13
あれから数時間。
リンクは女神像周辺をくまなく調べてみたものの、大妖精の泉を偶然発見したこと以外にはさして目立った収穫は得られなかった。
「・・・えーと、それでダークはさっきから何をしてんの?」
洞穴から出て戻ってみれば完全に暇を持て余していたのか、外で待っていた筈のダークが砂の中から無限に湧いてくる緑色のモンスターをリズミカルに蹴飛ばして遊んでいる。
大妖精に会った精神的な疲労から気を取り直してリンクが尋ねれば、ダークは邪魔になったモンスターを回転斬りで一掃した後に巨大な像の中腹あたりを差した。
「いじめよくない」
「うっせぇ。・・・アレ見てみろ」
「んー・・・・・あ、あれ宝箱?よく見つけたな」
像はこの地方で信仰されていた女神が座る姿を模したものであるらしい。
その膝上で天へと向けた両掌。
よく目を凝らすと、確かに箱のようなものが置いてあるのが見てとれた。
「でも高すぎて登るのは無理そうだヨ?」
「だよなあ・・・」
「フックは」
「ちょっと待って。・・・あー、やっぱ駄目」
像の足元へ戻りギリギリの位置から発射したロングフックの鏃でも届かず、空振りで戻ってきたのを見てリンクは首を振る。
するとダークは手の中に黒い弓を生み出し、こちらもまた真っ黒な矢をつがえ上に向かって引き絞った。
「え?何すんの?」
「・・・・・昨日の話の続きになるが、コイツは俺の一部だ」
目を丸くするリンクに、一瞬面倒臭そうな顔をしたもののダークがぽつりと語り出す。
そして放たれた矢は、ゲルド仕込みの腕で寸分の狂いも無く宝箱の端へ突き刺さった。
「すげー」
「そしてあの矢もだ。俺の手から完全に離れればそのうち消えちまうが、あれは細く糸のようにしてまだ繋いであるから何かと使える。飛距離に限界は出るけどな」
「撃ったあとでフックショットみたいに回収できるってことネ?」
「それもアリだが、逆だな」
「逆?」
「・・・集約する先を向こう側にすれば、」
聞き返すリンクの目の前で、ダークが何かを引き寄せるような仕種をした直後。
「こうなる」
瞬きする間に、像の掌の上には先程矢が刺さった宝箱を足蹴にするダークの姿があった。
「・・・ずるい!!」
一瞬呆気にとられたリンクが叫び、ナビィは感嘆の声を上げる。
「すごーい!色々応用が利くのネ。・・・要はフックショットと同じコトでしょ。リンクだってやってるじゃない。」
「で、でも・・・なんか・・・」
諭されるものの、ダークの補助技能と利便性がどんどん向上しているのを目の当たりにしてなんだか色々と置いていかれている気がしたリンクは頭を抱えた。
・・・もし次に戦うことがあったとしたら勝てる気がほとんどしない。
そもそもダークはその為に身に付けているわけだが、不安に駆られたリンクはそんな機会が訪れないように願うしかないなと思いつつ自分も剣の練習は怠らないようにしようと決意を新たにしたのだった。
《境界線のハイウインド.13》
そうこうしているうちにガスガスと物音が響き、何事だろうと再び顔を上げたリンクの視界に自分の方へ向かって勢いよく落ちてくる物体が映る。
「うっわ!!」
リンクのすぐ傍らへ落下したそれは、ダークが蹴り落としたらしき宝箱だった。
「もー!!あぶないだろ!!」
文句を言いつつ衝撃でひしゃげてしまったそれを開けると、中から出てきたのは鏡のように表面が磨き抜かれた盾。
「・・・よかった。中身は無事みたいだ」
「上にもうひとつあるみたいだヨ、宝箱」
「ダークー!!壊れちゃうかもしれないからそっちで開けて持ってきてくれよー!」
あちこち問題がないかどうか矯めつ眇めつ確認したリンクは、まだ上に残ったままのダークに向かって声を張り上げた。
