戦うことを選ばなかった凡人   作:ロック大佐

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 まさかこんなに早く投稿されるとは夢にも思うまい。

 呪! 日間1位! 週間4位! やったぜ。
 思わず素早く続きを書き上げて投稿しちまう程に嬉しいじゃねぇか!
 そして自分で言うのもあれだけど正式連載化成し遂げたぜ。
 これも読者の皆の応援のおかげです。感謝感謝。

 でも感想で展開のほぼ全てを言い当てられて悔しい。
 こんな調子で完結まで行けるのか、内心ビクビクしてる。
 もっと読者が予測できない展開を思い付きたいなぁ。

 それと、皆さんに先に謝罪しておきます。
 サクッと読めると評価を頂いてる本小説ですが、今回5000近く文字数があります。
 分割はしたのですが、分割はこれが限界でした。本当にすまない……。
 今後はこういうことがないように気を付けます。


毒身怖いでしょう……

「大変だああああ! 誰か来て! 部屋の前に女の子が倒れているうううううううう!!」

 

 自室の前で倒れている静謐のハサンを見た時、最初にしたのは叫ぶことだった。

 他の英霊だったらまだ他の選択肢もあった。普通に大丈夫かと声をかけて頬を軽く叩くとか。

 しかしうつ伏せに倒れているのはあの静謐である。あの妄想毒身の使い手である。

 武器は勿論、衣服どころか全身が毒で塗れている物理的な超危険人物。それが彼女だ。

 その毒は英霊でさえ触れれば体調悪化。キスなどの粘膜接触をすれば三回くらいで死に至る。

 そんな強力な毒に俺という一般人が触れればどうなるか……考える必要すらない。

 

 だから俺がまず取った手段は大声で誰かを呼ぶことである。

 もし毒耐性持ちの立香が飛んで来てくれれば御の字。大声で静謐ちゃんが起きれば万々歳。

 他の職員や英霊が来た場合でも適当に言い訳すれば乗ってくれるはずだ。

 納得できる理由があれば立香の友人を死なせないように動いてくれるはずだから。

 言い訳の内容は迂闊に触るとセクハラで訴えられるのが怖いとかでいいか?

 でもそれで通じなかった場合も想定して複数考えた方がいいかもしれない。

 ……しかしそれ以前に叫んでから十秒ぐらい経過したのに人影は見えないし足音も聞こえない。

 更にダメ押しと言わんばかりに静謐ちゃんもピクリとすら動かなかった。

 

 なら電話しようと思って部屋の中に電話がないか探してみるが、それらしきものはない。

 せめて電話が置いてあれば立香に助けを呼べたんだけどなぁ……番号は覚えてるし。

 ちなみに携帯電話は持ってこれなかった。荷物は採用決定したら持ってきて良いって。

 後々荷物は運ばれてくると言われたが、残念ながらまだその荷物はまだ届いていない。

 俺は少し考えた後、微かな希望を持って隣の部屋の内部を確認した。

 もしかしたら誰かいるけど防音とかで聞こえなかったかもしれないという希望を持って。

 まあそんなご都合展開があるはずもなく、自室と同じ感じの部屋があるだけだった。

 一応用途不明の長い木の棒を見つけたが……これでどう助けを呼べと?

 駄目だ、ここまで何もない上に誰もいないとなると助けを呼ぶ選択肢は完全にハズレだ。

 

「まずいぞ、残る選択肢は全て茨の道しかない。どうする?」

 

 今の俺の頭が出せた案は助けを呼ぶのを省いて三つ。

 一つ目、見なかったことにして自室に篭る。

 二つ目、静謐のハサン……面倒なので略す! 静謐ちゃんを一旦放置して立香達を探しに行く。

 三つ目、危険なのを覚悟してどうにか静謐ちゃんを助ける。

 

 まず一つ目の選択肢。これは毒で死ぬ危険はほぼないだろうが、俺の信用は間違いなく落ちる。

 英霊達の好感度が下がってしまえば、最悪殺される可能性がかなり高い。

 何よりこの殺風景な部屋にずっと引き篭もっているなんて不自然極まりない。

 その場凌ぎで生き残れてもお先真っ暗とか本末転倒だろ。却下。

 

 次に二つ目の選択肢。一見最上の策のように思えなくもないが……これもリスクが高い。

 何故なら助けるためとはいえ、倒れた女の子を放置なんて外道行為だからだ。

 助けを呼びに行くのに女の子は床に置いたままとか不自然極まりない。

 一応勝手に体を動かしたら危ないかもと言い訳すればいいかもしれないが……。

 余程の理由がない限りどんな言い訳も聞いてくれない可能性がある以上却下だ。

 

「しかし、だからと言ってなぁ」

 

 はっきり言って特典を完全に拒否した俺が毒耐性を持ってるなんて考えられない。

 そんな俺が静謐ちゃんに触れるなんて自殺行為もいいところだ。

 だからもし三つ目の選択肢である救助を選ぶなら触れずに助けなければならない。

 触れずに助ける方法なんてあるのか……? 考えろ、考えろ俺!

