生き残った男の子ハリー・ポッター   作:はと麦茶

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3話 ロックハートとルーナ

ギルデロイ・ロックハートのサイン会で混み合う店内で、ハリー達はなんとかウィーズリー一家とグレンジャー夫妻、シリウスとリーマスに合流した。

シリウスは紙に包まれた長い何かを持っていたが、それについて質問する前にモリーが遮った。

 

「ああ、よかった、来たのね」

 

モリーは髪がうまくセットされているか、気が気でない様子だった。

 

「もうすぐギルデロイに会えるわ……」

 

ギルデロイ・ロックハートは魔法使いの三角帽を斜めにして被り、中央の机に座ってサインを書いていた。

周りには自身の大きな写真がいくつも貼られていて、いっせいにウインクし、白い歯を輝かせている。

そして小男が大きな古型の黒いカメラでロックハートを撮影している。フラッシュを焚くたびき紫の煙が上がった。

これが魔法界の有名人か。マグル界とはまた違った雰囲気があるが、素直にカッコいいとハリーは思った。

魔法界は全体的にマグル界より古風で神秘的だが、ロックハートにもその資質が感じられた。

 

「そこ、どいて。日刊預言者新聞に載せるんだから」

 

カメラマンは邪魔そうにロンを押した。

その時、ロックハートが顔を上げた。ロックハートとハリーの目が合った。

 

「もしや、ハリー・ポッターかな?」

 

ロックハートは叫び、両手を広げた。人垣がさっと割れて道を作った。

ハリーは少し驚きながらも、皆が望んでいるようだったので、笑顔でロックハートの元に向かった。

ハリーとロックハートは笑顔で握手して、その様子をカメラマンが何枚も写真に撮ったので、ウィーズリー一家の頭上には紫色の雲が出来た。

 

「素晴らしい! 私と君が一緒に写れば、一面大見出し間違いなしですよ!」

 

ロックハートは上機嫌にハリーの肩に腕を回した。ぐいぐいくるんだなぁと思いながら、ハリーは完璧な笑顔でロックハートを見つめた。

 

「みなさん! なんと記念すべき瞬間でしょう! ハリー君、君はどうしてここフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に足を踏み入れたのかな?」

 

ロックハートは歯を輝かせ、ハリーに向かってウインクした。

 

「それは、ギルデロイ・ロックハートさんの本を買うためです」

 

ハリーは答えた。

 

「そう、私の本を買うために! ではなぜ本を買う必要があったのかな?」

 

ロックハートの声がさらに高くなった。

 

「ホグワーツの教科書に指定されていたからです」

 

ハリーは興味津々にロックハートを見つめながら答えた。

 

「その通り! 皆様に発表致しましょう! わたくしロックハートは、この九月から、ホグワーツ魔法魔術学校で『闇の魔術に対する防衛術』の担当教授職を務めさせていただくことになりました!」

 

人々から歓声と拍手喝采が起きた。

ハリーはビックリしたが、それからにっこり笑って大きく拍手した。

 

「では、ハリー君には私の著書を全てプレゼント致しましょう!」

「わー、ありがとうございます!」

 

ハリーがギルデロイ・ロックハートの存在を知ったのはつい最近のことだったが、ハリーは長年のファンであったかのように喜んで本を受け取った。

それが嬉しかったのかロックハートはハリーに、自らの武勇伝や野望を長々と語り始めた。

ハリーは「へえー!」とか「すごいですね!」とか言いながら聞いていた。段々と音ゲーをやっているような感覚になって、ハリーはリズムよく相槌を打つのを楽しんだ。

ロックハートの密かな野望が、自家製のトリートメントを世界中で売ることだということまでわかったところで、ハリーはようやく解放されて、シリウスの元に走った。隣にはリーマス・ルーピンもいた。

 

「ハリー、なんと言えばいいのか……君は偉いよ」

 

ルーピンはハリーに向かって微笑んだ。

ハリーは首を傾げた。

 

