境界線のハイウインド   作:こねこねこ

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17.ひとやすみ

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夕陽に照らされた黄金色の水面の上に、黒い人影がぽつりと浮かんでいた。

 

「夕暮れになるとさ、なんとなく寂しい気持ちになるよね」

 

遠くに見えるそれを目で追いながらそよぐ風に髪を揺らし、リンクはぽつりと呟く。

 

「・・・こんな話があるヨ」

 

黄昏時は、その時だけあの世とこの世が交わることが出来・・・この世に未練を持つ幽界の者達の思いが、見るものを寂寞の感情に誘うのだそうだ。

 

「だから寂しいような、切ないような、不思議な気分になるのかもネ?」

「へぇ・・・」

「アラ、怖がりさんのリンクにしては珍しく平気なの?」

 

"そういう話"なのにとナビィが少しからかうように言うも、リンクは拗ねるでもなく怒るそぶりも見せずにずっとどこか遠くを見つめていた。

 

「うん・・・なんだろう、綺麗だからかな」

 

リンクにつられてナビィも再び辺りを見やると、夕陽の光に満ちた湖畔は空も地も水も何もかもが茜かかった黄金色に輝いてどこか神秘的な光景が広がっている。

 

昼と夜との境界。

確かにこれは、怖れるよりも思わず見とれてしまうだろう。

 

「・・・影ってさ」

 

ふとリンクが呟いた。

 

「影も、光と闇のちょうど境目にある存在・・・みたいなものだよね」

「そうかもネ」

 

光も闇もどちらが欠けてもそこには存在しないもの。

どちらも不確かでどこか朧気な、でも間違いなくそこに在るものなのに。

 

「なんか・・・不思議だな」

 

リンクの視線の先で、遠く湖の水面の上に立つダークがふと空を見上げた。

 

 

 

黄昏の中に浮かぶ影。

 

 

 

それは、とても不思議な光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.17》

 

 

 

 

 

 

 

「見つかった?」

 

やがて日が落ち、宵闇に包まれたハイリア湖畔の岸辺にて。

水の中から上がってきたダークを見て、夜営のために焚き火を起こしていたリンクが声を掛ける。

 

マスターソードを抜き7年後の世界に戻ってきたリンク達は、もうすぐ日暮れだった為と神殿の探索での疲れもあり砂漠へ戻るのは明日にしようと再びワープで湖畔を訪れていた。

 

「これか」

 

ダークがリンクへ投げ渡したのは、何やら汚れて小さく丸まった物体。

受け取ったリンクが広げてみると、布の塊だったそれは穴だらけで汚れきったくすんだ青色の服・・・だったもの。

 

「・・・あぁ・・・うん、これだね・・・うん、多分・・・。」

「・・・もうダメみたいだネ。」

 

乾いた笑いを漏らすリンクとナビィが小さく溜め息を吐く。

 

これは、元々はリンクが持っていたゾーラの服だ。

ダークと出会った頃に湖の中に置き忘れたまま無くしてすっかり忘れていたのを、水の補充へ寄ったついでに思い出してダークに捜してきて貰ったのだ。

ちなみにこの服をズタズタに引き裂いた本人であるためか、彼は謝らないものの面倒臭そうな顔をしながら一応は引き受けた。

見付からなくても文句言うなとぼやいてはいたが、ちゃんと探し当ててくれたらしい。

 

「まあ仕方ないよ。・・・この先もう使うことが無いといいんだけど」

「もし必要になったらその時にまたゾーラの里に行きましょ」

「うん。・・・それにしても、なんだか懐かしいな」

 

ボロきれと化した服を見ながら、リンクが沁々と呟く。

 

「ダークと会ってからまだそんなに日が経ってない筈なのに・・・なんかずっと前のことみたいだ」

「色々あったもんネ」

「そだね。旅もすごく賑やかになったし」

「いつもお前がギャーギャー騒いでるだけじゃねぇか」

「それ半分以上はダークのせいだよ?いや、ダークのおかげ?」

 

呆れたようなダークへ笑いながらリンクはゾーラの服を仕舞い込んだ。

 

