生き残った男の子ハリー・ポッター   作:はと麦茶

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2話 屋敷しもべ妖精

それからハリーは隠れ穴からプリベット通りに戻った――といってもダーズリー家ではなく、シリウスの家だ。

2人とももっとお互いと一緒に居る時間を望んでいた。

ロンはちょっと寂しそうだったが、無理に引き止めはしないでくれた。

 

ある日の夜、ハリーとシリウスは一緒にパスタを作って食べていた。

シリウスの魔法は見事で、一瞬で湯は沸き、パスタは茹で上がった。シリウスもハリーもトマト系の味付けが好きだったので、ミートソースをかけて食べることにした。

 

「魔法使いってみんな料理がうまいの? シリウスのお母さんは上手かった?」

 

ハリーはパスタをフォークで丸めながら何気なく聞いた。シリウスは顔をしかめて、苦々しく言った。

 

「母は料理をしなかった。すべて屋敷しもべ妖精が作っていたんだ」

「シリウスの家、屋敷しもべ妖精がいたの?」

「ああ。偏屈で嫌味ったらしいひねくれた奴だ……母には忠実だったがね」

「その妖精、今も生きてるの?」

「生きていても二度とお会いしたくない相手だな」

「そっか」

 

シリウスは母とその屋敷しもべ妖精が大嫌いなのかもしれないとハリーは思った。

 

「……私にとっては、君のお祖父さんとお祖母さんの方がよっぽど家族のようだった。家出したんだ。16の時に。ポッター家の人たちは本当によくしてくれた」

 

シリウスは邪険な口調になったのを上塗りしようと思ったのか、明るく言った。

 

「よかった。それまで大変だったんだね」

 

ハリーはにっこり言った。シリウスは微かに笑った。

 

「……そうだ、そういえばテレビを買うことにしたんだ。調べてみると、魔法がある環境でもビデオなら見られるらしい」

「ほんとうに? やったー!」

 

ハリーは両手を上げて喜んだ。シリウスは幸せそうに微笑んだ。

その時、窓をコツコツと叩く音が聞こえてきた。

振り返ると、灰色のフクロウが窓のふちに止まっている。

それはホグワーツからの手紙で、新学期に新しく必要な教科書のリストが入っていた。

 

「基本呪文集2学年用、泣き妖怪バンシーとのナウな休日、グールお化けとのクールな散策、鬼婆とのオツな休暇、トロールとのとろい旅……このリストの教科書、呪文集以外、全部ギルデロイ・ロックハートの本だよ!」

「ロックハートだと?」

 

シリウスは教科書リストをひったくった。そしてずらりと並ぶギルデロイ・ロックハートの名前を見て苦笑する。

 

「この方と知り合いなの?」

「4年下の後輩だった……ダンブルドアに変な人を教師に雇わないで欲しいとお願いしたはずなんだがな。ああ今のは聞かなかったことにしてくれ」

「来年の先生も変な人なのかな?」

 

クィレルが逮捕された為、来年からは新しい先生が入ってくることになっている。

 

「あいつがこんなにたくさん本を出すようになるとは世も末だな。どんな内容かは知らないが、ロックハートの本を教科書にするとは、次の先生は大層面白いユーモアの持ち主だ」

「でも後頭部にヴォルデモートが居たりしないよね?」

「もし2年連続でそんなことがあったら、私は君をホグワーツから奪い返すよ」

「オッケー。ちゃんと迎えにきてね」

「勿論だとも」

 

ハリーとシリウスは約束した。

 

「あ、あとロンとハーマイオニーからも手紙が来てる……今度、ダイアゴン横丁に一緒に買い物に行かないかだって! ねえシリウス、一緒に行ってもいい?」

「素晴らしいじゃないか!」

 

シリウスは嬉しそうに言った。

 

 

 

 

当日、ハリーはシリウスの家から煙突飛行でダイアゴン横丁に向かうことになった。

 

「じゃあ、僕から行くよ」

 

ハリーは煙突飛行粉をひとつまみ取り、暖炉の前に進み出た。高く燃え上がるエメラルド・グリーンの炎の中に入り、はっきりと「ダイアゴン横丁!」と発音すると、体がグルグル回転し始めるのを感じた。前にも体験した気持ち悪い感覚だ。

