虹が彩る、初春草原   作:ポロシカマン

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※最終回後、ネタバレ注意です。


陽だまりシロツメクサ

 

「すぅー、はぁー……」

 

 両手を上げて、大きく深呼吸。

 

「……ふぅ。」

 

 だらん、と全身の力を抜き、

それからゆっくりと顔を上げて、空を見上げる。

 

「――うん!」

 

 太陽のまぶしい光が全身を包み込み、寝起きの気だるさを優しくほぐす。

 

「今日もめっさいい日になりそう!!」

 

 

 

 

 

 おはようございます!わかばです。

 

「わぁ!でっかい穴が開いてる!!なんだこれ~!」

 

 今日もここ、数え切れないほどたくさんの木が生えている、『森』を探索しています!

 

「中に茶色い毛みたいなのが落ちてるなぁ……はぁあ~~!!めっさ気になる~~!!」

 

 『ふね』の中では見たことのなかった物やクサがいっぱいあって、毎日が新しい出会いの連続で、とっても充実しています!!

 

「りんさんにもあとで見せよっと!」

 

 僕たちの中で、一番この外の世界を楽しんでいるりんさん。

 

「きっと喜んでくれるはず!!」

 

 旅の途中では見ることのできなかった、あの空の太陽よりも眩しい笑顔を、また見せてくれるといいな。

 

「……あれ、そういえば今日はりんさん、まだ見てないな……」

 

 

 

「――ふふ♪いーっぱい飲むのニャー♪」

「おー、ミニミドリちゃん、今日も元気いっぱいだナ!」

「ニャ~♪」

 

 あ、あの声は!

 

「りつさーん!りなさーん!」

 

「あ、わかばくん!おはようニャ~」

「おはようナ!」

「おはようございます!!」

 

 どうやらお二人も探索に出ていたようです。

 

「いるんじゃないかナ~と思ってたけど、やっぱいたのナ!」

「あ、わかります?」

「こんなにたくさんクサがある場所を、わかばくんが放っておくはずがないからニャー」

「えへへ……」

 

 ミドリさんが残してくださった最後の、ほんの少しの小さな枝、『ミニミドリさん』。

 りつさんとりなむ……りなさんはここ最近はそのお世話をしてらっしゃいます。

 

「わぁ!ミニミドリさん、また一段と大きくなりましたね~!」

「そうニャ~、たくましいのニャ~!」

 

 ざぶざぶと水面を踊るように動くミニミドリさんが見えます。

 

「あはは、すごいすごい!!」

「ふふふ♪ミニミドリちゃんはミニミドリちゃんだけで動けるのニャ~♪」

「え……えぇえ!?それ本当ですか!!」

「本当ニャー、わたしが何もしなくても、自分からいろいろやってくれるのニャ!」

「もしかしたらミドリさんが頑張ってきたことをこの子は覚えてて、それを真似してるのかも!」

「わぁ……!」

 

 りつさんのお顔が、また一段とキラキラし始めました。

 

「……ありがとうニャ」

「え?」

「今こうしてミニミドリちゃんのお世話に専念できるのは、りんとわかばくんが『赤い木』をやっつけてくれたおかげニャ」

「ぼくはそこまで……ほとんどりんさんたちご姉妹とミドリさんのおかげですよ」

「そんなことないニャ。わかばくんがいなかったら、絶対ここにはたどり着けなかったニャ」

「…………」

 

  

 ――あの旅を、思い返す。

 

 

 たくさんの出会いと別れ。

  

 喜んで、失って、泣いて……でも笑って。

 

 りくさん、りょうさん、りょくさん。

 りつさん、りなさんたちと……そしてりんさんと一緒にここに来るまでの、あの旅を。

 

 

「………ボクは」

 

 

 ぼくは、

 

 

「本当にお役に立てていたんでしょうか」

「当たり前ナ!!」

「――わぁ!?」

 

 突然、りつさんりなさんが大きな声と共に、僕の背中に飛び付きます。

 

「今更なにを言ってるナわかば!!」 

「そうニャ!!もうわかばくんにはほんっとーーに、助けてもらってばっかりだニャ!!」

「そ……そうですか?」

「さっきからそう言ってるニャ!!もっと自分に自信を持つニャ!!もしわかばくんがいなかったら……いなかったら……」

 

 りつさんは顔を伏して、そのまま袖で顔を隠しました。

 

「う……ふぐっ……うぅ……」

「り、りつさん!!」

「あー!!わかばりつねぇねのこと泣かせたナ!!」

「あ、あぁあ……!」

 

 え、えぇとこんなときは……あ、謝るんじゃなくてぇえっとぉ……

 

「あ、大丈夫です!!ボク、自分に自信たっぷりです!!ケムリクサのことだったら、ご姉妹の皆さんに次いで誰にも負けませんから!!」

「……そーゆーことじゃないんだナー」

「えぇえっ!?」

 

 そんなぁ!

