生き残った男の子ハリー・ポッター   作:はと麦茶

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11話 クィディッチ観戦

ハリーは猛烈に胸がムカムカして気分が悪かった。パンプキンパイの甘い香りは吐き気を助長させた。

考えないようにしてもシリウス・ブラックの顔が頭に浮かんできてしまう。両親と写っていた幸せそうな笑顔、看守に連行されている途中の狂気じみた乾いた笑い……。

 

「合言葉は?」

 

グリフィンドールの談話室の肖像画、太ったレディが尋ねる。

 

「パンプキンパイ・イン・かぼちゃジュース」

「大正解。顔色が悪いけど大丈夫?」

「うん……」

 

肖像画の裏の抜け穴に何とかよじ登って、ハリーは談話室に着いた。

そこは城内にトロールが入ったニュースで興奮する生徒たちでごった返していた。

 

「ハリー! どうしてたんだい? ずっと居なくて心配したよ」

 

手前の方でフレッド達と話していたロンはハリーの姿をいち早く見つけて駆け寄ってきた。

 

「ああ、ううん平気。ちょっと用事が長引いて」

「でも顔色が悪いよハリー?」

 

そこにハーマイオニー・グレンジャーもやってきた。

 

「私、あなたのためにドラゴンの本を色々借りてきたの。パーティーの時に渡そうと思ったらいなくてどうしたのかと思ったわ……ハリー、あなた大丈夫? 唇が真っ青よ」

「ちょっと冷えたのかも。心配しないで。僕、ちょっと先に寝室に行ってるよ」

 

ハリーはハーマイオニーから本を受け取りながら答えた。

 

「ついてこうか?」

「ううん、大丈夫。少し休むだけだから」

「でも心配だよ」

「ぜーんぜん心配しないで。大したことないから」

 

ロンは未だに心配そうだったが、ハリーの気持ちを汲み取ったのかそれ以上しつこくは言ってこなかった。

 

「あ、そうだ。ハリーのためにミートパイとポテトを取ってきたんだけど、食べるかい?」

「うん、ありがとうロン」

 

寝室に上がる階段の前でハリーはロンから食べ物が包まれたナプキンを受け取った。

 

「もうここでいいよ。ありがとう、ロン、それにハーマイオニーも」

「……ゆっくり寝てろよハリー」

「お大事にね、ハリー」

「うん」

 

ふたりはハリーが階段を上りきるまで心配そうに見ていたが、上がってはこなかった。

一人にしてくれてありがたかった。

ハリーは寝室に行くと、真っ先にトランクを開けて、両親の写真を取り出した。

ハグリッドが両親と“親友”が共に写っている写真をさりげなく取り上げて、代わりにくれた写真だ。

今思えばあの時のハグリッドの言動は少し不自然だった。

 

別のことを考えよう考えようと思ってもブラックの事が頭をよぎる。アズカバンは恐ろしいところだと魔法界の皆が口を揃えて言っていた。とてもとても苦しい目に遭っていればいい。両親が裏切られたと悟った時の苦しみの何倍も苦しんでいてほしい。

経験したことのない激しい憎しみがハリーの体中に駆け回っていた。

映画の一コマを見せてくれているかのように、シリウス・ブラックが両親を裏切った時の様子が脳裏に浮かんだ。

 

「やりました、帝王……ポッター夫妻が私に居場所を教えました! あの馬鹿な夫婦めが!」

 

美しく整ったハンサムな顔は悪役そのものの狡猾で悪どい笑みを浮かべている……。理不尽なことに映画の中ではこういう悪役は案外人気なものだ。

今頃はアズカバンにいて、何を考えているのだろう? 立場を露わにした瞬間に主人が消滅するとは思っていなかったに違いない。何年も牢獄に閉じ込められるなんて思いもしてなかっただろう……。

ハリーは写真をしまってカーテンを引き、ベッドに入った。とても頭が重かった。本当に風邪をひいたかもしれない。

 

やがてロン達が帰ってくる音がした。

 

「大丈夫かい、ハリー? 寝てる?」

 

カーテン越しにロンのささやきが聞こえた。ハリーは寝ているふりをして無視した。

パーティーで疲れていたこともあってか、すぐに皆は寝付いた。最後にスキャバースの鳴き声が寝室に響いた。

 

 

それからの日々をハリーはあまり覚えていない。ただいつも両親とブラックのことが頭に浮かんでは消え、その度に寂しさと憎しみ、空虚さが押し寄せては引いてを繰り返していたのは覚えている。

ハリーはこれまで自分の感情のコントロール能力には自信があった。でもそれはコントロール出来ないほどの激しい感情に駆られたことがなかったからなのだと気付かされた。

考えても無駄だと分かっていても、ハリーはどうしても両親のことを考えてしまった。ブラックがより苦しむ方法は無いかと考えてしまった。なぜ自分の両親は死んでいるのにブラックは──例えアズカバンに幽閉されていたとしても──生きられているのか。

