生き残った男の子ハリー・ポッター   作:はと麦茶

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そろそろ原作の展開から離れていきたい


10話 ハロウィン

ハグリッドのドラゴン騒動もひと段落つき、ホグワーツの宿題量にも慣れてきた頃、ハロウィンがやってきた。

 

城中の鎧が仮装して、大広間にはハグリッドが育てた巨大カボチャが飾られ、キッチンからはパンプキンパイのいい香りが漂ってくる。

子役の時にハロウィンのイベントで仮装したことはあるけれど、ここまで素晴らしく豪華なハロウィンは迎えたことがない。

 

その日の呪文学の授業では、とうとう物を飛ばす呪文を習う事になった。

フリットウィック先生がネビルのペットのヒキガエルをブンブン飛び回らせるのを見てから、皆やりたくて堪らなかった呪文だ。

二人一組でやることになり、ハリーはネビルと組んだ。シェーマスはディーン、ロンはハーマイオニーだ。

 

「さあ、しなやかな手首の動かし方を思い出して下さいね、皆さん」

 

小柄なフリットウィック先生は積み重ねた本の上に立って、キーキー声で言った。

 

「いいですか、ビューン、ヒョイ、ですよ。正確な発音を意識しないとマヌケな魔法使いバルッフィオのようにバッファローが胸の上に乗ることになります。さあ、ビューン、ヒョイ」

 

簡単そうに見えてそれは非常に難しかった。杖を持つと、体が思うように動かなくなるのだ。棒切れなら楽々「ビューン、ヒョイ!」と出来るのに、杖に持ち替えると腕が重くなる。

 

「ヴァンガビリョービンビン・レビオサーンポスト!」

 

ネビルは支離滅裂な呪文を唱えていた。

 

「ネビル、ウィンガーディアム・レビオーサだよ」

 

ハリーは杖を持たない状態でゆっくり発音した。

 

「ウィ、ウィンガディーアム・レビなんだっけ?」

「レビオーサ」

「ヴォンガードリアム・レピオータン!」

 

浮かび上がらせるはずの羽はどんどん縮こまって、しまいには消えてしまった。ネビルは肩をすくめる。

次はハリーの番だ。

 

「ウィンガーディアーム・レビオーサー」

 

何も起きない。

 

「えっとね、ウィ、ウィ……あの呪文」

 

ネビルは黒板を指差した。

 

「なるほど。よし……ウォンガーディアム・レビオーサ!」

 

羽はコサックダンスを始めた。

なんてこったい。

 

周りを見ると、どこも同じような悲惨さだった。

ディーンとシェーマスのペアは羽を大爆発させていたし、ロンとハーマイオニーのペアは揉めていた。

 

「ウィンガーディアム・レビオサー!」

「だから、ウィンガーディアム・レビオーサ、よ。あなたのはレビオサー」

「ふん。なら君がやってみろよ」

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」

 

ハーマイオニーの羽はふわふわ浮かび上がった。ハリーは思わず拍手した。ロンはしかめっ面してる。

 

「ミス・グレンジャー。素晴らしいです。グリフィンドールに10点!」

「ウワーオ!」

 

ハリーとネビルは喜んだ。

 

「僕だってあれぐらい出来るさ。ウィンガーディアム・レビオサー!」

 

ロンは杖をめちゃくちゃに振り回した。すると羽ではなくハーマイオニーのスカートがめくれ──ちらりと白いパンツが見えた。

マーリンの髭!!

