生き残った男の子ハリー・ポッター   作:はと麦茶

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18話 イースター休暇

ハリーは天にも舞い上がりそうな気分だった。

シリウスと暮らせる……父さんと母さんの親友だったシリウスと……。

しかしその夢は一瞬にして砕かれた。

 

「え、少なくとも4週間はダーズリー家に居なきゃいけないんですか?」

「なぜですか?」

 

ハリーとシリウスはダンブルドアに詰め寄った。

 

「君には大切な子役としての仕事があるじゃろう。ペチュニア叔母さんは君が子役として活躍してくれることを望んでおる。その為に4週間は活動して欲しいとのことじゃ」

 

子役としての活動……シリウスのことで頭がいっぱいですっかり忘れていた。

 

「ああ、そうか……なら仕方ない。私も君がテレビと言ったかな?で輝いている姿を見てみたいよ」

 

シリウスが悲しさを押し殺して言った。

 

「あなたが言うなら……分かりました。4週間ですね」

 

ハリーは寂しそうにした。その様子を見てシリウスは高らかに宣言した。

 

「よし、分かった。私が君の叔父さん叔母さん家の近くに家を買って住もう! そうすれば君はいつでも遊びに来れる!」

「えー? いいんですか? やったー!」

 

ハリーとシリウスは抱き合って喜んだ。ついさっき初めて会話したとは思えないほど2人は仲良くなっていた。

そんな2人にダンブルドアとリーマスはニコニコ笑っていた。

 

ハリーはとても聞き分けのいい子だと思っていたが、ずっと我慢させてしまっていたのかもしれない。どうかハリーとシリウスの幸せな家庭が長続きして欲しいとダンブルドアは願った。

 

 

翌日の朝食の時間、ホグワーツに戻ったハリーは皆から質問攻めにあった。

 

「ねえハリー、あのシリウス・ブラックが君の後見人だったって本当なの?」

「そうだよシェーマス。昨日、ホグズミード村に遊びに行って僕にマフラー買ってくれたんだ」

「私、早速シリウス・ブラックのことを調べたのだけど、彼ってとっても優秀だったらしいわ。あなたのお父さまと一、二を争う成績だったそうよ」

「すごいねハーマイオニー。まるで動く百科事典だよ」

「すごいよハリー! きみ、無実の人を助け出したんだ! やってない犯罪でアズカバンに入れられるなんて考えるだけで震えてくるよ……」

「ありがとうネビル」

 

ちなみにロンにも同情が集まった。ずっと大切にしてきたペットが中年の薄汚い男だったからだ。

全国から新しいネズミをプレゼントするとの申し出が出て、ロンはちょっとしたスターだった。ロン自身はまんざらでもなさそうだ。

元気になってくれてよかったとハリーは思った。

 

「ふん、可哀想なみなしごが刑務所帰りの男と家族になるなんて、泣ける話だねえ」

 

プラチナブロンドのドラコ・マルフォイは煽ってきた。

わざわざグリフィンドールのテーブルに近づいてまで話しかけてくるんだから可愛いものだ。

 

「マルフォイ、僕とシリウスに対して涙を流すぐらいなら、ロンの身に起きた悲劇に対して泣いてあげてよ。ロンは大切なペットがおっさんだったという悲しみに暮れてるんだ」

「え、僕を売るのかいハリー!?」

 

ロンは慌てた。マルフォイは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「野良ネズミなんて飼ってるせいさ。自業自得だよ」

 

マルフォイはそう言い残して去っていった。

 

「そういえばロン、マルフォイのお家にはクジャクがいるんだって」

「うん、その情報は今いらないかな」

「ロンもクジャク飼ったら?」

「そんな大きい動物飼ったら、ベッド丸ごと乗っ取られちゃうよ。それにマルフォイの野郎と同じものは飼いたくないし」

「そっか」

 

ハリーはしょんぼりした。

今の会話は何だったんだとロンは思った。

 

 

それからあっという間にイースター休暇が訪れた。

その間にいくつか良いことが起こったが、特によかったのはロンのパパが宝くじを当てたことだろう。

10000ガリオンという超大金を当てたので、チャーリーの治療費の支払いに頭を悩ませることをしなくてよくなったのだ。

それどころか休暇ごとに家族みんなでマレーシア(チャーリーが治療を受けている病院がある)に行けるぐらいの余裕ができたのである。

チャーリーと会ってみたかったハリーは、シリウスを誘ってウィーズリー家の旅に同行させてもらうことにした。

 

 