全てが過去に終わったことで、取り返しのつかないことだとは知っていても、考えていないと気が収まらなかった。

少しでも長い間両親を想い、ブラックを憎むことが仇討ちになるような気がした。

 

不思議なのは、あれ以来ハリーは突然加点されることが多くなったということだ。

魔法薬学のレポートを書く為にロンとハーマイオニーと一緒に図書館に行った時になぜかマダム・ピンスが突然グリフィンドールに10点を与えてくれたのを筆頭に、様々な先生がちょっとしたことでハリーに加点してくれるのだ。

ハーマイオニーがそのことで文句を言っていた気がするが、ハリーはあまり覚えていなかった。

 

 

 

 

「……あらまあイルマ。あなたがこんなに早く職員室に集まるなんて珍しいですわね」

 

時は少し遡りハロウィンの夜、職員室には先生方が集まり始めていた。

司書のマダム・ピンスはいつもはギリギリまで図書館で本を読んでいるのだが、今日だけはすぐに職員室に来ていた。話し相手はグリフィンドールの寮監マクゴナガル先生だ。

 

「おたくの寮の生徒のことで話したいことがありまして」

「まあ、何か悪さでもしたのですか? 本を片手で掴んだとか?」

 

マグゴナガルはマダム・ピンスの本に対する異常な愛情には飽き飽きしていた。

 

「いえ、ただ話しておいた方がいいかとおもいまして。ハリー・ポッターのことですわ」

「ハリー? あの子は素晴らしい! 名前だけ有名なお坊ちゃんかと思ったら、ずっとしっかりしてるし優秀な子ですよ!」

 

レポートの採点をしていたレイブンクロー寮監のフリットウィック先生も寄ってきた。

 

「ハロウィンパーティーで彼は図書館に来ていたのです。そして……あの子のご両親は非常に不幸な亡くなり方をされたでしょう?」

「まったくあれは未だに信じられん! まさに兄弟! 一心同体! あんな酷い裏切りが出来るとは!」

 

フリットウィックは怒りを見せた。

マグゴナガルは静かに頷いた。

マグゴナガルにとってポッター夫妻が亡くなった事は、ヴォルデモートによる数多くの犠牲者の中でも、実の弟やかつて愛したマグルの男性と並んで特に悲しい知らせだった。

 

「彼が図書館から出て行った後、新聞がテーブルに置きっぱなしになっていました。開かれていたのはシリウス・ブラック逮捕の記事でした」

「……まさか! あの子が、まだ11歳の男の子が、あの恐ろしい事実を知ってしまったというのです?」

 

マグゴナガルは顔を青くした。

マダム・ピンスは頷いた。

 

「彼は真っ青な顔をしていました……唇も青ざめていて……あの時はただ体調が悪いのかと思ったのです」

 

フリットウィック先生は信じられないという様子で頭を振っていた。

 

「私達でも受け止めきれなかったというのに……なんて事でしょう」

 

マグゴナガルは、寮監としてどうするべきか必死に考えた。

何気なく呼び出して一緒に話をするか? それともいつも通りに振る舞うか? いや、それはない。何かフォローしてあげなければ、到底一人で受け止められる問題ではない……。

 

その時、マグゴナガルは後ろから人が近づいてくる気配を感じた。

振り返るとダンブルドアがいつもの優しい微笑みで立っていた。

 

「どうしたのかねみなさん?」

「ダンブルドア先生! それが──」

 

マダム・ピンスが全てを説明した。

ダンブルドアは眉をひそめ、時折首を傾げたり、目を閉じたりしながら話を聞いていた。

 

「よく話してくれたの、イルマ。それにミネルバにフィリウスも思い出すのは辛いことだろう」

 

ダンブルドアは一息ついてから、口を開いた。

 

「……わしが思うに、悲しむことはとても大切じゃ。立ち止まり悲しみに沈む時間は前に進む糧になる」

「悲しい時ほど誰かに相談したいとは思いませんか? 私たちが相談相手になるべきでしょうか?」

 

途中からやってきた薬草学のポモーナ・スプラウトが言った。

 

「……教員から声をかける必要はないじゃろう。最終的にはひとりで解決しなければならない問題じゃからの。しかし彼が悩みを打ち明けた時には真摯に対応してほしい」

 

ダンブルドアはお願いした。

先生方は真剣な顔で頷いた。スネイプは無表情で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

「ハリー! ねえハリー? ハリーったら!」

「あっどうしたのハーマイオニー?」

「あなたひと月前からずーっと同じページ読んでるわ。気づいてる?」

「たまたまだよ」

 

12月が近づきかなり寒さが増してきた頃、ホグワーツはクィディッチシーズンに突入した。

グリフィンドールは去年名シーカーのチャーリーが卒業して、その後釜が見つからずヤキモキしていた。

そんな中、ハリーはいつものように暖炉の前のソファに座って本を読むふりをしていた。そしたらハーマイオニーに声をかけられたというわけだ。

 