ハリーは子役としての力を最大限に発揮して、何事も無かったかのように装った。ネビルはキャッと言って顔を背けた。

ロンはびっくりしてすぐに杖を下げた。

 

「ごめんハーマイオニー! そんなつもりじゃなかったんだ!」

「……ロンのバカ!」

 

ハーマイオニーはロンをグーパンチした。ロンはうめいて椅子から吹っ飛ばされた。

それを見てフリットウィック先生は即座に状況を把握した。

 

「ミスター・ウィーズリー、5点減点! しっかり集中しないからそうなるんですよ。ペアを変えましょう。ミスター・ウィーズリーはミスター・フィネガンと組んで下さい」

 

ハーマイオニーはパドマと組むことになった。

なんとなくドギマギしたまま、呪文学の授業は終わった。

 

 

「1ヶ月分の幸せが一気にやってきたみたいだ」

「うん僕も」

「最高だよね? 呪文学って」

「最高さ」

 

放課後、寝室でロンはうっとりしていた。

 

「あのアングル、マジでヤバい」

「いいなぁ」

「でも彼女怒ってたよね。なんかしてあげた方がいいかな?」

「優しくしてあげたら?」

「そうだね、もう僕、彼女のことバカにしたりしないよ絶対に!」

 

できれば自分だけが見たかったのにとハリーは思っていた。

 

夕食はお待ちかねのハロウィンパーティーだ。

大広間からはパンプキンのいい香りが漂っていて、よだれが出そうだ。大勢の人が大広間に向かっているので、廊下は非常に混雑していた。そりゃそうだ。この香りを嗅いだら、よっぽどの用事がない限り皆ハロウィンパーティーに向かうだろう。

 

「ごめんロン! 急用ができたんだ。一人で先にパーティーに行っててもらえる?」

「どうしたんだい?」

「ちょっと用事が!」

 

ハリーは人の波に逆らって、今来たばかりの道を引き返した。

 

「おや、ハリー・ポッターさん。パーティーには行かないのですか?」

 

グリフィンドールのゴーストであるほとんど首なしニックが話しかけてきた。

 

「うん、用事があるんだ」

 

ハリーは足がもつれないようにしながら急いで歩いていた。いくつもの階段を上り、フレッドとジョージから教えてもらった抜け道を通り、ハリーは図書館に到着した。

扉を開けて中に入ると、案の定生徒はほとんどいなかった。

これなら誰にも邪魔されずに両親のことを調べられる。

どこに両親のことは書いてあるだろうかと思ったハリーは手始めに時事コーナーに向かった。

 

『よくわかる魔法界時事100年』というつまらなそうな本をめくると、年表のページがあった。

父さんと母さんが死んだのは自分が一歳の時──つまり1981年だ。

年表の背景はその年の幸福度に合わせて色が変えられていて、1970年代は黒々とした墨汁のような液体が渦巻いていた。

 

『1979年──例のあの人によって起こされたと思われる襲撃事件が年に500件を超す。アズカバン周辺の吸魂鬼の数を増やすが時すでに遅し。』

『1980年──ミリセント・バグノールが魔法大臣に就任。例のあの人の勢力はますます強くなる。8月15日、呪文学者研究大会を狙ったテロにより呪文学の権威ホラ・ユークリットを始めとする研究者達が亡くなる』などなど。

 

年表に広がるのは暗い出来事ばかりだ。ページをめくるにつれてますます闇は増している。

 

ハリーはあるページをめくって、手を止めた。

どす黒い暗闇が、ある一線を隔てて明るく金色に光っていた。境目こそ歴史が変わった時――両親が死んだ時に違いない。ハリーの予想は当たっていた。

 

『1981年10月31日──生き残った男の子ハリー・ポッターが『例のあの人』を打ち破る。魔法界に平和が訪れる。』

 

ちょうど10年前だ。父さんと母さんは10年前のハロウィンに死んだのだ。10年か……長いような短いような期間だ。そもそも物心ついた時から両親は居なかったのだから、何年経っていようと変わらないのかもしれない。

 

ハリーは本を片付け、過去の新聞が置かれた場所に行った。

1981年の10月31日から11月5日ぐらいまでの新聞をまとめて取り、誰もいないテーブルに座って、ハリーは新聞を読み始めた。

10月31日の朝刊にハリーのことは書かれていなかった。だが号外を取ると載っていた。一面だ。

『闇の帝王破れる! 倒したのは一歳の赤ん坊!』という表題がでかでかと書かれている。

ざっと目を通す限り、各地でお祝いパーティーが開かれただとか、魔法で流れ星を一気に落としたせいでマグルを驚かせてしまっただとか、浮き足立った感じの明るいニュースが並んでいる。

