14
辺りに満ちた蒼い光が消えた時、台座の上にはひとりの少年の姿があった。
剣の柄から手を離し、軽く飛び降りるようにして着地したリンクは自らの手足の短さに思わず嘆息する。
大人の姿なら、丈が届くどころか少し腰を曲げるくらいの余裕すらあったのに。
すっかり向こうの姿に慣れてしまっていたせいで、時折こちらの時代に戻らなければならなくなるときには決まって憂鬱な気分に陥ってしまっていた。
「ちゃんと戻れたみたいネ」
「うん。・・・ぁ」
自分の声の高さにすら違和感をおぼえ、リンクは思わず顔を顰めてしまう。
「やっぱりやだなぁ・・・」
「こればっかりは仕方ないヨ。・・・ところでダークは?」
「あ!・・・ダーク?いる?」
足元へ目線を移せば、そこには変わらず床に張り付いたままの影があった。
・・・しかし少し待ってみても何の応答も無く、リンクは首を傾げながら覗き込んでみる。
「どうしたの?・・・いるなら返事してくれよー、おーい」
それでも応えは無く、リンクがどこか不安に駆られ始めたとき不意にポツリと声が聞こえた。
「・・・出られねぇ」
「え?」
「さっきから試してるがそっち側に出られねぇんだよ」
「なんで!?」
驚いたリンクが地面の影にぺたりと手をついた、その時。
急に辺りを強烈な黄金色の光が覆った。
「うわっ!?」
「キャー!」
ゴスッ!
「「いってぇぇぇ!!!」」
悲鳴、悲鳴、衝突音の後にまた悲鳴。
光はすぐに消え去るも、リンクは訳もわからず痛む額を押さえて床に転げ回った。
「いででででで」
「もー!何なのよ・・・アラ?」
目が眩みフラフラとよろけるように翔んでいたナビィが持ち直し、辺りに目を向け声を上げる。
「リンク、ダーク出てこれたみたいだヨ」
「え!?」
思わずリンクも起き上がって見れば、すぐそこにリンクと同じく頭を押さえて悶えながら座り込むダークの姿があった。
「いってぇ・・・この石頭が」
「こっちの台詞だよ!!っていうか、何で!?どうして!?何があったんだよ!?」
恨めしそうに呟くダークへ叫び返す。
色々と聞きたいことが重なってまとまらないリンクだったが、まず真っ先に。
"大人の姿のまま"現れたダークを見て、思わず地団駄を踏んだ。
「ダークだけずるい!!」
「・・・さっきも思ったんだケド、もしかしてダークには7年前の姿自体が無いのかしら」
キーキー取り乱すリンクを尻目に、ナビィが冷静に予測を立てる。
ダークは軽く頭を振って立ち上がった。
「・・・出られなかったのもそのせいか」
「かもしれないネ。でも、どうして急に?」
「知るかよ」
聞いてみるとこちらの時代に着いてすぐ、ダークは見えない"壁"のようなものに遮られ閉じ込められていることに気付いたらしい。そしてムキになってひたすら下から押していたところ、突然箍が外れたように"壁"が無くなりほぼ全力のまま飛び出して頭をぶつけたとのことだった。
「・・・さっきの光、いつもの感じとは少し違ってた気がする」
なんとなくだけど、と幾分落ち着いたらしいリンクは左手を翳して仰ぎ見る。
気のせいだったかもしれないが、地面に手をついたあの一瞬何か見えた気がした。
「リンクが死んじゃったときの白い光とは別物なのかしら?」
「・・・わかんない」
リンクは首を振り、ダークへ視線を移す。
丁度そのときダークもこちらを向き、目が合った途端にいきなり噴き出して笑われた。
「・・・ちっせ」
「うるさいなー!!こっちが元々なの!!ダークのほうがおかしいんだってば!!」
近寄ってみれば今のリンクはダークの胸元あたりまでしか身長が届かない。
放っておけばまた喧嘩でも始めそうな二人を見てナビィは溜め息を吐き、憤慨するリンクの頭にポヨンと軽く体当たりをかました。
「はいはいもう文句言ってても仕方ないでしょ!背が高いならそのぶんダークに色々頑張って貰えばいいじゃない!ダークもいつまでも笑わないの!!」
さすがにダークの方へはぶつかりに行かなかったが一声叱り飛ばし、ぐぬぬと唸るリンクを落ち着かせる。
小さな勇者はぶーたれながらも取り出したオカリナを吹き鳴らし、響く音色と共に一行は光の帯となってその場から姿を消した。
《境界線のハイウインド.14》
巨大な女神像のもとへ戻ってきたリンクは、遺跡の入り口をくぐってすぐに見覚えのない人影を見つけた。
「・・・あれ、誰かいる」
近寄ってみればどうやらゲルド族の女性が一人、通路の穴を何やら調べているところらしい。
彼女はリンクの気配に気付いたのか、後ろで束ねた長い髪を揺らしながら振り返った。
「ん、誰だい?」
「・・・こ、こんにちは」
敵意が無いことを示すために片手を挙げて挨拶してみたリンクを見て女は瞠目し、その隣に居たダークとナビィにも視線を向けたあとでリンクに向かって口を開く。
「・・・驚いたね。こんな辺鄙な場所にアンタみたいなボーヤ達が一体何の用だい?」
「え?えっと・・・」
何の用、と言われてしまうと返答に詰まる。
最終的な目的は賢者の解放とナボールの安否確認だがそれは7年後の話。ここでの用件というと神殿の中に進むための手段の確保だが、一見したところこの広間の様子は7年後で見たものと全く変わりないようだった。