しかし突然、ハリーは何かに手を取られ、引っ張られるのを感じた。必死に引き離そうとするものの、それは凄まじい力で手を握ってくる。

 

「だめ……やめて……」

 

暴風の中、ハリーは何とか声を絞り出した。

 

「わたくしめはハリー・ポッター様とお話がしたいのでございます!」

 

ズドン、という衝撃とともにハリーは暖炉に着いた。しかしそこはダイアゴン横丁ではなかった。

石の暖炉から足を踏み出すと、そこは怪しい魔法道具を売っている店のようだった。

血に染まったトランプ、萎びた手、銀色の仮面がショーウィンドウに飾られている。

 

「ドビーめはハリー・ポッター様にお目にかかりたかったのでございます……とっても光栄です……」

 

足元を見ると、見覚えのある屋敷しもべ妖精がちょこんと立っていた。

 

「僕、あなたと一度会ったことがあるよ。マルフォイ家の屋敷しもべ妖精だよね?」

「ハリー・ポッターがドビーめを覚えていらっしゃる……なんたる光栄……ハリー・ポッター様、こちらでございます。ハリー・ポッターはこの店から出るべきでございます」

「でも君がここに連れてきたんだよね?」

 

ドビーは骨ばった手でハリーの腕を強く握りしめて、店のドアを開けて通りに出た。

向かいの店のショーウィンドウには縮んだ生首が飾られ、他にも怪しい店ばかりが軒を連ねていた。

店の入り口の薄暗がりの中で、みすぼらしい身なりの魔法使いがハリーを見てコソコソ話している。

お世辞にも治安が良いとは言えない場所だった。

 

「ドビー、どうしてこんなところに僕を連れてきたの?」

「……ドビーめはいったい何から話してよいやら……複雑でございまして……ドビーめはもっと早くあなた様にお目にかかりたかったでございます。しかしお坊ちゃまがコンサートのチケットを……ドビーは悪い子! ドビーは悪い子!」

 

ドビーは突然、石の壁に頭を打ち付け始めた。ハリーは薬でもやってるんじゃないかと心配になった。

 

「やめてドビー。どうしたの?」

「ドビーめは自分で自分にお仕置きをしなければならないのです。自分の家族の悪口を言いかけたのでございます」

「マルフォイ家の?」

「お願いでございます、どうか、マルフォイ様にこのことをお話ししないでください。ドビーめはあなた様のことを思って家を抜け出したのでございます……ドビーは悪い子! ドビーは悪い子!」

 

ドビーは薬物中毒の人そのものだとハリーは思った。マルフォイ家もこんな妖精と一緒に暮らしているとは大変そうだ。精神病院に入院させるべきだとハリーは感じた。

 

「君がしたのは誘拐と同じことだよ。マルフォイ家の誰かに唆されてやったのか知らないけど、早く元の場所に返してくれない?」

「いいえ、ドビーめはあなた様に警告しに来たのでございます。ハリー・ポッターはホグワーツに戻ってはなりません」

「君に僕の行動を制限する権限はないよ」

「ハリー・ポッターは安全な場所にいなければいけません。あなた様は偉大なお優しい方です。失われるべきではない存在でございます。あなた様がホグワーツに戻れば、死ぬほど危険でございます」

「また後頭部にヴォルデモートがいたりするの?」

「ああ、その名前をおっしゃらないで! しかし――ええ、非常に危険でございます」

「分かったよ、シリウスに相談するよ。だから早く元の場所に戻してくれない?」

 

その時、さっき出てきた店のドアが開く音がした。ドビーは目を見開いて口を押さえ、焦り始めた。

 

「絶対に、絶対にハリー・ポッターはホグワーツに行ってはなりません!」

 

ドビーは最後にキーキー声で警告して、バチリという音とともに姿を消した。

ハリーは驚きのあまり突っ立った。

知らない土地に一人ぼっちで置いて行かれてしまった。

 

「おや、ハリー・ポッターじゃないか」

 