そして最後の方のほんの一、二文に両親の訃報は載っていた。

両親はヴォルデモート卿によって殺された最後の犠牲者だったのだと、ハリーは初めて実感した。

 

複雑な気分で新聞をめくっていくと、2日3日経った頃から徐々にヴォルデモートの犠牲者に対する追悼文や手紙が載せられるようになった。両親に対するものもたくさん載せられていた。

同級生、下級生、上級生、闇払い、それに司書のマダム・ピンズも書いていた。

ハリーは一つ一つの記事を丁寧に読んだ。両親の痕跡を一つでも多く拾い集めたい一心だった。読むたびにハリーの心は温かくなった。

 

11月3日の夕刊の記事でハリーは思わず手を止めた。見覚えのある顔を見つけたのだ。

 

『シリウス・ブラック逮捕! 爆発で13人死亡』

 

看守に両腕を掴まれ、狂ったように高笑いするハンサムな青年の写真が大きく貼られている。

彼はハグリッドの小屋にあった写真で父親と共に写っていた青年とそっくり──恐らく同一人物だった。

しかしあの時の優雅で少し高慢ちきな笑みはなく、正気を失っているように見えた。

ハリーは暫くじっとその写真の青年を見て、それから記事に目を移した。

 

『11月1日の真昼間に魔法による爆発事件が発生し、魔法使い1名を含む計13名が亡くなった。この件でシリウス・ブラックが逮捕された。彼は一年程前から死喰い人になってスパイとして情報を密告しており、ポッター夫妻の居場所を密告して死亡させたのも彼であるという。魔法使いたちの怒りたるや激しく、シリウス・ブラックは直ちに終身刑に処された。国内では死刑制度を設けるべきだとの署名運動も活発化している。(ブラックとポッター夫妻の関係の詳細は12面参照)』

 

12面にはその詳細が載っていた。

 

いま明かされる酷い裏切りの真実! ブラックとポッター夫妻は親友だった!

「シリウス・ブラックとジェームズ・ポッターは親友で、いつも一緒にほっつき歩いてました。2人とも優秀で、人気者でした。あの二人が出会えたのは奇跡だと思います」懐かしそうに語るのは学生時代のクラスメイトである。

しかしその奇跡は最悪の方向へと向かう。

シリウス・ブラックは「例のあの人」への抵抗軍に所属していながら、一年程前から密通していたのだ。

ある日ポッター一家は自らが例のあの人に狙われていると知り、身を潜めることにした。そして自らの居住地を“親友の”ブラックだけに伝えた。その厚い信頼を非情にも裏切り、ブラックは即座にその情報を主人に密告し、ポッター夫妻を死に追いやった。

さらに悲劇は重なる。彼らにはもう一人の親友ピーター・ペティグリューがいた。

「学生時代はいつもふたりにくっついてる子でした。ふたりの悪戯を一番喜ぶのはピーターで、いつもニコニコ笑ってました。細かな魔法はうまかったです」と同級生。

ブラックの裏切りをいち早く知ったペティグリュー氏は、ブラックを一人で追った。マグル世界の配管工まで追い詰めたところでブラックは逆上し、パイプや周りの歩行者諸々と共にペティグリュー氏を吹き飛ばした。残された遺体は左手の小指だけであった。

彼にはその勇気を称して勲一等マーリン勲章の授与が検討されている。

自らの犠牲も厭わず平和の為に尽力した三人に哀悼の意を示すとともに、ふたりの親友とその妻を死に導いたブラックへの厳罰を望むところである。』

 

 

読み終わってしばらくハリーは動けなかった。

頭の中にハグリッドの小屋で見た写真が浮かんだ。ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックはどの写真でも一緒に写っていた。とても幸福そうな笑顔だった。あれは偽りだったというのか。