「色々大変だけど、オレは楽しいよ。ダークと旅ができて」

「・・・は、物好きだな」

 

言葉の通り楽しそうにニコニコと笑みを浮かべるリンクを見て、ダークは何ともいえない顔をそっぽへ向けてしまう。

 

そのまま寝る体勢に入ろうとするダークへ、ふと思い出したようにナビィが声を掛けた。

 

「ちょっと待って。少し明日のことを話しておきましょ?・・・リンク、盾」

「あ、そうそう」

 

リンクがごそごそと荷物を漁り、再び目を開いたダークへ差し出したのはミラーシールド。

 

「これ、いま手元に二枚あるからやっぱり片方ダークが持っておきなよ」

「アナタあの時、この盾を模して防御したけど失敗したでしょ」

 

・・・よく見ている。

 

ナビィの指摘にダークは少し苦い顔をして鏡の盾を手に取った。

ツインローバというらしいあの魔女と一度戦った時、魔法の炎を受けてダークは咄嗟に普段は手にしない盾を守りの為に使った。

その時にまわせるだけありったけの体積を詰め込み密度を上げただけでなく、見様見真似ではあったがこの鏡の盾を模倣していたのだ。

しかし剣を跳ね返すほどの硬度は得られても魔法を反射することは出来ず、あっさりと溶かされて破られてしまった。

"紛い物"と切り捨てた魔女の言葉通り、やはり本物でない限りは無理があったようだ。

 

「オレが両方持ってても仕方ないしさ、これなら二の轍だって踏まないだろ。使い方も覚えたほうがいいだろうから、今のうちに渡しとこうと思って」

「明日もまだ探索はしなきゃいけないしネ。その間にある程度使って慣れておくといいと思うヨ」

 

使えるものは使った方がいい。

その点は特に異議もなく、ダークは素直にミラーシールドを背中の盾と入れ換えた。

 

「・・・礼は言わねぇぞ」

「別に期待してないよそんなの。ていうかそもそもダークがいたから手に入ったようなものだしな、それ」

「そうね、気にせず使えばいいんじゃない?・・・それじゃ、明日はその盾を使って今度こそ神殿の攻略だヨ!」

「・・・ボスはあのババァ二人か」

「多分そうじゃないかしら。・・・ねぇ、ダーク?」

 

思い出しギリリと歯を鳴らすダークへ、ナビィがぽつりと問い掛ける。

 

「アタシいまだにアナタの怒りのツボがどこにあるのかイマイチ把握してないんだけど・・・あのとき姿を見ただけでキレたってことは、アナタあの二人のことを前から知っていたんだよネ?」

「・・・・・」

 

そこはリンクも少し気にかかっていた点だった。

ダークは最初の頃に比べて若干落ち着いてきている気もするものの、日頃のリンクに対する所業やその性質と性格からして以前から狂暴な印象が強い。しかし、誰彼構わず攻撃を仕掛けるというわけでもない。

それが、連れ去られたナボールには特に目も向けずに最初からあの魔女達に対して殺意を剥き出しにしていた。

 

思うに、何か個人的な恨みがあったのでは。

 

「・・・言いたくないなら、別にいいけどさ?」

 

ダークは暫し口を閉ざして迷っていた。

わざわざ言うことではない気がしたが、かと言って特に隠し立てすることでもない。

それに妖精はこの面子の中では一番情報整理と分析に長けるのがこれまで見てきて解っている。

 

・・・何か気付くこともあるかも知れないか。

 

そう判断したダークはやがてぽつりぽつりと言葉を溢し始めた。

 

 

 

反応したのは奴等の"姿"ではなく、聞き覚えのありすぎた"声"に対してだったこと。

それはずっと以前、こうして旅に同行するようになったあの時よりもさらに前。

水の神殿のあの幻の部屋で、この身体で目覚めてからずっと、頭の中にあの老婆の声が響き渡っていたのだという。

 

曰く、"時の勇者を殺せ"と。

 

四六時中止まないその声に苛まれ続け、何もわからないままたった独りで待ち続けた。

気がおかしくなるかと思う程に長い時間が過ぎた頃、何も知らずにノコノコやってきた勇者と出会い・・・声に命じられるまま訳も分からず殺し合い、そして敗れた。

 

