生き残った男の子ハリー・ポッター   作:はと麦茶

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15話 さよならスキャバース

ハリーは愕然とした。

まさかピーター・ペティグリューがネズミになって生きていたとは……。

でも、待てよ。生きていたならなぜネズミになって隠れる必要があったんだ?

ハリーは考えた。

浮かんできたのはアズカバンにいるブラックの瞳だった。

あの懐かしそうな瞳は、裏切って殺した親友の息子に向けるものではない。

 

もしや、とんでもない真実が隠されているのではないか……!

 

「おーいハリー? 僕はいつになったら戻っていいんだい?」

 

その時、外からロンの声が聞こえてきた。

ハリーは慌ててドアを開けた。

 

「ごめんロン。君の血統は証明された。君は確実にウィーズリー家の子供だよ」

 

ハリーはロンの手を握りしめた。ロンは訳がわからないという顔をしていた。

 

「というか、いつのまに僕はあんなチンケな奥様向け魔法ラジオみたいな展開に巻き込まれたんだい?」

 

ハリーは聞いていなかった。

 

「ロン、僕ちょっと図書館に行ってくる!」

「え? まだ学校は始まってないっていうのにどうしたんだい? おーい!」

 

ロンはネズミのスキャバースと2人きりで寝室に取り残された。

 

 

 

 

ハリーは図書館に走った。

学校に来て早々、なぜかハーマイオニーも図書館に来ていた。

 

「ハーマイオニー! 何してるの?」

「闇の魔術に対する防衛術の予習よ。私、スキーに行った雪山でスノーマンを見た気がするの。だからクィレル先生にレポートを書いて提出しようと思ってるのよ」

「ねえ、確かマクゴナガル先生が初回の授業で猫になってたよね?」

「ええ、先生は動物もどきなのよ」

「動物もどき?」

「そうよ。変身術の集大成と言われてる魔法で、とてつもない忍耐と技術が必要なの。動物もどきになると理性を保ったまま動物になれるから、魔女狩りが横行していた時代には隠れるためと──あとちょっぴりマグルをからかうために、沢山の人が動物もどきになろうとしたらしいわ」

「動物もどきのままずーっと過ごすのって可能なのかな?」

「論理的には可能だと思うわ。そんな生活をしたい人がいるかどうかは別としてね」

「わかった。ありがとう」

 

ハリーは頭を巡らせた。

みぞの鏡での幸せそうな父とブラックの笑顔が頭に浮かぶ。ピーターは遠慮がちに2人の後ろで小さく微笑んでいた。

 

“みぞの”鏡……逆から読むと“のぞみ”……もし、両親に関する一連の騒動が全て逆に起こっていたとしたらどうだろうか?

ピーターがスパイだったなら。密告したのはピーターだったなら。マグル街で追い詰められたのは、ブラックではなくピーターならば……!

 

ピーターは隠れるに違いない。

裏切りを明確にした瞬間、闇の帝王が姿を消したのだ。

死喰い人からは、ピーターの密告によって闇の帝王が敗れたように思われ、抵抗軍からは裏切り者として追放される。ピーターの立場はどこにも無くなる。

だからブラックに罪を擦りつけ、そして自分は死んだことにして姿をくらましたのだ! 左手の小指だけを切り落として──!

 

そうでなければ、ピーターがネズミとして生きている理由がない。

もし本当にブラックが裏切り者ならば、ピーターは普通に生きていればいいのだ。

そう出来なかったのは、彼自身が闇の帝王のしもべであり、彼の密告のせいで結果的に闇の帝王が消えてしまった為、死喰い人から粛清されることを恐れたのだ。

 

 

ハリーは真実に辿り着いた。

子役の経験がハリーの想像力を豊かにさせ、隠された真相を明かすことができたのだ。

しかしまだ油断はできない。

どうすればこれを証明できるかハリーは考えた。

下手なことをすると逃げられるかもしれない。

ハリーはハーマイオニーの席に走った。

 

「ハーマイオニー、小動物を生け捕りにして閉じ込めておける魔法ってない?」

「あると思うわ。ビンにそういう魔法をかけるのよ」

「教えてくれない?」

「いいわよ。でもどうして?」

「よくわからないけど、急にその魔法を使いたい気持ちに襲われたんだ」

 