「嫌な相手にはそういう態度を取っていいんだぞ。ジェームズはいつもそうだった」

「嫌じゃないよ。数々の冒険をしてきた英雄だもん。雪男を倒したりとかカッコいいよ。あと僕、相槌を打つのが趣味なんだ」

 

ハリーはさっきの長い会話の中で得た知識を使って言った。本人がいる書店の中で、悪口を言うのは良くない気がした。

それに実際、ハリーはロックハートのことが好きだった。

 

「ハリー、なんだかすごくテレビで見てる時みたいだったわ!」

 

ハーマイオニーが興奮気味に言った。

 

「いい気持ちだったろうねぇ、ポッター」

 

階段の上から声が聞こえてきた。

ドラコ・マルフォイが二階から降りてきていた。

 

「有名人のハリー・ポッター様は、ちょっと書店に行っただけで一面かい?」

「別にそういうわけじゃないよ」

 

ハリーはさっぱりと言った。

 

「君はさっきも見たな。ルシウスの息子だな?」

 

シリウスが凄みを効かせながら前に出てきた。ドラコはたじろいだが、父親そっくりに眉をちょっとひそめた。

 

「可哀想に。君は親無し子だから、アズカバン帰りに同情されてるわけだ」

「君の父親は君に言って良いことと悪いことの分別を教えなかったらしいな」

 

シリウスがドラコに近づいたところで、別の声が後ろから聞こえてきた。

 

「おやおや、私の息子が何かしたとでも?」

 

ルシウスだった。それと同時にウィーズリー一家もやってきた。

 

「ルシウス、お前がこの12年間息子に何を教育したのかは知らないが……アズカバンのお仲間たちはお前が罪を逃れたことを大層恨んでいたぞ。そうだ、お前の過去の所業は息子に教えているのか?」

 

ルシウスのこめかみの血管が浮き上がった。しかしシリウスはルシウスから目を離さなかった。

 

「2人とも……いったいどうした?」

 

アーサーが恐る恐る声をかけた。ルシウスの目がアーサーの方に、そしてその隣にいるグレンジャー夫妻の方に移った。

 

「ウィーズリー……、こんな連中と付き合ってるとは。君の家族はもう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがねぇ」

 

次の瞬間、アーサーはルシウスに飛びかかり、本棚に背中を叩きつけた。シリウスは杖を取り出し、ルシウスを吹き飛ばした。

 

「いけいけ、パパ!」

 

フレッドとジョージが拳を上げて応援した。

 

「だめよ、あなた、やめて! ギルデロイの前なのよ!」

 

モリーは甲高い悲鳴をあげた。

 

「どうしたのですか、はしたない!」

 

その時、バーンと光が弾けた。

 

「あ……やっほー」

 

ネビル・ロングボトムが気まずそうにハリーとロンとハーマイオニーに向かって手を振った。隣にはハゲタカの剥製が載った三角帽子を被った老魔女が、厳しい表情で杖を握りしめている。

 

「ここは書店であって、決闘場では無いのですよ……おや、ルシウス」

 

老魔女はハゲタカさながらな鋭い眼光でルシウスを見た。

 

「あれ、君のお祖母さんなのかい?」

「うん……そうだよ」

「おったまげー。男気ありすぎだぜ、マジで」

 

それから何やかんやで騒動は収まり、マルフォイ親子は捨て台詞を吐いて消え去ったので、ハリー達は書店を去った。

 

 

 

 

素晴らしい夏休みはあっという間に過ぎ去った。

 

「ハリー、私は秋から闇払いになろうと思ってるんだ」

 

ハリーがホグワーツに行く前の日、シリウスは突然、切り出した。

 

「闇払いって、闇の魔法使いを退治する職業だよね? 危険じゃないの?」

「もちろん多少の危険は付き物だ。しかし誰かが闇の魔法使いを取り締まらなければ、魔法界は奴らに乗っ取られてしまうだろ?」

「でも僕、シリウスが心配だよ」

「今は前みたいにヴォルデモート卿の全盛期ではない。だから前ほどの危険は無いんだ」

 

シリウスは、本当はもっと危険な方が良かったと思っている口調だった。

 

「……わかった。シリウスが闇払いになりたいなら応援するよ。でも無茶なことしないでね」

 