ハリーは気分が悪くなっているのを感じながら新聞を閉じて、一面のブラックの写真を見た。

もしこいつが居なかったら自分はどんな風に暮らしてただろう。

誕生日のケーキを作ってくれたのは母さんだったかもしれない。

休みの日には父さんと一緒に箒に乗って空を飛び回ってたかもしれない。

ホグワーツ特急に乗る前に母さんがハグとキスしてくれたかもしれない。

その全てがこの男によって奪われたのだ。

 

その時、入り口から虹色の不死鳥の守護霊が飛んできて、司書の前で止まった。ハリーは不思議なほど強くその鳥に心を惹かれた。

 

『地下にトロールが出現した。図書室に生徒が居れば、安全が確保されるまでそこで待機させておくように』

 

ダンブルドアの声だった。

マダム・ピンスは素早く立ち上がると、普段からは考えられない大きな声を出した。

 

「生徒達! 今すぐこちらに集まりなさい! 緊急事態です!」

 

ハリーは新聞から目を離して、取り憑かれたように司書のカウンターの近くに──不死鳥の近くに寄った。

しかし触ろうとした所で、不死鳥は消えてしまった。どっと黒々とした気持ちが戻ってきた。

ハリーは落胆しながらも緊急事態が起きて良かったと思った。あのままブラックの写真を見続けていたら、心がめちゃくちゃになってしまったかもしれない。ハリーは何回も深呼吸して、何とか心を落ち着けようとした。

ハロウィンパーティー中に図書室にいるのはハリーの他に3人しか居なかった。みんな7年生で、勉学に切羽詰まっている生徒達だ。

マダム・ピンスはハリーを見て驚いた。ゴースト並みに青ざめた顔をしていた。

 

「大丈夫ですか、ポッター?」

「あ、はい。ごめんなさいちょっと驚いて……」

「トロールは地下に出たようですから、ここは安全でしょう」

「はい」

 

ハリーはなんとか首を動かして頷いた。

しばらく待機していると再び不死鳥が飛んできた。

 

『トロールは倒された。生徒達は直ちに寮の談話室に戻るように。以後、外出禁止とする。おやすみなさい』

 

7年生たちはホッと息をついた。

 

「では皆さん、早く寮に帰りなさい!」

「はーい」

 

7年生たちは勉強道具を片付けて図書館から出ていった。

 

「ミスター・ポッター、体調が悪いのですか? トロールはもう倒されましたから、安心して談話室に戻って下さい。それとも医務室に連れて行きましょうか?」

 

ハリーがずっとしゃがみこんだままだったので、マダム・ピンスは心配になって声をかけた。

その時になって初めてハリーは皆が居なくなっていることに気づいた。

 

「ん、あれ、トロールは……」

「もうとっくに倒されましたよ」

「ああ、それはよかったです……」

 

ハリーの声は上ずっていた。よろよろした足取りで図書館を出ていく後ろ姿をマダム・ピンスは大丈夫かしらと思いながら見ていた。

 

「私も早く職員室に戻りましょう」

 

マダム・ピンスは一人で呟き、閉館前の図書館のチェックを始めた。本を指定された場所に戻していないことが稀にあるのだ。そういう時は触った痕跡を魔法で調べて誰の仕業か特定して、しっかりと罰を与えている。

 

「あらまあこんな大胆に……!」

 

机の上に広げられた新聞を見て、マダム・ピンスは目を細めた。しかし老眼鏡をかけて記事を軽く読んだ後、彼女の怒りは消えていた。

 

「……これは」

 

マダム・ピンスは心を痛め、奥のテーブルを懐かしそうに眺めた──ジェームズとリリーがよく一緒に座って勉強していた場所だ。

 

「大変だわ!」

 

マダム・ピンスは図書館を飛び出て廊下を見回した。しかしハリーの姿は既に無く、ただパンプキンパイの香りだけが残っていた。




※校内に出没したトロールはスネイプ先生らが華麗に倒しました。
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