暖かい春風が吹く3月、ウィーズリー一家とハリーとシリウスは『隠れ穴』にお邪魔させてもらって、旅行の計画を立てていた。

ハリーたちはまず3日後にマグルの空港に移動することになっている。

魔法省に申請すれば長距離移動が可能な移動キーを作ってもらうことも出来るのだが、時間がかかる上に高価なのでマグルの乗り物を使おう、と父アーサーが強く主張したのだ。

「ただ親父がマグルオタクなだけだぜ」とフレッドは語る。

実際、出費は飛行機の方が少ないが、手間は圧倒的にかかる。手間賃を考えたらどっちもどっちだ。

飛行機に乗ったことがあるのがハリーだけだったので、ハリーは一生懸命みんなに説明した。

 

「飛行機はテロとか事故対策で、持ってっちゃいけないものがあるんだ。それがこのプリントにまとめてある」

 

ハリーは説明プリントをみんなに配った。

ウィーズリー兄妹はチンプンカンプンだ、という顔をした。

 

「これらを持って行ったらどうなるんだい?」

 

兄妹一の真面目者パーシーが、メモ帳を片手に尋ねた。

 

「飛行機に乗る前にセキュリティー検査があるから、そこで捨てるように言われるよ」

「ならちょっと魔法かけて検査員を騙せばいいじゃないか」

「ダメだぞ、ジョージ。我々はマグルとして行飛機に乗るんだ」

「飛行機です」

「おお、そうだったか」

 

アーサーは頭を掻いた。

シリウスはハリーの話にのめり込んでいたが、ハリーの声を聞くのを楽しんでいるだけで、内容は全く頭に入っていなそうだった。

 

「じゃあ復習です! ボディーチェックの時に身につけてはいけないものは何でしょう?」

 

ハリーは気を取り直して明るく尋ねた。

 

「えっと……お菓子?」

 

ロンの妹、ジニーが答えた。

彼女はハリーの大ファンで、初対面の時は緊張でずっとカチカチになっていた。でも数日一緒に過ごした2人はもうすっかり仲良しだ。

 

「ブー! お菓子は大丈夫だよ」

「釣り竿」

 

シリウスはどうだ、と言わんばかりに得意げに答えた。

おおーという雰囲気になる。ハリーは困った。

 

「えっと……釣り竿はダメだと思うよ。でもそれをボディーチェックの時に手に持っている人はそもそも居ないんじゃないかな」

 

シリウスは肩をすくめた。

 

「わかった。金属類だね」

 

ビルが冊子をパタンと閉じて言った。

 

「正解! あと魔法界の品々も電磁波が狂うらしいから、なるべく持って行かない方がいいよ」

「かくれん防止器とか?」

「そういうこと」

 

ハリーはビルに向かって拍手した。

ビルはグリンゴッツ銀行で呪い破りの仕事をして働いている長男で、しっかり者だ。ファッションセンスも完璧で、髪はポニーテールに結い、ドラゴン皮のブーツを履いている。

 

「あと、一番大事なのは服装なんだ。今みたいにローブを着てちゃダメだ。ナチュラルなマグルの服装をしないといけないんだ」

「僕たちはよくマグルの服着てるから大丈夫だよ! 問題はママかな」

 

ロンがジトッとした目で、一昔前の流行りのローブを着たモリーを見た。

 

「あらまあ失礼しちゃうわ。私だってマグルの格好ぐらいしようと思えばできますとも」

 

モリーは手を腰に当てて胸を張った。モリーが巨乳なのでジニーも大きくなるに違いないとハリーは思った。

 

「もし何か疑問があれば僕が答えますね」

「あらありがとうハリー! あなたにコーディネートしてもらおうかしら?」

 

モリーはハリーにメロメロだった。

 

「ならば私のもしてくれないか? いいだろハリー?」

 

シリウスはモリーに対して謎の対抗意識を燃やしていた。

 

「うん、もちのロンさ!」

「ちょっと待って、それ僕の持ちネタなんだけど」

 

結局、翌日みんなでマグルの洋服店に行って、服を選ぶことになった。

 

 

 

 

ヒースロー空港に行くまでの段階で、ハリーはこの旅の道のりが険しくなることを確信した。大の大人であるアーサーとシリウスがマグルの電車に興奮しっぱなしなのは側から見ると異様な光景だったし、子供たちは子供たちで物を無くしたり突然迷子になったり散々だった。

当然ながら出国審査や税関の審査を正規の方法で通過できる余裕もなく、アーサーがこっそりマグルに錯乱の呪文をかけて、なんとか飛行機搭乗まで漕ぎ着けた――本当に長い道のりだった。

