境界線のハイウインド   作:こねこねこ

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3.出会いから旅立ちまで(3)

3

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬何が起こったのか解らなかった。

 

後ろから何かに引っ張られるような妙な感覚を覚え、また勇者の馬鹿が何か始めたのかと思いながら放置していたが。

徐々に強まる"それ"に苛立ちが募り、振り向こうとしたその瞬間。

強烈な引力に引かれたかのように体が勝手に後方へ仰け反った。

 

「うおわ!!?」

 

我ながら情けない声を上げ、勢い剰ってそのまま派手に半回転。受身をとる隙もない。

 

反転した視界の中、奴と妖精が遠目にこっちを凝視しているのが目に入る。

 

・・・その瞬間、俺の中でブチリと何かが切れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.3》

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

「だからっ!オレっ!何もしてない!んだっ!てっ!」

「うるせえ殺す」

「ちょ待っ!あっ!わ!うわああああ!!」

 

雨のような剣戟を盾で防ぎながら後退していたリンクは、終には足を踏み外し湖面へと落ちていった。

 

ざぼん、と水音と飛沫を上げ消えた緑色の姿に影が悪態を吐く。

 

「ッち・・・、・・・・・ぅお!?」

 

追うか否か瞬巡するうちに、再び強く身体を何かに引かれ影もその身を水中へと躍らせた。

突然の事に声は上げたものの、元より水魔である影は動じることなくすぐさま湖底を走る緑色を視界に入れる。

 

「(・・・あンの野郎ぉぉぉ・・・!!!)」

 

一瞬で頭に血が昇った。

 

彼が人間であったなら、今まさにその表現が相応しかっただろう。

 

血の通わぬその身を水に半分同化させ、殺気を隠しもせず影は勇者へと一瞬にして距離を詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、その勇者はというと。

 

水に落ちた際浮上しては逃げられないとヘビーブーツを履き、咄嗟に着替えられなかったであろうゾーラの服で口元を覆いながらひたすら水底を走っていた。

 

「(やばいやばいやばいアイツめちゃくちゃ怒ってた・・・!何でこんな目に遭ってんのオレ!!)」

 

わけわかんない、と涙目になりながら必死に走っていると。

何もない筈の場所で再び急にリンクの体はつんのめった。

 

「うわ!」

 

大きくよろけた体を起こそうとしたその矢先。

頭上を何か黒いものが猛スピードで前方へ過ぎていった。

 

「(へ・・・?)」

 

嫌な予感に恐る恐る視線を上げれば。

 

そこには、鬼のような顔で睨む、黒い、影が。

 

「・・・ヒィ!!」

「よぉ・・・ヒトの事散々引っ張り回してどこ行く気だぁ・・・?」

 

ニンマリと口元が弧を描く。

しかしその声色と紅く輝く眼はまったく笑ってはいない。

 

お前人じゃないじゃん、とか。

別に引っ張ってたわけじゃない、とか。

リンクの頭に次々と浮かんだ言葉は、どれも喉の奥で突っ掛かってしまい口に出すことは無かった。

 

・・・恐らく先程、もう少し身体を起こすのが早かったならその首は胴体から離れていただろう。

 

「(どどどどどうしよう・・・!)」

 

硬直する手で盾を構える。

利き手は口元に当てたゾーラの服の為に塞がっていた。

離せば息が続かないし、相手はどうか知らないが水中では剣も使えないのだ。

 

狼狽するばかりのリンクに影が剣を振りかぶった、その時。

 

「ねえ、待って!」

 

ずっと帽子の中に隠れていた青い妖精が二人の間へ割り込んだ。

 

「ナビィ!?」

「何か勘違いしてるよ!リンクほんとに何もしてないんだヨ!」

「・・・あァ?」

「リンクが引っ張ってる訳じゃないの!アナタと戦う気もないんだよ?どうしてこんなことになってるかアタシ達にも分からないの!」

「そ、そうなんだよ!俺のせいじゃないんだって!」

 

必死に訴えかける一人と一匹に、影は。

 

