チャーリーと合流した一行は魔法界の屋台に行った。
魔法界にもマレーシアのお国柄が表れていて、屋台はごちゃごちゃして活気溢れていた。通りを歩く魔法使いたちはローブではなく長い布のようなものを巻いている。
「ここは貿易が盛んで多文化が混ざり合う土地なんだ。マグルが他国と貿易したみたいに、マレーシアの魔法族も周りの国と魔法の技術を積極的に交換し合った。だから魔法も多種多様で面白いよ。
ただ、この国はイギリスとかオランダとかポルトガルとかに植民地支配された過去もあるんだ。マレーシアの魔法族は自分達の文化を守る為に、侵略を企む外国の魔法族と徹底抗戦した。マグル界は支配されたけど、魔法界は守らなくちゃいけないって思ってね。で、結局マレーシア魔法軍は勝ったんだ。今のマレーシアの魔法使い達は、そのことをすごく誇りに思ってる」
チャーリーが解説した。
「それならマレーシアの魔法使いたちは今でも、イギリスやオランダを恨んでいるの?」
パーシーが聞いた。
「完全にわだかまりが消えたわけではないけど、でもみんな優しくしてくれるよ。僕としてはこの国の良いところは料理の美味しさかな。中華とかインド料理とか色々食べられて楽しいんだ」
ハリーは、チャーリーのオススメである『サテアヤム』というマレーシアの焼き鳥を食べた。グリルされた鶏肉にピーナッツソースがかけられていて、串に刺さっていて食べやすかった。
他にもラクサという酸っぱいスープやオタオタという焼いた魚のすり身などたくさん食べ歩きしたが、どれも独特で美味しかった。東南アジアの味がした。
夜になるとチャーリーは病院に戻っていったので、ハリーたちは予約していた魔法界の宿に向かった。バックパッカーが集まる安宿と言った感じの雰囲気で、ビールの箱を逆さにした椅子がいい味を出していた。
そこには個別の部屋の他に、皆が集まる食堂のような大きい部屋があった。
はじめの晩にそこを覗いてから、ハリー達は毎晩決まってそこに行くようになった。
そこではインド系のつり目美人な魔女がインド古来の魔術を見せてくれたり、中国人の少年魔法使いが『気功』というカッコいい魔法を実演してくれた。
彼らも旅行でこの宿に泊まっているのだ。
当たり前なのかもしれないが、他の国にも魔法使いがいると知ってハリーは驚いた。
それから数日の間、ハリーはマレーシア魔法界旅行を満喫した。
マレーシアではハリーのことを知っている人は少なかったので、のびのびと遊ぶことができた。
マレーシア魔法界の長い布を巻いた衣服を着る体験で、ロンは布が絡まってパニックになった。その上フレッドとジョージがからかって余計に絡ませようとするから、ロンは死にかけた。
それを尻目にハリーはシリウスと楽しく着付け体験をした。シリウスは長身でスタイルが良いので何の衣装でもよく似合った。
最年少のジニーは目がぱっちりなのでとても可愛くて、アーサーは写真を撮りまくっていた。それに対抗してシリウスもハリーの写真を撮りまくった。
問題が起きたのは5日目のことだった。
「実はマレーシアにもドラゴンの飼育地があるんだ。チャイニーズ・ファイアボール種とウクライナ・アイアンベリー種のハーフが居るんだけど、とても綺麗な血な交わり方をしていてね、というのも――」
「チャーリー! あなた、ここでもドラゴンを見に行ってるっていうの?」
モリーが金切り声を上げた。
「ちょっと見学してるだけだよ! どれだけ暇か母さんは分かってないだろうけど、ほんっとうに暇で暇でやることがないんだ。傷はほぼ治ってるんだからさ」
モリーは顔を真っ赤にした。
こりゃダメだ、という感じでロンは首を振った。
「チャーリーが危険生物と関わろうとするなんて昔っからなのに、ママはどうしても止めたがるんだ。チャーリーの奴、前に家の庭でノグテイルを飼おうとしたこともあるんだぜ」
ロンがハリーの耳に手を当てて囁いた。
「ノグテイルって?」
「真っ黒の子豚みたいな気持ち悪い悪魔だよ。ほんと、ウゲーって感じだぜ」