ハーマイオニーは首をひねった。

 

「あなたって変わった人だったのね。子役としてテレビ越しに見てる時は全くそう感じなかったわ」

「子役は好感度命だから、下手なこと出来ないよ……あ、今の発言聞かなかったことにして! 打算的だって叩かれて好感度下がっちゃう!」

 

ハリーはもはや体面など気にしていなかった。

人生最大の発見をしたハリーは人生最大級に興奮していた。

 

 

図書館で魔法を練習するとマダム・ピンスに怒られそうなので、ハーマイオニーとハリーは近くの空き教室に移動して、魔法を練習した。

ハリーの調子はいつにも増して良かった。

 

「ハリー、あなた、いつもそれぐらい真剣なら、もっと寮の得点を得ることに貢献できると思うわ」

「だって授業って聞くだけで反射的に眠くなっちゃって……頑張ってるよ! もちろん!」

「なら魔法史のノートを見せてもらえるかしら?」

 

ハリーの魔法史のノートはピッカピカの新品だ。

あの子守唄のような講義には敵わない。

 

ハーマイオニーにお小言を言われつつ、ハリーはその魔法を習得した。

 

「ありがとうハーマイオニー。このお礼はいつか必ずするよ」

 

特別な魔法がかかったビンをロープの内側にしまい、ハリーは最高の笑顔でハーマイオニーに感謝の言葉を述べた。

 

 

 

 

まさかネズミが両親の宿敵だったとは……ハリーは興奮冷めやらぬまま大股で歩いた。

自分の手で敵を暴くことが出来た。両親の無念を晴らすことができた。

監獄にいるシリウス・ブラックの為にも、一刻も早くロンのネズミを捕まえなければならない。

 

ハリーは寝室に戻った。ロンはディーンとチェスをしていた。ロンが圧倒的優勢で、ディーンのクイーンはロンのキングと不倫していた。

スキャバースは相変わらずベッドで寝ている。

 

「ハリー、おかえり! さっきは一体全体どうしたんだい?」

「ああ、心配させてごめん。ちょっと用事を思い出しただけなんだ」

 

ハリーは爽やかに言うと、ロンのベッドに座り、寝そべって肘をついて、幸せそうに頭をリズムに乗って揺らした。

 

「うわあ可愛い! 尻尾が長くて、毛並みは灰色。いいなぁ、僕もこんなネズミが飼いたいよ」

 

ハリーはニコニコとスキャバースを見つめた。

 

「授業に連れていけたらいいのになぁ。あ、これ、君のペットのネズミだったよね?」

「うん、ずっと前から知ってるじゃないか」

「確認だよ。ロン、ちょっとだけこのネズミ借りてもいい? 一緒にお散歩してみたいなぁ」

「怪しいことする気じゃないよね、ハリー?」

「もちろんだよ」

 

ハリーは寝ているスキャバースを優しく抱き上げた。

そしてロンから死角になるように背中を向け、ハリーはローブの内側のビンを取り出した。

 

──が、そこでスキャバースは目を覚ました。

少しトロロンとした目で周りを見て、ハリーが掴んでいるビンに気づいた瞬間、何かを察したのか、スキャバースはハリーの手から逃げ出そうとした。

 

「だめだ! これからきみは僕と散歩するんだ!」

 

ハリーは万力を込めて左手でスキャバースを握りしめ、右手でビンの蓋を開けた。

 

「ねえ、僕のネズミに乱暴しないでよ!?」

「大丈夫だロン。ちょっと──戯れて──いるだけだから!」

 

ハリーはジッタンバッタンとベッドの上で格闘しながら言った。

ディーンは目を丸くして2人を見ていた。

 

なんとかしてハリーはネズミをビンに閉じ込めた。バキッとネズミの骨が何本か折れた気がするが気にしない。

ネズミはなんとかビンから出ようともがいていた。

 

「ハリー! 僕のネズミにいったいどうする気なんだ! そんな狭い所に閉じ込めるな! やめろ!」

 

ロンはハリーからビンを奪い取ろうとしたが、ハリーは断固として抵抗した。

 

