真・恋姫†無双 ~番長伝~   作:アニアス

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前回のあらすじ

無事に初陣を切り抜けることができた京馬。
改めてこの世界は戦が日常茶飯事なのだと再認識して腹を括るのだった。


番長、親衛隊と組手をするとのこと

黄巾党と戦を繰り広げ数日。

孫呉は普段と変わらない毎日を送っていた。

また黄巾党がいつ攻めてくるか分からない状況であるが炎蓮を始め雪蓮たちも特に警戒している素振りなど見せなかった。

 

「ん~……」

 

そんな状況の中、京馬は自室の寝床の上で胡座をかいて考え事をしていた。

それは自分の力についてだった。

黄巾党と対峙した時、自分でもあり得ない力を発して人間を吹き飛ばしたため訳が分からなかった。

あれから自分の力について色々試しているものの、あの時に出した力を出すことができずに悩んでいた。

 

「あの時のパンチは腕に掛かる負担が小さかった…何たったんだ…?」

 

考えても考えても答えは出ず完全に行き詰まっている。

炎蓮や雪蓮に聞いても分からないと返されてしまいどうしたものかと悩んでいると咄嗟に立ち上がった。

 

「考えても仕方ねぇ。訓練場に行ってみるか」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

部屋を出て訓練場に向かいながら京馬はふとあることを思った。

 

「そういや訓練場に行くのって炎蓮さんとタイマンして以来だな」

 

京馬は普段から街外れの森で特訓をしていたため訓練場に赴くのは久しぶりである。

訓練場には人を模した丸太などがあるため対象となるものがあればなにかしら掴めるかもしれないと思ったのである。

 

そうこうしていると訓練場に到着したが、既に先客がいた。

 

「あれ?祭さん?」

「ん?おぉ京馬か」

 

そこには祭がおり、その正面には数十人の女子たちが四列になって整列しており現れた京馬に注目した。

一体何をしているのだろうと思い京馬は祭の元へ歩いていった。

 

「何してんすか?」

「これか?親衛隊の訓練をしておるのじゃ」

「親衛隊?」

 

君主である炎蓮の親衛隊があるとは聞いていたが全員が女子のため少しだけ驚いてしまう。

この世界は女尊男卑という考え方はないがどうやら優秀な人材は女性に偏っているようである。

 

「女性ばっかりなんすね…」

「うむ。女の方が身軽じゃからのう」

「なるほど…」

 

祭の言うことも最もだなと京馬が納得すると、祭があることを提案した。

 

「そうじゃ。折角の機会だから組手でもしてみるか?」

「は?組み手を?」

 

突然の祭の提案に京馬はもちろんのこと、親衛隊の面々もざわついてしまう。

そんな親衛隊に祭は説明を始める。

 

「主らはまだ各々としか組手をしておらぬじゃろ。たまには違う者とするのもいい経験になる。それにこの小僧は文台様と正面から殴り合う実力と度胸を兼ね備えておるから強者じゃぞ」

 

祭から京馬のことを聞かされた親衛隊は更にざわついてしまう。

炎蓮の実力は親衛隊の誰もが知っているためそんな炎蓮と正面からやり合った京馬に再び注目してしまう。

 

「それで京馬よ、どうする?」

 

半ば強引に進めたため一応了承は得ようと祭が京馬に確認を取ると、

 

「…分かりました。やりましょう組手」

 

京馬は親衛隊と組手をすることを決めるのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

訓練場の石畳にて、そこには準備体操をしている京馬と親衛隊の1人が向かい合っており残りの親衛隊の面々は石畳を取り囲むように規則正しく並んでいた。

いきなり組手と言われて最初は京馬も戸惑っていたものの、よくよく考えればあの時の力を引き出すには絶好の機会ではないかと思い組手をすることを決めたのだった。

 

京馬の準備体操が終わり目の前の親衛隊と対峙すると間に祭が立った。

 

「ではこれより組手を始める。お互い相手を確実に仕留めるつもりで望むのじゃぞ」

「はいっ!」

「うすっ」

 

祭の審判の元、いよいよ組手が始まろうとした。

 

「始め!」

 

そして合図と共に親衛隊は京馬へ駆け出した。

動きが思ったより早かったため京馬は一瞬遅れるも繰り出される拳を右腕で防いだ。

どうやら親衛隊は初手で決めるようであったが防がれたことに驚いてしまい隙ができてしまった。

 

「はぁ!」

 