 

「もうわかばはあっち行けナ!」

「ちょちょっと待って!もっと、もっと何か……」

「いいから出てけナーー!」

「わぁあーー!?」

 

 言いよどんでいる間に、りなさんにハコの外へと蹴り飛ばされてしまう

 

「わぶっ!?……い、いたた」

「まったく、わかばはダメなんだナー。あいかわらずアホだナ!」

「ひどいぃ!」

 

 うぅ、この痛み……な、なんだかみなさんと初めて会った時を思い出すなぁ……

 

「そーだナー、アホのわかばには、かしこくなる『しゅぎょう』をやってもらおうかナ?」

「しゅ、……修行?」

 

 なんだろう……りなさんの言う修行って……

ま、まさか、あそこの岩場から飛び降りるとか!?

 

「ぶるぶる……」

「何をこわがってるのナ。別にそんなきけんじゃないナ」

「ほっ……」

 

 よかったぁ……

 

「これを探してきてほしいのナ!」

 

 そう言ってりなさんが渡してくださったのは、葉が四枚のとても小さいクサでした。

 

「わぁ!なんだろうこれ?見たことないクサですね!!」

「ふっふっふー!これはナ?あそこに生えてたのをさっきりなちゃんが見つけたのナ!」

「わぁ、ホントだいっぱいある~~!!……あれ、ここに生えてるの、葉が枝に三枚しか付いてないですね……」

「そうなんだナ!だからこれは普通より一枚葉が多い、お得ナやつなんだナ!!」

「……へぇ~~!!めっさ興味深いですねそれ!!」

 

 りなさんから手渡されたそれをまじまじと観察します。

確かにこちらは葉が四枚、地面にある方は三枚です。

 

「うんうん。だからこれと同じ、葉が四枚のクサを探してくるのナ」

「あ、そういう修行なんですね!!」 

「そうだナ!」

 

 わぁ、これなら確かにいい修行になるかも!!

これでもっとみなさんのお役に立てるかもしれない!!

 

「というわけで!これと同じクサをあと二十本、夜になるまでにりなちゃんのところに持ってくるのナ!!」

「わかりました!!」

 

 二十本かぁ、それくらいなら楽勝かも!!

あ……そうだ。

 

「あの、りんさんは今日はどちらにいらっしゃるかご存知でしょうか?」

「……知らんナ」

「そうでしたか……」

 

 仕方ない、修行しながら捜そう。

 

「他に何かしつもんはあるかナ?」

「……ないです!」

「よし!じゃあ行けナーー!!」

「行ってきまーす!!」

 

 ようし!早くクサもりんさんも見つけて、りんさんと一緒に探検しよう!

 

「楽しいなぁ……楽しいなぁ!!」

 

 好きなことをたくさんできるのって、めっさ楽しい!!

 

 

 

 

 

 修行開始から、少しばかり。

 

 

「えーっと……うん、あと四枚かな」

 

 これなら太陽が空の真上に来るよりも早く、りなさんのところに戻れそうだ。

 

「傾向からして、多分あそこの開けた場所にもあるかも……」

 

 それにしても、なんでほとんどは葉が三枚なのに、四枚のものが現れるんだろう。

生える場所や、時間、使う水の量、太陽の光の当たり方……もしくはそれ以外の理由なのか。

 

「め……めっさ気になる~~~~!!」

 

 すごい!!ケムリクサ以外のクサが、こんなにも不思議であふれているなんて!!

気になることがたくさんありすぎて、困るなぁ~~~!!

 

「味はどうだろう……」

 

 ひょいぱく、なんて。

 

「うっ」

 

 こ、これはあんまり……というかなんというか……

 

「なかなかウスイロみたいなクサは見つからないなぁ……」

 

 もっと美味しくて食べられるクサも見つけていかないと。

 

「……ふふっ」

「――ふふっ♪」

 

 思わず、笑みがこぼれる

 

 

「今日はめっさ大収穫だ!」

「これだけあれば、笑ってくれるかな……」

「笑っちゃいますねぇ」

「そうだよなぁ!……え?」

「あれ?」

 

 ………………。

 

「りんさん!?」

「ゔぁ、わかばぁ!?」

「よかったぁ!捜してたん」

「ひゃ、い――」

「あ、待って!」

「あう!?」

 

 走り出そうとしたりんさんを引き留める。

 

「ど、どうしたんですか?そんなに顔を真っ赤にして!……もしかしてそれ『病気』ってやつなんじゃ!」

「ちが、違う!これは……『毒』だ」

「『毒』ぅ!?やっぱり大変じゃないですか!」

「い、いい!大丈夫だ!……大丈夫なやつなんだ、これは……」

「そうなんですか?」

「うん……これは……いい『毒』なんだ!最近気づいたんだ!これは、」

 

 振り向いて。

 

「お前が、好きだからなんだ」

 

 笑う。

 

「あ………」

 

 どうしよう

 

「なら……よかったです」

 

 なんていったらいいのか

 

「……うん」

 

 ――あ、もしかして

 

「あ、あの!」

「なんだ!?」

「その……実はボクも、その……」

 

