境界線のハイウインド   作:こねこねこ

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11.幻影の砂漠(2)

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(・・・リンク、ホントにいいの?もうそれひとつしか残ってないんでしょ?)

 

(うん、だって仕方ないだろ?放っておけないし)

 

 

 

―――――揺蕩うように朧気な意識の中で、いつかどこかで聞いたような声が耳に届いた。

 

 

 

(リンクってホントに優しいネ。まだこれから先怪我もするかもしれないのに・・・うぅん、わかった。もう何も言わないヨ)

 

(また途中で何か使えるもの無いか探すよ。・・・・・これでよし。ダーク、飲めるか?)

 

 

 

何かが口に突っ込まれ、流し込まれた"それ"がじわりと染み渡っていく。

少しずつ少しずつ、いつまでも侵入し続けるドロリとした液体に若干の気色悪さを覚えて思わず呻き声が漏れた。

 

「・・・ぅ、」

「!ダーク、気が付いた?」

 

重い瞼をどうにか持ち上げれば、そこにあったのはいつしか見慣れてしまった勇者の顔。

思わず殴りたくなったが、全身どこにも力が入らず生憎指先ひとつすら動く気配を見せなかった。

 

「良かった。効いたのかな、薬」

 

 

 

・・・何が一体どうなった。

 

砂漠を走っていた途中から記憶も覚束ない。

 

 

 

混迷に襲われる中で、ふいにダークは再び知らない"声"を聞いた。

耳元で囁くような、しかしどこか機械的にも思える"それ"の内容はほとんどが理解出来なかったがひとつだけ。

言葉の中で唯一意味を汲み取れた単語をひとつ、ダークは確かめるようにぽつりと呟いた。

 

「・・・・・みず」

「え?水?水が欲しいの?」

 

聞き付けたリンクは荷物の中から飲み水を入れていた革袋を引っ張り出してダークへ差し出す。

しかし身動きの出来ないダークは受け取れもせず、リンクに手ずから飲まされる羽目になった。

心中で悪態を吐くが、飲み干したその時にほんの僅かに力が戻ったことを感じダークは目を剥く。

 

「・・・・・」

「どう?少しは楽になった?」

「・・・足りねえ、もっと寄越せ」

 

これだ。

ろくに回らなかった呂律も戻り、どこか確信を持ったダークはさらに水を要求するもリンクの表情が曇る。

 

「あ・・・ごめん。今ので最後だったんだ」

「ちょっとリンク!ぜんぶあげちゃったの!?」

「・・・うん」

「ここ砂漠なんだヨ!?リンクまで倒れちゃう!どこかで調達しなきゃ・・・!!」

「わかってるよ。ここに来る途中、すぐそこにオアシスっぽいものが見えたんだ。ちょっと行ってみよう」

 

流石に見過ごせないと声を上げたナビィを宥め、リンクは荷物を置いて腰を上げた。

 

「ダークはここで待ってて。まだ辛いんだろ?」

「・・・・・ああ」

 

癪ではあったが動けないのは事実であった為にダークはひとつ頷き、リンクがナビィと連れ立って外へ向かうのを目で追う。

そこで初めて、今自分が寝かされているのがどこか遺跡のような石造りの屋内だということに気が付いた。

 

いつの間にか神殿に着いたのか。

 

記憶が途切れたのはまだ砂漠に居た中だった。恐らくは勇者が動けなくなった自分をここまで運び込んだんだろう。

 

不甲斐なさと借りを作ったらしい事実に苛立ちながらも、視界が徐々に眩み再び限界を感じたダークはそのまま目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.11》

 

 

 

 

 

 

 

すっかり陽が落ちて底冷えのする中、砂を踏み締めながら歩くリンクへナビィがぽつりと溢すように呟いた。

 

「・・・やっぱり、さっきの見間違いじゃなかったみたい」

「それ、来る途中で言ってたやつ?」

「うん。リンクとダークって同じ姿をしてたハズでしょ?でもあの時、ほんのちょっとだけだけどダークのほうが小さく見えたの」

 

それを聞いたリンクも考え込むように顎へ手を当て思い返す。

 

「小さく・・・言われてみれば・・・。そういえばさ、運んでたときには気付かなかったんだけどいつもダークが背負ってた剣とか盾とかいつの間にか無くなってたよな?どこ行ったんだろ」