次に目覚めてみればそこは、全てを終えて神殿の外に出た勇者の足元で。

頭の中の声は嘘のようにすっかり消え去っていたが、勇者の顔を見た途端に最後のあの瞬間を思い出し・・・苛つきと共に衝動的に襲い掛かった。

 

あとは、リンクの知る通り。

 

 

 

「・・・そう、だったんだ」

 

全て聞き終えたリンクは、どこか悲しげに目を伏せ呟いた。

 

「ひとりぼっちでずっと・・・アナタも辛かったのね」

「ダークもやっぱり、利用されてただけってことなのかな」

「あれからは全く干渉してくることも無かったからな・・・所詮は捨て駒だったんだろ」

「・・・そんな、悲しいこと言うなよ」

 

リンクは顔を上げてダークを見るも、そこには何の感情も浮かんではいない。

 

「解放された今は特に何も思わねえよ。・・・ただ、許す理由も無ぇけどな」

「・・・なるほどネ。だいたい分かったヨ、だからあの魔女を殺そうとしたのね」

 

ダークの話を反芻して思案しつつ、ナビィはふわふわと漂いながら言葉を続けた。

 

「うーん・・・元々はガノンドロフの命令で、リンクを倒すためにあの二人の魔女によってダークが造り出された。ってことでいいのかしら?」

「そういう事だろうな」

「今はアナタ自身の意思はちゃんと持ってるみたいだし、聞いた感じだと造られたその時から洗脳されていたと思うほうが自然ね」

「洗脳が解けたのはどうしてだろう?・・・あと、ダークもあの時に一度は死んだ、・・・ってことなんだよな?」

 

リンクは首を傾げながら当時の事を思い返す。

 

「ねぇリンク、よく思い出してみたら・・・ダークを倒したあと、部屋の様子が変わったじゃない?」

「・・・あ、そう言えばあの時・・・光ってた?」

 

ダークの意識が無かった間の話ではあるが、思い返してみればいつもリンクが死んだ際に蘇らせる例の白い光があの時にも見られたらしい。

 

「それでダークが生き返ったっていうことなんだったら、リンクとダークはお互いに殺すことは出来ないっていうことだよネ」

「・・・やっぱりまだ何かあるのかな、オレ達。シークが何か知ってそうだったんだけど・・・」

 

黙って話を聞いているダークはシークの名前を聞いて微妙な顔をした。

どうも砂漠の一件以来苦手意識を持ってしまっているらしい。

 

「今はまだ何も教えてくれそうになかったよネ・・・。ねぇリンク、洗脳が解けた理由のほうはもしかしてマスターソードじゃない?」

「・・・あ、そういえば。邪悪な魔力を祓うって言ってたっけ、コレ」

 

言われてリンクは鞘に収まったままの聖剣を手にとってみる。

焚き火の光を照り返すそれは、不思議な力を湛えていた。

 

「それを使えば、ナボールさんが洗脳されてるとしても元に戻せるかもしれないヨ!」

「そうか・・・!どうにか倒さずに正気を取り戻せたら連れ戻せるかもしれない!」

 

ダークのように殺すまではしなくとも、可能性はゼロではないだろう。

希望を見出だし、リンクは表情を明るくした。

 

「ありがと、ダークが色々話してくれたから糸口も見えてきたよ!」

「・・・ふん」

 

笑顔を向けられたダークは少し居心地悪そうにそっぽを向いてしまう。

照れ隠しだろうそれを微笑ましく見ていたが、ナビィがふと思いあたったようにダークへ問い掛けた。

 

「・・・でもダーク?もしあの魔女がアナタを造ったんだとしたら・・・7年前にあの二人を殺してしまったらマズかったんじゃないの・・・?」

 

最悪の場合、存在そのものが消えてしまう可能性もあったのでは。

言われて初めて気が付いたのか、ダークは僅かに目を丸くする。

 

「・・・その発想はなかった」

「・・・・・アナタって・・・意外と考えてると思いきや全然そんなことないわよね・・・」

 

 

 

誰ともなく溢した溜め息が夜の空気に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 

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