躊躇している隙を逃すまいと京馬は拳を親衛隊の腹目掛けて叩き込んだ。

 

「うっ!?」

 

あまりにも重い一撃に親衛隊はその場に膝をついてしまい京馬の勝ちとなった。

一方京馬はあの時の力を出せなかったことに拳を開いたり閉じたりして確認するもハッと我に返り親衛隊へ駆け寄った。

 

「わりぃ、大丈夫か?」

「けほけほっ…!大丈夫、です…!ありがとうございました…!」

 

咳き込みながらも立ち上がり組手をしてくれた京馬に頭を下げて囲んでいる親衛隊の中へ歩いていった。

流石は祭が鍛えているだけあって動きも早く殴られても直ぐに動けるタフネスを兼ね備えておる親衛隊に感心してしまう。

 

すると次の親衛隊の1人が出て来て京馬と向かい合い組手を始めるのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

それから京馬1人ずつ交代で親衛隊と組手を行い、遂に最後の1人となった。

1人1人が黄巾党の連中と比べ物にならない程動きに磨きがあり京馬も少々手こずってしまうものの、なんと29人抜きを達成してしまったのだった。

 

「驚いたのう…!まさかここまでやるとは…!」

 

これには流石の祭も驚いてしまい親衛隊も一回も勝てないことに唖然となってしまう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…ふぅ」

 

一方京馬は大勢と組手をしたため汗をかいており疲れが目に見えていた。

息を整えながらも最後の1人と組手をしなければと思い額の汗を拭う。

結局あの時の力は出せずにいるがどちらにしろいい経験となっている。

 

そしてついに親衛隊の最後の1人が京馬の前に立った。

 

「よろしくお願いします!」

 

現れたのは茶髪でメンチを切っているのではないかと誤解してしまう程の目付きが鋭い女子だった。

 

「アンタで最後か…」

「呂蒙と申します!字は子明です!」

 

女子は呂蒙と名乗り素早く身構えた。

他の親衛隊とは違い今にも飛びかかって来そうな勢いが出ているため京馬は手強そうだと察しながら構えた。

 

ジリジリと睨み合っていると祭が合図を出した。

 

「始め!」

「せいやぁっ!」

 

それと同時に颯爽と飛び出したのは呂蒙。

一気に京馬の懐へ飛び込み拳を繰り出す。

 

「うぉぉっ!?」

 

いきなり距離を詰められ反応が遅れるも京馬は反射的に呂蒙の拳を捌く。

このままでは戦いづらいため京馬はバックステップで距離を取ろうとするも空かさず呂蒙が攻めてくる。

 

「逃がしません!」

「コイツ…!」

 

素早く鋭い拳や蹴りを辛うじて捌けてはいるものの今までの相手とは桁違いに強く徐々に押されてしまう。

京馬と呂蒙の激しい戦いを祭含め親衛隊も固唾を呑んで見ている中、ついに京馬が動いた。

 

(ここだ!)

「なっ!?」

 

攻撃を捌きながら相手の癖や間合いを見抜く自分の戦い方で呂蒙の回し蹴りを予測しタイミングを合わせて左手で受け止めた。

呂蒙は呆気に取られるもすぐに抜け出そうとするが、京馬の握る力が強すぎず中々抜け出せない。

 

「悪いな!」

 

そしてそのまま京馬は右拳を振り上げ呂蒙のおでこへ振り下ろした。

 

しかし次の瞬間だった。

 

そのまま振り下ろした拳は呂蒙を石畳へ叩きつけると、石畳に大きな亀裂ができてしまった。

これには親衛隊はおろか祭ですら唖然となってしまう。

 

「またこの力……!あっ!?しまった!」

 

またしてもあの時の力が出たことに京馬も唖然となるも我に帰り拳をまともに食らってしまった呂蒙へ視線を向ける。

呂蒙は気を失っているものの、額から少しの血が出ているだけでそれ以外で特に大きな怪我は見つからなかった。

 

「呂蒙!大丈夫か!?」

「動かすな京馬!すぐに医務室へ運ぶのじゃ!」

「は、はいっ!」

 

京馬は必死に呂蒙に呼び掛けると祭が速やかに親衛隊に命令を出して呂蒙は医務室へと運ばれていった。

 

そして今日の親衛隊の訓練はお開きとなり訓練場には京馬と祭の2人きりとなった。

 

「京馬よ。確かに儂は本気でやれとは言ったが、流石にやり過ぎじゃ」

「…返す言葉もないっす」

 