「落としてきちゃったなら後で探してきたほうがいいかもネ」

「・・・そもそも、ダークが戦うときっていつも影で作った剣みたいなの使ってたじゃん?いつも背負ってたアレって何だったんだろ。盾だって実際に構えてるところ見たこと無いし」

「そういえばそうだネ。あんまり気にしてなかったけど、ダークってわかんないことばっかり」

「まあ、元気になったらまた聞いてみるか」

 

話ながら歩いているうちに、やがてリンクはしばらく前に目にした木をようやく見つけた。

しかし駆け寄ってよく見れば、そこは泉のように大きく窪んだ穴になってはいても硬く渇ききってしまっており一滴の水も見当たらない。

 

「そんな・・・枯れてる・・・?」

「待ってリンク、ここに水が無いならこんなに元気な木が生えたままなのはおかしいヨ。それに・・・」

 

がっくりと膝から崩れ落ちたリンクにナビィが声を掛け、穴の周囲を探るようにゆっくり翔びまわる。

 

「ココ、微かだけどアタシの仲間の気配がするの。もしかしたらここも妖精の泉だったのかもしれない」

「じゃあどうにかして渇く前に戻せたら・・・うーん・・・時の歌で時間を戻すとか・・・」

 

ナビィの言葉に希望を見たリンクが記憶を頼りに考え込み、やがてひとつ思い当たったように顔を上げた。

 

「あ、待てよ・・・水・・・・・雨・・・?」

 

空を見上げるも雲はなく、そもそも砂漠という環境に頻繁に雨が降るとも考えにくい。

しかしリンクは懐からオカリナを取り出し、試すように息を吹き込んだ。

 

奏でたのは、以前カカリコ村で覚えたきり使い所の全く解らなかった"嵐の歌"。

 

音が響くと同時に星空に暗雲が立ち込め、やがて激しい雷と共に大粒の雨が辺りに降り注いだ。

 

「やった!当たりだ!」

「見てリンク!泉が!」

 

ナビィの声に空から視線を戻せば、降り頻る雨粒だけではなく底からまるで湧いて出たように澄んだ水が大きな穴をみるみる満たす。

瞬く間に泉は甦り、やがてそれを喜ぶかのように沢山の妖精がどこからともなく姿を見せ光の粒子を振り撒きながら幻想的な風景を生み出していた。

 

「・・・やっぱりココ、妖精の泉だったんだ」

 

リンクが手を伸ばせば、それに誘われたかのように妖精が数匹近寄ってくる。

砂漠越えの疲れが癒されていくのを感じながら、リンクが頼めば妖精達はすっかり空っぽになっていた手持ちのビンの中にも入ってくれた。

 

「やったね!これで回復もしばらく大丈夫そう!」

「うん。後で一応ダークにも効くかどうか試して貰おうか」

 

やがて雨が上がり、残っていた妖精はどこかへと翔び去っていく。

それを見送りながら、リンクはしみじみと呟いた。

 

「・・・それにしても・・・この歌、初めて役に立ったなぁ・・・」

 

悪天候を呼ぶ歌なんて、教えて貰った当初に試して酷い目に遭ったきり何に使えるのやらサッパリだったのに。

 

幸いなことに泉の水はそのまま残り、やがてリンクは持参した革袋に水を詰め始めた。

 

 

 

 

 

ふいに何かの気配を感じ取り、ダークはそれすら動かすのも億劫になっている瞼をゆるりと開く。

視線だけを傍らへ向ければ、そこには全く見知らぬ人物が立っていた。

 

・・・・・誰だ。

 

そこで初めて、自分が声すら出せなくなっていることに気付き若干の焦りが生じる。

 

「初めまして。ボクはシーク、シーカー族の生き残りさ。」

 

眉根を寄せるダークへ名乗った青年は膝をつき、横たわったまま投げ出されていたダークの左手をとった。

 

「君のことは以前リンクから聞いていたけど、会うのはこれが初めてだね。・・・随分と弱ってしまっているようだけど」

 

知らねえよ。何だてめぇ触んな。

 

喋ることすら出来ずにひたすら視線だけで抗議するも、その鋭い眼光を意にも介さずシークはダークの手に目線を落としたまま何かを探るようにじっと見詰めている。

 

「・・・やはり、君だったのか」

 

何の話だ。

 

ぽつりと呟いたシークの言葉は要領を得ない。

 

