生き残った男の子ハリー・ポッター   作:はと麦茶

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5話 組み分け帽子

ボートを降りた新入生達は、厳格そうな老魔女マクゴナガルに引き連れられて、小部屋に押し込められた。

 

「皆さん入学おめでとう。さて、新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席に着く前に皆さんが入る寮を決めなくてはなりません」

 

ホグワーツには四つの寮がある。

勇気と行動力を重んじるグリフィンドール、狡猾さと純血性を重んじるスリザリン、努力と忠誠心を重んじるハッフルパフ、機知と賢明さを重んじるレイブンクロー。

 

「どの寮にも深い歴史があり、素晴らしい人物を輩出してきました。ホグワーツにおいて寮とは家であり、同じ寮の生徒達は家族のようなものです。良い行いをすれば寮に加点され、悪い行いをすれば減点となります。一番得点が高い寮には、学年末に名誉ある寮杯が与えられますから、皆さん努力するように」

 

マクゴナガルが鋭い瞳で新入生達を見た。まるで子役オーディションの時の厳しい審査員だ。

 

「ねえロン、君の家族は全員グリフィンドールだったんだよね」

「そうだよ。あーあ、スリザリンに入ったらどうしよう。勘当されちゃうよ……」

 

スリザリンは闇の魔法使いを多く輩出した寮で、ヴォルデモート卿もこの寮出身らしいとハグリッドが言っていた。世間からもスリザリンは悪い寮だと思われているらしい。

なぜそのような寮を残しておくのか甚だ疑問である。

 

「そういえばどうやって組分けするのか知ってる?」

「フレッドはトロールと腕相撲するって言ってた」

「トロール? それに腕相撲だって? どういうこと?」

「トロール大きくて馬鹿な怪物なんだ。怪力の持ち主なんだよ」

 

ロンは小声で言った。

 

「怪力? なら僕達みんな組分けされる前に死んじゃうよ!」

「え! トロールと戦うの? もう駄目だ僕……」

 

ハリー達のやりとりを聞いていた気の弱そうな丸顔の男の子がへなへなと座り込んだ。

 

「大丈夫だよ。入学早々新入生を殺したりしないよ、たぶんね」

 

ハリーはその子に手を差し出して起き上がらせた。

 

「さあ、そこ、静かになさい。まもなく入場ですよ」

 

 

数分後、ハリーたち1年生はマクゴナガルに連れられて大広間に入場した。

大広間は壮観だった。天井には星空が広がり、幾千ものロウソクが宙に浮かんでいる。

4つの長テーブルには上級生たちが寮ごとに座り、興味津々に新入生達を見ている。テーブルの上には美しい金色の皿が並べられ、爛々と輝いている。

そして壁に繊細に彫られたホグワーツの校章の動物達は、まるで生きているかのように力強い眼差しをしている。

 

「あれは吹き抜けじゃなくて、魔法で星空を映しているのよ」

 

得意げな女の子──恐らくハーマイオニー・グレンジャーの声が後方から聞こえてきた。

 

「すごい……」

 

ハリーは大広間に見惚れた。

今まで色々な場所を訪れたことがあるが、こんなに美しい場所は見たことがない。

魔法ってなんて素敵なんだろうとハリーは思った。

ここを映画のロケ地にすれば、どんなB級映画でも感動の大作に変わるに違いない。

 

「ねえハリー。あのオンボロ帽子は何なんだと思う?」

 

前方を見ると、教職員テーブルの前に置かれた三脚椅子の上に古びた帽子が置かれていた。軽く1000年ぐらいは洗われていなそうだ。

場違いな存在だが、上級生や先生達は全くそう思っていないようである。

 

すると突然、帽子のつばの部分が口のように開き、歌を唄い出した。

 

「私は綺麗じゃないけれど 人は見かけによらぬもの

私をしのぐ賢い帽子 あるなら私は身を引こう

山高帽子は真っ黒だ シルクハットはスラリと高い

私はホグワーツの組み分け帽子 私は彼らの上をいく

君の頭に隠れたものを 組み分け帽子はお見通し

被れば君に教えよう 君の行くべき寮の名を

 

グリフィンドールに行くならば

勇気のあるものが住まう寮

勇猛果敢な騎士道で

他とは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフに行くならば

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で

苦労を苦労と思わない

 

古き賢きレイブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

ここで必ず得るだろう

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段を使っても

目的遂げる狡猾さ

 

被ってごらん、恐れずに! 興奮せずに、お任せを!