 ふと隣の部屋にあった木の棒の存在を思い出す。

 あれを使って医務室とかに運べば行けるだろうか?

 いや駄目だな。倒れた少女を棒で転がして行くとか完全に外道のそれ。却下!

 

「どうしようもう案が思い浮かばないもしかして詰んだのかもうわかんねぇな!(早口)」

 

 とりあえず自室のベッドに飛び込んでゴロゴロする。

 新しい案が思い浮かぶように何度も枕へ頭突きするが、やはりすぐには思い浮かばない。

 助けは来ない。呼びに行くのも絶望的。放置はできない。触れば死ぬ。どうしろと?

 俺は頭が特別良い方じゃないんだ! だからこんな困難な問題を持ってこられても困る!

 おや? こんな……こんなん(困難)……?

 偶然な親父ギャグの完成である。今度立香の前で言ってみよう。

 

「立香はどんな反応をするかなって今そんなこと考えてる場合じゃないだろ!」

 

 新しい親父ギャグを思い付く余裕があるなら何故解決策を思い付かないのか。

 もう自分で自分の能天気さに呆れてしまう。こんな状況でよくそんな余裕があるもんだと。

 俺の頭があまりにもドアホなので今被っている布団で自分を包んで外に捨ててやろうかと少し本気で思ったわ。いや自分を包んで捨てに行くとか物理的に無理だけど。

 ……………………ん?

 

()()()()()()……!」

 

 閃いたぁ! 難題突破ぁ! これなら行ける! 俺って頭良いのでは?

 俺は早速隣の部屋に再度お邪魔する。そしてその部屋から布団とシーツを拝借する。

 これで静謐ちゃんを包んでしまえば直接触れなくても運ぶことができる!

 まあ完璧ではないだろうけど、それでもないよりは百倍以上マシである。

 手に持ってみた布団は予想より分厚かった。少し重いがその分安全性は増すのでよし。

 毛布を被せようと俺は静謐ちゃんに近付いて行く。

 しかしそこで一つの可能性に気が付いた。気が付いてしまった。

 

 仮にも相手は暗殺者。迂闊に近付いて大丈夫なのか?

 

 これだけ周りを動き回っても起き上がる気配はない。

 つまりさっきの叫び声でも起きなかったことから彼女の意識はないと思っていいだろう。多分。

 そこでもしも捕獲のために布団を被せようとした俺を彼女が無意識に迎撃しようとしたら?

 寝込みを襲ったら相手の肉体が無意識に動き出して返り討ちにされたなんてよくある話だ。

 勿論フィクションの中での話だが、英霊である彼女にそれがある可能性は否定できない。

 流石にそんな悲しすぎる死に方はしたくないぞ! だけどこのままじゃ近付けない。

 なら無意識に動き出さないかどうかを試せばいい。さて、何を使って試すべきか?

 硬い物でも投げれば一発だろうが、動かなかった場合にゴツンと直撃ルートになってしまう。

 多分痛くない可能性が高いけど……流石に可哀想だから硬い物を投げる選択はなしだな。

 かといって枕を投げても無意識は攻撃と判断してくれるかな?

 正直脅威であると認識されなきゃ意味なさそう。でも他にいいのないよなぁ。

 使う物に妥協し、俺は枕を取りに部屋に入った。

 

 そこにはやっと俺の出番かと言わんばかりに存在感を放つ木の棒の姿が!

 

 そうだよお前がいたのを忘れてたよ、許してくれたまえ。

 俺は木の棒を手に持って静謐ちゃんの元へ戻る。

 これでツンツンして反応するかを試してやるぜ……!

 反撃されても多分大丈夫な距離まで離れてから木の棒を静謐ちゃんに向ける。

 まずは後頭部を棒の先端で軽く突いてみる。

 

 ツンツン。ツンツン。

 

 特に反応はない。相変わらずピクリとも動かない。髪の毛への接触は問題なし。

 次に剥き出しで寒そうな背中を軽く突いてみる。

 

 ツンツン。ツンツン。

 

 やはり反応はない。まるで人形のように動かない。肌への接触も特に問題なし。

 ……なんだか真面目に検証してるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

 そもそも眠っている英霊に倒されたなんて聞いたことがないし、無駄な努力じゃない?

 俺は腹いせと最後の確認の意味を込め、静謐ちゃんのお尻をツンツンしてみる。

 

 プニプニ。プニプニ。プニプニ。プニプニ。

 

 うわ、超柔らかそう。あれがパン生地ちゃんですか。目の保養や~。

 棒で尻肉を押したり離したりするのに合わせてプルプル揺れる太ももがたまらんです。

 第三者から見たら完全に悪戯小僧そのもの。まあ助けようとしてるんだし、多少はね?