「知るか」

「がふッ」

「キャアアアリンクー!!」

 

考える素振りすら見せず即座に剣を振り下ろした。

切り裂かれたリンクの身体がよろめき、膝を着くその瞬間。

 

強烈な光が、影の眼を灼いた。

 

「・・・ッ!!?」

「キャー!!」

 

妖精の悲鳴と白く染まる視界。

堪えきれず腕で顔を覆う影もろとも、今なお強まる光はその場に居た者全てを呑み込んでいった。

 

 

 

 

 

「・・・ぇ、ねえ、しっかりして!リンク!ねえってば!」

 

キンと頭に響くナビィの声。

 

「・・・ぅ・・・あ・・・?」

 

やや顔を顰めて、リンクはゆっくりと眼を開けた。

水の中にいたはずなのに、視界に入ったのは一面の青空だ。

 

「リンクー!」

「ナビィ・・・?」

 

胸元に飛び込んできた妖精を抱き止め、はぁ・・・と溜め息を吐き呟いた。

 

「オレ・・・今度こそ死んだかと思った・・・」

「それはこっちの台詞だ」

「ぎゃあああああ!!?」

 

いきなり聞こえた声に思わず悲鳴を上げ後ずさる。

見ればすぐ傍らに先程まで剣を向けていた影の姿。

地面に胡座をかく彼はいきなり上げたリンクの大声にあからさまに眉を顰めて睨め付けた。

 

「うるせぇ」

「あ、ごめっ、え?てゆーか、え?なんで?」

「だから俺の台詞だっつってんだろボケ。なんで生きてんだ」

「えっ・・・いや、わけわかんないんだけど・・・」

 

困惑するリンクに、影は無言でスッと人差し指を向けた。

指された先は、リンクの胸元。

 

「?・・・え?あれっ?」

 

傷が、無かった。

体の傷は勿論のこと、服の穴まで塞がっている。

自分の体のあちこちを見回して全く問題がないことを確認した後、リンクは影に視線を戻してポツリと呟いた。

 

「・・・なんで?」

「だから俺が訊いてんだよ」

「いや、オレも何がなんだか・・・てっきりお前に殺されたと思ってて・・・」

「何回斬っても変な光で復活すんだよてめえふざけんな」

「えっ」

 

固まるリンクにナビィがそっと耳打ちする。

 

「リンク・・・さっきまでメッタ刺しにされてたんだよ・・・」

「えっ」

「刺そうが斬ろうが刻もうが同じだ。一体何しやがった」

「えっ」

 

自分の知らない所でとんでもない目に遭っていたらしい、リンクはしばらく顔を引き攣らせて固まっていた。

 

「何とか言え」

 

幾分の間を置き痺れを切らした影が苛立ちを露にすると、ようやくリンクは口を開く。

 

「えっ・・・あの・・・えーと、とりあえず・・・気は済んだ?」

 

ごすっ、と鈍い音を立てて黒い靴底がリンクの顔面にめり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえリンク、アタシ思ったんだけど」

「・・・なに?」

 

ふよふよとナビィが辺りを翔び回る。

リンクは鼻血を押さえる手をそのままにくぐもった声で返事をした。

 

「リンクの影なんだよね?」

 

ナビィの視線の先には、どこか不貞腐れたような顔でそっぽを向いた影が居る。

 

「うん、そうみたいだね」

「だからじゃない?」

「・・・何が?」

「引っ張り合っちゃうのって」

「へ?」

 

ナビィの言葉が気になったのか、ちらりと影も視線を寄越した。

 

「だって、原因なんて今のところ他に思い付かないもん」

「・・・そうか・・・そうなのかな?どう思う?」

 

リンクは暫く考え込んだ後、影にそう訊いた。

 

「俺が知るか」

「うーん・・・」

「リンク、どうするの?」

「どうするって?」

「このままココに居るわけにはいかないんだよ?早く賢者探さなきゃ」

「そうだね。そろそろ出発しようか」

「でも、離れられないじゃない」

 

ナビィの困ったような声音に、リンクは何て事はないといった顔で言い放った。

 