君を私の手に委ね

だって私は考える帽子!」

 

歌が終わると自然と拍手が生まれた。ハリーも拍手した。

 

「ねえロン、僕の父さんと母さんはどの寮だったと思う?」

 

ハリーは何気ない感じで聞いた。

 

「どうだろ……スリザリンじゃないのは確かだ。『例のあの人』と戦ったってことはきっと滅茶苦茶勇気に溢れた人達だったろうから、グリフィンドールじゃないかなぁ?」

「ハリーのパパとママならグリフィンドールだよ。彼らはグリフィンドールの誇りだって、ばあちゃんがいっつも言ってたもん」

 

さっきの丸顔の男の子が言った。

グリフィンドール最高、とハリーは思った。グリフィンドールのテーブルに座っている上級生達が輝いて見える。

 

「さて、今からABC順に名前を呼びますから、呼ばれたら前に出て帽子をかぶって下さい」

 

マクゴナガルが長い羊皮紙を広げた。

 

「アボット、ハンナ!」

 

金髪のお下げ髪の少女が出てきた。

 

「……ハッフルパフ!

 

少女は帽子を置いて、逃げるようにハッフルパフのテーブルに走った。ハッフルパフの生徒達から大きな拍手が起きた。

 

次々に組分けは進んだ。

 

「グレンジャー、ハーマイオニー!」

 

あの高飛車な女の子が前に出てきて帽子を被った。

帽子はなかなか叫ばない。

 

「長くない?」

 

ロンは頷いた。

人によって寮が決まるまでの時間に違いがあることにハリーは気づいていた。

 

グリフィンドール !!!

 

ハーマイオニーは嬉しそうにした。ロンは呻いた。

 

「ポッター、ハリー!」

 

何人か後にハリーの番がきた。

名前が呼ばれた瞬間、大広間はシーンとなった。そしてヒソヒソとみんな囁き出した。

やはり子役の時とはみんなの反応が違う。子役の時は、みんな「可愛いー!」という感じだが、魔法界では伝説の英雄のような扱いだ。

ハリーはスタスタ前に出ると、帽子を被る前にみんなに向かってにっこり微笑んだ。生徒達から感嘆の溜息が漏れた。

帽子の中は真っ暗だった。

 

「ふむ……勇敢で、努力家でもある。そして優しく、自分の力を試したいという思いもある……これは難しい」

「そんな……過大評価です」

 

そこまで褒められると恥ずかしかった。

 

「こんなに難しい人は稀じゃ。腕がなる……おや、スリザリンは嫌かな?」

「なぜスリザリン寮は潰されないんですか?」

 

ハリーは質問した。

 

「はっはっは! わたしに質問するとは珍しい。では答えよう」

「ありがとうございます」

「この組分け帽子には、偉大なるホグワーツの創設者4人の知性が込められている。その後がどうであれ、サラザール・スリザリンが居なければこの学校は存在して居なかったのだ。彼が作った寮を潰すというのは余りに冷酷ではないかな?」

「……」

「確かにスリザリンの中の黒い評判は長年絶えることなく続いている。闇の魔術を好む性質がその原因の一つになっていることは確かだ。しかしそれだけ悪名高い人物を輩出したということは、それだけ世間への影響力がある人物が多いということだ」

 

オリバンダーさんと同じようなことを言ってる、とハリーは思った。

 

「どの寮でも、良い人も悪い人もいる。例えばかのマーリンはスリザリンだ。スリザリンは常に勝利し、頂点に立つことを目指している生徒が多い故、歴史に名を残す者が多い。それは史上最悪の闇の魔法使いだったり、史上最高の偉大な魔法使いだったりする」

「スリザリンの悪人は悪も悪の悪人だけど、善人は魔法界を素晴らしく良くする力を持っているってことですか」

「そうだ。あの寮は極端だ。この数十年が後々あの寮にとって闇の時代となることをわたしは望んでおる」

「なるほど」

 