「ハリー、最近ずーっとボーッとしてるわ。今日はグリフィンドール対スリザリンの試合よ! 応援しに行きましょう!」

 

ふと周りを見ると、みんな頬にグリフィンドールのペイントをしたり、グリフィンドールカラーの赤と金の旗を振り回したりしていた。

 

「ほら、このマフラーを巻いて、旗を持って」

 

ハーマイオニーはハリーの首にマフラーを巻きつけ、旗を押し付けた。

 

「あとペインティングもね!」

 

ディーンがやってきて、瞬く間にハリーの頬に金のライオンを描いた。彼は絵が得意だ。

 

「歌は覚えたかい? ゴー・ゴー・グリフィンドール!」

 

ロンはソファーの上に立って拳を突き上げた。

 

「オーケー」

 

ハリーは笑った。ロンの陽気さを見ていると一時的にだが元気になれる。

 

 

 

 

吐く息が白くなるような寒い日だったが、クィディッチ競技場は熱気に満ち溢れていた。

グリフィンドールの観客席は真紅に染まっている。

 

「ウワーオ」

 

ロンが驚いた。

人混みを抜けてグリフィンドールの応援席の最上階に行くと、そこから見える景色は圧巻だった。クィディッチ競技場を囲むように赤と緑が鮮やかに並んでいる。

 

「結局、グリフィンドールのシーカーは誰になったんだっけ?」

 

ネビルが寒さに手を擦りながら尋ねた。

 

「7年生のヘンリー・ピット。3、4年生の時にチェイサーをやってた人だってさ。それなりにシーカーとしての素質もあるらしいよ」

 

ロンは説明した。

 

「あ、マダム・フーチがいらっしゃったわ!」

 

審判のマダム・フーチの呼びかけで、両キャプテンが握手する。互いに相手の手をひねり潰しそうな力が込められている。

 

『さあいよいよ試合開始です! 解説はリー・ジョーダンでお送りします! さてクアッフルはたちまちアンジェリーナ・ジョンソンの手に! なんて素晴らしいチェイサーでしょう! その上かなり魅力的です──アイタッ! すみませんマクゴナガル先生』

 

リーはマクゴナガル先生に叩かれた。

 

『さあ、クアッフルはアンジェリーナからアシリアへ──おっとここでフェイントだ! ケイティ選手、スリザリンの野郎どもを吹っ飛ばしてゴールへと猛突進!』

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

応援席は盛り上がる。ハリーも一生懸命旗を振った。

 

 

『が、しかし、おっそれは酷いぞ! モンタギューの奴、何もしていないアシリアに向かって後ろからブラッジャーを当てやがった! おい、反則だ!』

 

今度はスリザリンが盛り上がり、グリフィンドールはブーイングした。応援席が一体感に包まれる。

ちょっと野蛮だけど、クィディッチはやはり面白いとハリーは思った。

 

『さあ、アシリア選手が復帰して、ゲームは再開されました。あの胸糞悪い悪質なプレーのあと──』

『ジョーダン!』

『──あれは誰が見ても悪意に満ち溢れたラフプレーでした』

『誰かに解説の座を譲りたいのですか?』

『はいはい、すみません──モンタギュー選手の反則は誰にでも良くあるようなミスですね、きっと。さあ、そしてクアッフルを持ったのはアンジェリーナ! ウィーズリー兄弟が盾となり、突き進んでいきます──おー! ゴール!! グリフィンドール、先取点を獲得しました! みたかモンタギュー!』

 

「いえーーーーい!!」

「うおーーーーー!!」

 

グリフィンドールはみんなでハイタッチしたり雄叫びをあげて喜び合った。

ふとスリザリンの方を見ると、彼らは苦虫を噛み潰したような顔をしていた──こういう大規模なスポーツ大会で、どちらかのチームに所属する生徒が解説をするのは良くないのかもしれない。

 

それからグリフィンドールは続けて3得点した。最強のシーカーがいなくなったのでチェイサー達がいつも以上に頑張りをみせた。

しかしそこから徐々に下降し始めた。

健闘虚しく、グリフィンドールは100対170で大敗した。

 

「このルール……シーカーへの負担が大きすぎるわ」

 

ハーマイオニーが呟いた。皆は無言で頷くだけだった。

シーカーはスニッチを取れば150点取って試合を終了させられるので非常に重要なポジションだ。ヘンリー・ピットはチェイサーとしての経験はあるがシーカーは初めてだった。

 

「まあでも頑張ったよ。スリザリンが一番の強敵なんだ。次は行けるはずさ、うん」

 

ロンが死にかけのドクシーのような声で励ました。

負けてしまったのは悔しいけど、いい試合を見れたとハリーは思った。




〈悲報〉グリフィンドール、スリザリンに負ける。

あと裏では、「ハリーにブラッジャーをぶつけようとするクィレル先生」vs「それを阻止しようとするスネイプ先生」の熱い攻防が繰り広げられてました。
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