境界線のハイウインド   作:こねこねこ

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4.カカリコ村で

4

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンク~・・・大丈夫・・・?」

 

ナビィの心配そうな声音に、聞こえているのかリンクはガボゴボと泡を吐き出して返事をした。

 

川に頭を突っ込んだまま、なんとも情けない格好でしばらく清流に身を浸す。

ぶはぁ!とようやく顔を上げたリンクは、怒気を含んだ声で背後に向かい叫んだ。

 

「ダーク!!いきなり何てことするんだよ!!・・・って、アレ・・・?」

 

しかしそこに居た筈の相手の姿が見当たらず、面食らった顔で辺りを見回す。

 

「リンク、あっち」

 

ナビィの声に視線を移せば、川のやや上流で竿を振っているダークの姿があった。

 

「!?ちょ、おま!!何してんの!!?」

 

それまで見向きもしなかったダークは、走り寄り至近距離で叫ばれてようやくリンクへと顔を向けた。

 

「・・・ハァ?見てわかんねえのか、釣りだ釣り」

「それは判ってるよ!なんで今お前がそれ持ってるんだ!?」

 

ダークが手にしている釣竿はどう見ても、ハイリア湖畔を出る前に寄った釣り堀で使っていた物だった。

 

「なんで持ってきてるんだよおおお!持ち出し禁止だって言われてただろ!?怒られるのオレなんだぞ!!」

 

罰金取られるー!!と頭を掻き毟って叫ぶリンクに、ダークは冷ややかな視線を浴びせ「知ったことか」と冷たく言い放った。

 

「ギャーギャー喚いてんじゃねえようるせえな。テメエが起きるまでの暇潰しに丁度良い」

「じゃあ釣りして待つならあんな起こし方しなくても良かったじゃんか!尚更悪いよ!・・・はぁ・・・全くもう・・・」

 

段々叫び疲れてきたのか、溜め息を吐いてぐったりとうなだれたリンクの姿に・・・ナビィはやはり止めるべきだったと後悔した。

 

・・・時は数刻前に遡る。

 

「ダーク」

「何だ、妖精」

 

青白い光の珠がひらりと舞う。

薄羽を僅かに震わせ、ナビィは影に問い掛けた。

 

「・・・何してるの、さっきから」

「見てわかんねぇか?」

 

ダークは視線を前へ向けたまま、焚火の上でコポコポと音を立てるビンの中身を確認して充分に熱したそれを持ち上げた。

 

「それ、リンクの牛乳だよ・・・?そんなのあっためてどうするのサ?」

 

まさか飲むつもりではないだろう。温める必要は別に無いし、昨夜リンクが夕食を摂っていた際に人間と違い食物の類は必要でないと言ったのはダーク本人だ。

 

ビンの中を半分ほど満たす白い液体は、沸騰寸前まで加熱され薄い膜を張っている。

ビンごと火にかける事自体どうかと思うのだが、それよりもソレの使用用途がどうにも気になった。

 

「そこの馬鹿を起こす」

 

ダークはそれだけ言うと、いまだ地面に横たわり毛布を被って寝息を立てるリンクへと近付いた。

 

「え!?ちょっと待って!!まさかそれぶっかける気じゃないでしょうね!?」

 

嫌な予感がみるみる現実味を帯びたナビィは思わず光を明滅させ静止をかける。

 

「・・・は?かける?違うな。」

 

ダークは全く起きる気配の無いリンクの傍らにしゃがみこみ、

 

「こうすんだよ。」

 

手に持った牛乳をリンクの耳に流し込んだ。

 

 

 

人間離れした悲鳴を上げたリンクがもんどりうって地面を転がり、川の中へと頭を突っ込んで話は冒頭へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.4》

 

 

 

 

 

 

 

「あ"~・・・まだ片耳おかしい気がする・・・」

 

リンクはぼやきつつ、頭を傾けてトントンと横から軽く叩く。

 

道中妖精の泉へ寄ってきたため傷(?)は完治している筈なのだが、まだ違和感が残っているようでどうにもスッキリしなかった。

 

歩くリンクに合わせてふわふわと飛ぶナビィがポツリと溢す。

 