「自覚が無いのがせめてもの救いだった。・・・外はリンクがうまくやったようだね。君の状態も今は一刻を争うようだし、ボク達も行こうか」

 

困惑するばかりのダークへ一方的に告げ、シークは手を降ろすと代わりにダークの身体を抱え上げる。

その軽い衝撃だけで視界が暗転し、ギリギリで保っていた意識を飛ばしたダークは抵抗も出来ずにただ身を任せるのみだった。

 

 

 

 

 

持ち込んだ袋へたっぷりと水を満たしたリンクは、ふいに背後から聞こえた足音に目を向けた。

 

「あれ、シーク?どうして・・・うわっ」

 

歩いてきたシークを見て驚いたように声を上げたが、それよりもその腕に抱えられているものを見てリンクの顔が若干引き攣る。

 

最後に見たときから更にひと回り縮んだように見えるダークが横抱きにされていた。

意識は無いようでその瞼は固く閉ざされており、さらによく見ると今度は帽子とブーツまでが無くなっている。

 

「こちらのほうが早そうだったからね。嫌がってはいたが少し失礼させて貰ったよ」

 

・・・アレ、ダークが起きてたらめちゃくちゃ怒りそうだな。

 

心配よりも先にそんなことを考えてしまったリンクは、しかし次の瞬間には目を丸くして仰天した。

 

シークが、抱いていたダークを無造作に泉の中へと放り落としたのだ。

 

「ちょ、シーク!!?」

 

一瞬前までのどこか紳士的にも見える振る舞いから転じた雑すぎる扱いにリンクが慌てるも、「見ていてごらん」というシークの言葉に顔を泉へと向ける。

 

泉の中心へとダークが沈んでいったその直後、物凄い勢いで満たされた水が引き始めた。

 

みるみるうちに再び泉は枯れ果て、覗き込んだリンクの視線の先には大きく窪んだ穴の中心でひとつ黒い姿が倒れているのみ。

 

「だ・・・ダーク・・・?」

 

リンクが恐る恐る名前を呼んでみると、ゆっくりと手を付き身を起こす。

 

「彼は、水の神殿で創られた水の魔物なんだろう?このような乾ききった環境に長く居れば、力を失ってしまうのも仕方ないだろうね」

「えっ、そういうことだったの!?」

「・・・思ったより単純な理由だったのネ」

 

シークの言葉にリンクとナビィがそれぞれの反応で声を上げ、やがて立ち上がったダークは釈然としない顔をしながら岸へと歩いて戻ってきた。

 

「大丈夫か?」

 

リンクが声を掛けると、ダークは片手を翳しそこに見慣れたいつもの黒剣を生み出す。

ギョッと目を剥いたリンクだが、ダークはそのまま何度か確かめるように腕を振った後何も無かったかのようにそれを背中の鞘へ納めた。

見れば盾や帽子など、無くしていた装備の一部もいつの間にか完全に戻っている。

 

「・・・むしろ昨日までより調子が良い」

「あれだけの量の水を取り込んだんだ。油断は禁物だが、暫くの間は大丈夫だろうね」

 

ダークの言葉に付け足すようなシークの台詞に、リンクが安心したように息を吐いた。

 

「シーク、ありがとう。助かったよ」

「ボクは何もしていないさ。この過酷な環境でこれだけの水分を確保出来たのは君の力だろう?・・・ダーク、もしリンクが一緒で無ければ君は間違いなくあのまま朽ち果てていただろうね。彼に感謝するといい」

 

ダークは苦虫を噛み潰したような顔を何も言わずにただ背けるのみ。

 

「・・・聞いたところによると、君はリンクに対して随分と当たりが強いようだ。恩を返せとまでは言わないが、これを期にもう少しばかり対応を考える位は良いんじゃないかい?」

 

ちらりと視線を移せば、リンクは困ったようにただ苦笑いを溢していた。

 

「いいよ、別に気にしなくても。元気になったんだからそれで良かった、でいいじゃん?」

 

向けられた真っ直ぐな眼にダークは居心地悪そうに顔を歪めてリンクの足下へと潜り込む。

特に礼なども期待はしていないリンクは息を吐くが、ふと思い立ったように声を掛けた。

 

「・・・あ、でも神殿攻略は手伝ってくれたら嬉しいな!」

 

「・・・・・・・考えといてやるよ」

 

 

 

ダメ元での提案ではあったが、思いがけず返ってきた答えにリンクは顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 

 

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