「ロン、これは君にとっても大事なことなんだ! 大丈夫、変なことはしない。ただ校長室にお散歩に行くお供になってもらうだけだ」

 

ハリーは有無を言わせない口調で言った。

しかしロンはここに来て謎のグリフィンドール精神を発揮してしまった。

 

「はやくスキャバースをビンから出せ! 動物愛護団体に抗議されるぞ! もしそうならないなら、僕が抗議してやる! 友達のペットを突然ビンに閉じ込めるなんて!」

「……なら一緒に行こう。校長室まで。そしたら僕がネズミに対して何もしないことが分かるはずだ」

「なんでそんなに校長室に行きたいんだ!?」

「ロン、君が素直に校長室に行くことを許してくれれば、このネズミはすぐにビンから出されるんだ。数分間だけだ。お願い」

 

ハリーは頼み込んだ。

押し問答の末、ようやくロンはハリーの頼みを受けた(後にロンはこの選択を深く後悔することになる)。

 

「……わかったよ。なら行くよ。そしたら、絶対にスキャバースを返してくれよ」

「君が返して欲しい気持ちだったらね」

 

ハリーはビンを両手にしっかり持って、ロンと共に談話室を出た。

 

 

 

 

ハリーは校長室に着いた。しかしガーゴイルの銅像が立ち塞がった。合言葉を言わないと上がれないのだ。

前の合言葉は『杖型甘草雨』だった。

 

「なら……ゴキブリゴソゴソ板豆!」

 

ハリーが適当に思いついたお菓子の名前を言うと、ガーゴイルは道を開けた。

ロンは唖然としていた。

 

「校長室に自由に行けるなんて……君、いったい何者だい?」

「こういう時の運は良いんだ」

 

ハリーは銅像の裏にある螺旋階段に足を乗せた。

 

「ほら、ロンも来てよ」

 

ロンは畏れ多いという様子でそっと一歩踏み出した。2人を乗せた階段はゆっくり上に上がりながら回り出した。

 

 

校長室のドアを叩くと、ダンブルドアは驚いた様子で2人を見ていた。

 

「どうしたのかね?」

「ダンブルドア先生。ピーターが生きていたんです。ピーター・ペティグリューが」

 

ハリーはネズミが入ったビンを堂々と掲げた。

ダンブルドアは首を傾げた。

 

「どういうことかね?」

「両親を裏切ったのはシリウス・ブラックではありません。ピーター・ペティグリューです。ピーターが秘密の守人だったんです!」

「この閉じ込められておるネズミがピーターだと言うのかね?」

「はい、そうです」

「どういうことだよ、ハリー……」

 

ロンは校長室の隅っこで訳が分からないという顔をしていた。

ダンブルドアは興味深くネズミを観察していた。ネズミはさらに激しくビンの中で暴れまわった。

 

「なるほど、このネズミは指が欠けておる……しかし、それだけでは証拠に欠けるような気がするのじゃが」

「この地図を見てください」

 

ハリーは忍びの地図を差し出した。

ダンブルドアは半月形の眼鏡をくいと上げ、青い瞳でじっと地図を見た。

 

「ふむ……確かに偶然の一致にしてはおかしな所が多々あるように思えるの。ハリー、そしてロナルド君。少し離れてはくれんかね?」

「はい」

 

ハリーはロンの腕を掴んで、後ろに下がった。ロンは完全に事態に付いて行けず取り残されていた。

 

「ロナルド君、わしは今から君のネズミに魔法をかけようと思う。失敗しても害は全くない魔法じゃ。許してくれるかね?」

 

ダンブルドアは優しげに、しかし強い眼差しでロンに尋ねた。

 

「え、あ、はい……」

 

ロンはダンブルドア校長に話しかけられて呆然としていた。ダンブルドアはロンの答えを聞いて満足げに頷いた。

 

「すぐに了承してくれてありがたい限りじゃ。では──いち、にの」

 

ダンブルドアは左手でビンを持ち、右手で杖を可憐に一振りした。

眩い白い光が辺りに広がり、ビンの中でポンと煙が上がった。

 

ハリーが目を開けると、そこには、禿げた頭の小太りな小男が現れていた。

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