シリウスはジェームズが裏切られて殺された時、真っ先にピーター・ペティグリューを追って復讐を果たそうとした人である。

率直に言わせてもらえば猪突猛進だ。

シリウスを責める気は全くないが、復讐に向かう前に誰か一人にでも真実を告げていれば、これほどの悲劇にはならず、自分とシリウスはもっと早く一緒に住めていたはずだとハリーは思っていた。

 

「そうだ、それと屋敷しもべ妖精のことだが、もしまたハリーに突撃してくるようなことがあれば直ぐに教えてくれないか。どんな脅し文句を言われても、だ」

「脅し文句……?」

 

ハリーは借金を抱えてヤクザに脅される家族の息子役を演じた時を思い出して怖くなった。

 

「そうだ」

 

シリウスは言った。

 

 

 

 

9月1日がやってきた。ハリーはシリウスと共にキングズ・クロス駅に来ていた。カートにはトランクとヘドウィグのカゴを乗せている。

シリウスはいつになく警戒しているように見えた。

 

「よし……じゃあ僕から行くよ」

 

ハリーは9と4分の3番線に入る柱を見据えて深呼吸する。

その時、シリウスが動いた。俊敏に柱の裏に回り、杖を取り出す。次にバチリという音が聞こえて、シリウスは戻ってきた。

ハリーは唖然とした。

 

「……なにごと?」

「ああ、何でもない。行くんだハリー」

「わかった」

 

ハリーは柱をくぐって懐かしの魔法界に戻った。

プラットホームの人の人はまだまばらだった。ハリーとシリウスはベンチに座って、発車まで時間を潰すことにした。

しばらくするとハーマイオニーがやってきた。

 

「ハリー、こんにちは!」

「やっほーハーマイオニー」

「あなた、新しい教科書はどれぐらい読み込んできた? 私は5周しか読んでないんだけど、やっぱり足りなかったかしら?」

「僕、一巡もしてないよ」

 

それからハーマイオニーの両親も交えてしばらくお喋りを楽しんだが、ロンが来る気配は一向になかった。

 

「もうあと5分で発車するわ。私たち、そろそろ列車に乗らないと」

「そうだね」

 

ハリーはシリウスと一緒にトランクと鳥かごを列車の中に引き上げた。

 

「ハリー、楽しく過ごすんだよ」

「ありがとうシリウス!」

 

ハリーとシリウスは列車とホームの境目で抱き合った。

ドアが閉まり、白い煙を黙々と上げてホグワーツ特急は発車した。遠くなって行くシリウスの姿をハリーはギリギリまで目で追って、手を振り続けた。

角を曲がって見えなくなったところでハリーとハーマイオニーはコンパートメントを探しに行くことにした。

 

「あ、ハリーじゃないか! あとハーマイオニー!」

 

ロンとジニーが後方車両から歩いてきた。

 

「ロン! どうしてホームにいなかったの?」

「ギリッギリで着いたんだ」

「フレッドとジョージが暖炉に悪戯したせいで出発が遅れたの」

 

ジニーが付け加えた。

 

「とにかく、私たち早くコンパートメントを見つけなきゃいけないわ」

 

しかし列車が発車してから時間が経っていたこともあり、空いているコンパートメントは見つからなかった。

かろうじて見つけたのは女の子が一人でいるコンパートメントだ。

その少女は全体的に色素が薄くて、濁ったブロンドの髪が胸まで伸びていた。耳にコルクのピアスを付けて、雑誌を没頭して読んでいる。

この子は不思議ちゃんだとハリーはすぐに分かった。

 

「大丈夫なのか、ここ?」

「いいよ行こう!」

 

ハリーはガラガラっとドアを開けた。

女の子は雑誌の上から大きな目をのぞかせた。

 

「同席してもいいかな? 空いてるコンパートメントがなかったんだ」

「うん、いいよ。あたししかここに居ないもン」

 

その子はそう呟くと、再び雑誌に顔をうずめた。

 

「ありがとう!」

 