ドラコ・マルフォイの声だった。隣には父親と思わしき男が立っている。

いかにも貴族という感じの出で立ちだ。

 

「久しぶりだね」

 

ハリーはにっこり言った。

 

「ドラコ、ご学友か? ――これはこれは。ハリー・ポッター君じゃないか」

 

マルフォイ氏は灰色の目でハリーを見下ろした。

 

「こんにちは。いつもお世話になってます」

「さよう。闇の帝王を打ち倒した英雄……去年も素晴らしい活躍をしたそうで。アズカバンの囚人の無罪を証明したとか?」

 

マルフォイは八百屋の野菜を品定めするようにハリーを見ていた。ドラコは父親とハリーに交互に視線を移している。

 

「ありがとうございます」

 

その時、駆けてくる音が聞こえた。

 

「ハリー、そんなところで何をしてる!」

 

シリウスだった。シリウスはハリーの肩を掴み、マルフォイ氏から遠ざけた。

 

「ルシウス、私の息子に手を出そうものなら分かってるな?」

 

シリウスはルシウスに食ってかかりそうな勢いだった。ルシウスは薄笑いを浮かべた。

 

「その子はここをウロついていただけだ。しかし……その有り余るエネルギーを見るに、アズカバン生活はさぞかし快適だったようで何よりだ」

「……覚えてろ。お前が死喰い人時代にしたことを恨んでる奴は大勢いるぞ」

 

二人の間に見えない火花が散った。シリウスはルシウスより少し背が高かった。見下ろされるような形になり、ルシウスは舌打ちした。

 

「生憎、私には他にも大事な要件があるのだよ。アズカバン帰りとは立場が違うものでな。ドラコ、行くぞ!」

 

ドラコはハリーの方を睨みつけ、父親の後をついていった。

シリウスはルシウスの後ろ姿を鋭く睨みつけていたが、ふとハリーの方に向き直った。

 

「なんでこんな所に来たんだ、ハリー?」

「あのね……屋敷しもべ妖精に手を引っ張られたんだ」

「なにぃ? 一体どこのどいつだ。まさかクリーチャーじゃないな?」

「クリーチャーじゃないよ。ねえ、クリーチャーって誰?」

「ああ、気にするな。それよりどいつだ? ハリーをノクターン横丁に誘拐したのは」

 

シリウスは殺気立っていた。

 

「誰なのかは忘れちゃったけど、僕にホグワーツに行って欲しくないみたいだった。危険があるんだって」

「危険?」

「うん、でもただの嫌がらせだよね、きっと」

「ハリー、本当にどの家の屋敷しもべ妖精なのか知らないのか?」

 

シリウスは立ち止まり、ハリーの顔を正面から見つめた。

ハリーは少しためらってから口を開いた。

 

「あのね、秘密にしてほしいって言われたんだけど……マルフォイ家の屋敷しもべ妖精なんだ。ドビーって名前の。お願い、特にマルフォイ家には言わないで」

 

ハリーは口が軽いわけではないが、誘拐まがいの事をされた相手の言う事を全部守る必要は無いと思って言った。

 

「でもね、マルフォイ家の人にそそのかされて来たんじゃないと思うんだ。むしろ、マルフォイ家の人にバレたら咎められるって思ってるんじゃないかな」

 

シリウスは黙り込んでいた。

 

「いいか、ハリー。ほんの11年前まで、魔法界ではヴォルデモート卿が勢力を振るっていたんだ。君はまだ赤ん坊だったから分からないだろうが、暴力、騙し合い……あらゆる悪行が横行していた。そしてヴォルデモートの腹心と言われていた人の中には、魔法省の追及を逃れて今も普通に暮らしている人が大勢いる。そういう奴らは息を潜め、ヴォルデモートが復活する機会を窺っているんだ。だから気をつけろ、ハリー」

「ごめん、僕、あんまり実感が湧かなくて」

 

ハリーは有名であることには慣れていたが、ヴォルデモートを倒したという実感がなかった。

 

「普段から両面鏡を持ち歩いてくれ。少しでも変なことがあれば、すぐに私を呼び出すんだ。君まで失いたくはない」

「分かった」

 