ハリーは納得した。

 

「それで、どの寮に分けようか……スリザリンに行けば君は偉大になれる。闇が渦巻くスリザリンをも変える力を持っている」

「……」

 

ハリーは困った。両親を殺した人と同じ寮には入りたくない。しかし……自分は何を望んでいるのだろうか。

 

「ヒントをあげよう。真のスリザリン生は、他の三寮全ての資質を備えている。グリフィンドール生、ハッフルパフ生、レイブンクロー生も同様だ。大切なのは何を選ぶのか、だ」

「僕は両親のようになりたい」

 

ハリーは頭の中で組分け帽子に言った。

 

「よろしい。ならば…グリフィンドール !!!!

 

グリフィンドールから大歓声が起きた。

マクゴナガルも微笑んでいるし、ハグリッドも嬉しそうに手を叩いている。

みんなから熱烈な歓迎を受けながら、ハリーは席に座った。

澄ました笑顔のハーマイオニーとも握手する。

 

しばらく組み分けが続いた。そしていよいよロンの番になった。

ロンは青ざめた顔で椅子に座った。グリフィンドールのテーブルに座る赤毛の双子(恐らくロンの兄に違いない)がロンを指差して吹き出していた。

一瞬の沈黙──帽子はすぐに「グリフィンドール!」と叫んだ。

やった!

ハリーは大きな拍手をした。ロンは満面の笑みだった。

ああよかったよかった。

 

組み分けが終わると、校長ダンブルドアが教壇に立った。長くてたっぷりした顎髭を蓄え、嬉しそうに顔のシワをくしゃくしゃにして生徒たちを見つめている。

この人がこの大広間の中で最強だ。ハリーは一目見て察した。

ダンブルドアからは大御所俳優のオーラが漂っていた。

 

「ホグワーツの新入生おめでとう! 上級生たちはおかえりなさい! 歓迎会を始める前に二言、三言、言わせていただきたい。ではいきますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」

 

ハハハハハ!とハリーは笑った。

プラットホームで出会ったディーン・トーマス(グリフィンドールに組分けされた)は怪訝そうな顔でハリーとダンブルドアを交互に見て、呟く。

 

「ダンブルドア先生って変わってるね」

「たしかに、少し常人のセンスと懸け離れた所はあるかもしれない。でもあの人は天才だよ! あ、僕は監督生のパーシー・ウィーズリー。これから1年間よろしく頼むよ」

 

パーシーは丸眼鏡をかけたいかにも優等生、という感じの青年だった。

 

「ロンのお兄さんですか?」

 

ハリーは尋ねた。

 

「そうだよ。あと、あそこにいる2人もロンの兄だ。いつも悪戯ばかりで手を焼くよ」

「でもフレッドとジョージって最高だぜ」

 

ロンがチキンを頬張りながら言った。

 

「ハリーもチキン食べたら?」

 

ミートパイばかり食べたいたハリーにロンが勧めた。

 

「ううん、平気」

「嫌いなの?」

「いや、チキンは一番好きな食べ物だよ。だからこそ、ここぞという一番大事な時にしか食べないことにしてるんだ」

 

ハリーは大真面目だった。

 

「君ちょっぴり変わってるって言われない?」

「そうかなあ」

 

ハリーにとってチキンは神聖なものなので、こんな気楽に食べてはいけないのである。

 

「僕のママはマグルなんだ。だから僕が魔法使いだって知った時は失神しそうになってたよ」

 

これは黒人のディーン・トーマスである。

 

「僕のばあちゃんは僕のことスクイブだって思ってたから、ホグワーツに入学できるって分かった時は泣いて喜んでたなぁ」

「スクイブって?」

「魔法使いのパパとママの元に生まれたのに、魔法が使えない人のことだよ。僕、昔からドジばっかりだし、魔法なんて全然使えなかったから……」

 

ネビルが言った。みんな笑った。

 

「へー、僕のパパとママは魔法使いだよ。いっつも休みにはクィディッチの試合に連れて行ってくれるんだ」

 