命令すんなと文句が返ってきたものの、反対側の掌に飛び移りちゃんとその場で箱を蹴り開けたのを見てリンクは胸を撫で下ろす。
やがて飛び降りてきたダークがリンクに投げ渡したのは銀色の装飾のついたグローブだった。
「ほらよ」
「ありがとう!・・・なんだこれ?手袋?」
「銀のグローブね。力が強くなる装備アイテムみたい」
「・・・ゴロンの腕輪と何が違うんだろう」
「大人専用とかじゃない?サイズを見ても子供の手じゃつかえそうにないヨ」
「ふーん?」
「そっちの盾は光を反射することが出来るみたいネ」
「へぇ・・・面白そうだけど、ダーク使う?」
「いらねえよ」
「じゃあとりあえず両方オレが持っとこうかな。・・・何に使うんだろ?」
箱の大きさからして、重要アイテムのような雰囲気はしているが。
頭を捻るリンクに、ダークがぽつりと呟いた。
「・・・銀の力ってそいつじゃねえのか?」
「え?でもあれは過去にあるんだろ?」
「シークもそんなこと言ってたもんネ。神殿を再生させるって・・・これを使って7年前で何かしてくるんじゃない?」
そうかもしれないと盛り上がるリンクとナビィに、ダークは途中でさらりと聞こえた単語が気に掛かかり訝しげに眉根を寄せる。
「・・・7年前?」
「あ、言ってなかったっけ?オレ、この時代と7年前の時代を行き来できるんだよ。・・・あんまり向こうには戻りたくないんだけど」
説明しながらリンクはあまり気が進まないといった様相で困ったように笑った。
「元々はあっちにいたのにネ。・・・もうこの辺りには何も無さそうだし、さっそく行ってみる?」
「そうだな。・・・ダークにもついてきて貰わなくちゃいけないと思うんだけど、構わない?」
「嫌だっつったらどうするよ」
「うーん・・・嫌でも来て!」
「・・・結局そうなるんじゃねえか」
その辺りに関しては既に諦めているのか、ダークは溜め息混じりに睨み付けた後で素直にリンクの足元へ潜り込む。
何も言い返せないリンクは再び苦笑を溢して取り出したオカリナを吹き鳴らした。
時の神殿。
聖地への繋がる唯一の道と伝えられるその地は依然として静謐な空気に満たされている。
やがて光の帯と共に台座の上へ降り立ったリンクは、短く息をつくと足元の影に向かって声を掛けた。
「・・・ダーク、ちゃんといる?」
「お前が連れてきたんだろうが」
「あ、よかった。ここってなんか神聖な場所みたいだからダークだけ弾かれちゃったらどうしようかと思った」
先に言えと怒鳴りながら飛び出しざまに一発殴られ、顔を擦るリンクへナビィは思い返すように明滅しながら言う。
「トライフォースをとられちゃった時にガノンドロフもここに入ってるはずだし、そのあたりは緩いのかもネ。不用心だとは思うけど今回に関しては良かったじゃない」
「いてて・・・それもそうか。入れなきゃ他の手段探さなきゃいけない所だったしな」
ダークを宥めてから奥へ向かうと、石造りの開いた扉の先には高窓から陽光が射し込む大きな部屋がひとつ。
中央の台座以外には何もない、どこか殺風景なその場所でリンクは背にした鞘から聖剣を抜いた。
「じゃあ行くよ?」
オレの肩掴まっとく?とリンクが振り返るも、嫌だったのかダークは足元へ再び潜って影と化してしまう。
「・・・この状態でも大丈夫なのかな」
「イイんじゃない?アタシだってリンクの横で飛んでるだけだけどちゃんとついていけるみたいだし」
「そっか。・・・まあ何かあったらその時はその時だ!」
「オイ待て何かって何だ!」
逆手に持った両腕を振りかぶり、せーの!という掛け声と共にリンクは勢いよく剣を台座へ突き刺した。
[つづくよ]