ハリーは真剣な顔で頷いた。

 

 

しばらく歩くと、懐かしのダイアゴン横丁が見えてきた。

 

「ハリー!」

 

ハーマイオニーがグリンゴッツの白い階段の上に立っていた。

 

「ハーマイオニー! 久しぶり!」

 

ハリーは階段を駆け上がり、ハーマイオニーは階段を駆け下りたので、2人は真ん中で一緒になった。

 

「ああ、また会えて嬉しいわ。私、あなたが出てるテレビ、ほとんどぜーんぶ見たわ。元気にしてた?」

「うん、今はシリウスの家に住んでるんだ」

「それって素晴らしいことだわ! ロンとは会った?」

「ううん、まだ」

「あそこにいるのはウィーズリーさんたちじゃないか?」

 

シリウスが指差した先には、赤毛一家がいた。

 

「ロン!」

「ハリー! それにハーマイオニー!」

「あらまあ久しぶりね、ハリー、ハーマイオニー」

「こんにちは、モリーおばさん」

「もうお金は下ろしたかしら?」

 

シリウスがドラゴン皮の袋を掲げた。

 

「事前にグリンゴッツに用があったから、その時に取っておいたんだ」

「そう。じゃあ私たちは金庫に行ってくるわ……アーサー?」

 

アーサーはハーマイオニーのマグルの両親に夢中になっていた。マグルの2人はその積極性に引き気味で、むしろハリーと話したそうにしていた。

 

「ごめんなさいねえ、まったく呆れるほどマグル好きで……」

「気にしないでください。私のパパとママも魔法に夢中なんです」

 

ハーマイオニーは笑顔で答えた。

ウィーズリー一家が金庫から帰ってきたところで、みんなは別行動をとることになった。

 

「私はリーマスと会う約束をしてるから、漏れ鍋に行ってくるよ」

「わかった。じゃあ僕はロンとハーマイオニーといるね」

「1時間後にフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で落ち合いましょう。『夜の闇横丁』には絶対に入ってはいけませんよ」

 

ずらかろうとするフレッドとジョージに向かってモリーが叫んだ。

 

それからハリーはロン、ハーマイオニーと共にアイスクリームを買って食べ歩きしながら、横丁を巡り歩いた。

マグル界にいる時ほど人目を気にしなくていいのでハリーは嬉しかった。

 

「見てよあれ、カッコいい! チャドリー・キャノンズのユニフォームだ!」

 

ロンは高級クィディッチ用具店のウィンドウに飾られたユニフォームの目の前から動かなくなった。

 

「それって最弱チームなのよね?」

 

ハーマイオニーは言い放った。ロンは怒ってハーマイオニーを睨みつける。

 

「たまたま調子がふるわないだけさ」

「たった14年間、ずっと調子が悪いだけだもんね」

 

ハリーも茶化した。ロンは口を尖らせた。

 

「君たちにもチャドリー・キャノンズの試合を見に行かせてあげたいよ。絶対に惚れるはずさ。でも、もしもファンになっても、僕に誘われて好きになったってことは覚えとけよ」

 

ロンは同担拒否のアイドルファンのような考え方らしい。

それから新しい羊皮紙とインクを買い、いたずら専門店でフレッドとジョージに会い、雑貨屋では『権力を手にした監督生たち』という本を読み耽るパーシーに遭遇した。

ロンは「そりゃパーシーは野心家さ……将来の夢は魔法大臣なんだ」と2人に向かって低い声で呟いた。

 

それから約束の時間になって、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に行くと、驚くべきことに大混雑だった。

ハリーを含む客たちは、入り口付近で押し合いへし合いしながら中に入ろうとしている。

 

「すごいわ、本物の彼に会えるわ!」

 

その時、ハーマイオニーが黄色い声をあげて上階の窓の大きな横断幕を指差した。

 

『サイン会

 ギルデロイ・ロックハート

 自伝「私はマジックだ」

  本日午後12時30分〜4時30分』

 

ハーマイオニーは彼にお熱なのか。

ハリーはハーマイオニーの新しい一面を発見した。




次回、ハリー、初めて魔法界の芸能人に出会う
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