。」
「うん、おやすみ!」
「おやすみなさいです。」
顔を見合わせる。
「ベッド1つしかないけれど、一緒に寝よっか?」
「はっ、はい。ともえさんがよろしいのなら。」
でもまだ寝るには早い時間。
鞄を壁際に置いて、スケッチブックを取り出した。
「それって……」
「スケッチブックっていうんだ。」
「絵を、かくものなんですよね。」
「う、うん。よく知っているね。」
まだまだスケッチブックは、白紙だ。
その1ページ目。
鉛筆を使って犬を描こうとすれば、手が勝手に動いていく。
あたしってお絵かきが得意だったのかもしれない。デフォルメ化したダックスフンドはまだまだ下書きの段階だけれど、動物の特徴をよく捉えていると自負できる。
「これが、絵なんですね。初めて見ました。」
「じゃあ次は……」
イエイヌちゃんを描こうとしても、さっきと違ってスラスラと描くことはできない。試しに人を描こうとしたけれどその全体的な形は崩れる。対して、ネコの顔だけ描こうとすればサクサクと進む。
「どうかしましたか?」
「うん。イエイヌちゃんの絵を描こうかなって。」
「わ、私ですか?」
「まだうまくないから、ごめんね。」
「いえ、描いてもらえるだけでも嬉しいです!」
旅だってから1日目。
まだまだ旅初心者だけど、イエイヌちゃんと一緒ならなんとかなるかなって。