 

「これ、いつ飛ぶの?」

「もう飛んでるよ」

「え?!」

 

離陸直後、ジニーは初飛行機お決まりの勘違いをした。それを聞いた他の全員がエッと叫んだので、ハリーたちは周りから怪訝な目で見られてしまった。

せめて大人たちは静かにしていて欲しいとハリーは切実に願った。

13時間もの長いフライトの間、魔法使いっぽさを出さずに暇つぶしするのは至難の業だった。

ウィーズリー兄弟がカエルチョコカードバトルをするのを止めるのは心が痛んだが、絵が動くカードなんてマグルに見られたら大事件だと思って、ハリーは心を鬼にして止めた。

機内食の不味さに怒ったフレッドとジョージが暴動を起こそうとしたりなんやかんやあったが、気がつけばみんな疲れて眠っていた。飛行機の明かりは落とされ、暗闇の中で飛行機のエンジン音が響き、ビニール袋がカサカサ擦れる音が時折聞こえてきた。

ハリーはようやく緊張が解けて、ホッとした。子役の頃に何度も飛行機に乗ってアメリカや日本に行ったことがある。しかし完全なプライベート旅行で飛行機に乗るのは初めてだった。

ハリーは隣に座るシリウスを見上げた。抜群のスタイルに、サラリと流れる黒髪と綺麗な細長い指。暗闇の中でも寝顔も整っているのが分かる。豚みたいなバーノン叔父さんとは大違いだ。

その時、シリウスがパチリと目を開けた。

 

「起きてたの?」

 

ハリーは驚いて小声で聞いた。

 

「驚いたかい?」

「うん、だって寝てると思ってた」

「そんなに早く眠れる訳がないさ、ハリー……マグルはこんな乗り物に乗ってたんだな。箒でもここまで高い所を飛んだことはない」

 

シリウスは昼間のはしゃぎっぷりとは正反対の趣で感慨に浸っていた。

 

「あのね、シリウス。僕、マグル界で映画に出てるって言ったよね。もう見てくれた?」

「ああ、見たとも! 私の従姉妹の夫がマグル生まれだから、教えてもらったんだ。どの役も本当に素敵だったよ。私のお気に入りは『オリバー・ツイスト』だ……リリーとジェームズも観たら喜ぶだろう」

 

シリウスは優しくハリーの肩に手を置いた。ハリーの顔がパッとほころんだ。

 

「いつになったらプリペット通りの近くに引っ越してくれる?」

「もうすぐだよ。魔法省から賠償金を搾り取ってやった。君はどんな家に住みたいかい?」

「うーん……シリウスが好きな家でいいよ。でも、広くても狭くてもいいから、あったかい部屋がいいな。あ、温度とかじゃなくて」

「任せとけ、ハリー」

 

シリウスはウインクした。

気がつくと2時間も経っていた。シリウスの腕の中でハリーは眠りについた。

 

ようやく一行はクアラルンプールに到着した。

マレーシアはイギリスよりずっと暑かった。空港から出て、サンサンと太陽が降り注ぐマレーシアの地を踏みしめる。

やっとここまで来た。ハリーは達成感でいっぱいだった。

その時、遠くで燃えるような赤毛の青年が手を振っているのが見えた。爽やかなハワイアン風の服を着ている。

 

「チャーリーだわ、ママ!」

「あらまあ!」

 

みんなは急いでチャーリーの元に走った。

 

「どうして病院から出てきてるの、チャーリー?」

「ママ、僕はもうほとんど治ってるよ。ここ数週間は傷跡を薄くする治療とかばっかりだ。何故か医者が退院させてくれないだけで、もう元気いっぱいだよ。変だと思わない?」

 

モリーは気まずそうに目を泳がせる。

 

「そうかしら、まあ、お医者様の指示には従うべきよ……」

 

モリーはチャーリーがドラゴンの研究に戻るのが心配で、わざわざルーマニアの病院からマレーシアの病院に移動して強制的に入院生活を長引かせているのだ。

 

「まあ、なにより会えてよかったじゃないか、息子よ!」

 

ウィーズリー一家がチャーリーと順番に抱き合った。それからハリーとシリウスも握手した。チャーリーの手は筋肉質でゴツゴツしていて固かったが、暖かかった。




途中までルーマニア旅行のはずだったんです
ですがいつのまにかルーマニアをマレーシアと書いていて、マレーシアの名物とか飛行機の時間とか調べてしまっていたので、マレーシア旅行になりました
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