「え?そんなの、みんな一緒に行けばいいじゃん。」

「「・・・はぁ?」」

 

ずっと黙って聞いていた影とナビィの声が綺麗に重なる。

その様子にリンクはキョトンとした顔で影に訊いた。

 

「え、お前何かココでする事あるのか?」

「そういう問題じゃないよ!!リンクのばか!!何考えてるの!?」

「馬鹿だろ。お前馬鹿だろ。なんでそうなるんだよ馬鹿だろお前」

「二人揃ってバカバカ言うなよ!バカって言った方がバカなんだぞ!!」

 

思わぬコンビの集中砲火に遭いリンクは思わず涙目で言い返した。

しかしナビィは尚も言いつのる。

 

「さっきまで殺されかけてたんだよ!?そんな相手と一緒に旅するの!?」

「でもオレ死んでないよ?」

「そうだけど!その理由もわかってないじゃない!危ないよ!」

「そうは言ってもさあ・・・実際どうしようもないじゃん。離れられないし、だからって戦っても勝てないし」

「それもそうだけど・・・!寝首掻かれたらどうするのさ・・・」

「それで死ぬならさっき死んでるよ、オレ」

「うぅー・・・」

 

ナビィの声は段々と弱まり、終いには何も言えなくなってしまった。

リンクの言う通り、現状では何も出来ることが思い付かなかったのだ。

 

「何とかなるよ、きっと。・・・な?」

 

ナビィを宥めて影に視線を移せば、解せぬという顔で眉間に皺を寄せたままじっとリンクを睨んでいた。

 

「・・・訳が解らん」

「それはオレもだけどさ。殺されないっぽい事だけはわかってるし、どうしても嫌だってんならそれこそ引きずって行くしかないんだけど」

「冗談じゃねえ」

「だろ?なら一緒に行けばいいんだよ」

「・・・・・」

 

これが先程まで殺されかけていた相手に言うセリフか。

二人はもはや呆れ返って言葉も出なかった。

・・・が。

 

影は暫し思案する。

どの道目的も何もなく無駄に生き延びた命だ。

神殿の中に居た時やけに煩かった頭の中は、勇者の傍らで目覚めた辺りから妙にスッキリしていた。

 

縛るものは何もない。

・・・この、目の前に居る阿呆以外は。

 

「・・・ちっ」

 

悪態を吐き、影はその姿を溶かしてリンクの足元へ潜り込んだ。

 

「お?なあコレ、同意したってことでいいんだよな?」

 

リンクの問いには答えず、一瞬の後には影は神殿に入る前とほぼ変わらない状態となった。

一見すると何の変哲もない。

 

リンクはそれをしげしげと眺めた後、地面に張り付いた自分の影をコンコンと叩いてみる。

 

「・・・もしもーし?」

 

するとふいに影から剣先がヌッと現れリンクの手をグサリと刺した。

 

「いってぇ!!!」

「叩いてんじゃねえよ」

「だからっていきなり刺すことないだろ!!ごめん!!」

 

相変わらず不機嫌な声が地面の影から聞こえてくる。

彼が確かにそこに存在することを確認したリンクは涙目で手を拭った。

それきり黙り込んでしまった影に、ふとリンクは思い出したように問い掛ける。

 

「あ、なあ、名前!何て呼んだらいいんだ?」

 

答えない影の代わりにナビィに顔を向けると、どうやら「ダークリンク」という名称らしい。

 

「ダークリンク・・・じゃあ、ダークな?いい?」

「・・・勝手にしろ」

 

もうすっかり旅の連れのつもりらしい、どこか嬉々としたリンクの台詞に影は・・・ダークはそう吐き捨てた。

 

「ナビィもうどうなっても知らないからね・・・」

「大丈夫だって!・・・たぶん。さ、行こう!」

 

呆れと疲れの滲むナビィの声にに明るく応え、リンクは湖を背に歩き出す。

 

 

 

・・・こうして、勇者一行の旅に奇妙な同行者が一名加わった。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

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