「・・・ダークが悪いのはモチロンだけど、あんなことされるまで起きないリンクもどうかと思うよ?」

「えー?ダークの肩持つわけ?」

「そうじゃなくて。旅に出てもう随分になるのに、何度モンスターに殴り起こされたと思ってるの?」

 

ナビィが初めてリンクの元へ訪れた際も、起こすのに一苦労したものだ。

七年経ち身体は大人になっても、寝起きの悪さは一向に直る気配を見せなかった。

 

「んー、分かってはいるんだけどなぁ・・・」

 

ぜんぜんわかってない!と憤慨するナビィを宥め、リンクは思い返す。

 

ハイリア湖畔を出て4日目。迎えた朝は3回。

習性の違いなのか単にリンクの寝起きが悪いせいなのか、目覚めるのは今のところ毎回ダークが先だ。

一度目は顔面にフルパワーの蹴りを食らい、二度目は重石付きで崖から川に放り落とされた。

暴力的な起こし方はやめてくれと再三繰り返し言った矢先の今朝のこの有り様なのだが、当のダークはとっくに地面に潜ってしまい全く出てくる気配を見せない。

 

「(まあ・・・コイツが言うこと聞いてくれるわけもないよな・・・オレに無理矢理連れて来られたようなもんだし当たり前か・・・)」

 

半ば諦めたようにはぁ・・・と溜め息を溢す。

 

その時、リンクの頭上でナビィが急に光を明滅させ声を荒げた。

 

「ねぇちょっと、リンク!あれ見て!」

「へ?・・・何だ、あれ」

 

このまま進めば程無くして一行はカカリコ村へ着く筈である。

今居る地点からは遠目に薄らと見えるだけの村の様子に、ある異変があった。

目を凝らしてそれに気付いたリンクの表情が変わる。

 

「煙だよ!村が燃えてる!」

「くそっ・・・!襲われてるのか!?ナビィ、急ごう!!」

 

戦闘があるかも知れない。住人の無事を祈りつつ、装備を素早く整え勇者は駆け出した。

 

 

 

 

 

「どうして、今更この村が・・・」

 

あちこちから火の手が上がる村の中をリンクは走り抜けていく。

既に避難したのか、逃げ惑う人々などの姿は一切無かった。

 

・・・静か過ぎて、不気味なくらいに。

 

「リンク、あそこ!」

「!シーク!?」

 

村の中央に位置する古井戸、その前に佇む後ろ姿。

これまで旅の中で幾度となく手助けしてくれたシーカー族の青年。

駆け寄ったリンクに、彼は振り向く事なく言い放った。

 

「さがってろ、リンク!」

「シーク!いったい何が・・・、」

 

リンクが事情を問い質そうとした矢先。

井戸を囲っていた板が吹き飛び、邪悪な気配が辺りに洩れ出す。

 

「何だ!?」

 

状況を把握出来ずにいるリンクの目の前で、構えたシークの身体が何かに絡め捕られたかのように宙を舞い・・・そのまま投げ出されて地に叩き付けられた。

 

「ぅぐッ・・・!」

「シーク!!」

 

倒れたシークへと駆け寄り辺りへ目をやれば、・・・居た。

漂う黒い靄のような"それ"は、盾を構えるリンクへと目標を定めると一気に迫ってくる。

 

「リンク!気を付けて!」

「ナビィは帽子の中に!くそ、何だこれッ・・・!うわぁぁぁぁ!!」

 

正面に構えた盾は意味を成さず、シークと同様に吹き飛ばされたリンクはあっけなく意識を手放した。

 

 

 

 

 

「・・・う・・・、」

「・・・気がついたか?」

「シーク・・・?」

 

意識が浮上し、痛む体を無理矢理に起こす。

傍らのシークの手には薬瓶。それを見たリンクは目を臥せた。

 

「手当てしてくれたのか・・・、ごめん。助けるつもりだったんだけど」

「・・・あまり無茶をするな。時の勇者に死なれては困る。」

 

咎めるようなシークの言葉だが、その口調からは無事を安心する様子が窺える。

それに対しリンクはあぁ、と少し皮肉に笑って見せた。

 