シェーマス・フィネガンは自慢げだ。

ハーマイオニー・グレンジャーはパーシーと学業についての話しで盛り上がっていた。

呪文学のアレが楽しみだとか、魔法薬学がどうこうとか、ハリーにはさっぱり分からない。

 

正直なところ、ハリーはあまり勉強が得意ではない──というか、好きではない。

それでも人並み以上には出来るが、それは『子役の仕事ばかり優先して学業を疎かにしてはいけない』という恩師(ある映画監督だ)の言葉を今まで忠実に守ってきたからに過ぎない。

 

「ロン。君のお兄さんとハーマイオニーが話してること、わかる?」

「さーあね。ちんぷんかんぷんだ」

 

ロンは呑気にポテトをパクパク食べている。

それを聞いてハリーは予習しないことに決めた。

この時はまだ、ホグワーツの宿題地獄の恐ろしさを知らなかったのである。

 

デザートまで一通り食べたところで、食事は突然消えてしまった。

 

「あー、糖蜜パイもう一つ食べたかったのに!」

 

ロンが頭を抱えた。

 

ダンブルドアが再び前に立ち、いくつかの注意事項を話した。

廊下で魔法を使ってはいけない。

黒い森に立ち入ってはいけない。

死にたくなければ四階の廊下に足を踏み入れるな、などである。

 

最後の一つが不穏だ。

学校に死の危険があるなんて、さすが世界一の魔法学校!

ハリーは感激した。

 

それから、意味不明な歌詞の校歌を皆バラバラに好きなメロディで歌うという奇妙な体験をして、歓迎パーティーはお開きとなった。

 

ホグワーツの廊下はファンタスティックでアメイジングだった。

半透明のゴーストたちがふわふわと宙を漂っていて、ゴーストの体をすり抜けるとひんやりした。

階段は気まぐれに動くので、ネビルとネズミのスキャバース置いてきぼり事件なんかも発生した。

壁にかかる肖像画はリアルに動き、喋っていた。今年の新入生は当たりか外れか、というのが専らの話の話題だ。

「今年の新入生はいまいちパッとしない顔が多いねぇ」なんて、本人たちの前で言うべきではないとハリーは思った。

 

「よし、ここがグリフィンドールの談話室だ! 合言葉はカプート・ドラコニス!」

 

太った婦人の絵(これも勿論動く)が番人で、その人に合言葉を言うことで、絵の裏にある隠された入り口が出てくる仕組みになっている、とパーシーは説明した。

 

談話室は大広間に負けず劣らず最高の場所だった。

全体的に赤色で統一されていて、大きな暖炉ではパチパチと火が焚かれている。

ふかふかのソファーとテーブルがあちこち無造作に置かれ、安らぎの空間が演出されている。

 

ハリーの両親もグリフィンドールだったということは、このソファーのどこかに座っていたことがあるということだ。

ハリーは感動した。

ここが自分の本当の家だ、という感じがした。

 

「ねえロン、暖炉があるよ!」

「うん、すごい豪華だ」

「ほら見て! 椅子もある! テーブルも! 赤いカーペットも! 絵も! 壁紙も! 羊皮紙も貼られてる! 灯りもあるよ! あのソファー気持ち良さそうだね! それに天井もある! ねえ見てよ! すごい!!」

「ハリー、僕にもちゃんと見えてるよ。それとも僕を盲者か何かだと思ってるの?」

 

はしゃいでソファーからソファーへポンポン跳ね回るハリーに対して、ロンは呆れた様子だ。

 

「ごめん! でも僕、とっても嬉しいんだ! わーい! すごいよ! すごいよロン!」

 

ハリーは嬉しさのあまり飛び上がりそうだった。

 

「さあ、明日から授業が始まる! 今日は早く寝て体を休めるんだ!」

 

パーシーが言ったので、ハリー達は素直に寝室に行った。

ホグワーツ初めての夜はとても素敵で心地よかった。

初めて、心の底から安心して居られる場所ができたような気がした。




ダンブルドアのわっしょいどっこらしょい発言にハリーが笑ったのは、大御所芸人がボケたらとりあえず意味不明でも笑っておかないと!みたいな精神が働いたからです
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