まさかここまでやるとは思っていなかった祭は京馬を優しく叱りつける。

そして京馬も自分の底知れない実力に呆然となりながらもやり過ぎたことを反省するのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

親衛隊との組手があった翌日のこと。

今日の京馬は粋玲の仕事の手伝いということで街の警羅に赴いていた。

まだ政務などの書物類の仕事を任されていないためほぼ毎日警羅の仕事をこなしている現状である。

 

「今んところトラブルなしか…」

 

特に喧嘩や窃盗も起きていないため今のところは問題はない。

相変わらず賑わっている街を見渡していると、一件の本屋が目に止まった。

何も変哲のない本屋であるが、外に陳列してある本を立ち読みしている人物に見覚えがあった。

 

「あれは…呂蒙か」

 

それは昨日の組手で手合わせした呂蒙だった。

呂蒙の額には湿布が貼られており昨日の怪我なのだろうと推測した。

彼女は本を手に取りやや顔を近づけて読んでいた。

 

ここは声を掛けるべきだと思った京馬は呂蒙の後ろから声を掛ける。

 

「よう呂蒙」

「?」

 

声を掛けられた呂蒙は本から顔を離して振り向き京馬と向かい合った。

 

「…………」

 

しかし、呂蒙の目付きは鋭くなりその顔のまま京馬へと近づく。

 

(…やっぱ昨日のこと怒ってるな)

 

思い切り殴られたのだから当然だと納得してしまう京馬。

今ここで殴られても文句は言えないと思った時だった。

 

「………はっ!?ゆ、雪村様!?」

「ん?」

 

覗き込むように睨んでいた呂蒙は目を見開き慌てて距離を置いて拱手をする。

昨日まで真面目で堅物そうなイメージだったというのに今はあわあわと動揺している呂蒙に京馬は呆然となってしまう。

 

「な、何故こちらに…?」

「あ、あぁ。警羅の途中でな、偶然お前を見かけたから声を掛けただけだ」

「そ、そうでしたか…」

「………その、なんだ…昨日は悪かったな。少しやり過ぎた」

 

他愛もない会話をしながら京馬は昨日の組手のことを謝った。

 

「お気になさらないで下さい!私の実力不足が原因なのですから!」

 

しかし呂蒙は昨日のことを自分が倒されたことが悪いと言い頭を下げようとする京馬を慌てて止める。

こうして話してみると結構話しやすいため人は見かけに寄らないと京馬は思った。

 

「……なぁ、昼は食ったのか?」

「えっ?まだですけど…」

「このまま何もしないっていうのは俺としては納得できねぇ。奢らせてくれ」

「えぇ!?ですからお気にしないでくださいと…!」

「いいから来いって」

「ゆ、雪村様!?」

 

そして京馬は半ば強引に押しきり、呂蒙の手を取り茜の店へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

しばらくして、茜の店に到着した京馬と呂蒙。

2人は席に座り机の上の料理を食べていた。

 

「すみませんご馳走していただいて…」

「謝るのは俺の方さ。気にすんなよ」

「お待たせしました~こちらゴマ団子になりまーす」

 

机の上の料理をようやく食べ終えた時、最後に注文していたゴマ団子を茜が運んできた。

 

「わぁ…!」

 

目の前に置かれたゴマ団子を見た呂蒙は好物なのか目を輝かせてしまう。

 

「分かりやすいですね」

「あんなに気持ちを顔に出せるヤツは滅多にいねぇよ」

 

それを見た京馬と茜はコソコソと話しながらクスクスと笑ってしまう。

 

すると京馬はゴマ団子を堪能している呂蒙にあることを聞いた。

 

「なぁ呂蒙。お前ってさ、もしかして目が悪いのか?」

「ッ…!ど、どうしたんですか急に?」

 

口に入れていたゴマ団子を呑み込んだ呂蒙は思わず首を傾げてしまう。

 

「いや…さっき本読んでた時、結構目が近かったからな」

 

先ほど本屋で立ち読みをしていた呂蒙は顔をかなり近づけていた。

更に声を掛けて京馬の方を振り向いた時もすぐに気がつかなかったため近眼なのではと推測したのである。

 

「そのような自覚はありませんが…」

「…右の3つ目の席の机、見えるか?」

「え?」

 

京馬に言われた呂蒙は右の3つ隣の席を見ると、1人の男性が食事をしていた。

 