 この、体の内側からこみあげてくるものは。

 

「時々、顔が赤くなったり、するんです。」

「!!」

「りんさんといると」

「……!!!」

「だから、もしかしたら……」

「たったたた大変だなわかばも!!」

「はうっ!?」

 

 突然ボクの肩を掴むりんさん。

 

「お、お互い!何かいい対処法を見つけたら共有しよう!……な!!」

「は……はいぃ!」

「よし!」

「あう」

 

 い、いたた……やっぱり力が強いなぁりんさんは。

 な、なんだかまだ胸がドキドキしてる……やっぱり、そういうことなのかなぁ……

 

「と……ところで!」

「はいぃ!」

「ここで……何をしてたんだ?」

「あ、それはですね!」

 

 懐から四枚の葉のクサを取り出し、りんさんに見せます。

 

「りなさんに言われて、これを集めていたんです!」

「………」

「りん、さん?」

「あ、あいつぅ……!」

「りんさん!?」

 

 ど、どうしたんでしょう、すごく、怒ってらっしゃいます!

 

「お、落ち着いてください!何があったんですか!?」

「わかばには関係ない!」

「はいぃ!」

「あ……ごめん!……またわたし怒鳴って……直そうとはしてるんだけど、ごめん」

「え、いや、いやいや!別に大丈夫ですよぉ!無理しなくていいですから!」

 

 ていうか、慣れちゃいましたし……

 

「りんさんの一番落ち着くりんさんでいたらいいんじゃないかと思います!」

 

 変に自分にウソをつくのは、いいことじゃないですからね!

 

「そうか……」

「はい!」

「わかった。」

 

 りんさんが、

 

「……ありがとう」

 

ふにゃっと笑います。

 

「ふふっ」

 

 つられてボクも。

 

「あ……その、実はだな!」

「はい?」

「わたしも集めてるんだ。それ、そのクサ。」

「あ……そうだったんですか!!」

「あぁ!りなに言われて、仕方なくな!」

 

 なんだぁ、それならラッキーです!

 

「じゃあ、あの」

「!」

「一緒に探しませんか?このクサ!」

「い……いいのか?」

「はい!もちろんです!」

「へ、ヘタくそだぞ?これ、一本見つけるのにもだいぶ、かかってしまった……」

「大丈夫ですよ!ボクたち二人でなら、何本でも見つけられます!」

「……そうかな」

「そうですよ!」

 

 だってボクたちは、

 

「ボクたちは、この『ふね』の外まで来ることができたんですから!」

 

 できないことなんて、きっとない。

 

「わかば……」

「行きましょう、りんさん!」

「……うん!!」

 

 

 りんさんの手を取って、太陽の下で、同じ歩幅で――

 

 どこまでも、一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんと……ここまで来れて……よかったぁ~~……!!」

「りつねぇね、いつまで泣いてるのナ?」

「だって……だってぇ……!」

<ぴぴーっ!>

「あれ?シロ、わかばのとこに行かなくていいのかナ?」

[ リツ ナキムシ ダカラ ソバニイル ]

「…………もしかして、りつねぇねといっしょにいたいのかナ?」

<ぴっ!!>

「シロはいいやつだナー」

<ぴぴぴっ>

「わかばも早くそんな風にできるようになればいいんだけどナー。でもアホだからナー……」

 

 

 

『あ、りんねぇね!おはようナ!』

『おはよう、りな!』

『おや?どこかにお出かけナ?』

『あ、あぁ!ちょっと探し物があってな!』

『……もしかして、わかばナ?』

『な……はぁ!?な、なんでわかばの名前が出るんだ!!』

『だって楽しそうだったからナー。顔も柔らかいナ』

『……!!』

『ちゃんと"好き"をしてるんだナ!えらいナ!』

『~~~!!』

『ところで何を探してるんだナ?』

『……えっと……こんな感じの、クサ』

『おぉ、見たことないクサだナ!わかばもきっと喜ぶナ!』

『そ、そうかな……そうかな!』

『そうだナ!』

『じゃ……じゃあ、りなもこれ、よかったら一緒に探してくれないか!?一本だけじゃ足りない!もっと……もっと集めて、もっと喜んでもらう!!』

 

 

 

「わかばにはもっとりんねぇねにも"好き"を向けても、いいと思うんだナ」

<ぴぴ>

「お前もそー思うのナ?」

<ぴっ!>

「……シロはかしこいのニャー」

<ぴぴーっ!>

「あ、泣き止んだのナ!!」

「泣きたいだけ泣けるって、いいことだニャー」

「ここは水がたーっぷりだからナ!りなも、いっぱいおいしいもの見つけられてうれしいナ!」

「……これも、二人のおかげニャ」

「ナ!」

「二人には、もっと幸せになってほしいニャー……」

 

 

 

 

 

 

 ――命は巡る。

 

 

「ここには"好き"がいっぱいナ!みんなみーんな、笑顔になれるナ!」

 

 

 ――"好き"も一緒に巡るんだよ。ワカバ

 

 

 

 


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