「チャーリーは魔法生物なら何でも大っ好きだけど、特にドラゴンのことになるとむちゃくちゃバカになるんだ」
ジョージが言うんだからよっぽどだ、とハリーは思った。
その後、壮絶な親子の口論の末に、ハリー達はそのドラゴンの居住区をみんなで見学しに行くことになった。
どうせ止めてもチャーリーはドラゴンを見に行ってしまうだろうから、勝手に行かれるよりは自分の監視下で行かせておきたいとモリーは考えたようである。
「ドラゴンはすごいんだ。鱗も目も全てが美しくて、皆を魅了する不思議な光を放ってる。卵が孵化する所は滅多に見れないんだけど、見ると絶対感動するよ。まあ簡単には見て欲しくないけどね。あれは本当にドラゴンを愛してる人だけに見てほしいシーンだよ」
チャーリーは饒舌に話す。目はキラキラ輝いていて、実に楽しそうだ。
チャーリーの案内でやってきたのは、島の外れのジャングルのような地帯だった。鉄柵で囲われていて、閂がかかった錆びた門がある。
「ここが入り口だ」
「ドラゴンがいるのに、こんなガードで大丈夫なのか?」
ロンがポンポン柵を触った。廃墟のような趣きがあった。
「これはフェイクだよ。実際には魔法で厳重に守られてるから安全だ。それにマレーシアのドラゴンは全頭鎖で繋がれてるからね。マレーシアの法律は厳しいんだ。僕としてはのびのびさせてあげて欲しいんだけどね」
「何を言ってるの! ドラゴンは、繋いでおくに限るわ! ちゃんと繋いでなかったせいで、あなたは大怪我したのよ」
「はいはい母さん。あれは僕の不注意だから、ドラゴンに罪はないよ」
チャーリーはモリーを軽くあしらい、管理棟へと向かった。
そして現地の人と親しげに会話してから、ハリー達の方へ戻ってきた。
「見学の許可が降りたよ! じゃあ、初めはペルー・バイパーツース種とオーストラリア・ニュージーランド・オパールアイ種の掛け合わせの雑種から見よう! このドラゴンは小型だけど、玉虫色に光る真珠みたいな鱗と多彩色な瞳孔の無い目が美しいんだ。攻撃性も低くて交流しやすい種だよ」
チャーリーにガイドされて、ハリー達はジャングルに切り開かれた道を歩いた。
ハリーは道のそばに生えた、水でできている木を発見した。
「あれ、何だろ?」
「おったまげー。きっとマレーシアの魔法植物だよ」
「スプラウト先生が見たら喜ぶかな?」
ハリーはその木に触ろうと手を伸ばした。しかし見えない壁に阻まれた。
「道沿いに魔法で壁が作られてるから、僕達は入れないよ!」
チャーリーが説明した。
そこは大規模な動物園のようだった。違うのは、檻が完全に透明で目に見えないのと、とてもとても広いということだ。
30分ぐらい歩いたところで、ハリー達は空飛ぶ絨毯に乗ることになった。
「なんで最初からこれに乗せてくれないんだ?」
「見物客に安易に絨毯で移動させると、厄介なこと起こされるかもしれないだろ。だから、30分まじめに歩けた人だけが絨毯を手にするんだ」
空飛ぶ絨毯は2枚あったので、2グループに分かれることになった。
ハリーはシリウス、チャーリー、ロン、アーサー、ジニーと共に乗った。
ヒューヒュー風を切って空を進むのは爽快だった。
「アラジンみたい……」
「え? 今なんて?」
「何でもない。ただ、そういうキャラクターがマグル界にいるんだ」
「その話が出来たのはきっと愚かな魔法使いが、絨毯に乗ってる姿をマグルに見られちゃったからだろうね。どの国でも魔法使いの移動手段はマグルにバレやすいんだ」
チャーリーが説明した。
シリウスは風で髪が綺麗になびいていた。
「学生の頃、一度、自作の絨毯で空を飛びたいって話になったんだ」
「ふうん、いいね」
「ああ。ジェームズがグリフィンドールの談話室に敷かれてた絨毯引っぺがして、私たちで魔法をかけた。浮遊魔法だとか、スピード魔法だとか、箒にかけられた魔法を参考にしてね」
「うわーお、豪快だね」
もし仮にハリーがテレビスタジオのセットを破壊して遊んだりしたら、好感度だだ落ちで出禁になり2度と呼ばれなくなる。
そんなことをしたのに退学になるどころか首席で卒業した父親はやっぱりすごい!