「あの席の餃子の数、分かるか?」

「…馬鹿にしないで下さい。5つです」

 

目が悪いのか確かめるためにこんなことをさせるのだろうと呂蒙は思うも、このくらい見えると京馬にムスッとしながら自信満々に答える。

 

しかし、

 

「いや、餃子は3つしかないよ」

「えっ?」

 

同じ位置に立っていた茜は容易く答え呂蒙は呆然となってしまう。

茜の言うとおり、餃子の数は3つである。

そんなワケないと呂蒙は目を細くしながら見ようとするも京馬に言われる。

 

「認めろ。お前は目が悪い」

「うぅ~…」

 

自信満々に答えたというのに間違いだったことに呂蒙は恥ずかしさのあまり顔を赤くしてしまう。

京馬もここまで酷いとは思っておらず苦笑いを浮かべる。

 

「そんなに目が悪いなら眼鏡を買ったらどうだ?それだと日常生活も苦労するだろ」

「…それは分かってますけど、眼鏡をつけると壊してしまいそうでして」

「そっか、目を怪我したら大変だよね」

 

どうやら呂蒙自身も自覚はあったようだが、訓練に限らず実戦で眼鏡を壊してしまうと彼女なりに考えていたようである。

 

「だけどな、あんな読み方するのは返って目を悪くするだけだぞ……つーかあの時何の本を読んでたんだ?」

「兵法の本です」

「兵法?そんなのに興味があるのか?」

 

親衛隊だから拳法関連の本かと思ったが軍司関連の兵法の本を読んでいたことに京馬は少し驚く。

 

「はい。親衛隊に入った頃はまったくと言っていい程、戦果を残せなかったのですが、戦略を立てようと兵法の本を読んでいるウチに興味を持ったのです」

「成る程…」

 

最初は戦略を身につけるために兵法を読んでいた筈が、気がつけば兵法に興味を持ったことに京馬と茜は感心してしまう。

すると茜は呂蒙にあることを提案した。

 

「ねぇ呂蒙さん。兵法に興味があるなら軍司にでもなってみたら?」

「へっ?軍司、ですか?」

 

突然の提案に呂蒙は目を丸くしてしまう。

兵法を学べば知略が育むことができ、戦況を容易に把握して打開する策も見出だせることができる。

兵法に興味がある呂蒙ならばすぐに成長できると茜は思ったからこそ軍司を提案したのである。

 

「それに軍司なら眼鏡を壊すこともないから大丈夫じゃないかな」

「きゅ、急にそんなこと言われましても…」

「やっぱり親衛隊が大事なのか?」

「いえ、別に親衛隊にこだわりがあるワケでは…」

 

戸惑っている呂蒙を見て軍司も満更でもないと思っていることを京馬は見抜く。

しかしそれは本人で決めることであるため無理に勧めようとはしない。

そこで京馬は呂蒙に助言を授けた。

 

「軍司になるか親衛隊を続けるか決めるのは呂蒙だ。俺は何も言わねぇ…けど、人生ってのは一度きりだ。いろんなことをやってみるのも悪くねぇと思うぞ」

 

人生は一度きり。

生きている内はいろんなことができる。

だからこそ、人生は面白いのだと京馬なりの考えを口にしたのだった。

 

「いろんなことを…」

「京馬さんにしてはいいこと言いますね」

「あれ?今馬鹿にされたような…」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

しばらくして、茜の店を後にした京馬と呂蒙は城門の前に立って話をしていた。

 

「今日は本当にありがとうございました。ご馳走していただきまして」

「言ったろ?昨日の詫びだって」

 

呂蒙は今日は非番だったためこの後は街にある家に帰るようである。

そして軽く話を済ませた京馬は城内へ入ろうとする。

 

「んじゃまたな」

「………雪村様!」

「ん?」

 

すると呂蒙に声を掛けられ京馬は足を止めて振り向く。

 

そして呂蒙は勇気を振り絞るように口を開いた。

 

「私…色々なことを試してみようと思います!もしかしたら違う道を見つけられるかもしれませんから!」

 

どうやら茜の店で京馬に言われたことを考えて親衛隊以外の様々なことに挑戦することを決心したようである。

 

それを聞いた京馬は驚くことなくフッと笑う。

 

「そうか…それでいいと思うぞ。もし軍司になった時は、とびっきりの策を頼む」

「はい!」

 

そして呂蒙の笑顔を見た京馬はようやく場内へと入っていくのであった。


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