ハリーは笑顔で言った。

ロンは怪訝な顔で女の子を見ながら、一番最後にコンパートメントに入った。

 

「ハーマイオニー、教科書全部5周したってことは、ロックハートの本も全部読んだってことだよね?」

 

ハリーはハーマイオニーに聞いた。

 

「もちろんよ」

「教えてくれない?」

「いいわよ。でもどうして?」

「ロックハート先生の授業に備えてだよ。どうやってあの先生の授業を受けようか考えてたんだ」

 

ハリーは神妙に答えた。

 

「あいつ、ただのカッコつけ野郎だろ」

「あらロン、そんなことないわ。ギルデロ――ロックハート先生は素晴らしい方よ」

「君、ロックハートのことをギルデロイって呼んでるのかい?」

 

ロンはウゲーと吐く真似をした。

 

「黙りなさいロン。それでハリー、何の話から聞きたい? 私のオススメは『狼男との大いなる山歩き』よ。この本の素晴らしいところは――」

「あんた、ハリー・ポッターだ」

 

ハーマイオニーの話を遮った女の子はじーっとハリーを見つめていた。

 

「うん、そうだよ。グリフィンドールの2年生なんだ。よろしくね。こっちは友達のロンとハーマイオニー。あと新入生のジニーだよ」

「あたしも新入生なんだ」

 

女の子は夢見るように言った。

 

「わたしと一緒だわ! わたしジネブラ・ウィーズリーよ。あなたは?」

「ルーナ・ラブグッドだよ」

 

ルーナはジニーに手をまっすぐ差し出した。ジニーは少しためらいがちに握った。

 

「ルーナはマグルに育てられたの?」

 

ハリーは尋ねた。

 

「ううん、パパもママも魔法使いだよ。お家には雑誌を刷ってくれる機械があるんだ。魔法で動くの」

 

ルーナは瞬きせずにハリーを見つめた。

この子は地上と天国の間に住んでいるような雰囲気を持っているとハリーは感じた。

 

「あ、私も魔法族出身よ! 入りたい寮はあるの?」

 

ジニーは新しい友達を作るために一生懸命だった。

 

「レイブンクローがいいな。ロウェナ・レイブンクローの寮。計り知れぬ英知こそ、我らが最大の宝なり♪」

 

ルーナは歌うように言った。

 

「へぇ、わたしはグリフィンドールがいいなぁ。この3人もみんなグリフィンドールなのよ」

「ふぅん、グリフィンドールはちょっと向こう見ずな人が多いってパパが言ってた」

 

ルーナはバシッと言う人らしい。

ロンはムッとした。

 

「それなら、レイブンクローだって頭でっかち野郎ばっかりだぜ」

「あたしはそう思わないもン」

 

ルーナはそう言うと、再び雑誌の陰に隠れた。

ジニーがルーナと仲を深めようと頑張る中、ハリーはハーマイオニーとともにロックハート先生の授業の予習をした。

 

「君までロックハートに夢中かい?」

 

ロンはフンと鼻を鳴らした。

 

「ねえロン、ロックハートってどの層から人気なの?」

「中年のおばさん達だよ。僕のママもロックハートにメロメロさ。でも若い女の子でも好きな子はいるかな」

 

ロンはハーマイオニーをじとっとした目で見て付け足した。

車内販売のお婆さんから百味ビーンズを買って、くじ引き気分で食べて遊んでいるうちに日は沈み、ハリー達は再びホグワーツに戻ってきた。

 

「いいか、落ち着くんだぞジニー。取り乱すんじゃないぞ。分かったか?」

「わたしは大丈夫よ。ロンの方が取り乱してるわ」

 

ロンは愛する妹の組み分けが心配で心配で落ち着かないといった様子だった。

 

「またね、ジニー、ルーナ」

 

ハリーは新入生の2人に別れを告げた。暗い夜道を、2人はちょっと緊張気味に船着き場へ歩いていった。

 

「ホグワーツに入学したのが1年も前なんて信じられないよ」

 

ハリーは暗闇に灯るランタンの光を見ながら呟いた。




完全にストックがなくなったので明日から更新遅くなります
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