「・・・それは大丈夫じゃないかな。なんかオレ、死なないみたいだから」

「・・・何だって?」

 

訝しげに問うシークに、リンクはこれまでの経緯を話した。

 

 

 

 

 

「・・・ってわけ。ちなみにダークは・・・、え?あれっ?」

 

視線を下げたリンクは、地面に自分の影が無いことに気がついた。

 

「ナビィ!あいつは!?」

「リンクが倒れてからすぐにさっきの敵を追っかけて行っちゃったヨ。攻撃されたみたいだったから、頭にきたんじゃない?」

「え!?早く言えよ!!それってつまり、」

 

みなまで言い切る前に、座り込んだままのリンクの身体がズルズルとひとりでに動き出した。

 

「うわ、わ、わ!やっぱり!!ちょ、シーク!手!手ぇ貸して!!」

「あ、あぁ・・・」

 

シークがリンクの手をとりその場で支えると、動きはピタリと止まった。

限界距離を超えてダークが離れようとしていたのを、二人分の力で引っ張り留めたのだ。

 

「あーびっくりした・・・まぁ、とりあえずこーゆーワケなんだよ。」

「なるほど・・・」

 

安堵の溜め息を溢すリンクに、しかしシークは神妙な面持ちで何か考え込んでいるようだった。

 

「だからさ、多少は無茶しても平気かなって、」

「・・・リンク、よく聞くんだ。」

 

シークは正面からリンクを見据え諭すように言葉を遮る。

その声のトーンは少し低い。

 

「君は、不死身になったわけじゃない。」

「・・・どういう事?」

「恐らくだが・・・君の命を繋ぎ止めたという光の力が働くのは、そのダークという者に対してだけだ。」

「シーク、何か知ってるのか?」

「確証は無い。しかし、君が魔物にやられた場合そのまま死んでしまっては取り返しがつかないんだ。無茶してはいけないよ」

 

真剣な眼差しに圧され、リンクは記憶を反芻し視線を逸らした。

 

「・・・そう、なのかな?確かに今のところダークにしか殺されてないけど・・・」

「常に妖精を持ち歩くと良い。いざという時の助けになるだろう・・・何度も言うが、君はこの世界に残された唯一の希望だ。神殿の呪いを解ける者も君の他にはいないんだよ」

「・・・、わかった。気を付けるよ。」

 

リンクは一瞬表情を歪ませた後、ゆっくりと頷いた。

それを見てシークは井戸へと視線を移す。

 

「さっきのは、井戸の底に封じられていた闇の魔物だ。インパが再び封印を施す為に神殿へ向かっている」

「インパさんが!?」

 

久々に聞くその名前にリンクは立ち上がった。

王女ゼルダの乳母。シークと同様にシーカー族の生き残りである彼女も、無事でいたのか。

 

「元々封じていたのも彼女の力だからね。」

「そうなのか・・・神殿って、闇の神殿だろ?オレも行かなきゃ」

「ああ。彼女は六賢者の一人なんだ・・・助けてやってくれ。」

 

そう言うとシークはどこからともなくハープを取り出した。

 

「神殿の入口は墓地の下にある。そこへ行くための調べを君に伝えよう・・・今ボクに出来るのは、それだけだ」

「・・・わかった。頼む」

 

シークの奏でる曲をしっかりと記憶に刻み、リンクは時のオカリナを手に墓地へと足を向ける。

 

「村のことはボクにまかせてくれ。リンク、頼んだぞ!」

「ああ!」

 

シークはそれだけ言い残し、煙玉と共に消えてしまった。

 

「よし、行こうナビィ」

「うん!・・・ってリンク、アレ」

「え?」

 

ナビィの声に目をやれば、猛スピードで近付いてくる黒い物体。

それを見た途端リンクの肩が跳ね上がる。

 

「げッ!!戻ってきた!!うわあああ絶対怒ってる!!!」

「リンク!さっきの曲!はやく飛んでこ!!」

 

返事をする間も惜しんでリンクはオカリナを吹き鳴らし、光に包まれ神殿へとワープした。

 

 

 

・・・しかし当然その光はダークにも及び、着いた先で勇者はまず一太刀浴びるハメとなったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

[つづくー]

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