強いて言うなら今まさに目の前にある穴くらいしか新たな行動範囲は無さそうだが、それを正直に言っていいものだろうか。リンクは何と答えるべきかわからず困ったように苦笑いを溢して頬を掻いた。
「・・・そこの穴の先に行こうと思って」
「何だって?・・・アンタまさか、ガノンドロフの一味じゃないだろね?」
「へ?・・・まさか!」
訝しげにジロリと睨む女にリンクは目を丸くして手と首をぶんぶん振る。
よりにもよって魔王の仲間だと勘違いされるなんて。
「むしろガノンドロフはオレが倒さなきゃいけない奴なんだ!」
「へぇ、見かけによらず言うじゃないか!・・・冗談だよ、アンタみたいなボーヤがガノンドロフの仲間な訳ないだろ!そっちのニーサンは逆にヤル気無さそうだしねぇ」
女がカラリと表情を変えて笑うのを見て、リンクはホッと息を吐いた。
隣を見ると、ダークは心底どうでもいいといった顔でそっぽを向いている。
「・・・あぁそうだ、丁度いい!ボーヤ、ついでで良いからちょいとアタイの頼みを聞いちゃくれないかい?」
「なに?」
「このちっこい穴をくぐった先にあるっていう、あるお宝をとってきてほしいのさ。アタイじゃ狭すぎて無理だからね」
そう言って女が差したのは、先程まで調べていたらしき壁にあいた穴。
7年後のほうでも見たそれはこの広間から通じる道のうちのひとつのようで、その大きさは今のリンクが屈んでようやく通れる程度のものだった。
どうせ今から入らなければいけない場所だ。ついでに済ませられる用なら断る理由もない、と特に悩みもせずにリンクは頷いた。
「うん、いいよ」
「おや、二つ返事とは気前がいいね!アタイはナボールってんだ。アンタ達は?」
・・・彼女が、例のゲルド族。
ナボールという名前に思わず反応するリンクだが、砦で頼まれたのも7年後での話だ。
口に出すことはなく、リンクはひとまず名乗るついでに隣のナビィとダークを指す。
「リンク!それでこっちがナビィと、ダークだよ」
「へぇ、ハイリア人ってのはヘンな名前が多いんだねぇ・・・アンタ達そっくりな顔してるけど、兄弟か何かかい?」
「うーん・・・違うけど、まあそんな感じ」
笑顔で答えるリンクへダークが微妙な顔を向けるも、文句を言われる前にナビィが話題を切り替えた。
「それで、とってきてほしいものって一体なぁに?」
「ああ、銀のグローブっていうやつでね。重い物でも押したり引いたりできる便利な道具だよ」
「「・・・え??」」
ナボールの言葉に、思わずリンクとナビィの声が重なる。
「ねぇ、それってもしかしてコレのこと?」
リンクは荷物の中から銀の装飾のついたグローブを引っ張り出して差し出した。
受け取ったナボールはグローブを様々な角度から一通り眺めると片手に嵌め込み、何かを確かめるようにして驚きの声を上げる。
「・・・あぁ間違いない、コイツだよ!アンタ、どうしてコレを!?」
「それね、この大きな像のてのひらの上に置いてある宝箱に入ってたんだ」
「外から丸見えだったヨ」
「何だって?」
出口を指差すリンクとナビィの言葉にナボールは更に目を丸くするも、穴を振り返り顎に手を当てて呟いた。
「ということは、この穴は巡り巡ってそこに繋がってるってワケかい。・・・にしても、かなりの高さがあっただろう?」
「うん。オレは無理だったけど、ダークが登って取ってきてくれたんだ!」
リンクは自分のことのように胸を張って隣のダークを見上げた。
話に入らず暇だろうに、今日は珍しく地面に潜る様子の無い彼は心なしか眠そうな顔をしている気がする。
「へぇ!やるじゃないか。このグローブ、恐らくニーサンなら装備出来るだろうけど・・・アタイが使っても構わないかい?」
「俺は興味ねぇよ。勝手にしろ」
欠伸を溢しつつダークがそう返すと、ナボールはグローブを両腕に嵌め込んで拳を軽く打ち付けた。
ぱん、と小気味良い音が軽く響いて赤い装飾が光を反射し煌めく。
「よっしゃ、恩にきるよ!コイツさえあれば神殿の奥まで潜り込める。」
「向かい側のブロックをこれでどかすってことかな?」
「あぁその通り。・・・この魂の神殿はガノンドロフの手下どもがアジトに使ってるんだ。そこにあるお宝をごっそりいただいてヤツらの鼻をあかしてやろうって寸法サ!ボーヤ達はどうする?」
ナボールが振り返ると、リンクとナビィは顔を見合わせて頷いた。
「一緒に行ってもいいかしら?あの穴は上に繋がってるって判ったし、アタシ達も奥のほうに用事があるの」
「仕掛けも手分けしたほうが早いよきっと!オレもダークも戦えるから魔物は任せて!」
「俺を勝手に頭数に入れんな」
「そりゃ頼もしいねぇ!よし決まりだ、アタイとボーヤ達でガノンドロフ一味にひとアワ吹かせてやろうじゃないか!」
「「おー!」」
ナボールの鼓舞にリンクとナビィがノリノリで声を合わせ、ダークはうんざりした顔で溜め息を吐く。
それを見てカラカラと笑うナボールは、ふと思い付いたように片眼を瞑り愉しげに告げた。
「もし、無事にお宝を手に入れられたら・・・イイことしてやるよ!」
[つづくよ]