ハリーは再認識した。
後を飛ぶ2枚目の絨毯は、フレッドとジョージが飛んで回っての大騒ぎをするので転覆しかけていた。パーシーが真っ青になって絨毯の端に掴まっているのが面白くて、ハリーは思わず吹き出した。
「いいぞ、フレッド! もうちょち右だ!」
ロンは楽しそうに囃し立てている。
「頑張れー!」
ジニーは誰かを応援している。フレッドとジョージに向けたものか、パーシーに向けたものか、はたまたそれを叱るモリーに向けたものかは分からない。一番最初の説が濃厚だとハリーは思った。
それからのドラゴン巡りは刺激的で楽しかった。
ドラゴンは巨大で美しかった。咆哮と共に大きな炎を吹き上げるドラゴンの野生的な獰猛さと、それに反するきめ細やかで繊細な造形にハリーは圧倒させられた。
ここで映画を撮れたらいいのに。魔法界に映画が無いのはもったいないとハリーは思った。マグル界で話題沸騰中の小説『ジュラシック・パーク』をここで撮影できたら、不朽の名作になること間違いなしだ。
何よりチャーリーの解説が最高だった。好きなことを語っている人の顔は輝いていて、聞いているだけで元気が出てくる。
最後の夜、チャーリーは病院の中庭にみんなを呼んだ。ハリーたちは部屋着を着て、サンダルを履いて、暗闇の中を歩いた。虫の鳴き声が響いている。
「よく来てくれたね、みんな!」
病院着の白いパジャマを着たチャーリーは笑顔で筋骨隆々の手を振った。右手には明かりを灯した杖を握っていて、顔が暗闇の中にぼーっと浮かんでいる。
「せっかくわざわざ遊びに来てくれたから、お礼をしたいと思って集まってもらったんだ」
そう言ってチャーリーはみんなを草むらに一列に並ばせた。
「何をするの?」
ジニーが眠そうな声で聞く。
「カウントダウンしよう。夜空を見上げててくれ。じゃあ5、4、3」
「「2、1……」」
皆で口を揃えてカウントする。
ゼロ、といったと同時にチャーリーは地面のある一点に向かって杖を振った。
シュルシュル……という音と共に花火が夜空に上がった。そして色とりどりに変化して夜空を照らす。
ドラゴンの形になり、クィディッチのスニッチになり、ホグワーツの四寮の動物になり、次々と形を変える花火。
ハリーはシリウスの隣で夜空を見上げた。
「すごいよ!」
「綺麗だなハリー」
「うん!」
シリウスはハリーの背中に手を当てた。
「手持ちの花火もあるよ!」
チャーリーは皆に花火を配った。魔法界の花火は熱くなくて、そしてマグルのものより火が長持ちした。
ハリーたちは互いに火花を掛け合って遊んだ。
「きゃー、やめてちょうだい、フレッド!」
「母さん、僕はジョージだよ。全く子供の見分けもつかないのかい?」
「あら、ごめんなさい、ジョージ」
「ブッブー、ほんとは僕がフレッドさ!」
「母親を揶揄うのもいい加減になさい!」
モリーは特大の火花をフレッドに食らわせた。
「ウワー、ハリーやめろよ!」
「ふっふふーん」
「あ、待てよハリー!」
「お兄ちゃんにえいっ!」
「おいジニー! 後ろから攻撃するな!」
ハリーを追いかけるロンに対して後ろからジニーが水色の花火を当てた。
アーサーとシリウスは子供たちの様子を嬉しそうに眺めていた。
「いいですね、こんな夜も」
「ええ、子供たちが楽しそうにしているのを見るのは、親として何より幸せですよ」
アーサーは転がっていた木箱を引き寄せて座った。シリウスも隣に座る。
「一杯どうかな?」
アーサーは懐から酒を取り出した。
シリウスは酒を飲みながら、ハリーが走り回る姿を愛おしそうに見守った。
こうして、マレーシア旅行の最後の一晩は過ぎていった。