 でもここまで無反応を貫かれると怖くなってくるんだけど。死んでないよね?(失礼)

 俺は死の危険とは別の恐怖を感じながら布団を手にし、今度こそ静謐ちゃんに近付く。

 木の棒? あれはもう用済みなので投げ捨てました。

 

 まず静謐ちゃんの横にシーツを敷きます。

 次に布団を手袋代わりにして静謐ちゃんを掴み、シーツの上に寝かせます。

 この際にせっかくだから仰向けの状態に変えておきます。

 寝かせ終えたらシーツで静謐ちゃんの身体を包み始めます。

 包むときに顔の部分は包まないように気を付けて。

 最後に布団で静謐ちゃんをシーツごと簀巻きにしましょう。

 これで静謐巻きの完成~! なお、食べたら死ぬもよう。

 俺は出来上がった静謐巻きを医務室へデリバリーするため、早速持ち上げようとする。

 

「おっっっっもぉい!」

 

 しかし予想以上の重量だった。持つことはできても運べそうにない。

 よく考えたら単純計算で十キロの米袋四個分以上はあるんじゃなかったっけ。

 そこに分厚い布団の重量も追加されて更に重くなっているという。そんな重いの持てるか!

 静謐ちゃんに負荷が掛からないように床に降ろす。この時点でもう腕が限界っす。

 さてさて、どうやって運ぼうか? ここまで来たらもう後戻りはできんしなぁ。

 ……さっき捨てた棒で静謐巻きを転がして運ぶか? いや駄目だろ。冷静になれ俺。

 そんなモップ掛けというかカーリングというか、そんな扱いで運ぶのは……待てよ?

 俺はしゃがんで床を指で擦る。結構ツルツルしている気がする。

 流石にワックス掛けの床には負けるだろうが……これだけ滑りやすそうなら充分!

 俺は雑巾掛けの姿勢で静謐巻きに手を付け──

 

「よーい、ドン!」

 

 一気に駆け出した! 予想通り静謐巻きは転がらずに押せば押すだけ滑ってく!

 これなら静謐ちゃんも気持ち悪くなったりしないだろ! 我ながら完璧よな!

 ただ布団でグルグル巻きにしているからか、少し暑そうだが……すまん、もう少し耐えて!

 後はこのまま医務室まで運ぶだけ! それだけで俺の任務は達成される!

 というか今日の俺ちょっと冴えすぎじゃね? まさに発想の天才じゃね?

 ……俺ってやっぱり頭良いぜ! はははは!

 そんな慢心をしながら走っている最中、肝心なことを思い出した。

 

「そういえば医務室ってどこや?」

 

 まあ適当に走ってれば辿り着けるでしょう。今日の俺は凄いからな!

 ぶっちゃけ今の状況を他の人達に見られたら死ねるけど、今更遭遇なんてしないだろ!

 今の俺はまさに無敵! どこまでも突っ走ってやるぅぅぁぁぁあああああ!!

 何故か凄いハイテンション状態になりながらも、俺は医務室を目指し続けた。

 

 そして途中の壁にあった案内マップで逆走してることを知って少し泣いた。

 

「ぜぇ……はぁ……しゃあ!」

 

 序盤に全力疾走で医務室から離れるというトラブルはあったものの、目的地が見えてきた。

 後はこのまま医務室の扉という名のゴールに到着するだけだ。

 ああ、やっとこれで山場を乗り越えられる……やっと。もう何も怖くない。

 ゴールを前にしたことで思わず休めてしまった足に力を込め、走り出そうとする。

 

 しかし俺は走り出せずに床に倒れた。

 

「あ、れ?」

 

 足に力が……いや、足どころか全身が動かない。もう体力に限界がきたのか?

 でも疲労だけでここまで動けなくなるはずが……いや、待て。

 まさか静謐ちゃんの毒にやられたのか?

 いや、そんなはずがない。もし肌に触れていたのならもっとやばい状態のはずだ!

 しかし現に俺の身体には異常が発生している。どうしてだ?

 静謐ちゃんの方を見る。多少息が荒くなっているが、顔以外の部分は布団から出てない。

 だから触れて毒にという展開では──

 そこまで考えて、俺は一つ静謐ちゃんのことで少し思い出した。

 

 そういえば吐息や体臭にも毒が含まれていなかったか……?

 

 それなら触れてないのに倒れた理由に納得がいく。

 実際俺の顔は布団にかなり近かった。吐息や体臭を吸い込む機会は充分あっただろう。

 そこまで考えが及んだ頃にはもう視界が悪くなり始めていた。景色が歪む。

 こんなことなら汗の匂いを堪能しておくべきだった。もっとお尻を突いておくべきだった。

 意識がだんだん遠のいていってる気がする。また童貞のまま死ぬのだろうか。

 折角の第二の人生も生かせなかった……転生させてくれた神様に申し訳ない……。

 もっと生きたい。生きていたい。死にたくないのに……。

 俺ってやっぱり頭悪いぜ……畜生……。




 さよなら主人公、君の活躍は忘れない(五分ぐらいは)

連載化記念として番外編をいつか書こうと思っているのですが、この中からと言われたらどれが読みたいですか?

  • 今回の一回目に目覚めた時の話
  • 立香と裕司が結婚式を挙げる話(夢オチ)
  • 貞操逆転したFate世界に裕司が行く話
  • カルデア全員の好感度が上限突破した話
  • 全部だ!

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